銀色の魔物

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125話

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「ずっと空けることになってもあんたの家、本当に荒れちゃいませんか?」
「ああ」

 カジャックが頷くと、サファルは安心したように笑いかけてきた。
 カジャックの大切な存在、そしてサファルやリゼの曾祖父でもあったジンの形見でもある家が荒れていくのはあまりに忍びないのだとサファルはとても心配していた。確かにずいぶん家を空けることになると思われるため、多少は荒れてしまうかもしれない。だが強い魔法のかかったあの家が荒れ果てた姿になることは少なくともカジャックたちが生きている間くらいは、ないだろう。
 イントでの出来事により、二人の今後が大幅に変わることとなった。カジャックだけなら別に誰に狙われようが構わなかったが、ほんの少しでもサファルが狙われる可能性が更に高まるとなると話は別だ。カジャックとしてはさすがにそれでも海を渡るほど遠くへ行く必要性が感じられなかったが、クエンティ王の側近が提案してきたことに二人は乗ることにした。
 元々サファルはいつか遠い国へも旅したいと言っていた。ただ一般人は中々船に乗る機会がないようで、例え乗れるにしても莫大な費用がかかるらしい。ならその費用をカジャックが持つと言おうとしていた時に王子たちと関わることとなった。からの流れだ。提案を受けない理由など特になかった。とはいえ、諸手を挙げて喜ぶほど無遠慮にもなれない。

「是非遠い国々へ旅をなさってください。船は提供します」
「さ、さすがにそこまでして頂く訳には……」
「サファルさん、あなたは元々商人をされておられるようですね。丁度いい。我々クエンティでも、ここイントのようにもっと様々な国での商売の可能性について考えていたところでした」
「は……」
「そういえばここ、イントやフィートであなた方はとある商人と知り合いになられたようですね」
「な、何で……」
「何故知っているか、ですか。丁度私共もあなたの行方を調べているところでしたので。アルゴがいる分、私は他の貴族よりも有利なのですよね」

 話についていけないといったサファルはもはや陸に上げられた魚のようになっていた。

「なら何故先ほどは疑うように俺たちに説明をさせた?」

 何故かは何となく分かっていたものの、動揺しているサファルの代わりにカジャックが口を挟むと申し訳なさそうに頭を下げられる。

「サファルさんの顔はお会いしたこともあって存じ上げているものの、……申し訳ありません。失礼を承知で、念には念を入れさせていただきました」

 やはりそうかとカジャックが思っていると、気を取り直したサファルが「あの紳士な人たちはどう関係してくるんですか」と質問した。

「私、そしてあなた方の国であるクエンティにも彼らの兄弟がいまして」
「マジでっ? あ、いや、本当ですか……? え、やっぱり同じ顔してんの……」

 気になるところはそこかとカジャックが内心苦笑していると「そうなんですよ、全く同じ顔をしています」と返ってきた。

「そして私共と水面下で通じてもいます。その彼を通じてあなた方に遠国での取引をしていただきたい。これでいかがでしょうか」

 お膳立てまでされて、カジャックやサファルに今度こそ断る理由はなかった。サファルもリゼがめでたくルーカスと一緒になったため、迷惑を彼らや村にかけるくらいなら喜んで旅を続けると思っているようだ。
 ただ遠国へ船で向かうとなると、気軽にラーザの村へ帰ることも難しくなる。そのため、一旦ラーザやルークの森へ戻ってから向かうこととなった。
 王子たちを助けたということで各国の王も直接礼をと言っていたそうだが、そちらは辞退出来るよう、上手く言ってもらった。
 三国会議の内容や結果についてはどうなったかは分からない。だが知らないままのほうがいいとカジャックは思う。知れば間違いなく巻き込まれるだろう。ただでさえカジャックもサファルも相当な魔力を持っている。
 魔力といえば、サファルが海に放り投げられた王女を助けた後に魔法を使っていたことは、あの日一旦宿屋へ戻ってから夜に話を聞いた。

「あんたにとある石を加工してプレゼントしようと思ってました」
「……何の話……」
「まあ聞いててください」
「分かった」

 フィートでサファルが工芸品を作るようになったきっかけなのだと言う。
 例の──まさか三つ子なのだろうか──商人からメテオライトを勧められたのだとサファルは微笑んだ。

「ギベオンという石がとてもあんたにぴったりで」

 思いの外サファルの作品は色んな客に気に入ってもらえ、ギベオンも早々に手に入ったらしい。
 だがそれを手にしてから、サファルは夢にうなされるようになった。それは確かにカジャックも時折聞いており心配していたが、魔法に絡むとは思ってもいなかった。

「俺の……両親の夢です……何度も、何度も両親が俺の目の前で死ぬところを夢で見ました」

 それを聞き、カジャックはハッとなる。

「……まさかサファル、思い出し、て……」
「……思い出し? もしかしてカジャックは知っているんですか? リゼから聞いたってことですよね。ってことはやっぱりリゼは知ってたんだな……」
「リゼはお前を心配して」
「大丈夫です。分かってますし恨んでません。むしろ感謝してるしリゼを改めて大好きだと思ってます」

 サファル曰く、メテオライトの力なのかどうかはっきりしている訳ではないが、とにかくあれを手にしてから最初はぼんやりと、次第にはっきり夢に見るようになったのだと言う。そして思い出したとサファルが意識して以来、魔法がとても扱いやすくなったのだ、と。
 記憶障害により魔力が左右されるとは聞いたことはないが、サファルの場合は母親が魔法でサファルの記憶を封じていた。何も関係がなかった、とは断言出来ない。

「……サファル……気づけなくてすまない」
「っえ? カジャックは何に謝って……?」
「お前が辛い記憶を戻したという時に俺は何もしてやれてなかった」
「……カジャック。大好き」
「何故今」

 思い出した時はやはり結構きつかったとサファルは笑みを浮かべながら言う。

「でもそれこそあんたがいたから。平気。それに俺は恵まれてる。めちゃくちゃ親に愛されてたんだって改めて思えたし、リゼにも愛されてるって思えた。思い出せてよかった。俺、亡くなった両親もリゼもルーカスも、そしてなによりカジャック、あんたが心から大好き……」

 ぎゅっと抱きつきながら、サファルは本当に心を込めてカジャックに伝えてくれた。
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