双神の輪~紡がれる絆の物語~

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2章 学生編  生きる覚悟

73話

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 警戒が多少緩んでいたのは否定できない。完全に解いたわけではなかったが、何度茶会に呼ばれようが顔を合わせようが、ラントはいつも少なくとも表面上は穏やかで好意的だった。例えそれが単に体裁を整えているだけだとしても、父親のドルフ同様基本的に何もしてこないものだとつい頭のどこかで思ってしまっていたのかもしれない。
 流輝は無理やり魔法により眠らされたせいで痛む頭を感じつつ、浮上した意識の中でまず琉生の存在を確認した後、考えていた。

 油断しなければ少なくとも連れ去られてはねえ、はず……。

 思いきり舌打ちしたいが、とりあえず目が覚めていることも今のところは隠しておきたかった。せめて現状を測りたい。
 そもそもどういう流れだったかとまず思い出したい。だが魔法を使われたせいでまだほんのり頭の中は靄がかかっているような気分だ。痛みと靄で少し気持ちも悪いが、流輝はそっとわからないように深呼吸をして整えようとした。



「美味しいと通の間で有名な酒と食事が出る店がある。君たちは結構食べるのが好きみたいだし、よかったら紹介したいのだが」
「俺たちというか兄さんが特に、だと思いますよ」
「ルイ、煩い」
「そこで出てくるソコラータのドルクがまた絶品でね」
「……へえ、そうですか」

 どうでもいいような態度ではあるが、琉生がチョコケーキなんてワードを見逃すわけがないと流輝はそっと苦笑した。それに「通に有名」などと、流輝とて気になる。
 ただ提案してくれている相手がラントだけに「是非」ともろ手を挙げるわけにもいかない。問題ないような気がしているものの、だからといって軽率に誘われるがままどこかわからないところへ案内されるのはよくない気がする。
 いつものように茶会に招待されたのではなく、学園の敷地内でラントに話しかけられた時はわりと驚いた。基本的に生徒とその側近や護衛騎士以外は立ち入り禁止だ。とはいえ保護者であれば許可を得て出入りすることはできる。どうやらラントもルバスに用があったらしく許可を得てやって来ていたようだ。本人いわく、その用が済んで帰ろうとした際に双子を見かけて声をかけてきたらしい。ルバスに何の用だろうとは少し思ったが、それは家族のプライバシーに関わる可能性もあるため、さすがに聞けない。代わりにラントの話を聞くことにしたら、許可があるとはいえあまり皆がたくさんいる中で堂々と話すのも気が引けるからと裏庭の方へ誘われ、食事の話をされた流れだった。
 裏庭に誘われること自体はあまり警戒していなかったが、それも問題あったのだろう。さすがにいくら何でも学園関係者以外は生徒とその身内しか出入りのできない学園の敷地内でどうこうする者がいるとまで思っていなかった。だが甘かった。
 返事を渋っていると「では仕方がないな」と笑みを向けてきた後、ラントは値段の張りそうな石を掲げてきた。吸い込まれそうな漆黒の魔法石など普段一切目にしたことのなかった双子は、一瞬それが魔法石だとわからなかった。だがそれに気づいた時には遅かった。
 そして気づけばここにいた。



 ……ここは……どこだ?

 こっそり様子を窺う。とりあえず、すぐそばに琉生がいることに流輝はホッとしてはいた。ただ琉生はまだ目を覚ます様子はない。嘘寝をしているようでもなさそうだ。おそらく魔力の強い流輝と違い、眠らせてきた魔法がよく効いているのだろう。

 つか、俺は従魔術師になったいまだに拉致されてしまうのかよ。もうあの頃とは違うっつーのに情けねえな、俺。

 薄暗くて周りがまだよく見えないと思っていると別の部屋か廊下だろうか、話し声が聞こえてきた。流輝は魔力を感じさせない程度に小さく抑えた風の力を使って聞き耳を立てる。

「俺の仕事はここまでだ。疑われないためにも俺はもう立ち去るからな」
「ええ、結構です。あとは我々にお任せくださいラント」
「誰もいないとはいえ名前を出すな」
「これは失礼。しかしお渡しした石を使いこなしてくださってよかった。一応使いやすい魔法石を選んだつもりではありますが、魔力がある程度伴わなければいくら強力な力が使える魔法石とはいえ、ねえ」
「俺を馬鹿にしているのか?」
「まさか。ああ、よろしければその魔法石は差し上げますよ。便利でしょう? 人を眠らせたり、多少の距離ならそこまで大きくないものを石に取り込んで運ぶこともできる。そんな魔法石、そちらでは見かけることすらないでしょうし」
「そうだな、これは俺のやった成果の一部としてもらっておこう」
「一部、ですか」
「何か文句でも? お前の正体はすでに知っていると言っただろう? 俺がいなければお前は双子を拉致することすら難しかったはずだ」
「ふふ……文句など。いえ、ね? 私としてはとても好ましい方だなあと思っただけですよ」
「……気持ちの悪いことを言うな。とにかく俺はもう行くからな」

 ラントの野郎、と流輝はまた舌打ちしたいのを何とか堪えた。

 つか、ラントと話してるやつは誰だ?

 声や話し方に心当たりはない。だが話に出てきたしかも黒かった魔法石を思うと、もしかしたら人間ではないのではないかという疑問がもたげる。昔さらわれかけた盗賊たちのようなものでは絶対にない。魔族だとしたら最悪だった。営利目的ではなく、間違いなく流輝と琉生は殺される。

「ええ、どうぞ。ああでもせっかくですから、我々が双子を殺すところを見学なさってはいかがですか? こんな機会、ありませんよ」
「悪趣味な。俺にそんな趣味はない」
「ですが我々が間違いなく双子を殺すと確信が持てますか?」
「……どういうことだ」
「もしかしたら殺さず、大公爵の養子である双子を操ってこの国を牛耳ろうと考えているかもしれないではないですか。私どもの魔力は相当ですからね、機会されあれば人を操るくらいできます。双子はもう我々の手に落ちた。いくらでも利用できるんですよ?」
「だとしたら何故俺にそれを話す? 本当に考えているのなら俺を帰したあとで実行するのではないのか?」
「それでは楽しくないでしょう」
「……は。ろくでもない」
「ろくでもないのはあなたも同様ですよ、双子をとらえてくれたあなたも」

 殺されるのも操られるのもどちらも冗談ではなかった。
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