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35話
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どの辺りの土地を与えられる予定だったっけとあの後フィンリーが聞けばリースは苦笑して「ここからかなり遠くなるからちょっとありがたくなくて。領地自体はとても広くて農産物も潤っているところなんだけどね」と教えてくれた。その場所は確かにかなり遠い場所だったが少し南寄りのその場所なら珍しい果物なども採れるとてもいい土地でもあった。
「いいところじゃないか」
「まあね。でも駄目だよ。君と中々会えなくなる」
「何言ってんだよ、確かに気軽に会える距離じゃないけど、そんないい土地を貰えるなんて、いくら兄弟とはいえラッキーじゃないか」
親兄弟とはいえ、財産を巡って争う者は少なくない。土地も然りだ。それを思うとリースはとてもいい待遇だと思われる。
「そうかもだけど。レナート兄さんにはその土地は二番目のルカス兄さんにどうかと打診してるところなんだ」
「ええ、勿体ない! すごい暖かいとこだし、俺、たまに遊びに行くのに!」
リゾート地にしても絶対に儲かる場所だ。前世で商売をしていた訳ではないが、顧客に様々なプランを提供する営業をしていたサラリーマンとして商魂たくましく考えたくなる土地にフィンリーは心の底から「勿体ない」と手を握りしめた。
「それも楽しそうだけどね。しばらくは実家にいさせて欲しいけど、それが駄目なら僕は代わりにルカス兄さんが今持っている土地を貰うのでもいいと提案しているよ」
「それってどこにあるの」
「それは──」
そうだ、思い出した!
ずっとその時の会話を考えていたフィンリーは座っていた体を起こしながら今も手を握りしめた。
ルカスだ。
フラートン家次男、ルカス卿。
彼の持つ土地は本家から少し離れてはいるものの、いずれリースが与えられる予定だった土地よりは近いしシューリス家本家ともそれほど離れていなかった。賑わい具合はよくもなく悪くもなくといったところだっただろうか。農業よりはもう少し卸売や小売業、製造業の方に力を入れたらもっと発展できるのではとフィンリーが思っていた場所だ。リースと話をしていた時も、リースの手にかかれば今より発展するかもしれないなどとこっそり考えていた。
リースと兄弟二人との仲は確か悪くはなかったはずだ。リースと幼馴染であり従兄弟同士であるフィンリーだが、たまたまというのだろうか。リースの兄であるルカスとは大して接したことがないのもあり、あまり把握していない。レナートともよく会う訳ではなかったが、お互い長男同士ということもあり、こちらとは仕事絡みや社交の場でたまに接することはあった。
とりあえずおそらくだが、ルカスの領地のどこかに今いるのではないだろうか。あの地域にあるフラートン分家はどの辺りだったかなと考えていたフィンリーはだが肩を落としてため息を吐いた。
「俺が場所を把握してもあまり大したことなんかできないだろ……前世だったらスマホとかで連絡取れるのに」
どうせ前世だったとしても携帯電話などといったものはすみやかに奪われていただろうけれどもと考えていたが、フィンリーはハッとなり胸元のポケットを探った。そしてジェイクが小馬鹿にするように入れてきたハンカチを取り出す。ただ目的はハンカチではない。これはポケットを空けるために出したに過ぎない。
「……やっぱり。入ってた」
ポケットの底には丸いデザインのシンプルなピアスが落ちていた。おそらくジェイクがハンカチで誤魔化しながらポケットの中に落としてきたのだろう。万が一怪しまれてハンカチを出せと言われてもフィンリーが取り出すのは何の変哲もないハンカチに過ぎなく、肝心のピアスはポケットの底に落ちたままという訳だ。
何故ジェイクがこれを持ち歩いていたのかはこの際気にしないことにする。重要なのはジェイクがこれを忍ばせてきたということだ。このピアスは以前フィンリーが誕生日プレゼントとしてリースから贈られたものであり、その実、魔導発信装置だ。忍ばせてきたということは、おそらく今も機能しているはずだと思われた。
「ナイス、ジェイク……! これで俺は勝ったも同然だろ……」
そうとなれば危険を冒して逃げ出すよりも助けを待っていたほうがいいだろう。何の連絡も入らないとなればジェイクは動くはずだ。
またグッと手を握りしめて気持ちが高揚していたフィンリーだが、ふと嫌なことに気づいた。
使いの者が迎えに来た時はジェイクが言っていたように派閥問題の絡みで、てっきりリースがフィンリーの安全のためを考えて隠密に行動していたのかと思っていた。だが今やそうではないとわかっている。おそらくフィンリーにとってよくないことのためだ。そうなると、迎えに寄越した者の正体を知るジェイクがそのままでいるはずがないのではないだろうか。普通に考えると誰かにこのことを漏らす前に、油断しているジェイクの口を永遠に封じようとするのではないだろうか。ここへ一緒に連れてこなかったのはフィンリーに付き添われ警戒されると面倒だたからだろう。あれでも騎士並みに腕の立つ貴族だ。
──いや、考えすぎだ。何もかも考えすぎで、これは単に安全のためここまで隠密にことを進めているだけだ。絶対そうだ。そうに違いない。そうであってくれ。
自分のことを考えていた時はあまり深刻に捉えていなかったフィンリーだが、ジェイクの身の危険に気づくとまるで自ら言い聞かせるように頭の中でそう繰り返す。しかしそんな時に限ってデイリーと話をしていた時の「十八歳以上対象というのは過度に残虐な悪印象を与える殺傷、暴力、犯罪、出血などの表現を含む内容が主に規制の対象」という言葉までもが過ってしまい、またその場にへたり込んでしまった。
「いいところじゃないか」
「まあね。でも駄目だよ。君と中々会えなくなる」
「何言ってんだよ、確かに気軽に会える距離じゃないけど、そんないい土地を貰えるなんて、いくら兄弟とはいえラッキーじゃないか」
親兄弟とはいえ、財産を巡って争う者は少なくない。土地も然りだ。それを思うとリースはとてもいい待遇だと思われる。
「そうかもだけど。レナート兄さんにはその土地は二番目のルカス兄さんにどうかと打診してるところなんだ」
「ええ、勿体ない! すごい暖かいとこだし、俺、たまに遊びに行くのに!」
リゾート地にしても絶対に儲かる場所だ。前世で商売をしていた訳ではないが、顧客に様々なプランを提供する営業をしていたサラリーマンとして商魂たくましく考えたくなる土地にフィンリーは心の底から「勿体ない」と手を握りしめた。
「それも楽しそうだけどね。しばらくは実家にいさせて欲しいけど、それが駄目なら僕は代わりにルカス兄さんが今持っている土地を貰うのでもいいと提案しているよ」
「それってどこにあるの」
「それは──」
そうだ、思い出した!
ずっとその時の会話を考えていたフィンリーは座っていた体を起こしながら今も手を握りしめた。
ルカスだ。
フラートン家次男、ルカス卿。
彼の持つ土地は本家から少し離れてはいるものの、いずれリースが与えられる予定だった土地よりは近いしシューリス家本家ともそれほど離れていなかった。賑わい具合はよくもなく悪くもなくといったところだっただろうか。農業よりはもう少し卸売や小売業、製造業の方に力を入れたらもっと発展できるのではとフィンリーが思っていた場所だ。リースと話をしていた時も、リースの手にかかれば今より発展するかもしれないなどとこっそり考えていた。
リースと兄弟二人との仲は確か悪くはなかったはずだ。リースと幼馴染であり従兄弟同士であるフィンリーだが、たまたまというのだろうか。リースの兄であるルカスとは大して接したことがないのもあり、あまり把握していない。レナートともよく会う訳ではなかったが、お互い長男同士ということもあり、こちらとは仕事絡みや社交の場でたまに接することはあった。
とりあえずおそらくだが、ルカスの領地のどこかに今いるのではないだろうか。あの地域にあるフラートン分家はどの辺りだったかなと考えていたフィンリーはだが肩を落としてため息を吐いた。
「俺が場所を把握してもあまり大したことなんかできないだろ……前世だったらスマホとかで連絡取れるのに」
どうせ前世だったとしても携帯電話などといったものはすみやかに奪われていただろうけれどもと考えていたが、フィンリーはハッとなり胸元のポケットを探った。そしてジェイクが小馬鹿にするように入れてきたハンカチを取り出す。ただ目的はハンカチではない。これはポケットを空けるために出したに過ぎない。
「……やっぱり。入ってた」
ポケットの底には丸いデザインのシンプルなピアスが落ちていた。おそらくジェイクがハンカチで誤魔化しながらポケットの中に落としてきたのだろう。万が一怪しまれてハンカチを出せと言われてもフィンリーが取り出すのは何の変哲もないハンカチに過ぎなく、肝心のピアスはポケットの底に落ちたままという訳だ。
何故ジェイクがこれを持ち歩いていたのかはこの際気にしないことにする。重要なのはジェイクがこれを忍ばせてきたということだ。このピアスは以前フィンリーが誕生日プレゼントとしてリースから贈られたものであり、その実、魔導発信装置だ。忍ばせてきたということは、おそらく今も機能しているはずだと思われた。
「ナイス、ジェイク……! これで俺は勝ったも同然だろ……」
そうとなれば危険を冒して逃げ出すよりも助けを待っていたほうがいいだろう。何の連絡も入らないとなればジェイクは動くはずだ。
またグッと手を握りしめて気持ちが高揚していたフィンリーだが、ふと嫌なことに気づいた。
使いの者が迎えに来た時はジェイクが言っていたように派閥問題の絡みで、てっきりリースがフィンリーの安全のためを考えて隠密に行動していたのかと思っていた。だが今やそうではないとわかっている。おそらくフィンリーにとってよくないことのためだ。そうなると、迎えに寄越した者の正体を知るジェイクがそのままでいるはずがないのではないだろうか。普通に考えると誰かにこのことを漏らす前に、油断しているジェイクの口を永遠に封じようとするのではないだろうか。ここへ一緒に連れてこなかったのはフィンリーに付き添われ警戒されると面倒だたからだろう。あれでも騎士並みに腕の立つ貴族だ。
──いや、考えすぎだ。何もかも考えすぎで、これは単に安全のためここまで隠密にことを進めているだけだ。絶対そうだ。そうに違いない。そうであってくれ。
自分のことを考えていた時はあまり深刻に捉えていなかったフィンリーだが、ジェイクの身の危険に気づくとまるで自ら言い聞かせるように頭の中でそう繰り返す。しかしそんな時に限ってデイリーと話をしていた時の「十八歳以上対象というのは過度に残虐な悪印象を与える殺傷、暴力、犯罪、出血などの表現を含む内容が主に規制の対象」という言葉までもが過ってしまい、またその場にへたり込んでしまった。
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