ヒロイン効果は逃れられない

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29話

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 魔の世界の生き物ですなどと口にしてくる相手など、前の世界でならドン引きしかしなかっただろうなとフィンリーは思う。しかしこの世界でなら話は別だ。実際かなり強い魔法のような何かをデイリーが使うのを目の当たりにしているし、そもそもこの世界に自分がフィンリーとして存在している時点でその言葉には重みしかない。

「あ、くま?」
「あなたは言葉を区切る趣味でもあるんですか」
「ないよ! 動揺してんだよ! なあ、魔の世界の生き物って何だよ……魔物ってこと? いやでも魔物ってより悪魔っぽいよな、あんた」
「お好きに解釈してください。どうとでも」
「……で、何が目的なんだよ」
「別に大した目的などありませんよ。単なる退屈しのぎです」
「は?」
「実際、楽しませてもらっておりますし」
「人の人生を何だと思ってんだよ! 人でなし!」
「ええ。人ではありませんしね。それに別に私はあなたの人生を台無しになどしてませんよね?」

 心外だといった風に言ってくるデイリーを呆れたように見た。

「はぁ? 俺をゲームの世界に送っておきながら……。そもそも俺を事故死させたのもまさかあんたじゃ……」
「それこそ心外です。言ったでしょう。目的などないと。いくら何でも私の遊びのために人の生死を左右させませんよ。そんなことをしていてはむしろ私の地位や命が危なくなる。魔の世界も無法地帯という訳ではありませんのでね」

 デイリーの言葉にフィンリーは少し驚いた。魔物や悪魔は好き勝手に人間を弄ぶだけでなく殺したりしそうなイメージがある。

「仕事でなら人の命を頂くこともありますよ。それすら直接的ではありません。これでもルールがあるのでね。あなた方が持っているイメージはあくまでも創作か、もしくはルールもへったくれもない下等な魔物のそれでしょうね」

 デイリーいわく、何か楽しめそうなことはないかとうろついている時にたまたま、フィンリーの前世である平高弘斗がトラックにはねられて死ぬところを目の当たりにしたらしい。これほどベタにトラックにはねられて死ぬ人間も中々希少価値だなと面白く思い、どうせならその魂を使わせてもらおうと思い立ったのだと言う。
 本来ならいくら高位の存在であっても、人間界の魂をその場で自由に好きに弄ることはできないらしい。物事には手順がある。ただしあまりにベストタイミングで居合せ手にした場合に限り、限られた力のある存在だけはそれが許されるのだという。ただしそれを狙って故意に死なせるとそれ相応の手酷い罰を食らうため、本当に居合せない限りできないことらしい。

「ある意味私とあなたは運命の出会いを果たしたということです」
「やかましいわ。嫌だよそんな運命の出会い……」
「嫌だとおっしゃっても、もう既に出会い、そしてあなたは私の好きなように弄らせていただいた結果、こうしてこの世界に転生したわけです。とても特別な関係を感じませんか? とはいえ世界観をいくつか弄らせてはいただきましたが、その中でどう生きるかはあなた次第でしたよ。前世だってそうでしょう? きっと運命はある程度決まっていた。それをどう生きてきたかはあなた次第だったはずだ。私はあなたの今の人生を台無しにしていませんし好きに操ってもいません。ただ観察し楽しませてもらっているだけです」

 そう言われると「確かにな……」と思ってしまった。ゲームでの登場人物たちは設定どおりのようであり、そうではない。ゲームのまま動いている人物などフィンリーの知っている限りいないし、NPCのような存在を感じたこともない。性質は基本そのままかもしれないが、現状をどう思い、どう考え、どう行動するかは皆それぞれだったのだろうと改めて思い返して納得する。フィンリー自身もそうだ。下手にシナリオを知っているせいで構えながら生きてきたが、その時々にどういった言動を取るかを誰かに強要されたことはないし、自分で選び進んできた。

「って、いやいやちょっと待って。俺次第って言うけどゲームを知っている俺の前世の記憶が丸ごと残ったままゲームの世界に転生した時点でまず縛られてるだろ……!」
「努力しながら空回りしているあなたは中々興味深かったですね」

 もう少しで騙され流されるところだったとフィンリーは頭を抱えた。

「クソ……! それにあんた、関与してきたじゃないか。俺にろくでもないもん盛ってきただろ」
「あれはある意味プレゼントですよ」
「どんな悪意あるプレゼントだよ……!」
「このままですとあなた、皆を避けまくって誰ともくっつかないままになりかねないじゃないですか」
「男とくっつくくらいならそれでいいよ……」
「おや、カリッド王子と散々楽しまれたのでは?」

 ニッコリと笑顔で言われ、フィンリーは一気に顔が熱くなった。

「楽しんでねえよ……!」
「あなたがどうあがこうが、この世界のヒロインなんだということはお忘れなきよう。ただストーリーの軸を弄りはしましたが、今後どういう展開になるかは私もわかりません。あなた次第です。そうでないと面白くないでしょう?」
「俺を楽しませる気があるならせめて相手を女の子にしてください」
「それは普通過ぎて私が楽しくないので」
「ちきしょう。だいたい俺次第ってんなら何であんた、カリッド王子を勧めてきたんだよ」
「ああ。正直な話、別にジェイクだろうがリースだろうがアートだろうが構わないんですけどね。ただ私が関わりやすいのがカリッド王子というだけです。これを聞いてカリッドだけはやめようと思うのならそれはそれで構いませんよ。ただし他の彼らの場合先ほども申しましたが、言動の選択には気を付けないとあまり楽しくない未来が待っているかも」
「安心して。誰も選びたくないから。つかほんと何なのあの怖いエンド」
「バッドエンドは私が楽しいから新しく作ったものです。未来はあなた次第ですが、そういったエンドもありますよというだけの話ですよ」

 というだけ?

 フィンリーは思い切りデイリーを睨んだ。

「誰ともくっつかない楽しい平和なノーマルエンドを俺は目指す」
「それはお好きに。ですがくっつかないままだけじゃなく楽しい平和な、ねぇ。今の状況ですと普通に誰かとの将来を選択するより難しそうですけどね」
「もうほんとあんた嫌……。っていうかあの三人のバッドエンドがあるならカリッド王子だってあるんだろ。分け隔てなく俺に教えろよ」
「ふ。あなたは本当に少々ずれてますね。それとも言葉の選択のセンスが変わってるんでしょうか」
「俺を貶す前に教えろ」
「貶してませんよ。褒めてるんです。あなたが好きだとどんどん実感しますね」
「嬉しくない……」
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