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9話
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最近、顕太が妙に鬱陶しい。
新二は微妙な顔で思った。いや、元々やたらと絡んできたり狭い家の中でもくっついてくるヤツだとはわかっているが、そういうのとも少し違う。
「お前、何なんだよ」
やたら新二の様子を伺うように見てくるかと思えば、金魚のフンのほうがまだ可愛いげがあるという勢いでくっついてこられたりもする。新二はとうとう顕太に直接問い詰めた。
とはいえ「恋人なんだから当たり前だろ」とか「好きだからに決まってるでしょ」などと返ってくるかもしれないと思っていたら思いの外思い詰めたような顔をされて少し動揺する。
「どうかしたのか?」
「……ぃや……」
何でもないといった風に一旦は首を振ってきた顕太はだが、じっと一点を見つめて唇を噛みしめた後にしばらくして「新二さー」と少し顔を逸らしたまま呼び掛けてきた。様子はいつもと違っておかしいが、黙っていられないところは相変わらずらしいとわかって新二はなんとなくホッとした。
だが妙なことを聞いてくる。
「眠くなる自覚ってあんの?」
「は? よくわかんねーこと聞いてくんだな。普通皆眠く感じるだろ」
「そーなんだけど! なんつーかさ、ほら、お前って急に寝るだろ?」
急かどうかわからないので怪訝な顔をしていると顕太は複雑そうな顔をしてきた。
「急に寝てる自覚、ないって感じだよな」
「いや、なんつーか、普段からしょっちゅう眠いから急とかわからないだけだ」
実際、本当によくわからない。眠いと感じていることは多いような気はするが、周りもよく「眠い」と言っているので普通のことのように思う。すっきりとした状態もあるのだが、眠くなったと把握する前に眠ってしまうこともあるし眠くて堪らないとひたすら思っていることもある。だから急に寝ていると言われてもピンとこない。
「新二は眠くなりすぎってこっちが思う前に寝てる勢いなんだよ。普通なら眠いにしても誰かに眠いって言ったりするとかぼーっとするくらいで、実際にいきなり寝ないんだよ」
「そんなにいきなり寝てないだろ」
「結構寝てる」
相変わらず顕太は思い詰めたような顔をしている。
「ていうか、だからなんなんだ。俺が急に寝てることが不満なのか?」
何故そんな表情をするのかがわからなくて少し苛ついた。いつも楽しそうな相手がそんな顔をしてくると表現しがたい不安に少し駆られる。
「違う、心配なのに決まってんだろ! どこか悪いんじゃねーかとか」
顕太の言葉にだが少しほっこりとした。
「馬鹿だな、俺は別になんともない」
「でもな、どーしたんだろってこっちが心配になる程度にはお前、すぐ寝てんだよ。……なぁ、病院、行ってみないか?」
「は?」
何を言っているのだと新二はポカンとした顔を顕太に向けた。全然面白くない冗談だなと思ったのだが、顕太の表情は変わらずだ。真剣な様子さえある。
「お前、熱でもあんのか?」
「ないよ! ちゃんと聞けよ新二」
「いや、一応聞いてるけど……眠いから病院とか聞いたことねーぞ」
思わず新二は怪訝な顔になる。真面目に病院へ行けと言われるくらい寝ているのかと微妙にもなる。
いや、そもそも気づけば寝ていたという位で病院へ行く意味がわからない。
「……っもしかしたらでもなんか病気だったとか、あんだろ」
「いや、ないだろ……それに寝る子は育つって言うだろ」
「茶化すなよ!」
顕太がちょっとした剣幕で言い返してきた。確かに茶化したかもしれないが、怒鳴られる程のことなのかとさすがに新二もムッとする。
「さっきからほんと何なのお前。ウザいぞ。様子が変だなって心配してみりゃ訳わかんねーこと言ってきた挙げ句キレてんじゃねーよ」
「俺だって心配してんだよ! そっちこそ何でわからないんだよ!」
「わかるかよ。眠くなる自覚がどうだのいきなり寝るだの、どっか悪いだの病院行けだの言ったかと思いきやキレてくるヤツのことなんかわかる訳ねーだろ!」
「だから心配してんだっつってんだろ!」
「何の心配だっつーんだよ! 何もねーのに病院なんか行けるか!」
「だから寝すぎだっつってんだろ!」
「お前こそ寝言は寝て言えよ!」
結局言い合いになってしまった。顕太はヤキモチや独占欲のせいでキレることはあるが、基本的には明るくて温厚な性格だと新二は思っている。
明るいといえども目的のためには多少手段を選ばないところもあるが、だからといって無茶はしないし理不尽に腹を立てることもない。おまけに新二のことは大好きだと隠す気がなく、愛情表現もはっきりと出してくる。
そんな顕太だけに違和感はあった。普段ならこんなことで言い合いになることはない。
もしかしたら本当に新二を心配しているせいで少々不安定だったのかもしれない。後でそう思ったが、新二としてはよくわからないことでいちゃもんをつけられたような気分だった。
現実味のないことも考えたりする性格ではあるが、流石に理由もなく病院に行けと言われても困る。いや、理由は顕太にしてみればあることになるのか。
「気づけば寝ているので病院に来ました」
なんだそれ、と改めて新二は思った。そんな理由で病院なんか行けるかと、やはり思う。
本当に何なんだよあいつ……。
ムッとしつつも意味がわからなくてやはり怪訝に思った。
言い合いをした後は二人とも口を利かないままだったが、その夜ベッドに横になって雑誌を読んでいると顕太が「キレてごめん……」と謝りながら背後から抱きついてきた。
「……うん、まぁ、俺も……」
「……でも……でもな、……ほんとに……俺、心配なんだ……」
どこか消え入りそうな声だった。言ってから顕太はそのまま新二をぎゅっと抱きしめてきた。
新二は微妙な顔で思った。いや、元々やたらと絡んできたり狭い家の中でもくっついてくるヤツだとはわかっているが、そういうのとも少し違う。
「お前、何なんだよ」
やたら新二の様子を伺うように見てくるかと思えば、金魚のフンのほうがまだ可愛いげがあるという勢いでくっついてこられたりもする。新二はとうとう顕太に直接問い詰めた。
とはいえ「恋人なんだから当たり前だろ」とか「好きだからに決まってるでしょ」などと返ってくるかもしれないと思っていたら思いの外思い詰めたような顔をされて少し動揺する。
「どうかしたのか?」
「……ぃや……」
何でもないといった風に一旦は首を振ってきた顕太はだが、じっと一点を見つめて唇を噛みしめた後にしばらくして「新二さー」と少し顔を逸らしたまま呼び掛けてきた。様子はいつもと違っておかしいが、黙っていられないところは相変わらずらしいとわかって新二はなんとなくホッとした。
だが妙なことを聞いてくる。
「眠くなる自覚ってあんの?」
「は? よくわかんねーこと聞いてくんだな。普通皆眠く感じるだろ」
「そーなんだけど! なんつーかさ、ほら、お前って急に寝るだろ?」
急かどうかわからないので怪訝な顔をしていると顕太は複雑そうな顔をしてきた。
「急に寝てる自覚、ないって感じだよな」
「いや、なんつーか、普段からしょっちゅう眠いから急とかわからないだけだ」
実際、本当によくわからない。眠いと感じていることは多いような気はするが、周りもよく「眠い」と言っているので普通のことのように思う。すっきりとした状態もあるのだが、眠くなったと把握する前に眠ってしまうこともあるし眠くて堪らないとひたすら思っていることもある。だから急に寝ていると言われてもピンとこない。
「新二は眠くなりすぎってこっちが思う前に寝てる勢いなんだよ。普通なら眠いにしても誰かに眠いって言ったりするとかぼーっとするくらいで、実際にいきなり寝ないんだよ」
「そんなにいきなり寝てないだろ」
「結構寝てる」
相変わらず顕太は思い詰めたような顔をしている。
「ていうか、だからなんなんだ。俺が急に寝てることが不満なのか?」
何故そんな表情をするのかがわからなくて少し苛ついた。いつも楽しそうな相手がそんな顔をしてくると表現しがたい不安に少し駆られる。
「違う、心配なのに決まってんだろ! どこか悪いんじゃねーかとか」
顕太の言葉にだが少しほっこりとした。
「馬鹿だな、俺は別になんともない」
「でもな、どーしたんだろってこっちが心配になる程度にはお前、すぐ寝てんだよ。……なぁ、病院、行ってみないか?」
「は?」
何を言っているのだと新二はポカンとした顔を顕太に向けた。全然面白くない冗談だなと思ったのだが、顕太の表情は変わらずだ。真剣な様子さえある。
「お前、熱でもあんのか?」
「ないよ! ちゃんと聞けよ新二」
「いや、一応聞いてるけど……眠いから病院とか聞いたことねーぞ」
思わず新二は怪訝な顔になる。真面目に病院へ行けと言われるくらい寝ているのかと微妙にもなる。
いや、そもそも気づけば寝ていたという位で病院へ行く意味がわからない。
「……っもしかしたらでもなんか病気だったとか、あんだろ」
「いや、ないだろ……それに寝る子は育つって言うだろ」
「茶化すなよ!」
顕太がちょっとした剣幕で言い返してきた。確かに茶化したかもしれないが、怒鳴られる程のことなのかとさすがに新二もムッとする。
「さっきからほんと何なのお前。ウザいぞ。様子が変だなって心配してみりゃ訳わかんねーこと言ってきた挙げ句キレてんじゃねーよ」
「俺だって心配してんだよ! そっちこそ何でわからないんだよ!」
「わかるかよ。眠くなる自覚がどうだのいきなり寝るだの、どっか悪いだの病院行けだの言ったかと思いきやキレてくるヤツのことなんかわかる訳ねーだろ!」
「だから心配してんだっつってんだろ!」
「何の心配だっつーんだよ! 何もねーのに病院なんか行けるか!」
「だから寝すぎだっつってんだろ!」
「お前こそ寝言は寝て言えよ!」
結局言い合いになってしまった。顕太はヤキモチや独占欲のせいでキレることはあるが、基本的には明るくて温厚な性格だと新二は思っている。
明るいといえども目的のためには多少手段を選ばないところもあるが、だからといって無茶はしないし理不尽に腹を立てることもない。おまけに新二のことは大好きだと隠す気がなく、愛情表現もはっきりと出してくる。
そんな顕太だけに違和感はあった。普段ならこんなことで言い合いになることはない。
もしかしたら本当に新二を心配しているせいで少々不安定だったのかもしれない。後でそう思ったが、新二としてはよくわからないことでいちゃもんをつけられたような気分だった。
現実味のないことも考えたりする性格ではあるが、流石に理由もなく病院に行けと言われても困る。いや、理由は顕太にしてみればあることになるのか。
「気づけば寝ているので病院に来ました」
なんだそれ、と改めて新二は思った。そんな理由で病院なんか行けるかと、やはり思う。
本当に何なんだよあいつ……。
ムッとしつつも意味がわからなくてやはり怪訝に思った。
言い合いをした後は二人とも口を利かないままだったが、その夜ベッドに横になって雑誌を読んでいると顕太が「キレてごめん……」と謝りながら背後から抱きついてきた。
「……うん、まぁ、俺も……」
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