眠りのターリア

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10話

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 心配しているという顕太の気持ちはわかってくれているようだが、何故心配しているのかという理由を新二はわかってくれない。
 確かに「いつも気づけば寝てるから病院へ行ってくれ」といきなり言われても「は?」と思うかもしれない。本人に自覚がないから尚更だ。おまけに新二は面倒臭がりな上に自由気ままなところがある。ちゃんとした理由があっても中々病院へは行かないタイプだ。

 ……頑固って訳じゃないんだけどねー。

 あれでいて割と冷静に物事を分析して自分に一番合っている道を選ぶのが上手く、自由気ままと言えども決して自分の思い通りにしたいという我がままタイプではない。かと言って広い視野で事態をきちんと把握できるわりに、結局面倒臭がりで気ままなので自分のことに関しては適当なところもある。
 仕事とかなら冷静に判断して対応してそうなのになと顕太は思う。
 一応アルバイトは新二もしているのだが、ひっそりとした古本屋の店番で客もそんなに来ないところだ。置いてある本は堅い内容ばかりの上に価値のあるものは展示していないので少々うたた寝していても今まで困ったことは無いらしい。店主は年配男性であり、時折仕事中一緒にお茶を飲んだりするようなほのぼのとした環境だと言う。
 仕事としては楽そうではあるが多分顕太にはできなさそうだ。退屈できっと死んでしまう。
 とりあえずそういった職場環境なのでアルバイトをしていても今まで「眠る」ということに違和感も焦りも困惑も何も感じなかったのかもしれない。
 様子見するしかないのかなと顕太はため息を吐いた。もし顕太が疑っているナルコレプシーなのだとしたら、一応調べたところ放置して症状が悪化するといったことはないらしい。とはいえ顕太からすれば最近ますます酷くなっている気はする。
 また自然治癒することもないので今後の生活や社会に出てから何らかの支障があるかもしれない。
 それに他の病気だという可能性もある。ストレスや精神的なものから来るのだとしたらそれはそれで心配だし、脳腫瘍やパーキンソン病だって眠気が絡む。絶対にそういった病気であるはずはないという確固たる保証などない。
 だからこそ、余計に病院で検査をして欲しいと思うのだが、どうにもわかってもらえない。病名も出さずにわかってもらおうとするのが無謀なのかもしれないが、顕太のはあくまでも素人判断だ。変に煽るようなことは言いたくない。
 一応、寝てばかりいる状態を心配して調べたら知識のない顕太ですらこういった病名くらいは調べられるのだから、新二がその気になってくれさえすればわかることではある。要は変に煽ることなく本人に「気づけば寝ている」ということが当たり前ではないとわかってもらえさえすればいいのだが、それが一番難しい。

 ……あーでもネットとかしないから調べるのも簡単じゃない、のかな。やっぱり俺が「こういう病気とかあるかもなんだから」とか言うべきなんかな……。

 むしろ病名をいくつか言った方が現実味を感じてその気になってくれるのだろうか。
 ため息を吐いていると寺垣に「ため息とか珍しいな」と言われた。次の講義に備えて丁度席についたところだった。

「俺だってため息くらい吐くっつーの」
「また変な画像でも載せて菅くんにでも怒られたとかか?」
「変じゃねーよ失礼な。一枚一枚最高の画像だわ。つか、そんなの今さら。載せて怒られて凹む前に多分俺のでこがピンチになると思う」
「何言ってんのお前?」

 意味がわからないといった風に見てくる寺垣に顕太は「なあ」と体を向けた。

「本人に自覚がないことを分かってもらうにはどうするのがいいと思う?」
「何の話だよ」
「いいから」
「いいからって言われてもな……。自覚ないなら自覚するよう、それを説明すればいいだけなんじゃないのか?」

 当たり前なことだろ? といった風に当たり前のことを言われて顕太はムムッと唸る。本当にそうなのだが、なんというか色々と難しいのだ。だがそれを上手く説明できそうにないし、どのみち新二のプライバシーでもあるので言う気はない。
 勝手に画像を載せているお前がどの口で、と新二がもし今の考えを聞けばとてつもなく微妙な顔をしながら言いそうだが、顕太とて何でもかんでもを駄々洩れにする気はない。堂々と、付き合っているようにしか見えない画像を公開するのは皆に知ってもらうことで認知させているだけでなく、牽制でもある。もちろん、ただ単に自慢したいだけでもある。
 だが実際の生活や新二のことについてを詳しくベラベラと話す気はないしSNSで呟いたこともない。

「それをあからさまに説明できないとしたら?」
「……お前なぁ……。具体例あるなら言ってくれないと何なんだか」
「まぁ、そうだよな」
「……口に出来ないのなら、態度で示すとかしかないんじゃないか?」
「んー……態度な……」

 態度と言っても……とため息をまた吐こうとして、ふと浮かぶ。

 新二が急に寝る度にエロいことしちゃうとか、どーよ。

 今までは眠いなら起こしたら可哀想だと思ってそっとしていた。一晩寝た朝に少々やらかそうとしたことはあるがそれは失敗に終わったし、その後試していない。それでもし起きて怒られたら「お前がいきなり寝たから、それ自覚してもらう為にやった」とか言えばいいような気がする。そうすれば何度もあると流石に新二も意識するだろうし、万が一起きなければ顕太は念願の睡眠姦を成し遂げられる。

「……一石二鳥……?」
「何が」

 既に講義は始まっていた。考えに夢中になって気づいていなかったが、寺垣に小さな声で聞かれてハッとなる。

「あ、いや。つかいつの間に講義始まってたんだよ、教えろよ……」
「いや、知るかよ……」

 顕太が受けている授業は真面目にしないと大抵どれも微妙についていけなくなる。顕太は気を取り直して講義に集中した。
 授業が終わり、帰宅する間はひたすら睡眠姦について――いや、新二に自覚してもらう方法について考えていた。

 ……やっぱ今日から実行だよな。

 そんな風に考えつつドアの鍵を開ける。玄関に入ると、既に新二が帰っていることに気づいた。

「……ただ……いまーっ」

 もし寝ていたらとこっそり声をかけようとして「いやいや、目的見失うなよ俺……!」と自分に内心突っ込んでから、ちゃんと声に出す。すると起きていたようで「おー」と新二が珍しく出迎えてきた。

「お出迎えとか珍しいな? ちゅー?」

 てっきりお帰りのキスかと両腕を伸ばすも、思い切りスルーされた。

「顕太、明日の午前中、俺学校休むわ」

 手を不自然に伸ばしたまま、顕太は怪訝な顔を新二へ向ける。

「え、なんで?」
「病院、行ってくるわ」
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