22 / 44
22.ふわふわな兎
しおりを挟む
「やっぱり、いいなぁ……」
優史は寝転びながら読んでいた本を読み終え、満足気にため息をついた。
本は好きなので、わりと何でも読む。仕事用としての実用書から推理小説、はたまた気軽なエッセイまで、本当に色々読む。字の本だけでなく、実は漫画もたまに読んでいた。それも少女漫画。
少女漫画の世界がとても好きだった。何となくキラキラ、ふわふわしていて、そして誰もが誰かを好きで。昔から「こんな恋愛したいなあ」などと思いながら、本の中で繰り広げられる恋愛模様にドキドキしながら読んでいた。
たまに妙な展開のものもあったが、優史は主人公の女の子が好きな男の子に対して一喜一憂しながらキラキラ過ごしているのを、自分まで同じようにキラキラしながら楽しんでいる。
「……共学に勤務、してたら日常でも見られたかなー」
優史は微笑しながら本をサイドテーブルに置いて寝がえりを打った。
自分が男子高だったからか、大学を卒業した後で働くことになった職場は男子校だった。しかも全寮制。
配属が決まった時、教師は寮に住まなくていいとわかってホッとした。さすがに男性しかいない世界でずっと過ごすというのはどうにも切ない。別に絶えず女性を見ていたいとか女性といたい、といった邪な気持ちではなく、何というか華がないというのだろうか。
恋愛事情はそんな全寮制の男子校でも色々あるようで何ともアレだが。
「まあ通勤するからと言って華があるという訳でもないんだけれども……」
それでも、もしかしたら日常でも何かドキドキするようなことに出会えるかもしれない。大学を卒業する時点で彼女がいたので、そういう意味での出会いではなく、何か見ていて「いいなぁ」と思えるような光景などとの出会いが。
とは言え、現実にはそういったことなど、そうそうないのだろうなくらいわかってはいた。
「でも……」
優史はふと顔を赤らめた。
学校の教師となって三年目。特にキラキラしたような出来事を見かけたこともないまま、むしろ彼女に振られ。現実は切ないな、などと思っていたところに千景が現れた。
もちろん、優史がこよなく好きだと思う少女漫画の世界とは少し、いや、かなりかけ離れた人ではある。
男なのでヒロインが持つような、かわいらしく赤くなったり何かフワリと甘い雰囲気があるわけないのはわかる。しかし本によく出てくるようなヒーローの王子様気質すらない。爽やかに汗などかいていないし、優しく甘い笑みを浮かべて話しかけてもこない。
むしろどちらかと言うと女王様に近いような……。
それでも優史にとってはまるで本の世界のような出会いだった。
痴漢から守ってくれたのではなく、実際してきた人であり、いつだって優史を手の上で転がしいたぶってくるような人だ。しかもかなり年下の高校生。
だが優史を否定してこない。
「これ、何」
「……あ。そ、その……」
この間、片づけたと思っていた少女漫画の一冊を見つけられた。前に付き合っていた人に「男なのにこんなの読んでるの……?」と言われたので隠していたのだが、見つかった。
千景は特に表情も変えずに本をパラパラ捲っていた。優史はそんな千景を心配そうに見る。
嘲笑されるだろうか。「何でこんなの読んでんの?」などと言われるだろうか。それとも気持ち悪そうに黙って見られるだろうか。
「先生でも漫画って読むんだねぇ」
だが千景が言ったのはそれだけだった。
「へ? あ、ああ、うん……」
「? 何?」
「……いや。それだけ?」
「は?」
「だって、その。それ、少女漫画だし」
優史が言うと、千景は怪訝そうに「だから?」という目で見てきた。
「……いい大人が、しかも男が何読んでるんだとか、その」
「……ばからしい」
「え?」
「ああいや。……ふーん。そっか、少女漫画、ね。ねぇ、優史はこういう感じに憧れてんの?」
「えっ?……うん。なんかほら、ふわふわしてて、キラキラしてて、いいなぁ、って」
「ほんとかわいいもの、好きだねぇ」
「そ、そうかな」
「俺にもそこに出てくるようなタイプになって欲しい?」
千景がニッコリ聞いてくる。優史は首をぶんぶんと振った。
「千景は千景だから。俺、今の千景が好きだから、その、そのままで、いい……」
すると引き寄せられ、キスされた。
「いい子だねぇ、優史」
激しく年下にそんな風に言われているというのに、優史には違和感などまったく感じなかった。真っ赤になって俯く。
「優史はヒロインみたいだよ……? とてもふわふわしていて、そして、甘い」
千景は囁きながら、俯く優史の顔を覗き込むようにしてまたキスしてくる。
「お、俺、が……?」
「ん。とても甘いよ……、俺のお姫さま」
優しく囁かれ、そして優しく抱擁されてキスを続けられ、優史はさらに真っ赤になりながら思わずポロリと涙を落とす。
すると千景はその濡れた頬にも優しくキスを落としてくれた。
そんなことを思い出しながら優史はベッドの中でまた赤くなった。
少女漫画を見つけても、千景は否定しないどころか優史を甘やかしてくれた。基本的に女王様でいて、ところどころ怖い千景だが、そうやってちゃんと優史を甘く蕩けさせるような気持にもさせてくれる。決して「愛してる」「好きだ」とは言ってはくれないが、それでもたまにくれるその甘い一言一言は、十分優史を蕩けさせた。
少女漫画のヒーローとは似ても似つかない怖い性質を持っているが、千景はやはり優史にとってのヒーローだと思った。
悲しくても嬉しくても、出てくるなら涙くらい出していいんだ。
そう思わせてくれる人。
今読んでいた少女漫画の世界観もいいけれども……。
優史は微笑みながら目を閉じる。
俺にとっての一番はやはり千景を包み込む世界。どう扱われようが、何をさせられようが好きでたまらない千景、その彼が存在するこの世界が一番好きだ。
……いつか千景にもちゃんと振り向いてもらえたらいいな……。片想いでも受け入れてもらっている今も幸せでならないんだけれども……。
そんなことを考えつつ、優史は口元に笑みを浮かべたまま、気持ちのいい眠りの世界に落ちていった。
優史は寝転びながら読んでいた本を読み終え、満足気にため息をついた。
本は好きなので、わりと何でも読む。仕事用としての実用書から推理小説、はたまた気軽なエッセイまで、本当に色々読む。字の本だけでなく、実は漫画もたまに読んでいた。それも少女漫画。
少女漫画の世界がとても好きだった。何となくキラキラ、ふわふわしていて、そして誰もが誰かを好きで。昔から「こんな恋愛したいなあ」などと思いながら、本の中で繰り広げられる恋愛模様にドキドキしながら読んでいた。
たまに妙な展開のものもあったが、優史は主人公の女の子が好きな男の子に対して一喜一憂しながらキラキラ過ごしているのを、自分まで同じようにキラキラしながら楽しんでいる。
「……共学に勤務、してたら日常でも見られたかなー」
優史は微笑しながら本をサイドテーブルに置いて寝がえりを打った。
自分が男子高だったからか、大学を卒業した後で働くことになった職場は男子校だった。しかも全寮制。
配属が決まった時、教師は寮に住まなくていいとわかってホッとした。さすがに男性しかいない世界でずっと過ごすというのはどうにも切ない。別に絶えず女性を見ていたいとか女性といたい、といった邪な気持ちではなく、何というか華がないというのだろうか。
恋愛事情はそんな全寮制の男子校でも色々あるようで何ともアレだが。
「まあ通勤するからと言って華があるという訳でもないんだけれども……」
それでも、もしかしたら日常でも何かドキドキするようなことに出会えるかもしれない。大学を卒業する時点で彼女がいたので、そういう意味での出会いではなく、何か見ていて「いいなぁ」と思えるような光景などとの出会いが。
とは言え、現実にはそういったことなど、そうそうないのだろうなくらいわかってはいた。
「でも……」
優史はふと顔を赤らめた。
学校の教師となって三年目。特にキラキラしたような出来事を見かけたこともないまま、むしろ彼女に振られ。現実は切ないな、などと思っていたところに千景が現れた。
もちろん、優史がこよなく好きだと思う少女漫画の世界とは少し、いや、かなりかけ離れた人ではある。
男なのでヒロインが持つような、かわいらしく赤くなったり何かフワリと甘い雰囲気があるわけないのはわかる。しかし本によく出てくるようなヒーローの王子様気質すらない。爽やかに汗などかいていないし、優しく甘い笑みを浮かべて話しかけてもこない。
むしろどちらかと言うと女王様に近いような……。
それでも優史にとってはまるで本の世界のような出会いだった。
痴漢から守ってくれたのではなく、実際してきた人であり、いつだって優史を手の上で転がしいたぶってくるような人だ。しかもかなり年下の高校生。
だが優史を否定してこない。
「これ、何」
「……あ。そ、その……」
この間、片づけたと思っていた少女漫画の一冊を見つけられた。前に付き合っていた人に「男なのにこんなの読んでるの……?」と言われたので隠していたのだが、見つかった。
千景は特に表情も変えずに本をパラパラ捲っていた。優史はそんな千景を心配そうに見る。
嘲笑されるだろうか。「何でこんなの読んでんの?」などと言われるだろうか。それとも気持ち悪そうに黙って見られるだろうか。
「先生でも漫画って読むんだねぇ」
だが千景が言ったのはそれだけだった。
「へ? あ、ああ、うん……」
「? 何?」
「……いや。それだけ?」
「は?」
「だって、その。それ、少女漫画だし」
優史が言うと、千景は怪訝そうに「だから?」という目で見てきた。
「……いい大人が、しかも男が何読んでるんだとか、その」
「……ばからしい」
「え?」
「ああいや。……ふーん。そっか、少女漫画、ね。ねぇ、優史はこういう感じに憧れてんの?」
「えっ?……うん。なんかほら、ふわふわしてて、キラキラしてて、いいなぁ、って」
「ほんとかわいいもの、好きだねぇ」
「そ、そうかな」
「俺にもそこに出てくるようなタイプになって欲しい?」
千景がニッコリ聞いてくる。優史は首をぶんぶんと振った。
「千景は千景だから。俺、今の千景が好きだから、その、そのままで、いい……」
すると引き寄せられ、キスされた。
「いい子だねぇ、優史」
激しく年下にそんな風に言われているというのに、優史には違和感などまったく感じなかった。真っ赤になって俯く。
「優史はヒロインみたいだよ……? とてもふわふわしていて、そして、甘い」
千景は囁きながら、俯く優史の顔を覗き込むようにしてまたキスしてくる。
「お、俺、が……?」
「ん。とても甘いよ……、俺のお姫さま」
優しく囁かれ、そして優しく抱擁されてキスを続けられ、優史はさらに真っ赤になりながら思わずポロリと涙を落とす。
すると千景はその濡れた頬にも優しくキスを落としてくれた。
そんなことを思い出しながら優史はベッドの中でまた赤くなった。
少女漫画を見つけても、千景は否定しないどころか優史を甘やかしてくれた。基本的に女王様でいて、ところどころ怖い千景だが、そうやってちゃんと優史を甘く蕩けさせるような気持にもさせてくれる。決して「愛してる」「好きだ」とは言ってはくれないが、それでもたまにくれるその甘い一言一言は、十分優史を蕩けさせた。
少女漫画のヒーローとは似ても似つかない怖い性質を持っているが、千景はやはり優史にとってのヒーローだと思った。
悲しくても嬉しくても、出てくるなら涙くらい出していいんだ。
そう思わせてくれる人。
今読んでいた少女漫画の世界観もいいけれども……。
優史は微笑みながら目を閉じる。
俺にとっての一番はやはり千景を包み込む世界。どう扱われようが、何をさせられようが好きでたまらない千景、その彼が存在するこの世界が一番好きだ。
……いつか千景にもちゃんと振り向いてもらえたらいいな……。片想いでも受け入れてもらっている今も幸せでならないんだけれども……。
そんなことを考えつつ、優史は口元に笑みを浮かべたまま、気持ちのいい眠りの世界に落ちていった。
7
あなたにおすすめの小説
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ド天然アルファの執着はちょっとおかしい
のは(山端のは)
BL
一嶌はそれまで、オメガに興味が持てなかった。彼らには托卵の習慣があり、いつでも男を探しているからだ。だが澄也と名乗るオメガに出会い一嶌は恋に落ちた。その瞬間から一嶌の暴走が始まる。
【アルファ→なんかエリート。ベータ→一般人。オメガ→男女問わず子供産む(この世界では産卵)くらいのゆるいオメガバースなので優しい気持ちで読んでください】
※ムーンライトノベルズにも掲載しております
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
女子にモテる極上のイケメンな幼馴染(男)は、ずっと俺に片思いしてたらしいです。
山法師
BL
南野奏夜(みなみの そうや)、総合大学の一年生。彼には同じ大学に通う同い年の幼馴染がいる。橘圭介(たちばな けいすけ)というイケメンの権化のような幼馴染は、イケメンの権化ゆえに女子にモテ、いつも彼女がいる……が、なぜか彼女と長続きしない男だった。
彼女ができて、付き合って、数ヶ月しないで彼女と別れて泣く圭介を、奏夜が慰める。そして、モテる幼馴染である圭介なので、彼にはまた彼女ができる。
そんな日々の中で、今日もまた「別れた」と連絡を寄越してきた圭介に会いに行くと、こう言われた。
「そーちゃん、キスさせて」
その日を境に、奏夜と圭介の関係は変化していく。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
今日もBL営業カフェで働いています!?
卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とBL営業をして腐女子のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ
※ 不定期更新です。
百戦錬磨は好きすぎて押せない
紗々
BL
なんと!HOTランキングに載せていただいておりました!!(12/18現在23位)ありがとうございます~!!*******超大手企業で働くエリート営業マンの相良響(28)。ある取引先の会社との食事会で出会った、自分の好みドンピシャの可愛い男の子(22)に心を奪われる。上手いこといつものように落として可愛がってやろうと思っていたのに…………序盤で大失態をしてしまい、相手に怯えられ、嫌われる寸前に。どうにか謝りまくって友人関係を続けることには成功するものの、それ以来ビビり倒して全然押せなくなってしまった……!*******百戦錬磨の超イケメンモテ男が純粋で鈍感な男の子にメロメロになって翻弄され悶えまくる話が書きたくて書きました。いろんな胸キュンシーンを詰め込んでいく……つもりではありますが、ラブラブになるまでにはちょっと時間がかかります。※80000字ぐらいの予定でとりあえず短編としていましたが、後日談を含めると100000字超えそうなので長編に変更いたします。すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる