87 / 120
3章 騎士編 光の救世主
86話
しおりを挟む
最近特に討伐へ赴くことが増えていたため、久しぶりにニューラウラ王国の自分たちの町へ戻ってきた時は流輝も琉生もかなりホッとした。危惧からの安堵とかではなく、まさにわが家へ帰ってきた時の気持ちというのだろうか。
「とりあえず風呂に入りたい」
「ほんとそれだね」
一旦、王宮の魔術師や騎士が普段訓練に使っている広場へ集合した後でしばしの休暇を与えられての解散だった。今回は少々遠出したのもあるが、思っていた以上に魔獣が多く予定よりもずいぶん時間がかかり、何日も野営が続いていた。たまに川などで体を拭いたりするくらいはできたが風呂が恋しかった。
「ふ。疲れ切った様子だな、リキ・ターナー。情けない。俺などまだまだやれるというのに」
「煩い黙れルバス。というか寄るな。俺もだろけどお前臭いから近寄らないで」
「なっ、相変わらず失礼なやつだなリキ・ターナー」
「というかいい加減フルネームやめろよ」
ルバスがディルアン事件の後も騎士としてずっとがんばってきているのを流輝も琉生も知っている。爵位剥奪されたため、貴族しかいない王宮騎士の中でずいぶん大変な思いもしただろうと思われる。だが今ルバス・ディルアンは騎士としての活躍により男爵の称号を王から与えられていた。いずれ子爵の称号も与えられるのではないかとさえ言われている。
学生の頃はひたすら気に食わないやつだったが、そういったところは流輝も尊敬に値すると思っている。また、事件発覚後に頭を下げにきてからしばらくして本人が言いにくそうに口にしてきたが、ルバスは王族の血筋であるディルアン家の息子として何よりも血筋は大事だと父親などに言われ育ってきたらしい。
「それでも本当ならば自分の目や耳、頭で判断すべきことだろうから言い訳にしかならんことはわかっている。だが俺はそういう環境で育ち、何一つ疑問など感じなかった。例えばローザリア殿下のことも血筋がよくないため同級生としても避けていたくらいだ」
だがその後兄であるラントが犯した罪により、爵位のない罪人の弟として周りから見られる立場となった。王族の血筋など何の役にも立たない。ルバスはただの罪人の弟であり貴族でもなんでもない一人の男だった。
「わが身で味わいようやく理解できた。身分で人を判断していた自分が恥ずかしいし情けない。兄上のことでどれだけ詫びても済まないとわかっている上に、こんな恥しかない俺がお前たちをライバル視して挑んでなど、いいはずがなかった。それに関しても恥ずかしいし心から詫びさせてもらう。申し訳ない」
「いや、いらねえわ」
「ちょっと兄さん。他に言い方があるでしょ……。もう。……ルバス。確かにラントのしたことは俺らにとって許しがたいことだし国としても多分多少たりとも赦免はないと思う。でもラントと君は一緒じゃない。君も協力者だったとかならあれだけど、君が謝る必要なんてないよ」
「それな」
「……兄さん」
「しかし……」
「しかしもへったくれもねーんだよルバス。俺らがいいっつってんだからお前もハイそうですかってなればいいだろ。それに何でお前が恥じるんだよ。ああいや、身分で人を見るのはマジ恥ずかしいと思うわ」
「ぅ」
「でもな、お前はそうやってちゃんと反省できるやつだろ。じゃあそれでいいじゃねーか。俺らだっていいと言ってるしもう二度とそのことで謝ってくんなよ。鬱陶しいから」
「兄さん」
「ああそうそう。戦闘を挑んでくるのは歓迎してやる。まあ今の俺の魔術には到底勝てねえから、剣で戦ってやってもいいぞ」
「……、……ふ。わかった。もう謝罪はしない。だが最後にこれだけは言わせてもらう」
まだ少々俯いていたルバスだがようやく顔を上げると少し笑いながら言ってきた。
「なんだよ」
「……これも二度と言わん」
「だからなんだよ」
「ありがとう。リキ・ターナー。そしてルイ・ターナー」
ルバスが立ち去った後も流輝はしばらく唖然としていた。そして開口一番に「ルバスがデレた」と琉生を見て呆れられた。
あの時以来、たまに顔を合わせると相変わらず以前のようなやり取りを交わす。だが学生の頃心底うざいと思っていた流輝はわりとそれを楽しんでいたりもする。
琉生とルバスの隊は別のようだが、今のように討伐が増えると顔を合わせることも少なくないらしい。ついでに魔道騎士団である流輝ともこうして顔を合わせたりしていた。
「名前で呼べばいいだろ」
流輝が微妙な顔でルバスを見ていると、そこへ誰かが駆けつけてきてあろうことか流輝をぎゅっと抱きしめてきた。
「……っ?」
突然のことでわけがわからないまま唖然となる流輝だが、抱きしめてきたのがローザリアだとわかると顔が一気に熱くなった。周りから口笛や何かはやし立てるような声が聞こえてきて余計混乱し熱くなる。
「あ、あの、ちょ、な、なに? なんなの? ちょ、ローザリアさん?」
「リキ……無事だった……」
「え? あ、はい、無事、です、けど……。……っつか、ちょ、マジ離れて! 俺、今やばいって! 風呂すげー入ってねえ……! お願い離れて!」
戸惑いしかない流輝だが、ふと我に返るというか自分の現状に気づいて慌ててローザリアを離そうとした。だが離れてくれないし無理やり引きはがすことはできない。
琉生に助けを求めようとしたら「俺、先に風呂入ってくるね。じゃあまた後で。兄さん」と笑顔でそそくさと立ち去られた。後で覚えておけよと恨みの念を琉生に送っているとルバスも「全く。変なところで余裕だなリキ」と呆れたような顔をしながら立ち去っていった。
「余裕ってなんだよ! ってちょ、どさくさ紛れに今名前で呼んだっ? ちょ、ねえ!」
「とりあえず風呂に入りたい」
「ほんとそれだね」
一旦、王宮の魔術師や騎士が普段訓練に使っている広場へ集合した後でしばしの休暇を与えられての解散だった。今回は少々遠出したのもあるが、思っていた以上に魔獣が多く予定よりもずいぶん時間がかかり、何日も野営が続いていた。たまに川などで体を拭いたりするくらいはできたが風呂が恋しかった。
「ふ。疲れ切った様子だな、リキ・ターナー。情けない。俺などまだまだやれるというのに」
「煩い黙れルバス。というか寄るな。俺もだろけどお前臭いから近寄らないで」
「なっ、相変わらず失礼なやつだなリキ・ターナー」
「というかいい加減フルネームやめろよ」
ルバスがディルアン事件の後も騎士としてずっとがんばってきているのを流輝も琉生も知っている。爵位剥奪されたため、貴族しかいない王宮騎士の中でずいぶん大変な思いもしただろうと思われる。だが今ルバス・ディルアンは騎士としての活躍により男爵の称号を王から与えられていた。いずれ子爵の称号も与えられるのではないかとさえ言われている。
学生の頃はひたすら気に食わないやつだったが、そういったところは流輝も尊敬に値すると思っている。また、事件発覚後に頭を下げにきてからしばらくして本人が言いにくそうに口にしてきたが、ルバスは王族の血筋であるディルアン家の息子として何よりも血筋は大事だと父親などに言われ育ってきたらしい。
「それでも本当ならば自分の目や耳、頭で判断すべきことだろうから言い訳にしかならんことはわかっている。だが俺はそういう環境で育ち、何一つ疑問など感じなかった。例えばローザリア殿下のことも血筋がよくないため同級生としても避けていたくらいだ」
だがその後兄であるラントが犯した罪により、爵位のない罪人の弟として周りから見られる立場となった。王族の血筋など何の役にも立たない。ルバスはただの罪人の弟であり貴族でもなんでもない一人の男だった。
「わが身で味わいようやく理解できた。身分で人を判断していた自分が恥ずかしいし情けない。兄上のことでどれだけ詫びても済まないとわかっている上に、こんな恥しかない俺がお前たちをライバル視して挑んでなど、いいはずがなかった。それに関しても恥ずかしいし心から詫びさせてもらう。申し訳ない」
「いや、いらねえわ」
「ちょっと兄さん。他に言い方があるでしょ……。もう。……ルバス。確かにラントのしたことは俺らにとって許しがたいことだし国としても多分多少たりとも赦免はないと思う。でもラントと君は一緒じゃない。君も協力者だったとかならあれだけど、君が謝る必要なんてないよ」
「それな」
「……兄さん」
「しかし……」
「しかしもへったくれもねーんだよルバス。俺らがいいっつってんだからお前もハイそうですかってなればいいだろ。それに何でお前が恥じるんだよ。ああいや、身分で人を見るのはマジ恥ずかしいと思うわ」
「ぅ」
「でもな、お前はそうやってちゃんと反省できるやつだろ。じゃあそれでいいじゃねーか。俺らだっていいと言ってるしもう二度とそのことで謝ってくんなよ。鬱陶しいから」
「兄さん」
「ああそうそう。戦闘を挑んでくるのは歓迎してやる。まあ今の俺の魔術には到底勝てねえから、剣で戦ってやってもいいぞ」
「……、……ふ。わかった。もう謝罪はしない。だが最後にこれだけは言わせてもらう」
まだ少々俯いていたルバスだがようやく顔を上げると少し笑いながら言ってきた。
「なんだよ」
「……これも二度と言わん」
「だからなんだよ」
「ありがとう。リキ・ターナー。そしてルイ・ターナー」
ルバスが立ち去った後も流輝はしばらく唖然としていた。そして開口一番に「ルバスがデレた」と琉生を見て呆れられた。
あの時以来、たまに顔を合わせると相変わらず以前のようなやり取りを交わす。だが学生の頃心底うざいと思っていた流輝はわりとそれを楽しんでいたりもする。
琉生とルバスの隊は別のようだが、今のように討伐が増えると顔を合わせることも少なくないらしい。ついでに魔道騎士団である流輝ともこうして顔を合わせたりしていた。
「名前で呼べばいいだろ」
流輝が微妙な顔でルバスを見ていると、そこへ誰かが駆けつけてきてあろうことか流輝をぎゅっと抱きしめてきた。
「……っ?」
突然のことでわけがわからないまま唖然となる流輝だが、抱きしめてきたのがローザリアだとわかると顔が一気に熱くなった。周りから口笛や何かはやし立てるような声が聞こえてきて余計混乱し熱くなる。
「あ、あの、ちょ、な、なに? なんなの? ちょ、ローザリアさん?」
「リキ……無事だった……」
「え? あ、はい、無事、です、けど……。……っつか、ちょ、マジ離れて! 俺、今やばいって! 風呂すげー入ってねえ……! お願い離れて!」
戸惑いしかない流輝だが、ふと我に返るというか自分の現状に気づいて慌ててローザリアを離そうとした。だが離れてくれないし無理やり引きはがすことはできない。
琉生に助けを求めようとしたら「俺、先に風呂入ってくるね。じゃあまた後で。兄さん」と笑顔でそそくさと立ち去られた。後で覚えておけよと恨みの念を琉生に送っているとルバスも「全く。変なところで余裕だなリキ」と呆れたような顔をしながら立ち去っていった。
「余裕ってなんだよ! ってちょ、どさくさ紛れに今名前で呼んだっ? ちょ、ねえ!」
0
あなたにおすすめの小説
捨てられた前世【大賢者】の少年、魔物を食べて世界最強に、そして日本へ
月城 友麻
ファンタジー
辺境伯の三男坊として転生した大賢者は、無能を装ったがために暗黒の森へと捨てられてしまう。次々と魔物に襲われる大賢者だったが、魔物を食べて生き残る。
こうして大賢者は魔物の力を次々と獲得しながら強くなり、最後には暗黒の森の王者、暗黒龍に挑み、手下に従えることに成功した。しかし、この暗黒龍、人化すると人懐っこい銀髪の少女になる。そして、ポーチから出したのはなんとiPhone。明かされる世界の真実に大賢者もビックリ。
そして、ある日、生まれ故郷がスタンピードに襲われる。大賢者は自分を捨てた父に引導を渡し、街の英雄として凱旋を果たすが、それは物語の始まりに過ぎなかった。
太陽系最果ての地で壮絶な戦闘を超え、愛する人を救うために目指したのはなんと日本。
テンプレを超えた壮大なファンタジーが今、始まる。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活
シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!
神様、ちょっとチートがすぎませんか?
ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】
未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。
本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!
おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!
僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。
しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。
自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。
へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/
---------------
※カクヨムとなろうにも投稿しています
異世界転移物語
月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !
本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。
主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。
その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。
そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。
主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。
ハーレム要素はしばらくありません。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜
KeyBow
ファンタジー
この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。
人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。
運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。
ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる