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90話
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朝の支度をしながら、はぁ、とサファルはため息を吐いた。丘でのことを思い返してまた、無意識にため息を吐く。
「どうしたのサファル。傷、痛い?」
気づいたリゼが心配そうに見てきた。
「あ、違う、違うよ! 傷はアルゴさんのお陰で完全に治ったから! カジャック、今日帰るんだって……それ思ってつい」
嘘は吐いていない。カジャックが帰ってしまうのも寂しくてため息を吐きたい気分には違いない。
ただ、丘であの時、そのまま抱かれるような気がした。だが、また何もなかった。耳にキスをされてますます顔が熱くなったものの、カジャックに触れられた背中の傷痕はサファルにとってもっと熱かった。
自分ではしっかり見ることは出来ないが、どうやら薄いピンク色のケロイド状の痕が縦に残っているらしい傷痕は、背中に手を回して自分で触れるとほんのりふにっとした感触と軽い違和感がする。だがそこをカジャックに触れられると、むしろとてつもなく敏感に指先を感じた。
もっと触れて欲しい。そこを愛して欲しい。そこだけでなく、全部を愛して欲しい。
そんな風に気を高ぶらせていたが、カジャックはその後サファルの頭をぽんと優しく撫で「戻ろう」と言ってきただけだった。
「慌てて出てきてくれたんだよね……カジャックの家、獣とかに荒らされてないといいけど」
リゼの言葉にうん、と頷いているとにっこり笑いかけられた。
「何」
「私たちのために、っていうかサファルのために来てくれたんだから、今度はサファルが一緒に行って、もし荒らされたりしてたら片付けとか手伝うべきじゃない?」
「そ、うかもだけど、でも村……」
背中の火傷も一応治してもらい、ようやくサファルも本格的に復興作業を始めたところだった。村はまだ、仮設のスペースで眠る者も多い状態だ。サファルとリゼの家もまだ復旧しておらず、昔にも世話してもらったこともあるルーカスの家にカジャックと共に住まわせてもらっている。
そしてラーザの村からカジャックの家までは、いくら近道を行っても多少はかかる。泊まりでなくても不可能ではないとはいえ、そのまま往復は少々きつい距離ではある。
「サファル一人くらい、いなくても大丈夫だよ」
「……それはそれで切ないんだけど」
「あはは、嘘嘘。でも大丈夫なのはほんと。また戻ってきてから一緒にがんばろ? 今日はとりあえずカジャックと一緒に、ね?」
「リゼ……」
うん、と笑ってサファルはリゼをふんわり抱きしめた。
カジャックについていくと告げたサファルに対し、カジャックは「分かった」とただ頷いてきた。「村に残って皆とがんばれ」と言われるような気がしていたサファルは意外だったが、断られなくてよかったとホッとする。
村の皆はカジャックが戻ると知ってとても残念がった。だが「また是非来て欲しい」と心から口にしていたし、サファルに対しても、この状態の村を一旦離れることに関して「気をつけてな」と暖かく見送ってくれた。
「お前があの村や村の人たちを好きになるのも分かる」
カジャックは道中、ふわりと笑みを浮かべながら言ってくれた。人が苦手なカジャックであるだけに、そう言ってもらえるのは尚更嬉しかった。
もしかしたら本当に獣に荒らされているだろうかとサファルもほんのり心配だったが、カジャックの家は出た時と何ら変わりはなかった。ホッとすると同時に「今気づいたけど、それだと俺がいる意味なくないか……?」とハッとなる。だがカジャックはそのままサファルに座るよう促してきた。
「話がある」
「話、ですか?」
特に検討もつかず、サファルは何だろうと少しそわそわとした。
「お前の……魔力について」
「俺の?」
ますます何だろうとサファルが怪訝に思っていると、カジャックは「それ」とサファルの腕を指してきた。竜の時に外した腕輪はカジャックが持ってくれていたらしく、目が覚めてからその後返してもらっている。
「……そういえば、アルゴさんがこれを外すように言って、そしてその後の記憶はないけど、俺、魔法を使ったんですよ、ね……」
「ああ。アルゴが何故そんなことを言ったかと言うと──」
そして教えてもらった。にわかには信じられないような話を。
「そん、な偶然……」
カジャックの育ての親、ジンがサファルたちの曾祖父なんてことがあるのか、とサファルは唖然としていた。
「腕輪の話だけでなく、お前やリゼのそのブラウンの髪や吸い込まれそうな青い目は、アルゴ曰く若い頃のジンそっくりなんだそうだ」
確かにそんな話は前にもしていた気はする。
「俺が……」
唖然としていたが、ふとジンの存在を知った頃は勝手に嫉妬さえしていたことを思い出し、サファルは苦笑する。
俺ってば、自分のひいじいちゃんにヤキモチとか……。あは、何それ。
かなり驚いたが、でも正直サファルは何だか嬉しかった。カジャックを育てた、そしてカジャックがとても尊敬し大切に思っている人が自分の曾祖父なのだと思うと、驚きと共に嬉しさがじわじわと込み上げてきた。しかもとても強かったジンの魔力はサファルにも受け継がれているという。
「サファル……大丈夫か」
「え? ああ、はい。すごく驚きましたが……でも俺、嬉しいです」
「……そう、か」
嬉しい、とサファルが言うと一瞬ぽかんとしていたカジャックだが、すぐに静かに微笑んできた。
「……で、先ほど話した、昔アルゴが作ったその腕輪がお前の魔力を抑えていたってことだ。制御よりも守護のほうが強いのをリゼが持っている。多分小さな頃にお前とリゼの魔力を鑑みてそのようにしたんだろう」
「なる、ほど……。さすがアルゴさんの力……。じゃあ俺、これ外したら魔法、普通に使えるってこと、ですか?」
魔法が使える。いや、すでに使ってはいるらしいが、サファルにその記憶は残念ながらない。使っている時は意識がある様子だったようだが、実際はほぼなかったと思われる。だから実は自分がちゃんと目を覚ましている状態で使ってみたくて仕方がなかった。こっそりやってみようかと考えもしたが、何か間違いがあってあれ以上村がめちゃくちゃになる可能性を想像すると怖くて、試してもいない。
「使える、が今のサファルだと多分魔力が暴走するとかして上手く扱えないと思う」
それを聞いて「やっぱり」と思いつつもとてつもなくがっかりとするサファルを見て、「あとで広いところへ行って試してみよう」とカジャックが言ってくれた。
「どうしたのサファル。傷、痛い?」
気づいたリゼが心配そうに見てきた。
「あ、違う、違うよ! 傷はアルゴさんのお陰で完全に治ったから! カジャック、今日帰るんだって……それ思ってつい」
嘘は吐いていない。カジャックが帰ってしまうのも寂しくてため息を吐きたい気分には違いない。
ただ、丘であの時、そのまま抱かれるような気がした。だが、また何もなかった。耳にキスをされてますます顔が熱くなったものの、カジャックに触れられた背中の傷痕はサファルにとってもっと熱かった。
自分ではしっかり見ることは出来ないが、どうやら薄いピンク色のケロイド状の痕が縦に残っているらしい傷痕は、背中に手を回して自分で触れるとほんのりふにっとした感触と軽い違和感がする。だがそこをカジャックに触れられると、むしろとてつもなく敏感に指先を感じた。
もっと触れて欲しい。そこを愛して欲しい。そこだけでなく、全部を愛して欲しい。
そんな風に気を高ぶらせていたが、カジャックはその後サファルの頭をぽんと優しく撫で「戻ろう」と言ってきただけだった。
「慌てて出てきてくれたんだよね……カジャックの家、獣とかに荒らされてないといいけど」
リゼの言葉にうん、と頷いているとにっこり笑いかけられた。
「何」
「私たちのために、っていうかサファルのために来てくれたんだから、今度はサファルが一緒に行って、もし荒らされたりしてたら片付けとか手伝うべきじゃない?」
「そ、うかもだけど、でも村……」
背中の火傷も一応治してもらい、ようやくサファルも本格的に復興作業を始めたところだった。村はまだ、仮設のスペースで眠る者も多い状態だ。サファルとリゼの家もまだ復旧しておらず、昔にも世話してもらったこともあるルーカスの家にカジャックと共に住まわせてもらっている。
そしてラーザの村からカジャックの家までは、いくら近道を行っても多少はかかる。泊まりでなくても不可能ではないとはいえ、そのまま往復は少々きつい距離ではある。
「サファル一人くらい、いなくても大丈夫だよ」
「……それはそれで切ないんだけど」
「あはは、嘘嘘。でも大丈夫なのはほんと。また戻ってきてから一緒にがんばろ? 今日はとりあえずカジャックと一緒に、ね?」
「リゼ……」
うん、と笑ってサファルはリゼをふんわり抱きしめた。
カジャックについていくと告げたサファルに対し、カジャックは「分かった」とただ頷いてきた。「村に残って皆とがんばれ」と言われるような気がしていたサファルは意外だったが、断られなくてよかったとホッとする。
村の皆はカジャックが戻ると知ってとても残念がった。だが「また是非来て欲しい」と心から口にしていたし、サファルに対しても、この状態の村を一旦離れることに関して「気をつけてな」と暖かく見送ってくれた。
「お前があの村や村の人たちを好きになるのも分かる」
カジャックは道中、ふわりと笑みを浮かべながら言ってくれた。人が苦手なカジャックであるだけに、そう言ってもらえるのは尚更嬉しかった。
もしかしたら本当に獣に荒らされているだろうかとサファルもほんのり心配だったが、カジャックの家は出た時と何ら変わりはなかった。ホッとすると同時に「今気づいたけど、それだと俺がいる意味なくないか……?」とハッとなる。だがカジャックはそのままサファルに座るよう促してきた。
「話がある」
「話、ですか?」
特に検討もつかず、サファルは何だろうと少しそわそわとした。
「お前の……魔力について」
「俺の?」
ますます何だろうとサファルが怪訝に思っていると、カジャックは「それ」とサファルの腕を指してきた。竜の時に外した腕輪はカジャックが持ってくれていたらしく、目が覚めてからその後返してもらっている。
「……そういえば、アルゴさんがこれを外すように言って、そしてその後の記憶はないけど、俺、魔法を使ったんですよ、ね……」
「ああ。アルゴが何故そんなことを言ったかと言うと──」
そして教えてもらった。にわかには信じられないような話を。
「そん、な偶然……」
カジャックの育ての親、ジンがサファルたちの曾祖父なんてことがあるのか、とサファルは唖然としていた。
「腕輪の話だけでなく、お前やリゼのそのブラウンの髪や吸い込まれそうな青い目は、アルゴ曰く若い頃のジンそっくりなんだそうだ」
確かにそんな話は前にもしていた気はする。
「俺が……」
唖然としていたが、ふとジンの存在を知った頃は勝手に嫉妬さえしていたことを思い出し、サファルは苦笑する。
俺ってば、自分のひいじいちゃんにヤキモチとか……。あは、何それ。
かなり驚いたが、でも正直サファルは何だか嬉しかった。カジャックを育てた、そしてカジャックがとても尊敬し大切に思っている人が自分の曾祖父なのだと思うと、驚きと共に嬉しさがじわじわと込み上げてきた。しかもとても強かったジンの魔力はサファルにも受け継がれているという。
「サファル……大丈夫か」
「え? ああ、はい。すごく驚きましたが……でも俺、嬉しいです」
「……そう、か」
嬉しい、とサファルが言うと一瞬ぽかんとしていたカジャックだが、すぐに静かに微笑んできた。
「……で、先ほど話した、昔アルゴが作ったその腕輪がお前の魔力を抑えていたってことだ。制御よりも守護のほうが強いのをリゼが持っている。多分小さな頃にお前とリゼの魔力を鑑みてそのようにしたんだろう」
「なる、ほど……。さすがアルゴさんの力……。じゃあ俺、これ外したら魔法、普通に使えるってこと、ですか?」
魔法が使える。いや、すでに使ってはいるらしいが、サファルにその記憶は残念ながらない。使っている時は意識がある様子だったようだが、実際はほぼなかったと思われる。だから実は自分がちゃんと目を覚ましている状態で使ってみたくて仕方がなかった。こっそりやってみようかと考えもしたが、何か間違いがあってあれ以上村がめちゃくちゃになる可能性を想像すると怖くて、試してもいない。
「使える、が今のサファルだと多分魔力が暴走するとかして上手く扱えないと思う」
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