ヒロイン効果は逃れられない

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15話

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 その後もカリッドは何かにつけてシューリス家にやってきた。乙女ゲーム展開を思ってハラハラする気持ちも当然あるが、それ以外にもフィンリーにとって気になることはある。第二とはいえ王子が特に用事もなく特定の家に来るのはあまり、いやわりとよろしくないはずだ。
 皇太子である第一王子に対し、貴族派は第二王子であるカリッドを自分たちの味方に引き入れ、そしていずれは王の跡継ぎへと目論んでいるという噂をフィンリーはリースから聞いたことがある。リースを含めたフラートン家は貴族派の中でも相当な有力者でありながらシューリス家と懇意にしているからだろうか、その目論見には関わっておらず真意のほどは明らかではないようだが。ただ思い返せば学生時代、カリッドの取り巻き貴族の多くは確かに貴族派の家の子どもだったような気がする。
 しかしそんな立場のカリッドがシューリス家に頻繁にやって来ているとなると、皇帝派はさておき貴族派としては面白くないのではないだろうか。

「どう思う?」

 貴族派の中でも力がありながら穏便派でもあるフラートン家の三男におずおずと聞いてみると「うーん」と少し唸った後笑みを向けられた。

「今のところ貴族派の人たちが何かを言っている様子はないと思うけどね。そもそもカリッド王子は何故フィンリーに会いに来るのかな?」
「そっ、れは何かあれだよリース、あれだ」
「どれ?」

 リースは穏やかな笑みを向けてはくれるが流してはくれないようだ。
 だいたいフィンリーにだって何故カリッドが度々やって来るのかなど正直わからない。最初やって来た時からわからなかった。派閥の絡みも考えてみたが、どう考えても当てはまらなさそうだ。カリッドからは「そなたが気になっていて」とよもや告白か例の選択肢かと思うようなことを言われたが、それにしてはあまりにさらりとしていた。ゲームではもう少し雰囲気があったのではとフィンリーは内心首をかしげる。しかし礼儀正しくカリッドに合わせて「俺も気にしていました」とある意味気にしていたものの正直に答えたらカリッドルートに入ってしまいそうだし「俺は別に……」的なことを言えばリースかジェイクのルートに入るのではと、何も答えられなかった。カリッドは黙ったままのフィンリーを見て、だが楽しそうに笑いかけてきた。何にせよこれらはヒロイン効果かと戦慄したが、とはいえその後口説かれる訳でもない。気づけばやって来ているだけだ。そして他愛もない会話などをしては帰っていく。

「……あれ、だよ。多分? 殿下もお疲れなんだよ。第二王子と言えども王子だけあって色々大変だろうし? ストレスとかもあるんじゃないか? ほら、この辺って都会の中にあってとても田舎の気分も味わえるほど穏やかなところだし、あれだ、癒される、んだよ多分?」

 言い終えるまでにそれこそ多分相当ハテナが入ってしまった気はするが、我ながら納得のいく説明ができたような気がしてきた。自分で言いながら自分でも「そうなのかもしれない」と思い始めているところだ。
 実際シューリス家やフラートン家のあるこの周辺の広い敷地はおそらく先祖が金に物を言わせたのだろうが都会の中にありながらとても閑静な土地であり、様々な鳥の声を楽しみつつ美しく広大な庭園を楽しめる。何なら暖かく天気のいい日なら毎日でもピクニックを楽しみたいくらいだ。ただし前世で狭い建売住宅の経験しかないフィンリーとしては馬や馬車がないと外出もままならないのはとてつもなく不便だなと思っている。ついでにその不便な距離を苦も無くちょくちょくやってくるカリッド、だけでなくリースの気がしれないと思ってしまうのも否めない。

「……カリッド王子の住まう宮殿こそ素晴らしい庭園が広がってると思うけどね」
「そ、そうだったね」

 確かに貴族のさらに上である皇族の住まいである。癒される風景だってここよりもっと十二分にあるだろう。

「あ、そうだ。あれかな。俺の家、プライベートダイニングルームとかあるだろ。この間そこで言ってた。面白いって。きっとそういうとこだな」
「どういうとこなの? あとプライベートの意味は私的って意味だよフィンリー。身内以外を気安く入室させるスペースではないと思うけどな」
「だ、よね」

 あはは、と笑いながらフィンリーは少々目を泳がせた。リースはもちろんひたすら穏やかに話しているし笑みも優しげなままだ。だが何故だろうか、そこはかとなく粘着みのある何かを感じる。気のせいだと思いたいがどうなのだろうか。つい乙女ゲームでの「束縛系」というワードが頭を過る。

 いや、違う。俺は別に束縛なんてされてないしリースは穏やかだ。ちょっと兄としてそこまでなのかとは俺もとうとう弟を持った身として尚、思うこともあるけど……でも優しい従兄に違いはない。

 胸を嫌な意味でドキドキとさせながら今こそ茶々を入れにこいとばかりにチラリとジェイクを見れば、こういう時だけは大人しい。いつもならリースと何かやり取りをしていると親の仇かというくらい茶々を入れてくるはずなのだが。と思っていたらリースが「お前は危なっかしいところがあるからね、その自覚はあるの?」などと聞いてきた。何故だろうか、まるで選択肢が現れたかのような気分になるのは。「ある」「ない」どちらを選べばいいのか。

 こういう時は流すに限る。

 フィンリーは「そういえば俺、この間、庭園ですげー可愛いうさぎ見かけて。あれって野良うさぎかな」などと全然関係のない話をしながらリースに笑いかけた。

「本当にフィンリーはまったく」

 リースは何故かむしろ顔を綻ばせながらフィンリーの肩をぐっと抱き寄せ胸元に引き寄せてきた。大きいとはいえ同じソファーに座っていただけに簡単に引き寄せられる。

「本当に危なっかしいところがあるのはオレも思いますね」

 この従兄弟同士としてのやり取りはどうなのかと考える隙もなくジェイクがいつの間にかそばまで来ていてリースからフィンリーを引き離してきた。

「ジェイク。君はいい加減お付きとしてまともな仕事をすることを覚えたほうがいいんじゃないかな」

 リースが穏やかな表情のまま静かに言う。するとジェイクも笑みを浮かべたまま「何よりまともな仕事を今したかと」などと返している。

「とりあえずフィンリー様。今すぐ入浴なさるのがいいかとオレ、思います」
「え、いや……」
「僕が触れることが汚らわしいかのような扱いをするのはどうかと思うな」
「オレはそんなこと一言も言ってませんし、リース様に触れられて泣いて喜ぶ紳士淑女は多いとは思ってます。ですがオレのフィンリー様には気安くお触れにならないでいただきたいとも思います」

 オレノ?

「僕は喜べばいいのかな? それとも怒っていいのかな? ジェイク。君が僕のフィンリーの幼馴染でもあり親しい友人でもあるからこそ、世話係であってもそういった発言を許してるんだってこと、わかってるとは思うけど」

 ボクノ?

「リース様の慈心、深く痛み入ります」

 お互い笑みを浮かべ穏やかな様子ではあるが、こうなってはもう駄目だ。フィンリーも別に気弱な訳ではないので今まで何度か間に入って仲を取り持とうとしたが、成功するどころか悪化したパターンしか知らない。先ほどのリースに対して浮かんだ「束縛系」と同じようにジェイクに対しても「ヤンデレ」というワードがどうにもチラチラ浮かびつつ、気のせいだしあり得ないとそのワードを頭から払拭しながらフィンリーは逃げるようにその場から離れた。

「おや、どちらへ行かれるんです?」

 馬を用意させるのも面倒だしどうしようかと玄関近くの外をうろついているとある意味元凶とも言えるのではと思われるカリッドがにこやかな様子で声をかけてきた。「ここにいて当然のような顔でお前は来るな」と言いたいのをぐっと堪え、フィンリーは笑みを浮かべ「少し散歩でもしようかと」と答えた。

「ではご一緒しましょう」

 遠慮します、と即答する前にフィンリーは屋敷の中にいる二人を思い出す。

「殿下は何かご都合があったのでは」
「いえ、そなたに会いにきただけですので」

 そもそも何故俺に会いにくるんだ。

「何か俺にご用でしたか」
「何も」

 ニコニコと言われ、舌打ちしなかった自分を褒めたいとフィンリーは思った。
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