眠りのターリア

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4話

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 朝目を覚ますと、たまに新二が自分にしがみつくようにして眠っていることがある。顕太はその度に幸せを噛みしめていた。この時はさすがに携帯で撮ったりしない。
 というか前に撮ろうとしたらどうしても体を動かす羽目になって目を覚まされ、甘く幸せなひと時を早々に手放すことになったのと、あとデコピンを食らったので諦めている。体を変に動かさなくても撮れるような体勢がもし発生すればその時に撮ろうとそして密かに誓っている。
 などと考えつつも顔が見たくなってそっと首を動かすと、残念ながらしがみついてくれていた新二も寝返りを打ってしまった。その代わり涎を垂らさんばかりに気持ちがよさそうに眠っている顔が見えて、顕太は思わず口元が綻んだ。
 髪をいつもセットしている顕太と違って新二は普段何もしない。サラサラとしている髪は、こうして眠っている時すら気持ちがよさそうだ。
 本人曰く、サラサラ過ぎる柔らかい直毛の為、ワックスをつけようが何をしようがシナシナになるらしい。顕太としてはこのサラツヤとした髪が新二に何より似合っていると思っている。そのためセットなんか別にしなくてもいいと言えば「お前はなんでセットすんだよ」と返された。

「え? カッコよくしたいから」
「俺だって同じなんだよ」
「新二はそのままが可愛いのに!」
「同じなんだっつったの聞いてた?」

 生温い目で見られたが、新二のことを顕太は本当に可愛いと思っているだけに「カッコよくしたい」と言われてもピンとこなかった。身長はそこそこある、といつも主張してくる新二の見た目は可愛い。いや、正しく言えばけっこう女子の好感度を得ている新二の見た目は女子からすれば恰好がいいのかもしれない。だが顕太からすればひたすら可愛い。
 ずっと陸上部にいたのもあっていい感じについている筋肉も、顕太からすればひたすらエロい。だいたい服を着ていたら少々華奢にも見える感じがまたエロいと思っている。その上に黒というよりは日に焼けてかこげ茶色をしているサラッサラの髪がとてつもなく似合っていると思っている。ちなみに顕太は自分の染めている明るい茶髪も気に入っている。
 じっと見ている今も本当に可愛くてエロさもあって……と思いながら新二を眺めていたせいだろうか。顕太の「顕太」がとてつもなくムラムラと荒ぶり出した。朝立ちとも違うこのどうしようもない状態にモダモダとしているとふと浮かんだ。

 ……これは睡眠姦のチャンスでは?

 行為に及んでいる時の反応も可愛いので、これでもお互い向き合って合法的にするのが好きだと顕太は主張したい。ただ男としては眠っている新二を犯す、という状況にもつい興奮してしまう。
 別に昔から憧れていた訳ではなく、よく寝る新二に対して、この間たまたま観てしまったエロDVDに影響されただけだ。ちなみに新二は観ていない。友だちである寺垣(てらがき)の家で何人か集まっている時に観た。

「……ごめんねー新二」

 聞こえないような小さな声で謝りながら、顕太はそっと目が覚めないように新二のズボンと下着を脱がしていく。
 筋肉はあるのに細くも見える腰や、硬そうに引き締まった太ももを見ると、可愛い顔とのギャップと相まって更に興奮が高まってきた。今すぐ突っ込みたい欲となんとか戦いながら、いざ慣らしていこうと足の間に入り、太ももを持ち上げたところで新二と目が合った。

 ……あれ?
 目が、合う?

「……朝っぱらからお前は何、してるんだ……?」

 ついでに新二のいつもより低めの声が聞こえてくる。

「……お、おはよう、いい朝だな!」

 その後あと一歩で多分本当に穴が開くんじゃないかというくらい痛む額を抱えつつ、顕太は食パンをトースターに入れて味噌汁を作っていた。
 朝食を一緒に食べている時、新二がなんとも言えない顔で顕太を見てくる。

「なあ新二。そのケダモノか救いがたい馬鹿か、どっちを見てるのかよく分からないような目で俺見るの止めない?」
「案じなくても両方だ」
「そんなの聞いても救われないよ!」

 顕太は嘆きながらパンをモグモグと咀嚼し、味噌汁を飲む。
もちろん間違えて作った訳ではない。和食が好きな顕太に対し、パンが好きな新二にも合わせた結果だ。最初この組み合わせを提案してきたのは新二だ。

「和食とパン食の融合だな」
「融け合ってないし!」

 それなら普通にスープか紅茶とかでいいと言う顕太に「味噌汁もミソスープだろ」と言い切る新二はいい表情をしていた。
 渋々トーストと味噌汁という組み合わせにしてみると、新二が「意外に合うな」と満足そうだ。

 意外? 意外って言った?
 新二もそれって合わないかもと思ってたんだよね……?

 微妙な顔で思いつつ、顕太としては合うと思ってはいないが食べられない訳でもない。

「パンに味噌汁が合うってことは納豆をパンに乗せても合うんじゃないか?」
「いや、いいかな……」
「絶対いけるって!」

 そうして別の日、今度は新二によって作られた「納豆オープンサンド」という名の、トーストに白菜とともにドンと乗せられた納豆を微妙な顔で口にすると、今度は顕太が目を見開いた。

「あれ、けっこう合う……」

 思わず呟くと「だろ」と新二が嬉しそうにニヤリと笑った。その様子が可愛くて、抱きしめてキスをしようとしたら「納豆食いながらとかやめろ」と一気に素っ気ない。

「でもそういうとこも可愛い!」
「……納豆食うところが……? 変わってんな」
「違うよ……」

 たまに発想がずれているというか、どうしてそう思った、そうなったと思わされることがある。その新二が一番その能力を発揮してくるのが料理だと顕太は考えている。なので普段から率先して自分が作っている。料理を作るのが好きという訳ではないが、嫌いでもない。それに我ながらそこそこ上手いと思っている。
 新二も別に料理を作るのが下手な訳ではない。ただ、何故そうしようとしたのだと問いたくなることがたまにある。納豆乗せトーストは美味しかったが、この間はサラダにポテトチップスを乗せてきて、それがなんともしわしわして微妙だった。問えば「クルトンやベーコンチップの代わりに乗せてみたくなった」と言う。幸い味覚はまだ普通のようなので本当に無理だと思うようなものを作ることはないが、やはり自分が作ったほうが無難かなと顕太は思ってしまう。
 その他の家事に関しても特に分担は決めてない。下手に決めると出来なかったりした時むしろ負担に思いそうだし、出来る時や気が向いた時にすればいいと顕太は考えている。新二も「気楽でいい」と賛成してくれている。
 お互い「しなければ」と義務をあまり感じないためか「自分ばかりがやっている」といった風に感じることもない。
 新二は元々色々な面で物事を器用にそつなくこなすがいかんせん面倒がるところがあるので、一見家事もあまりしてくれなさそうなイメージがあるかもしれない。だがあれでいて人情家でもあるので頼りにしているとむしろ嬉しそうにやってくれたりもする。そういうところがまた可愛いので、別に顕太が基本的になんでもやってもいいとさえ思っているがあえて頼ったりもしている。
 おかげで一緒に住むようになっても不満など全然ない。セックスに関しても、いつでもできないのはできないで、挑み甲斐があるともいえる。睡眠姦失敗にしても、眠っている間に何をされるのかわからないところが嫌なだけのようだ。挿入自体は避けられても、その他のことならわりと受け入れてくれるので、不満などあるはずもない。
 しいて気になることといえば、眠り姫かと突っ込みたくなるくらい、気づけば寝ていることだろうか。
 何故そんなに眠いのか結構謎だ。夜更かしが過ぎる訳ではないし、部活も今はしていないので疲れきってということもないと思う。あと寝る確率が高い分、一度くらいは寝ている間にやっぱりセックスをしてみたいなと顕太はニヤリと思った。

「お前、今ろくでもないこと考えてるだろ。また俺が寝てる間になんかしようとか思ってんじゃないだろーな」

 大学へ向かうために一緒に歩きながら、新二がじろりと顕太を見ながら言ってきた。

「え、なんで……」
「なんとなく」
 なんとなくで当ててこないで欲しい。
「今度の休みには二人でなにしよーかなって考えてただけだし」
「どうだかな。あ、そいや次の休み、俺、須之原と遊びに行くんだわ」
「は?」

 須之原(すのはら)は新二と最近仲がいい後輩で、とりあえず顕太としては気にくわない相手でもあり、スノーマンと呼んでいる。
 新二には「なんでスノーマンなんだ? 別にあいつ、冬生まれでもないし雪が好きだと聞いたこともないけど」と以前聞かれた。

「すのはら、だから」
「は?」
「す、がつくだろ」
「お前のネーミングセンス、どこへ置いてきたんだ。おばさんの腹の中か?」
「それ暗に全くないって言ってるよな? それに別にセンスよくつけたいとか思ってないし」

 むしろムカつくから適当につけた。そのスノーマンと遊びに行くなど、気にくわなさしかない。

「俺も行く」
「別にいーけど、お前、他のやつと俺が遊ぶ時はそうでもないのに須之原の時はやたら一緒したがるよな。須之原のこと好きなの?」

 むしろ嫌いだわと思いつつ「偶然だろ?」と顕太はニコニコ笑った。
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