銀色の魔物

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83話

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 あの時は、もう駄目だとすぐに思い、動けないまま走馬灯のように思い出が脳内に流れた。
 だが今は違う。諦められる訳がなかった。このままだとカジャックまで巻き添えになる。

 俺には何も出来ない?
 そんなことない。
 カジャックを巻き添えにしに来ただけか?
 何か方法があるはずだ。
 考えろ、考えろ、考えろ、考えろ──

 頭で必死に思いつつも体は既に動いていた。素早くカジャックに飛びかかるようにして抱きつき、二人はそのまま転げた。
 サファルがいたところは竜の炎で跡形もなくなっていた。炎は周囲の空気密度を小さくして発生させる上昇気流によって炎を形成している気体が吹き流され、さらなる酸素を取り入れ燃え盛っている。そして生きているかのような動きの炎をどす黒い煙がまとっている。息苦しさにもやられそうだった。
 咄嗟に避けたもののサファルの背中はその外炎の熱だけで火傷を起こしていた。カジャック曰く面積の少ないらしい上着は今の出来事だけで既にボロボロになっている。

「いっ、つ」

 一方カジャックの服はあれだけ炎を食らってもまだほぼ崩れていなかった。なるほど、とサファルは痛みを堪えつつ微妙な笑みを浮かべた。

「サファル……大丈夫か……っ? くそ、守るどころか……」

 サファルに庇われるようにして下敷きになっていたカジャックはすぐにそこから退いた。そして「痛むだろうが……」と言いながらサファルをも立たせてくる。とりあえずその場から少し離れた。

「だい、じょ、うぶです。それ、に俺守ってあんたがもしやられて、たら……俺の心が駄目になる」

 火傷はずきずきと痛むが、カジャックを失ったり傷つけることを思えば大したことはなかった。

「それは俺も同じだ……っ、サファル……頼む、中へ戻ってくれ」
「どうしても伝え、たくて」
「ありがとう……原因を見つけてくれて。さすがサファルだ。後は俺とアルゴでどうにかするから……」

 そう言って笑ってくれたカジャックだが、今まで散々魔物と戦った上での竜との戦いで、既に満身創痍に近いように見えた。こんなカジャックを残して自分だけ安全な場所へなど行ける訳がなかった。

「俺が……そうだ、俺が今一番まだ元気です。だから、だから俺が竜の気を引くんで、その間にあんたかアルゴさん、が竜の背中へ……」

 話している間も、竜の恐ろしい声が上から響いてくる。

「馬鹿なことを……! 今見ただろう、あの炎を避け続けるなんて危険過ぎる」
「それを言うなら今のあんただって危険過ぎるだろ! 嫌だ、あんたいくら強くても……火属性のあんたが神格化してる、我を忘れた竜の炎に対抗なんて……嫌だ、嫌だ!」
「サファル……、っち、……っくそ!」

 ハッとしたカジャックが、今度はサファルを抱きしめるようにして転がった。その際に素早い詠唱が聞こえた。水の膜が二人を取り囲む。サファルの見ている前で、恐ろしい炎が叩きつけるかのように襲ってきたが、何とか水の膜によって炎に飲み込まれるのは避けられた。だが力が竜の炎よりも弱かったのか、とうとう魔力が弱まってきているのか、サファルを守るように抱きしめていたカジャックの背から肉が焦げ付くような匂いがしてくる。
 だがそれに気を取られている暇はないとサファルは竜を見上げるが、アルゴが気を引いてくれているようで今のところ立て続けに炎がサファルたちを襲うことはなさそうだった。だが、このままではいずれやられてしまう。

 死んでしまうのか?
 殺されるだけなのか?

「……っ?」

 今、脳の中でサブリミナルのように一瞬何かの光景が浮かんだ。

「今、の……、っ?」

 まただ。

 今度は視覚だけでなく聴覚も刺激された。魔物と人の叫び声が混じったような音だった。

「……あ?」
「サファル……? どうした、大丈夫なのか?」
「……大丈夫……」

 そう、大丈夫だ。自分のことは今はいい。

「大丈夫、です。カジャック、アルゴが戦ってる今、俺が竜の背中へ」
「駄目だ、俺が行く」
「今だけはあんたの言うことを聞かない」
「サファル!」
「俺のせいで……俺を今、助けてくれたのであんたはもう、動けないはずだ。多分俺のほうがましだよ……俺が行く! アルゴ! 俺が背中の傷をどうにかする!」

 叫びながら、サファルは既に駆け出していた。どうにかなどと言っても方法など分からないというのに止まらなかった。カジャックの声も聞こえてはいたが無視をした。竜の気がアルゴに向いている隙にがむしゃらに走り、竜の硬い鱗に手や足を引っかけて這い上がっていく。
 幸い元々身軽なのもあって何とかこぶのようにせり上がっているところまできた。振り落とされないようしっかり太ももと足で固定しながら、刺さっているものを見た。

「ひど、い」

 下から見た時は小さな剣のようなものに見えていたが、そこに刺さっていたのはただでさえサファルには到底抜けそうもない大きな槍だった。その上、ただの槍ではない。

「アルゴ、カジャック……! ただの槍じゃない! 多分フォルアの槍だ! どう、したら……っ」

 何故こんなところに。
 というか、本当にあるとは思っていなかった。ただの神話だと思っていた。
 もちろん、聖書すら読んだことのないサファルは神話を知らない。神の言い伝えですらほぼ知らない。だが武器や道具となると別だ。商売に役立つものに関してはそこそこの知識がある。
 フォルアの槍の元の言い伝えこそ知らないが、その槍でつけられた傷は癒えることがないと言われていた。また、水を張った大釜に穂先を浸けておかないと町どころか王国すら燃えてしまうとも言われている槍だ。
 言い伝え通りとは言えないが、現に深い傷を負ったまま、竜はこの村を焼き尽くす勢いだった。今までは何とか堪えていたのかもしれない。だがあまりの傷に、とうとう我を忘れてしまったのだろう。

「サファル! よくやった! さすが我が孫みたいなものだ!」

 疲れからか、アルゴが変なことを口走っている。竜の上からだと聞こえにくいが、聞き間違えではないはずだ。

「腕輪を外せ!」
「え?」
「アルゴ、何を……!」

 せめてサファルが少しでも安全なようにとアルゴと同じように竜の気を引き付けるかのように下から攻撃をしてくれていたカジャックが、目に見えて動揺し出した。

「それしか方法はない! サファル! 腕輪を外して力を使え!」

 何を言っているのかわからなかった。だがそれしか方法はないという言葉に、サファルはただ言われた通り、ずっと外したことのない腕輪を外しにかかった。
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