126 / 137
125話
しおりを挟む
「ずっと空けることになってもあんたの家、本当に荒れちゃいませんか?」
「ああ」
カジャックが頷くと、サファルは安心したように笑いかけてきた。
カジャックの大切な存在、そしてサファルやリゼの曾祖父でもあったジンの形見でもある家が荒れていくのはあまりに忍びないのだとサファルはとても心配していた。確かにずいぶん家を空けることになると思われるため、多少は荒れてしまうかもしれない。だが強い魔法のかかったあの家が荒れ果てた姿になることは少なくともカジャックたちが生きている間くらいは、ないだろう。
イントでの出来事により、二人の今後が大幅に変わることとなった。カジャックだけなら別に誰に狙われようが構わなかったが、ほんの少しでもサファルが狙われる可能性が更に高まるとなると話は別だ。カジャックとしてはさすがにそれでも海を渡るほど遠くへ行く必要性が感じられなかったが、クエンティ王の側近が提案してきたことに二人は乗ることにした。
元々サファルはいつか遠い国へも旅したいと言っていた。ただ一般人は中々船に乗る機会がないようで、例え乗れるにしても莫大な費用がかかるらしい。ならその費用をカジャックが持つと言おうとしていた時に王子たちと関わることとなった。からの流れだ。提案を受けない理由など特になかった。とはいえ、諸手を挙げて喜ぶほど無遠慮にもなれない。
「是非遠い国々へ旅をなさってください。船は提供します」
「さ、さすがにそこまでして頂く訳には……」
「サファルさん、あなたは元々商人をされておられるようですね。丁度いい。我々クエンティでも、ここイントのようにもっと様々な国での商売の可能性について考えていたところでした」
「は……」
「そういえばここ、イントやフィートであなた方はとある商人と知り合いになられたようですね」
「な、何で……」
「何故知っているか、ですか。丁度私共もあなたの行方を調べているところでしたので。アルゴがいる分、私は他の貴族よりも有利なのですよね」
話についていけないといったサファルはもはや陸に上げられた魚のようになっていた。
「なら何故先ほどは疑うように俺たちに説明をさせた?」
何故かは何となく分かっていたものの、動揺しているサファルの代わりにカジャックが口を挟むと申し訳なさそうに頭を下げられる。
「サファルさんの顔はお会いしたこともあって存じ上げているものの、……申し訳ありません。失礼を承知で、念には念を入れさせていただきました」
やはりそうかとカジャックが思っていると、気を取り直したサファルが「あの紳士な人たちはどう関係してくるんですか」と質問した。
「私、そしてあなた方の国であるクエンティにも彼らの兄弟がいまして」
「マジでっ? あ、いや、本当ですか……? え、やっぱり同じ顔してんの……」
気になるところはそこかとカジャックが内心苦笑していると「そうなんですよ、全く同じ顔をしています」と返ってきた。
「そして私共と水面下で通じてもいます。その彼を通じてあなた方に遠国での取引をしていただきたい。これでいかがでしょうか」
お膳立てまでされて、カジャックやサファルに今度こそ断る理由はなかった。サファルもリゼがめでたくルーカスと一緒になったため、迷惑を彼らや村にかけるくらいなら喜んで旅を続けると思っているようだ。
ただ遠国へ船で向かうとなると、気軽にラーザの村へ帰ることも難しくなる。そのため、一旦ラーザやルークの森へ戻ってから向かうこととなった。
王子たちを助けたということで各国の王も直接礼をと言っていたそうだが、そちらは辞退出来るよう、上手く言ってもらった。
三国会議の内容や結果についてはどうなったかは分からない。だが知らないままのほうがいいとカジャックは思う。知れば間違いなく巻き込まれるだろう。ただでさえカジャックもサファルも相当な魔力を持っている。
魔力といえば、サファルが海に放り投げられた王女を助けた後に魔法を使っていたことは、あの日一旦宿屋へ戻ってから夜に話を聞いた。
「あんたにとある石を加工してプレゼントしようと思ってました」
「……何の話……」
「まあ聞いててください」
「分かった」
フィートでサファルが工芸品を作るようになったきっかけなのだと言う。
例の──まさか三つ子なのだろうか──商人からメテオライトを勧められたのだとサファルは微笑んだ。
「ギベオンという石がとてもあんたにぴったりで」
思いの外サファルの作品は色んな客に気に入ってもらえ、ギベオンも早々に手に入ったらしい。
だがそれを手にしてから、サファルは夢にうなされるようになった。それは確かにカジャックも時折聞いており心配していたが、魔法に絡むとは思ってもいなかった。
「俺の……両親の夢です……何度も、何度も両親が俺の目の前で死ぬところを夢で見ました」
それを聞き、カジャックはハッとなる。
「……まさかサファル、思い出し、て……」
「……思い出し? もしかしてカジャックは知っているんですか? リゼから聞いたってことですよね。ってことはやっぱりリゼは知ってたんだな……」
「リゼはお前を心配して」
「大丈夫です。分かってますし恨んでません。むしろ感謝してるしリゼを改めて大好きだと思ってます」
サファル曰く、メテオライトの力なのかどうかはっきりしている訳ではないが、とにかくあれを手にしてから最初はぼんやりと、次第にはっきり夢に見るようになったのだと言う。そして思い出したとサファルが意識して以来、魔法がとても扱いやすくなったのだ、と。
記憶障害により魔力が左右されるとは聞いたことはないが、サファルの場合は母親が魔法でサファルの記憶を封じていた。何も関係がなかった、とは断言出来ない。
「……サファル……気づけなくてすまない」
「っえ? カジャックは何に謝って……?」
「お前が辛い記憶を戻したという時に俺は何もしてやれてなかった」
「……カジャック。大好き」
「何故今」
思い出した時はやはり結構きつかったとサファルは笑みを浮かべながら言う。
「でもそれこそあんたがいたから。平気。それに俺は恵まれてる。めちゃくちゃ親に愛されてたんだって改めて思えたし、リゼにも愛されてるって思えた。思い出せてよかった。俺、亡くなった両親もリゼもルーカスも、そしてなによりカジャック、あんたが心から大好き……」
ぎゅっと抱きつきながら、サファルは本当に心を込めてカジャックに伝えてくれた。
「ああ」
カジャックが頷くと、サファルは安心したように笑いかけてきた。
カジャックの大切な存在、そしてサファルやリゼの曾祖父でもあったジンの形見でもある家が荒れていくのはあまりに忍びないのだとサファルはとても心配していた。確かにずいぶん家を空けることになると思われるため、多少は荒れてしまうかもしれない。だが強い魔法のかかったあの家が荒れ果てた姿になることは少なくともカジャックたちが生きている間くらいは、ないだろう。
イントでの出来事により、二人の今後が大幅に変わることとなった。カジャックだけなら別に誰に狙われようが構わなかったが、ほんの少しでもサファルが狙われる可能性が更に高まるとなると話は別だ。カジャックとしてはさすがにそれでも海を渡るほど遠くへ行く必要性が感じられなかったが、クエンティ王の側近が提案してきたことに二人は乗ることにした。
元々サファルはいつか遠い国へも旅したいと言っていた。ただ一般人は中々船に乗る機会がないようで、例え乗れるにしても莫大な費用がかかるらしい。ならその費用をカジャックが持つと言おうとしていた時に王子たちと関わることとなった。からの流れだ。提案を受けない理由など特になかった。とはいえ、諸手を挙げて喜ぶほど無遠慮にもなれない。
「是非遠い国々へ旅をなさってください。船は提供します」
「さ、さすがにそこまでして頂く訳には……」
「サファルさん、あなたは元々商人をされておられるようですね。丁度いい。我々クエンティでも、ここイントのようにもっと様々な国での商売の可能性について考えていたところでした」
「は……」
「そういえばここ、イントやフィートであなた方はとある商人と知り合いになられたようですね」
「な、何で……」
「何故知っているか、ですか。丁度私共もあなたの行方を調べているところでしたので。アルゴがいる分、私は他の貴族よりも有利なのですよね」
話についていけないといったサファルはもはや陸に上げられた魚のようになっていた。
「なら何故先ほどは疑うように俺たちに説明をさせた?」
何故かは何となく分かっていたものの、動揺しているサファルの代わりにカジャックが口を挟むと申し訳なさそうに頭を下げられる。
「サファルさんの顔はお会いしたこともあって存じ上げているものの、……申し訳ありません。失礼を承知で、念には念を入れさせていただきました」
やはりそうかとカジャックが思っていると、気を取り直したサファルが「あの紳士な人たちはどう関係してくるんですか」と質問した。
「私、そしてあなた方の国であるクエンティにも彼らの兄弟がいまして」
「マジでっ? あ、いや、本当ですか……? え、やっぱり同じ顔してんの……」
気になるところはそこかとカジャックが内心苦笑していると「そうなんですよ、全く同じ顔をしています」と返ってきた。
「そして私共と水面下で通じてもいます。その彼を通じてあなた方に遠国での取引をしていただきたい。これでいかがでしょうか」
お膳立てまでされて、カジャックやサファルに今度こそ断る理由はなかった。サファルもリゼがめでたくルーカスと一緒になったため、迷惑を彼らや村にかけるくらいなら喜んで旅を続けると思っているようだ。
ただ遠国へ船で向かうとなると、気軽にラーザの村へ帰ることも難しくなる。そのため、一旦ラーザやルークの森へ戻ってから向かうこととなった。
王子たちを助けたということで各国の王も直接礼をと言っていたそうだが、そちらは辞退出来るよう、上手く言ってもらった。
三国会議の内容や結果についてはどうなったかは分からない。だが知らないままのほうがいいとカジャックは思う。知れば間違いなく巻き込まれるだろう。ただでさえカジャックもサファルも相当な魔力を持っている。
魔力といえば、サファルが海に放り投げられた王女を助けた後に魔法を使っていたことは、あの日一旦宿屋へ戻ってから夜に話を聞いた。
「あんたにとある石を加工してプレゼントしようと思ってました」
「……何の話……」
「まあ聞いててください」
「分かった」
フィートでサファルが工芸品を作るようになったきっかけなのだと言う。
例の──まさか三つ子なのだろうか──商人からメテオライトを勧められたのだとサファルは微笑んだ。
「ギベオンという石がとてもあんたにぴったりで」
思いの外サファルの作品は色んな客に気に入ってもらえ、ギベオンも早々に手に入ったらしい。
だがそれを手にしてから、サファルは夢にうなされるようになった。それは確かにカジャックも時折聞いており心配していたが、魔法に絡むとは思ってもいなかった。
「俺の……両親の夢です……何度も、何度も両親が俺の目の前で死ぬところを夢で見ました」
それを聞き、カジャックはハッとなる。
「……まさかサファル、思い出し、て……」
「……思い出し? もしかしてカジャックは知っているんですか? リゼから聞いたってことですよね。ってことはやっぱりリゼは知ってたんだな……」
「リゼはお前を心配して」
「大丈夫です。分かってますし恨んでません。むしろ感謝してるしリゼを改めて大好きだと思ってます」
サファル曰く、メテオライトの力なのかどうかはっきりしている訳ではないが、とにかくあれを手にしてから最初はぼんやりと、次第にはっきり夢に見るようになったのだと言う。そして思い出したとサファルが意識して以来、魔法がとても扱いやすくなったのだ、と。
記憶障害により魔力が左右されるとは聞いたことはないが、サファルの場合は母親が魔法でサファルの記憶を封じていた。何も関係がなかった、とは断言出来ない。
「……サファル……気づけなくてすまない」
「っえ? カジャックは何に謝って……?」
「お前が辛い記憶を戻したという時に俺は何もしてやれてなかった」
「……カジャック。大好き」
「何故今」
思い出した時はやはり結構きつかったとサファルは笑みを浮かべながら言う。
「でもそれこそあんたがいたから。平気。それに俺は恵まれてる。めちゃくちゃ親に愛されてたんだって改めて思えたし、リゼにも愛されてるって思えた。思い出せてよかった。俺、亡くなった両親もリゼもルーカスも、そしてなによりカジャック、あんたが心から大好き……」
ぎゅっと抱きつきながら、サファルは本当に心を込めてカジャックに伝えてくれた。
0
あなたにおすすめの小説
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。
人気作家は売り専男子を抱き枕として独占したい
白妙スイ@1/9新刊発売
BL
八架 深都は好奇心から売り専のバイトをしている大学生。
ある日、不眠症の小説家・秋木 晴士から指名が入る。
秋木の家で深都はもこもこの部屋着を着せられて、抱きもせず添い寝させられる。
戸惑った深都だったが、秋木は気に入ったと何度も指名してくるようになって……。
●八架 深都(はちか みと)
20歳、大学2年生
好奇心旺盛な性格
●秋木 晴士(あきぎ せいじ)
26歳、小説家
重度の不眠症らしいが……?
※性的描写が含まれます
完結いたしました!
【完結】抱っこからはじまる恋
* ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】かわいい彼氏
* ゆるゆ
BL
いっしょに幼稚園に通っていた5歳のころからずっと、だいすきだけど、言えなくて。高校生になったら、またひとつ秘密ができた。それは──
ご感想がうれしくて、すぐ承認してしまい(笑)ネタバレ配慮できないので、ご覧になるときはお気をつけください! 驚きとかが消滅します(笑)
遥斗と涼真の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0
Youtube @BL小説動画
プロフのwebサイトから飛べます!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(2024.10.21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【完結】※セーブポイントに入って一汁三菜の夕飯を頂いた勇者くんは体力が全回復します。
きのこいもむし
BL
ある日突然セーブポイントになってしまった自宅のクローゼットからダンジョン攻略中の勇者くんが出てきたので、一汁三菜の夕飯を作って一緒に食べようねみたいなお料理BLです。
自炊に目覚めた独身フリーターのアラサー男子(27)が、セーブポイントの中に入ると体力が全回復するタイプの勇者くん(19)を餌付けしてそれを肴に旨い酒を飲むだけの逆異世界転移もの。
食いしん坊わんこのローグライク系勇者×料理好きのセーブポイント系平凡受けの超ほんわかした感じの話です。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる