ヒロイン効果は逃れられない

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38話

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 おそらく、とフィンリーは思った。
 元々の設定ではフィンリーは女であり、それぞれの攻略対象と恋愛の末一緒になる展開だ。昔メモにも残した通り、リースのルートでは当然順当に行けばリースと結婚する流れになり、リースは三男でもあるのでシューリス家に婿として入ってくれる。また、他のキャラクターのルートであっても義妹のアイリスは追放されるしフィンリーは公爵令嬢だ。基本的にシューリス家の跡取りがいないため、リースは大抵どのルートでも養子という形でシューリス家の次期当主という流れになる。
 だが現状ではフィンリーは男だ。よってこのままでは当然、フィンリーが次期シューリス家当主となる。この世界ではフィンリーが生まれた時点でそうであったため、ルカスたちにとって予想外だとはさすがに思われているはずはないだろう。しかし先ほど言っていたように「邪魔」だとは思われてしまうようだ。理不尽極まりない。さすがに子どもの頃からそんな風に思われていたのではないだろうが、アイリスが公爵令嬢となった頃からルカスはじわじわと今回のような考えを温めていた可能性はある。そしてフィンリーがカリッドと親しくするようになり実行に至ったのかもしれない。
 貴族派そのものといったルカスとしては皇帝派の一番の強みであるシューリス家そのものが本当は邪魔なのかもしれない。とはいえシューリス家は公爵の中でも一番力のある貴族であり、簡単に潰すことはできない上に親や長男である現カーシアン公レナートはシューリス家と懇意にしているか安定した付き合いを望んでいる。
 それらを踏まえておそらく、ルカスの思惑というのは本来ゲームでは必ず養子となっていたリースをシューリス家の後継者にすることだ。フィンリーさえいなければアイリスと結婚することで容易にリースは次期当主となる。例え当人同士にその気がなくとも政略結婚というものはこの世界のいたるところで日々発生している。親や長男に上手いことを言って三男であるリースをアイリスと結婚させることはさほど難しいことではないかもしれない。
 リースがシューリス家当主となればリースの派閥に関する考えはさておき、貴族派の、それもフラートン家は大いに安泰だとルカスは考えるだろう。
 こう考えるとゲームエンディング後、派閥はどのようになっていったのだろうかと気になるところだが、今はそれどころではない。ゲームよりも現実だ。

「……そのお願いしたいこととは、俺が邪魔だと先ほど言ったことと直結していることですよね。第二王子殿下と親しくすることに対しても邪魔だとは言えるかもしれないけど、それなら邪魔というより違う言い方をするはずだ」
「ふむ、やはり君は次期当主ということもあって頭は悪くないようだね。きっと君の考えと俺の思惑は同じじゃないかと思うよ」
「……」
「君が邪魔なんだ、エーレン卿。もちろん君はエーレン公爵のご長男で重要な立場である方だ。フラートン家とも懇意にしてくれているし何より可愛い従弟でもある。俺も軽率に怪我をされたり病気になられたりして欲しくないと思っているよ」
「……」
「リースは君をとても大切に思っているようだ。とはいえあいつも君も男だ。恋愛は自由にしてくれていいが、跡取りとなると少し問題があることくらいわかるだろう」
「恋愛って何の話ですか……俺とリースはそんなんじゃない」
「それはさておき」

 さておくなら口にするな、とフィンリーは口元をそっと歪ませた。

「君は最近、平民と親しくしているらしいね。トラウトン商会の息子だったかな。どうせ恋愛をするなら彼とするといい。なんなら一緒になってくれてもいいしな。平民でも女だと玉の輿ということになりかねないし、他の貴族だと立場的に男女ともに君の元へ嫁ぐなりする流れになるだろうが、商会の跡継ぎ息子となると話は違う。ご両親からは反対されるかもしれないが、俺は応援させてもらうよ。商人になるのもおつなものじゃないか?」

 お前は何を言っているんだとできるのであれば百回くらいは罵倒するなり蹴り倒すなりしたい。あまりのことに固まったような笑顔でフィンリーはルカスを見た。ルカスはフィンリーの反応をどう受け止めたのか、座っていた椅子に寛いだ様子で座りなおし、続けてくる。

「そう選択するのなら君は怪我をすることもなく無事今後も楽しく過ごせるというわけだ。まあ、トラウトンの息子と一緒にならなくともシューリス家を出てくれるだけでもいいんだが、それだとやはり確証がないからね。それに次の世代まで待ってはいられない。ああ、もちろんここであったことは口外無用だ。漏らしてしまったらきっと激しくそれを後悔することになるだろう。また、俺の思惑通りにできないとなった場合もここから帰る途中事故に出会ってしまうかもしれない。俺はもちろんどちらも望んではいない。安全とは言い難いからね。これでもできれば穏便に済ませたい派なんだ」

 開いた口が塞がらないとはこのことだろう。なんと勝手な言い分だろうか。そもそもジェイクのことを確認してくれと言ったことに関してはどうなったのだとフィンリーが思っていると、丁度そこに先ほどの男がノックの後部屋に入ってきてルカスに何やら報告してきた。その男が出ていった後、表情の読めないルカスがフィンリーをまた見てくる。

「さて、ここで先ほど君が俺に頼んできたジェイクのことだが」
「……」
「彼の無事を今すぐ確認したいなら、それに無事だったとして今後彼がどうなるかも確認したいと言うなら、君はどうするべきかわかると思うが」
「卑怯な」

 と言いつつも、そういう提案をしてくるということはジェイクは少なくとも現状無事である可能性が高まったように思えた。何かあったとしてもそれを隠して交渉に使ってくるかもしれないが、腐ってもリースの兄だ。そこまでろくでもないことはないと信じたい。

「失礼だな、俺は極力紳士的に接していると思うんだが」

 どこがだよ。

 あからさまな脅迫も聞けたことだし、いっそもう殴るなりなんなりして帰ってやろうかと思ったが、それでは何の解決にもならない。とはいえこの場限りで口約束をしても結局は何の解決にもならないだろう。それに交渉成立などさせたくない。あくまでもこちらは脅された被害者という状況のまま、ルカスや貴族派を懲らしめてやりたい。
 ただルカスの口から企みを聞き出せたのはいいものの、聞いているのは自分だけでは証拠にもならない。おまけに公にしたら下手をするとフラートン家断絶ということになるかもしれない。リースを思うとできればそれは避けたかった。

「話が進まないな。困ったものだ」

 あんたがな。

「どうやら少し痛い目を見たほうがスムーズなのだろうかな。できれば俺はそういうことは好まないんだが、ね。君が思いきれないというのなら仕方がない」

 痛い目ってなんだよ……!

 否応なしに、デイリーが言っていた「十八歳以上対象というのは過度に残虐な悪印象を与える殺傷、暴力、犯罪、出血などの表現を含む内容が主に規制の対象」という言葉がまた過る。

「い、やだ!」
「なら話を飲むことだ。決めかねるのなら痛い目を見る。無理だと言うのなら事故に合ってもらうしかないのだから」
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