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25.放置する蛇
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電車の中で会った優史は元気がなかった。おまけに妙にそっけない。一体何があったのだろうと千景は首を傾げた。だが思い当たる節などないので「どうしたの?」と直接その場で聞く。
「……何でもない」
何でもないわけはないだろう。明らかに何かに悩んでいるか悲しんでいるようにしか見えない。
千景はそっとため息をついた。本気で「何でもない」と言い放ちたいなら、まず外見の重苦しい雰囲気を隠すぐらいしろと思う。人に悟られないくらい隠せて初めて「何でもない」と言えばいい。
そんなあからさまに悩んでいる雰囲気を出しておいてなんなの。どうして欲しいの。
「何でもない? そんな風だというのに?」
優史の性格は一応ある程度わかってはいる。なので千景としては最大限の気配りをしたつもりではある。いつもなら「あ、そう」ですぐに終わらせている。
「……言いたく、ない」
「言いたくない? そんな風になっている理由をってこと? 俺に言ってくれないの?」
千景が優史を見上げるとほんのり腫らした目を伏せ、ただコクリと頷いてきた。
「そう。だったらいい」
千景はそう言い放つともう黙った。別に優史の態度に切れて拗ねたわではない。その言葉通り「だったらいい」と思ったから言っただけに過ぎない。言いたくないなら好きにすればいい。
とは言え、多分優史は放っておいて欲しいと本気で思ってはないのだろう。だけれども放っておく。
どことなく肩を落としながら駅のホームに降り立った優史を見ながら千景は思っていた。そしてとりあえず、朝の登校時間も変える。元々優史と同じ時間の電車だと少々早めだった。
「何かいつも早いって思ってたけど、今日は普通だったね」
学校では同じようにいつも早い委員長にニッコリ言われた。
「まあね。しばらくは少しゆっくりめで来るかなぁ?」
千景もニッコリ笑う。
とりあえず暫く放置しておくのがいいだろう。だがいつものようには思わなかった。いつもなら面倒を感じると「もういらない」と思うのだが。
ああ、「もういらない」と簡単に思える程度の人ではないってことか。
千景はそっと笑った。
数日後の週末、千景は学校が終わった後に優史の家へ向かった。そのまま合い鍵で勝手に入る。
家の中は相変わらず片付いていたが、コーヒーテーブルやサイドテーブルには沢山の本が置かれていた。多分ひたすら本でも読んでいたのだろう。
しばらくすると優史が帰ってきた。千景がいるのに気づくと唖然としている。
「お帰り。お腹空いたよ、何か作ってよ」
「……何、で」
「何でって何? いつでも来ていいから合い鍵、くれたんでしょ?」
ベッドに寝転がってその辺にある本を読んでいた千景が見上げると、優史は少し体を震わせつつ俯いた。その際にくしゃりと顔が歪むのが見えた。
……ごめんねぇ優史。そんな顔が、またとてつもなく楽しいと思う俺で。
「……もう、来ないかと」
「それこそ何で?」
「……朝も、いないし」
「だって朝っぱらからどんよりした空気のあなた見てても楽しくないじゃない。理由聞いても何でもないとしか言えないというのに、俺にどうしろと?」
「……」
相変わらず俯いている優史に業を煮やした千景は、起き上がって優史の腕をひっぱった。優史は反抗することなくひっぱられ、されるがままベッドの上に座り込んだ。その隣に千景も座り、優史を見る。
「何でそんな顔してるの?」
「……」
「泣きたい?」
「……」
「寂しかった?」
「……ぅ、ぅう……」
とうとう堪え切れなかったのか、優史の目から涙がこぼれた。千景はそこをペロリと舐めると優史の髪を梳いた。
「寂しがり屋の兎」
「っぅ、ぁ……」
「泣きたいなら泣いて。寂しいなら寂しいって言いなよ。完全に隠す事もできないくせに」
「ぅ、う」
「ほら、言えるよね……? 何なの?」
するとようやく、優史は泣きながらポツリポツリ話してきた。
どうやらこの間三弥たちとファミリーレストランへ行った時、優史も中にいたらしい。詩也が席を外している時に三弥の彼氏には気づいたので、少々からかってはいた。
でもその場に優史までいたとはね。
「……っぷ。っくくく」
思わず笑ってしまった。
偶然って、凄いよね。
「な、何で笑うの……っ?」
「っくくく。だって。偶然って凄いなって思うと、ねぇ」
「偶然?」
ポカンとしている優史に、千景は説明する。あの時は目の前にいた友だちの彼氏をからかっていたのだ、と。
「か、彼氏って、でも、その、友だちって男の子……」
「ん? あーそうだけど、優史だってその友だちと俺の仲を疑ったじゃない」
「そ、それはそうだけど……」
「疑うくらいなら直接聞いてよね、全く。だいたい俺は同級生や年下に興味はないよ。あそこにいた友だち、ミヤっていうんだけどさ。確かにかわいいとは思ってるよ。でもそういう対象には見れないなぁ」
千景が楽しげに言うと、優史がまた悲しそうな顔をした。
「今度は何」
「……俺、は……?」
「ん?」
首を傾げながら、千景は優史を覗きこんだ。優史は言いにくそうにしながらも、何とか振り絞ったように続けてきた。
「そ、その。俺の、ことも千景はかわいいとか、言ってくれるけど……でもその……。そりゃ俺は年上だけど……その、と、年上だからその、き、キスしてくれたりとかその……。…………俺のことは、ど、どう思って、るっ?」
優史は言った後で固まっている。
ああ。
千景は理解した。
三弥とのこと云々よりも何よりも、そこが一番気になっていたんだろうね。
「そりゃかわいいと思ってるよ?」
「……」
「かわいい大事な俺の兎さん」
途端優史がさらに泣きだした。
「……何でもない」
何でもないわけはないだろう。明らかに何かに悩んでいるか悲しんでいるようにしか見えない。
千景はそっとため息をついた。本気で「何でもない」と言い放ちたいなら、まず外見の重苦しい雰囲気を隠すぐらいしろと思う。人に悟られないくらい隠せて初めて「何でもない」と言えばいい。
そんなあからさまに悩んでいる雰囲気を出しておいてなんなの。どうして欲しいの。
「何でもない? そんな風だというのに?」
優史の性格は一応ある程度わかってはいる。なので千景としては最大限の気配りをしたつもりではある。いつもなら「あ、そう」ですぐに終わらせている。
「……言いたく、ない」
「言いたくない? そんな風になっている理由をってこと? 俺に言ってくれないの?」
千景が優史を見上げるとほんのり腫らした目を伏せ、ただコクリと頷いてきた。
「そう。だったらいい」
千景はそう言い放つともう黙った。別に優史の態度に切れて拗ねたわではない。その言葉通り「だったらいい」と思ったから言っただけに過ぎない。言いたくないなら好きにすればいい。
とは言え、多分優史は放っておいて欲しいと本気で思ってはないのだろう。だけれども放っておく。
どことなく肩を落としながら駅のホームに降り立った優史を見ながら千景は思っていた。そしてとりあえず、朝の登校時間も変える。元々優史と同じ時間の電車だと少々早めだった。
「何かいつも早いって思ってたけど、今日は普通だったね」
学校では同じようにいつも早い委員長にニッコリ言われた。
「まあね。しばらくは少しゆっくりめで来るかなぁ?」
千景もニッコリ笑う。
とりあえず暫く放置しておくのがいいだろう。だがいつものようには思わなかった。いつもなら面倒を感じると「もういらない」と思うのだが。
ああ、「もういらない」と簡単に思える程度の人ではないってことか。
千景はそっと笑った。
数日後の週末、千景は学校が終わった後に優史の家へ向かった。そのまま合い鍵で勝手に入る。
家の中は相変わらず片付いていたが、コーヒーテーブルやサイドテーブルには沢山の本が置かれていた。多分ひたすら本でも読んでいたのだろう。
しばらくすると優史が帰ってきた。千景がいるのに気づくと唖然としている。
「お帰り。お腹空いたよ、何か作ってよ」
「……何、で」
「何でって何? いつでも来ていいから合い鍵、くれたんでしょ?」
ベッドに寝転がってその辺にある本を読んでいた千景が見上げると、優史は少し体を震わせつつ俯いた。その際にくしゃりと顔が歪むのが見えた。
……ごめんねぇ優史。そんな顔が、またとてつもなく楽しいと思う俺で。
「……もう、来ないかと」
「それこそ何で?」
「……朝も、いないし」
「だって朝っぱらからどんよりした空気のあなた見てても楽しくないじゃない。理由聞いても何でもないとしか言えないというのに、俺にどうしろと?」
「……」
相変わらず俯いている優史に業を煮やした千景は、起き上がって優史の腕をひっぱった。優史は反抗することなくひっぱられ、されるがままベッドの上に座り込んだ。その隣に千景も座り、優史を見る。
「何でそんな顔してるの?」
「……」
「泣きたい?」
「……」
「寂しかった?」
「……ぅ、ぅう……」
とうとう堪え切れなかったのか、優史の目から涙がこぼれた。千景はそこをペロリと舐めると優史の髪を梳いた。
「寂しがり屋の兎」
「っぅ、ぁ……」
「泣きたいなら泣いて。寂しいなら寂しいって言いなよ。完全に隠す事もできないくせに」
「ぅ、う」
「ほら、言えるよね……? 何なの?」
するとようやく、優史は泣きながらポツリポツリ話してきた。
どうやらこの間三弥たちとファミリーレストランへ行った時、優史も中にいたらしい。詩也が席を外している時に三弥の彼氏には気づいたので、少々からかってはいた。
でもその場に優史までいたとはね。
「……っぷ。っくくく」
思わず笑ってしまった。
偶然って、凄いよね。
「な、何で笑うの……っ?」
「っくくく。だって。偶然って凄いなって思うと、ねぇ」
「偶然?」
ポカンとしている優史に、千景は説明する。あの時は目の前にいた友だちの彼氏をからかっていたのだ、と。
「か、彼氏って、でも、その、友だちって男の子……」
「ん? あーそうだけど、優史だってその友だちと俺の仲を疑ったじゃない」
「そ、それはそうだけど……」
「疑うくらいなら直接聞いてよね、全く。だいたい俺は同級生や年下に興味はないよ。あそこにいた友だち、ミヤっていうんだけどさ。確かにかわいいとは思ってるよ。でもそういう対象には見れないなぁ」
千景が楽しげに言うと、優史がまた悲しそうな顔をした。
「今度は何」
「……俺、は……?」
「ん?」
首を傾げながら、千景は優史を覗きこんだ。優史は言いにくそうにしながらも、何とか振り絞ったように続けてきた。
「そ、その。俺の、ことも千景はかわいいとか、言ってくれるけど……でもその……。そりゃ俺は年上だけど……その、と、年上だからその、き、キスしてくれたりとかその……。…………俺のことは、ど、どう思って、るっ?」
優史は言った後で固まっている。
ああ。
千景は理解した。
三弥とのこと云々よりも何よりも、そこが一番気になっていたんだろうね。
「そりゃかわいいと思ってるよ?」
「……」
「かわいい大事な俺の兎さん」
途端優史がさらに泣きだした。
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