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13話
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おかしい。
フィンリーはパーティーが行われている広間の隅でひっそり壁に向き合っていた。そうなる予定ではなかったんだけど、とそして悶々と脳内で壁に語りかけていた。
アイリスの社交界デビューを、兄妹ながらに最初のダンス相手という光栄な役割まで果たして無事祝い、自分自身も一年遅れのデビューを何気に周りから祝われつつ楽しく過ごしたパーティーの後、フィンリーはいくつかそういった社交場に出ていた。やはり「社交」と言われるだけあって知り合いも増えた。女性との出会いも増えた。さすがにまだこれといった相手を見つけられてはいないがこれでも公爵家子息だ。その上自分で言うのもなんだが美形のはずだ。ゲームでの美少女設定だったヒロインと違って大人しく心優しい性格ではないものの、顔の設定は基本同じはずだし前世の記憶がある自分が客観的に見ても最高に整った顔をしていると思っている。以前ジェイクに確認したが、心配した嫌らしい癖もひどい体臭もないようだ。ちなみに確認した時のジェイクの戸惑い様は面白いというか久しぶりに可愛らしかった。だがその後に「ないですが念のため、オレが念入りに確認しましょうか」と言われたことに関しては丁重に断った。ということで、いい人はきっとすぐに見つかるだろう。
そうやって高を括っていたからだろうか。知らないうちに油断していたのだろうか。社交界に出るようになったのもあって王国主催のパーティーも断るに断れず参加せざるを得なかったため顔を出し、仕方なく公爵家子息として挨拶をした際に運悪く第二王子と目が合ってしまった。予定ではそこにいた王と皇族の皆を見ている振りをしてさり気に外した薄らぼんやりとした目線にする予定だったのに本当に運悪く目が合ってしまった。おまけに咄嗟のことで誤魔化すこともできずに目を逸らしてしまった。下手をしたら不審者だ。願わくは俺様であるはずの第二王子、カリッドがどうでもいいとばかりに興味を持たず流してくれればいいと思う。確かにゲームでは社交界で見かけたヒロインを気にするようになるが、現状のフィンリーは男だ。普通なら気にしないはずだ。
「そんなところで何をなさっているんです?」
「え、あ……ちょっと気分が……」
こんな場で壁に向かって落ち込んでいる時点で不審なのだろう。誰かに声をかけられ、フィンリーは仕方なく適当に誤魔化すように返事をしかけて振り向いたところで固まった。
「っで、んか」
「はは。変に区切られると馬鹿みたいですね」
「も、申し訳ありません」
しどろもどろになりながら謝ったが、フィンリーの中ではひたすら混乱の嵐だった。何故わざわざ第二王子がやって来て壁に向かっている男に声をかけてくるのか。というか本当に第二王子で合っているのか。学生の頃にほんの一瞬だけ交わした言葉では確かにゲームのように尊大な俺様風味が感じられた口調だったはずだ。間違っても今のような敬語を使えるタイプではなかったように思う。相手が王子でなければ「お前誰だよ」と突っ込んでいたかもしれない。少なくとも「影武者ですか?」くらいは問いかけていたかもしれない。
「具合が悪いのは大変ですね。こちらへ。休める場所を提供しましょう」
絶対に、ニッコリと笑みを浮かべながらそんなことなど言うタイプではなかったはずだ。むしろ「こういった場を盛り下げる不届きなヤツめ」くらいは言いそうな印象しか残っていない。
「……け、結構です」
ただでさえカリッドとは一番関わり合いになりたくなかった。ゲームの分岐が始まるのはほぼカリッドと出会ってからのはずだけに、一番会いたくなかった相手だ。その上目の前にいる相手はそのカリッドを連れ去り代わりに後釜となった宇宙人かチェンジリングかというくらい違和感があって落ち着かない。
「……設定ブレすぎだろ……」
「はい?」
「い、いえ! あの、もう大丈夫ですので」
「大丈夫? 無理はいけませんね。そなたの顔色はまだ、私やそなたの瞳のように青いですよ。さあ、こちらへ」
王子にそこまで言われて尚断るほどフィンリーも不躾ではない。内心少し泣きそうになりながらも渋々ついて行った。手を差し出され支えられようとされたが、さすがにそれだけはと非常に丁寧で慇懃無礼に断った。案内されたのはちょっとした小部屋といったところで、こじんまりとしているものの置いてある家具はさすがというか一級品だった。座るよう言われたソファーもふかふかと気持ちがいい。
「飲み物を持ってこさせましょう」
「いえ、本当にもう大丈夫なので。ありがとうございます。もう少ししたら調子も戻るかと」
「そうですか。それはよかった」
「はい。……。……、……あの」
「はい?」
おずおずと声をかけると向かい側のソファーに座り出したカリッドがまたニッコリとした笑みでフィンリーを見てきた。
「俺は大丈夫ですのでどうか殿下は会場へお戻りください」
「いえ、そなたが元気になるのを確認するまでは残ります」
何でだよ!
思わずそう返しそうになってフィンリーは何とか口をつぐんだ。ため息も堪えてからようやく口を開く。
「殿下にそこまでしていただく訳には……」
「気にしないでください。私がそうしたいからしているだけなので」
「……だいたい何故あんな隅にいた俺に気づくんです」
どうあっても出て行ってくれなさそうなカリッドに、フィンリーはやけくそになって聞いた。
「フィンリー。そなたが挨拶をしに来た時から気になっていましたよ」
「はい?」
一体どういう意味だ。まさかやはりヒロイン効果からは逃れられないのだろうか。ヒロインが男に変わっても避けても逃げても何をしても結局あの乙女ゲームは始まってしまうのだろうか。
フィンリーがもはや恐怖すらひっそり感じている中、カリッドは「挨拶で目が合った時に何故か警戒した顔をしてきて、そりゃ気になりますよね」などと言いながらまたニッコリ笑みを浮かべていた。
フィンリーはパーティーが行われている広間の隅でひっそり壁に向き合っていた。そうなる予定ではなかったんだけど、とそして悶々と脳内で壁に語りかけていた。
アイリスの社交界デビューを、兄妹ながらに最初のダンス相手という光栄な役割まで果たして無事祝い、自分自身も一年遅れのデビューを何気に周りから祝われつつ楽しく過ごしたパーティーの後、フィンリーはいくつかそういった社交場に出ていた。やはり「社交」と言われるだけあって知り合いも増えた。女性との出会いも増えた。さすがにまだこれといった相手を見つけられてはいないがこれでも公爵家子息だ。その上自分で言うのもなんだが美形のはずだ。ゲームでの美少女設定だったヒロインと違って大人しく心優しい性格ではないものの、顔の設定は基本同じはずだし前世の記憶がある自分が客観的に見ても最高に整った顔をしていると思っている。以前ジェイクに確認したが、心配した嫌らしい癖もひどい体臭もないようだ。ちなみに確認した時のジェイクの戸惑い様は面白いというか久しぶりに可愛らしかった。だがその後に「ないですが念のため、オレが念入りに確認しましょうか」と言われたことに関しては丁重に断った。ということで、いい人はきっとすぐに見つかるだろう。
そうやって高を括っていたからだろうか。知らないうちに油断していたのだろうか。社交界に出るようになったのもあって王国主催のパーティーも断るに断れず参加せざるを得なかったため顔を出し、仕方なく公爵家子息として挨拶をした際に運悪く第二王子と目が合ってしまった。予定ではそこにいた王と皇族の皆を見ている振りをしてさり気に外した薄らぼんやりとした目線にする予定だったのに本当に運悪く目が合ってしまった。おまけに咄嗟のことで誤魔化すこともできずに目を逸らしてしまった。下手をしたら不審者だ。願わくは俺様であるはずの第二王子、カリッドがどうでもいいとばかりに興味を持たず流してくれればいいと思う。確かにゲームでは社交界で見かけたヒロインを気にするようになるが、現状のフィンリーは男だ。普通なら気にしないはずだ。
「そんなところで何をなさっているんです?」
「え、あ……ちょっと気分が……」
こんな場で壁に向かって落ち込んでいる時点で不審なのだろう。誰かに声をかけられ、フィンリーは仕方なく適当に誤魔化すように返事をしかけて振り向いたところで固まった。
「っで、んか」
「はは。変に区切られると馬鹿みたいですね」
「も、申し訳ありません」
しどろもどろになりながら謝ったが、フィンリーの中ではひたすら混乱の嵐だった。何故わざわざ第二王子がやって来て壁に向かっている男に声をかけてくるのか。というか本当に第二王子で合っているのか。学生の頃にほんの一瞬だけ交わした言葉では確かにゲームのように尊大な俺様風味が感じられた口調だったはずだ。間違っても今のような敬語を使えるタイプではなかったように思う。相手が王子でなければ「お前誰だよ」と突っ込んでいたかもしれない。少なくとも「影武者ですか?」くらいは問いかけていたかもしれない。
「具合が悪いのは大変ですね。こちらへ。休める場所を提供しましょう」
絶対に、ニッコリと笑みを浮かべながらそんなことなど言うタイプではなかったはずだ。むしろ「こういった場を盛り下げる不届きなヤツめ」くらいは言いそうな印象しか残っていない。
「……け、結構です」
ただでさえカリッドとは一番関わり合いになりたくなかった。ゲームの分岐が始まるのはほぼカリッドと出会ってからのはずだけに、一番会いたくなかった相手だ。その上目の前にいる相手はそのカリッドを連れ去り代わりに後釜となった宇宙人かチェンジリングかというくらい違和感があって落ち着かない。
「……設定ブレすぎだろ……」
「はい?」
「い、いえ! あの、もう大丈夫ですので」
「大丈夫? 無理はいけませんね。そなたの顔色はまだ、私やそなたの瞳のように青いですよ。さあ、こちらへ」
王子にそこまで言われて尚断るほどフィンリーも不躾ではない。内心少し泣きそうになりながらも渋々ついて行った。手を差し出され支えられようとされたが、さすがにそれだけはと非常に丁寧で慇懃無礼に断った。案内されたのはちょっとした小部屋といったところで、こじんまりとしているものの置いてある家具はさすがというか一級品だった。座るよう言われたソファーもふかふかと気持ちがいい。
「飲み物を持ってこさせましょう」
「いえ、本当にもう大丈夫なので。ありがとうございます。もう少ししたら調子も戻るかと」
「そうですか。それはよかった」
「はい。……。……、……あの」
「はい?」
おずおずと声をかけると向かい側のソファーに座り出したカリッドがまたニッコリとした笑みでフィンリーを見てきた。
「俺は大丈夫ですのでどうか殿下は会場へお戻りください」
「いえ、そなたが元気になるのを確認するまでは残ります」
何でだよ!
思わずそう返しそうになってフィンリーは何とか口をつぐんだ。ため息も堪えてからようやく口を開く。
「殿下にそこまでしていただく訳には……」
「気にしないでください。私がそうしたいからしているだけなので」
「……だいたい何故あんな隅にいた俺に気づくんです」
どうあっても出て行ってくれなさそうなカリッドに、フィンリーはやけくそになって聞いた。
「フィンリー。そなたが挨拶をしに来た時から気になっていましたよ」
「はい?」
一体どういう意味だ。まさかやはりヒロイン効果からは逃れられないのだろうか。ヒロインが男に変わっても避けても逃げても何をしても結局あの乙女ゲームは始まってしまうのだろうか。
フィンリーがもはや恐怖すらひっそり感じている中、カリッドは「挨拶で目が合った時に何故か警戒した顔をしてきて、そりゃ気になりますよね」などと言いながらまたニッコリ笑みを浮かべていた。
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