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107話
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「久しぶりの村だ」
ラーザが近づいてくると気持ちが向上する。自分の村がやはり好きなんだなとサファルは改めて思った。
「久しぶりにリゼに甘えるといい」
「カジャック。おかしいですからねそれ。上は俺です。リゼは妹だから」
「そうだったか」
「もう。……あの、カジャック」
少し考えてからサファルはカジャックを見た。カジャックは「何だ」といった風に少しサファルを見上げてくる。
「竜の出来事の時にね、クエンティから助けが来たじゃないですか。そんで俺、クエンティへ来るよう誘われた」
「ああ」
「あの中にもひょっとしたら潜り込んでる人、いたんでしょうか」
アルゴの話では、存在が確かですらない者も強い剣士や魔術師を密かに集めようとしているという。そして取り込んだ兵士を何食わぬ顔をしてクエンティの兵隊として働かせる。もちろん、私利私欲のために権力を得ようと考えている者も、国自体を滅ぼそうなどと考えているのではないので基本的にはそういった兵士にも他の者と変わらない働きをさせる。兵士たちもその者の命令に忠実とはいえ、正体を知っている訳ではないだろうから王に仕えているとしか思っていないだろう。だが存在が確かですらない者の命令があればそちらを優先して動くよう上手く操縦されていたりするのだろうとアルゴは言っていた。
他国でもそれは同じで、頭の切れる学者といった者を集めては潜り込ませている可能性はないとは言えない。だからどの国の者かは断定出来ないのだという。
「……分からない、がいないとも言えない」
「俺を勧誘してきた使者の人も、もしかしたらそうだったり……?」
「いや、それはないだろう。あれは公の訪問でもある。多分本当にクエンティからの勧誘と見なしていいと思う」
「なら……なんとなく、まだよかった……」
とても感じのいい人だっただけにサファルはホッとした。ただあの時、気になる視線を感じたように思えたが、気のせいではなかったのかもしれない、とサファルは何とも言えない気分になる。
カジャックの家ではアルゴはそういった話をした上で「サファル、お前の強すぎる魔力はそいつらにとって魅力でもあり脅威でもある」と言ってきた。
「少し狙われているというのはそういう意味だ」
あの出来事によって、サファルの存在が密かに知られてしまったようだ。ただ、それもあって権力を得ようと企んでいる者の存在が少し見えたようでもあるらしい。
とにかく、少なくとも何らかの動きがそれぞれの王国であるまでは気をつけたほうがいいと言われた。いっそ旅に出ればいいのではないか、とも。サファルが「それだと余計狙われやすくなるんじゃ……?」と言えば「いや、お前をどうこうしようと完全に狙っているのではなさそうだ。ただ、国に取られるよりは、とは考えている気がする。あと、お前があの村にいることは間違いなく知られているだろうな」と返ってきた。村や何よりリゼに負担はかけたくないサファルとしては、その言葉で決意した。
ついでに言うと、ジンとの大切な思い出の場所でもあるここも、少したりとも荒らされたくなかった。なら確かに旅に出るしかない。幸い、商人といえどもサファルは店を構えていない。どこでも商品となるものを調達し、仕事は出来る。
カジャックとも頻繁に会えなくなるのは辛かったが、迷惑をかけるかもしれないと思うとたまに会いに来るほうがかろうじてましだと思えた。まさか一緒に来てくれるとは思ってもみなかった。申し訳ないながらに正直、嬉しくて堪らない。カジャックのしたいことややっていることを断念させるなら嫌だと思えたが、カジャックにしてもサファルと同じく、どこでもやっていける生活習慣だったのは幸いかもしれない。
心残りはリゼだった。ただ、今はルーカスの家に世話になっている。なので安心といえば安心だ。
──どうせならルーカスとくっつくとこ見たかったけど……。
「サファル! おかえりなさい」
久しぶりに会ったリゼが嬉しそうにサファルに抱きついてきた。サファルもぎゅっと抱きしめる。
「ただいま、リゼ」
「カジャックも連れてきてくれたのか」
一緒に迎えてくれたルーカスの言葉に、サファルは少し怪訝に思う。
「連れてきてくれた、って。何かあるの?」
「あ、いや、その……」
ポカンとサファルが見上げると、珍しくルーカスが言い淀んでいる。
ううん、言い淀むルーカスは前にも見た気がするかもだ。
「もう。ルーカス、いつものはっきりしたルーカスはどこ行ったの」
少し困惑さえしてそうなルーカスに対し、リゼが唇を尖らせた。サファルの横でカジャックが「口を尖らせている顔がサファルにそっくりだ」と呟いている。
「なんですそれ」
ついサファルも唇を尖らせているとリゼが「サファル」と呼びかけてきた。
「ん?」
「あのね、私、ルーカスと結婚する」
「なんだ、そうかぁ」
ルーカスってばそんな簡単な言葉を言い淀むなんてどうしたんだ、などと思いながらサファルはあははと笑った。その後に「ん?」と固まる。
とてもさらりとリゼは言ったが、もしかしてとても重要なことを言わなかっただろうか。何と言ったのだったかと、サファルはリゼの言葉を繰り返そうとした。
あのね
私
ルーカスと
「け、結婚っ? 結婚っつった? なぁ、結婚っつった? け、け、け」
「……サファル、落ち着け」
何度も繰り返した挙げ句、吃りだしたサファルの背中をカジャックが優しく撫でてくれた。
え、なにこれ、夢? 俺、夢見てる?
なにこの最高の展開。うまく行き過ぎてない? 俺、悪魔に寿命でも売った?
「……すまない、サファル。大事な妹を預けてくれたのに……まるでそれを奪うような……」
サファルが夢心地になっていると、ルーカスが本当に申し訳なさそうな顔をしてきた。
「え、なに言ってんの……?」
リゼに「結婚」と言われた時よりもある意味ポカンとした顔でサファルは昔から大好きで大切だった兄のような幼馴染みを見上げた。
ラーザが近づいてくると気持ちが向上する。自分の村がやはり好きなんだなとサファルは改めて思った。
「久しぶりにリゼに甘えるといい」
「カジャック。おかしいですからねそれ。上は俺です。リゼは妹だから」
「そうだったか」
「もう。……あの、カジャック」
少し考えてからサファルはカジャックを見た。カジャックは「何だ」といった風に少しサファルを見上げてくる。
「竜の出来事の時にね、クエンティから助けが来たじゃないですか。そんで俺、クエンティへ来るよう誘われた」
「ああ」
「あの中にもひょっとしたら潜り込んでる人、いたんでしょうか」
アルゴの話では、存在が確かですらない者も強い剣士や魔術師を密かに集めようとしているという。そして取り込んだ兵士を何食わぬ顔をしてクエンティの兵隊として働かせる。もちろん、私利私欲のために権力を得ようと考えている者も、国自体を滅ぼそうなどと考えているのではないので基本的にはそういった兵士にも他の者と変わらない働きをさせる。兵士たちもその者の命令に忠実とはいえ、正体を知っている訳ではないだろうから王に仕えているとしか思っていないだろう。だが存在が確かですらない者の命令があればそちらを優先して動くよう上手く操縦されていたりするのだろうとアルゴは言っていた。
他国でもそれは同じで、頭の切れる学者といった者を集めては潜り込ませている可能性はないとは言えない。だからどの国の者かは断定出来ないのだという。
「……分からない、がいないとも言えない」
「俺を勧誘してきた使者の人も、もしかしたらそうだったり……?」
「いや、それはないだろう。あれは公の訪問でもある。多分本当にクエンティからの勧誘と見なしていいと思う」
「なら……なんとなく、まだよかった……」
とても感じのいい人だっただけにサファルはホッとした。ただあの時、気になる視線を感じたように思えたが、気のせいではなかったのかもしれない、とサファルは何とも言えない気分になる。
カジャックの家ではアルゴはそういった話をした上で「サファル、お前の強すぎる魔力はそいつらにとって魅力でもあり脅威でもある」と言ってきた。
「少し狙われているというのはそういう意味だ」
あの出来事によって、サファルの存在が密かに知られてしまったようだ。ただ、それもあって権力を得ようと企んでいる者の存在が少し見えたようでもあるらしい。
とにかく、少なくとも何らかの動きがそれぞれの王国であるまでは気をつけたほうがいいと言われた。いっそ旅に出ればいいのではないか、とも。サファルが「それだと余計狙われやすくなるんじゃ……?」と言えば「いや、お前をどうこうしようと完全に狙っているのではなさそうだ。ただ、国に取られるよりは、とは考えている気がする。あと、お前があの村にいることは間違いなく知られているだろうな」と返ってきた。村や何よりリゼに負担はかけたくないサファルとしては、その言葉で決意した。
ついでに言うと、ジンとの大切な思い出の場所でもあるここも、少したりとも荒らされたくなかった。なら確かに旅に出るしかない。幸い、商人といえどもサファルは店を構えていない。どこでも商品となるものを調達し、仕事は出来る。
カジャックとも頻繁に会えなくなるのは辛かったが、迷惑をかけるかもしれないと思うとたまに会いに来るほうがかろうじてましだと思えた。まさか一緒に来てくれるとは思ってもみなかった。申し訳ないながらに正直、嬉しくて堪らない。カジャックのしたいことややっていることを断念させるなら嫌だと思えたが、カジャックにしてもサファルと同じく、どこでもやっていける生活習慣だったのは幸いかもしれない。
心残りはリゼだった。ただ、今はルーカスの家に世話になっている。なので安心といえば安心だ。
──どうせならルーカスとくっつくとこ見たかったけど……。
「サファル! おかえりなさい」
久しぶりに会ったリゼが嬉しそうにサファルに抱きついてきた。サファルもぎゅっと抱きしめる。
「ただいま、リゼ」
「カジャックも連れてきてくれたのか」
一緒に迎えてくれたルーカスの言葉に、サファルは少し怪訝に思う。
「連れてきてくれた、って。何かあるの?」
「あ、いや、その……」
ポカンとサファルが見上げると、珍しくルーカスが言い淀んでいる。
ううん、言い淀むルーカスは前にも見た気がするかもだ。
「もう。ルーカス、いつものはっきりしたルーカスはどこ行ったの」
少し困惑さえしてそうなルーカスに対し、リゼが唇を尖らせた。サファルの横でカジャックが「口を尖らせている顔がサファルにそっくりだ」と呟いている。
「なんですそれ」
ついサファルも唇を尖らせているとリゼが「サファル」と呼びかけてきた。
「ん?」
「あのね、私、ルーカスと結婚する」
「なんだ、そうかぁ」
ルーカスってばそんな簡単な言葉を言い淀むなんてどうしたんだ、などと思いながらサファルはあははと笑った。その後に「ん?」と固まる。
とてもさらりとリゼは言ったが、もしかしてとても重要なことを言わなかっただろうか。何と言ったのだったかと、サファルはリゼの言葉を繰り返そうとした。
あのね
私
ルーカスと
「け、結婚っ? 結婚っつった? なぁ、結婚っつった? け、け、け」
「……サファル、落ち着け」
何度も繰り返した挙げ句、吃りだしたサファルの背中をカジャックが優しく撫でてくれた。
え、なにこれ、夢? 俺、夢見てる?
なにこの最高の展開。うまく行き過ぎてない? 俺、悪魔に寿命でも売った?
「……すまない、サファル。大事な妹を預けてくれたのに……まるでそれを奪うような……」
サファルが夢心地になっていると、ルーカスが本当に申し訳なさそうな顔をしてきた。
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リゼに「結婚」と言われた時よりもある意味ポカンとした顔でサファルは昔から大好きで大切だった兄のような幼馴染みを見上げた。
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