眠りのターリア

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5話

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 須之原はたまたま大学の友だち繋がりで知り合った一年下の後輩になる。何故か知らないが新二に懐いてきた。懐かれることに悪い気はしないので、新二もちょくちょく付き合っているのだが、どうにも顕太の態度が変だとは前から思っていた。
 須之原も顕太のように背が高いが顕太よりも華奢に見える。顔は人懐こい感じの可愛らしいタイプなので「もしかしてこいつ、須之原のこと気になってるんじゃないだろうな」となんとなく微妙に思ってさえいた。
 別に顕太は男が好きな訳ではない。新二もそうだが、元々は女が好きなようだ。だが何故か新二をいつの間にかそういう意味で好きになっていたらしく、高校の時に告白された。
 正直なところ、新二も小学生の頃から知っているはずの顕太を中学時代から意識していた。そのせいもあって誰とも付き合ったことがないし経験もなかったのだ、ということにしている。とはいえ、顕太も中学の頃から気になっていたらしい割に経験があるのが忌々しいが。
 告白された時はこれでも死にそうな程嬉しかったし感動した。付き合うようになるとだが、中々キスすらすることがなく、もしかして好きだと言われたのは幻想だったのかなとさえ思っていた記憶が今となっては懐かしい。今では顕太はろくでもない獣だと思っている。
 その顕太が、まさか須之原のことを気になっているのではと思うのは男に興味がなくてもこうして自分と付き合っているからという理由が大きいが、自分に置き換えてみると顕太以外の男と付き合うなんて到底無理だと思うので、そんなに本気で疑っていた訳ではない。直接聞いてみて、余計に違うと分かった。

 ……むしろこいつ、須之原に敵対心的なもの、持ってねーか……?

 返ってくる反応やあまりに嘘くさい笑みにかなり確信を持った。
 とても新二のことを好いてくれているのは嬉しいが、想いが強いからだろうか、顕太は無駄な程のヤキモチも妬いてくる。恐らく須之原に対してもそうなのだろうなと思うと一緒に遊びたくはない。
 だが「お前を連れていくのは嫌だ」と言おうものなら多分なおさらヤキモチを拗らせてきそうでしかない。
 顕太はあっけらかんと明るいタイプにしか見えないというのに独占欲が強いのか、たまに困った部分を見せてくる。須之原が新二にそういう気持ちを持っていないのは明らかなのにと微妙になる。

 仕方ない、様子を見るか。

 そう思った自分に説教したいと、今三人でいるカラオケの部屋の中で新二は心底思っていた。新二は割と理論的に考える方だというのに、ついつい持ち合わせている防衛本能が様子を窺うことをいつも選択してしまう。協調性があるのではなくただ妥協的な自分を今冷静な目で呆れる。
 この二人がというか、顕太が合うはずなんてなかった。
 今日は元々観たい映画を観に行く約束をしていた。映画の好みは顕太とはあまり合わないが、須之原とは結構合うので誘われた時も軽い気持ちで承諾していた。
 顕太も来ると分かっても別に須之原は嫌がりも迷惑がりもしなかった。映画を観ている途中で顕太が興味のなさに寝てしまったことに関してもスルーしているので基本的にいい子だと思う。
 だがその後定食屋で簡単な食事をした後に来たこのカラオケで、思い切りニコニコとしながら今何故それを言うんだと言うことを須之原はサラリと言ってきた。

「浅黄先輩ー、俺ね俺ね、菅先輩とちゅーしたことあるんですよ」
「っば……っ」

 馬鹿野郎と慌ててその口を塞ごうとしたがサラリと避けられる。
 キスをしたことがあるのは嘘ではない。だがそれは飲み会での罰ゲームだったし、大いに酔っていた他の輩も大概馬鹿なノリだった。もちろん新二としては全くもって乗り気ではなかったが要領悪く捕まってしまったのだ。

「ほら、見て見てー」

 避けられただけでなく、須之原は携帯の画像を差し出してきた。そこには間違いなくキスをしている新二と須之原がいる。例え新二の顔がドン引きしていようが、キスをしているのは間違いない。
 隠す暇もなく、どうにも誤魔化しようのない状態に、決してやましいことは無いにも関わらず新二は青くなりながら焦って顕太を見た。そして更に内心青くなる。
 いつもならヤキモチや不満がある時は「なんでどうして」と文句や泣き言で煩いくらいの顕太が口元だけ微笑みつつ目が据わっている。

 ……チキショウ、切れてる……!

 新二は頭を抱えたくなった。何故自分は様子なんて見ようと思ったのか。やたら新二に懐いている須之原と、その須之原に何故か敵対心のようなものを抱いている顕太との三人で仲良くトランプのブリッジでも出来るとでも思ったのか。

 いや、違う。ブリッジは恰好をつけた。正直ルールどころかどんなゲームかも知らない。せいぜい知っているのは神経衰弱かページワンくらいだ。

 そこまで考えたところで今の状況にトランプもへったくれもないんだよと新二は内心自分に突っ込んだ。今時トランプとか。とはいえゲームといえば普通はソーシャルゲームだろうが新二はSNS系には全く興味がない。ついでに加えると、今この状況でゲームはどうでもいい。

 ……せめて責めるなり罵るなりしてくれよ!

 動揺して思考回路が混乱していたことを勝手に顕太のせいにしつつ、改めて顕太を見てもまだ据わった目をしている。
 一方、須之原は空気を読まないのか読めないのか、爆弾を投下した後満足したのか今は楽しそうに歌を歌っている。

「……帰ってから話そう」

 ぼそりと呟くように言えば、ようやく「……そうだね」と返ってきた。ホッとしたのもつかの間、顕太は須之原の携帯を勝手に弄って先ほどの画像をこれまた勝手に消去した挙句、他にもないか更に勝手に見ている。そして無いと分かると新二の手を取り立ち上がった。

「あれ? どうかしたんですか?」

 携帯を弄られたことにも気づいていない様子の須之原が聞いてくると、顕太はテーブルに二人分より少し多めであろうお金を置くと「俺らは帰る。ヒトカラしとけ」とだけ口にして新二の腕をつかんだまま部屋を出た。

「おい、顕太……」
「とりあえず今、帰るから」

 見ればまだ目は据わっており、新二はもう何も言わずにただ手だけは放してもらい、一緒に自宅へ向かった。
 自宅に着くと、ドアを閉めた途端に顕太は新二の腕をまたつかんで中へ進む。ベッドまでくると新二をドンッと突き倒してきた。

「おいっ」
「……あれ、なに」

 聞き方は穏やかだ。口元も相変わらずほんのり微笑んだように見える。だがやっぱり目が据わっているのと、突き倒した新二をつかむ手の力が容赦ない。

「飲み会っ、の……罰ゲーム」

 思わず強い口調で言いかけて、途中さらにぐっと肩をつかまれ新二は少し片目を歪めつつ噛み締めるように言う。

「この間行ってたやつ?」
「……そう」
「キス、俺聞いてないけど」
「飲み会での馬鹿みたいなノリってやつだろ。おまけに俺自身ちっとも楽しい出来事でもなんでもないんだ。いちいち……」
「そうやって言わないことで隠し事みたいになって、そこから仲が拗れて気づけば喧嘩じゃすまなくなって別れる羽目になったりするとか思わないの?」

 何を大袈裟な、と言いかけて黙る。実際大袈裟な気もするが、絶対にないとも言えない。基本的に面倒臭がる自分の性格だとなおさらだ。

「……分かった。悪かった。これからはなるべく――」
「なるべく?」
「絶対言うようにする」

 ため息を吐きそうになるのを堪え、新二が宣言するとようやく据わった目が少し普通になった。滅多に切れないだけに新二が内心安堵していると「でも今回のことはお仕置きが必要だよな」などと言ってくる。

「はっ?」
「は、じゃないよ。だって事故や避けようがなかったと何とか思ったとしても、新二が俺に言わなかったのは事実だろ」
「だから謝っただろ! っちょ、嫌だ! よせ、離、せ……っ」

 むしろ絶対今、ヤんのにいい口実が見つかったとか思っているだろ……っ!

 新二がそう思いながら思い切り睨んでも、今の顕太は容赦なかった。
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