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14話
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「今日もまた王子がやって来てますが」
午前中にしなければならない仕事を終え、ゆったりと昼食をとった後に食後の酒をフィンリーがちびち……のんびり味わっていると、苦虫を噛み潰したら多分こういう顔になるのだろうといった顔つきのジェイクがやってきてそう述べた。ちなみに前世の自分なら決して仕事もしている日の昼食に酒など飲まないが、この世界ではわりと普通のことでありフィンリーはむしろあまり飲まないほうである。
「……お通ししてくれ」
歓迎の気持ちはマイナスを振り切っているが、王子相手に「帰れ」などと言えない。前世でのサラリーマン気質が染みついているのもあるが、現世での上下関係はむしろ前世より厳しい。
「ご機嫌いかがですか、フィンリー」
ニコニコと部屋に入ってきたカリッドにフィンリーは微妙な顔をしながらも「良好です、ありがとうございます。殿下はいかがですか」と返す。一昨日来たところでご機嫌もへったくれもないだろうと内心では思うが表には出さない。
「楽しいですよ」
「……はぁ」
何が?
「前も申し上げましたが、そなたの屋敷での食事風景は面白いですね。大きな屋敷なのにグレートホールなどではなくこんなこじんまりとした部屋で食事をしたりして」
「このほうが寛ぎますので」
実際この世界は少し前世での中世に似たところがある。学生の頃の食堂など、某有名な魔法ファンタジー映画に出てくる魔法学校での食堂かと思ったくらいだ。まさにそういった大きな広間をグレートホールというのだが、厨房からも激しく離れたそんなところで毎回テーブルを出させ、寒々と食事をしたり同じく離れた応接間でするよりは、温かいものを温かいまま食べられる厨房に近いこじんまりとした部屋で食べるのが一番に決まっている。なので不在がちな父親に代わって今や継母と共に家を取り仕切ってもいい権限があるフィンリーは少々部屋を改造させ、プライベートダイニングルームを作らせていた。テーブルだって最初からセッティングされたままだ。家族たちは最初戸惑っていたが今ではとても気に入っているようだ。前世の記憶が残っているのも悪くない。
「そうですね。私もここは寛ぎます」
勧められる前にカリッドはテーブルの角を挟んだ隣の席に腰をおろし、またニコニコとフィンリーを見てくる。お前俺様をどこに置き忘れてきたんだという言葉をぐっと飲みこみ、フィンリーは「飲み物と……何か軽食を持ってこさせます」と笑いかけた。その言葉を聞いたジェイクから小さな舌打ちが聞こえたような気がしたが、多分気のせいだろう。というか気のせいであって欲しいと、給仕を行う召使にテキパキと指示を出しに行ったジェイクの方を見ながらぼんやり思う。
ジェイクの指示を受けて給仕が運んできたのは野菜の形がしっかりと残った盛りだくさんなスープと、ゲンチアナ、リコリスやジンジャー、リュバブなど多くのハーブやスパイスを白ワインに漬け込みろ過させ熟成させたこの地では苦い酒として有名なリキュール「フェルネリープェ」だ。消化を助け、強壮剤としての効能もあると聞く酒だが、前世では聞いたことのない名前なので多分この世界だけにある酒だろう。甘いものが得意ではない父親ですら当然ながら甘いリキュールやジュースなどに入れてカクテルとしてでないと飲みにくいと言っていた代物だ。カクテルにするとそれなりの風味が出て、合う人には合うといった酒というのだろうか。
ちなみにカリッドは気取ったいけ好かないカリスマといった雰囲気を漂わせながらも、フィンリーが思うにお子様舌だ。甘いものや分かりやすい味の料理を好む。少し複雑な風味は敬遠するし、あと何より野菜を嫌う。こんな情報など別に知りたくなかったが、こうしてちょくちょくやって来るせいでいつの間にか知るようになった。もちろんいつもフィンリーのそばにいるジェイクも知っているだろう。そして給仕はジェイクに指示を受けていた。あとさらに付け加えると何度か似た光景をフィンリーは見ているし、ジェイクには変なことをしないようにと注意はしている。
無言で笑顔のカリッドに、フィンリーは慌てたように「べ、別の何かを持ってこさせます」と立ち上がる。
「いえ、とんでもない。せっかく用意してくださったのに。ありがたく頂きます」
俺様とは。
カリッドは笑顔で手をスープにかざした。するとごろごろと浮かんでいた野菜たちが全てペーストされたのか姿が見えなくなる。コンソメ風だった汁がまるでポタージュのようになった。残ったのは風味を加えるために入っていたソーセージだけだった。
……人の家にやってきてスープを加工調理する王子……。
王子ともあろう人が行うことではないだろうと思いつつ、その原因を作ったのは自分の世話係だけに笑えない。
ところで野菜をペーストにしたのは魔法でだが、この世界の魔法はどうもさほど強くないようだ。歴史を勉強した時に大昔はそれなりに強い魔法もあったようだと知ったが、今では使えない人も多いし使えてもせいぜい生活に役立つ程度といったところだろうか。カリッドの魔力は強い方だろう。フィンリーは面白くないことに昔から現在に至るまで何も使えたためしはない。どうせこんな世界に転生するなら魔法くらい使いたいものだが、そもそも例の乙女ゲームの主題ではないからだろう。ゲームのサイトでも見漏れていない限り、魔力については特記されていなかったように思う。
酒に関してはジェイクがどう指示したのか分からないし、もしかしたら給仕した召使の配慮かもしれないが甘いリキュールやジュースが一緒に添えられていたため、これまた王子自らが好きに配合してカクテルを作っていた。見ている限りフェルネリープェはほぼ入ってなかったように思うが、カリッドはさらりと「強壮剤の効能があるお酒を飲ませて、そなたは私をどうするつもりでしょうね」などと怖いことをフィンリーに言ってくる。
「お、俺の指示では」
ないと言いかけて、使用人に罪を押し付ける主人(実際独断で指示したのはジェイクなのだが)みたいな気持ちになり、フィンリーは言い直した。
「そんなわずかな量ではどうにもなりません。あと殿下には健康でいてもらいたいとは思っています、クリーズ王国の光たる王子」
とはいえ咄嗟に言い直したせいで少々皮肉な言い方になってしまった。わずかな量などと、自分で配合したカリッドに対しての皮肉でしかない。だがカリッドは何故か楽しそうに笑いながら酒を口にしていた。
午前中にしなければならない仕事を終え、ゆったりと昼食をとった後に食後の酒をフィンリーがちびち……のんびり味わっていると、苦虫を噛み潰したら多分こういう顔になるのだろうといった顔つきのジェイクがやってきてそう述べた。ちなみに前世の自分なら決して仕事もしている日の昼食に酒など飲まないが、この世界ではわりと普通のことでありフィンリーはむしろあまり飲まないほうである。
「……お通ししてくれ」
歓迎の気持ちはマイナスを振り切っているが、王子相手に「帰れ」などと言えない。前世でのサラリーマン気質が染みついているのもあるが、現世での上下関係はむしろ前世より厳しい。
「ご機嫌いかがですか、フィンリー」
ニコニコと部屋に入ってきたカリッドにフィンリーは微妙な顔をしながらも「良好です、ありがとうございます。殿下はいかがですか」と返す。一昨日来たところでご機嫌もへったくれもないだろうと内心では思うが表には出さない。
「楽しいですよ」
「……はぁ」
何が?
「前も申し上げましたが、そなたの屋敷での食事風景は面白いですね。大きな屋敷なのにグレートホールなどではなくこんなこじんまりとした部屋で食事をしたりして」
「このほうが寛ぎますので」
実際この世界は少し前世での中世に似たところがある。学生の頃の食堂など、某有名な魔法ファンタジー映画に出てくる魔法学校での食堂かと思ったくらいだ。まさにそういった大きな広間をグレートホールというのだが、厨房からも激しく離れたそんなところで毎回テーブルを出させ、寒々と食事をしたり同じく離れた応接間でするよりは、温かいものを温かいまま食べられる厨房に近いこじんまりとした部屋で食べるのが一番に決まっている。なので不在がちな父親に代わって今や継母と共に家を取り仕切ってもいい権限があるフィンリーは少々部屋を改造させ、プライベートダイニングルームを作らせていた。テーブルだって最初からセッティングされたままだ。家族たちは最初戸惑っていたが今ではとても気に入っているようだ。前世の記憶が残っているのも悪くない。
「そうですね。私もここは寛ぎます」
勧められる前にカリッドはテーブルの角を挟んだ隣の席に腰をおろし、またニコニコとフィンリーを見てくる。お前俺様をどこに置き忘れてきたんだという言葉をぐっと飲みこみ、フィンリーは「飲み物と……何か軽食を持ってこさせます」と笑いかけた。その言葉を聞いたジェイクから小さな舌打ちが聞こえたような気がしたが、多分気のせいだろう。というか気のせいであって欲しいと、給仕を行う召使にテキパキと指示を出しに行ったジェイクの方を見ながらぼんやり思う。
ジェイクの指示を受けて給仕が運んできたのは野菜の形がしっかりと残った盛りだくさんなスープと、ゲンチアナ、リコリスやジンジャー、リュバブなど多くのハーブやスパイスを白ワインに漬け込みろ過させ熟成させたこの地では苦い酒として有名なリキュール「フェルネリープェ」だ。消化を助け、強壮剤としての効能もあると聞く酒だが、前世では聞いたことのない名前なので多分この世界だけにある酒だろう。甘いものが得意ではない父親ですら当然ながら甘いリキュールやジュースなどに入れてカクテルとしてでないと飲みにくいと言っていた代物だ。カクテルにするとそれなりの風味が出て、合う人には合うといった酒というのだろうか。
ちなみにカリッドは気取ったいけ好かないカリスマといった雰囲気を漂わせながらも、フィンリーが思うにお子様舌だ。甘いものや分かりやすい味の料理を好む。少し複雑な風味は敬遠するし、あと何より野菜を嫌う。こんな情報など別に知りたくなかったが、こうしてちょくちょくやって来るせいでいつの間にか知るようになった。もちろんいつもフィンリーのそばにいるジェイクも知っているだろう。そして給仕はジェイクに指示を受けていた。あとさらに付け加えると何度か似た光景をフィンリーは見ているし、ジェイクには変なことをしないようにと注意はしている。
無言で笑顔のカリッドに、フィンリーは慌てたように「べ、別の何かを持ってこさせます」と立ち上がる。
「いえ、とんでもない。せっかく用意してくださったのに。ありがたく頂きます」
俺様とは。
カリッドは笑顔で手をスープにかざした。するとごろごろと浮かんでいた野菜たちが全てペーストされたのか姿が見えなくなる。コンソメ風だった汁がまるでポタージュのようになった。残ったのは風味を加えるために入っていたソーセージだけだった。
……人の家にやってきてスープを加工調理する王子……。
王子ともあろう人が行うことではないだろうと思いつつ、その原因を作ったのは自分の世話係だけに笑えない。
ところで野菜をペーストにしたのは魔法でだが、この世界の魔法はどうもさほど強くないようだ。歴史を勉強した時に大昔はそれなりに強い魔法もあったようだと知ったが、今では使えない人も多いし使えてもせいぜい生活に役立つ程度といったところだろうか。カリッドの魔力は強い方だろう。フィンリーは面白くないことに昔から現在に至るまで何も使えたためしはない。どうせこんな世界に転生するなら魔法くらい使いたいものだが、そもそも例の乙女ゲームの主題ではないからだろう。ゲームのサイトでも見漏れていない限り、魔力については特記されていなかったように思う。
酒に関してはジェイクがどう指示したのか分からないし、もしかしたら給仕した召使の配慮かもしれないが甘いリキュールやジュースが一緒に添えられていたため、これまた王子自らが好きに配合してカクテルを作っていた。見ている限りフェルネリープェはほぼ入ってなかったように思うが、カリッドはさらりと「強壮剤の効能があるお酒を飲ませて、そなたは私をどうするつもりでしょうね」などと怖いことをフィンリーに言ってくる。
「お、俺の指示では」
ないと言いかけて、使用人に罪を押し付ける主人(実際独断で指示したのはジェイクなのだが)みたいな気持ちになり、フィンリーは言い直した。
「そんなわずかな量ではどうにもなりません。あと殿下には健康でいてもらいたいとは思っています、クリーズ王国の光たる王子」
とはいえ咄嗟に言い直したせいで少々皮肉な言い方になってしまった。わずかな量などと、自分で配合したカリッドに対しての皮肉でしかない。だがカリッドは何故か楽しそうに笑いながら酒を口にしていた。
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