銀色の魔物

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異国の聖なる日

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 航海に出て最初の冬、といっても出発した頃が既に冬に近かったがそれはさておき、最初の冬はそこそこスムーズに過ごせていた。
 氷山にしても、航路を南に取っていたのもあり幸い出会うこともなくやり過ごせていた。それどころか航路途中から次第に暑くなっていく気がしてサファルを大いに戸惑わせた。
 移動だが、どうしても順風頼りになるため下手をすると数日間待つことになり、思っていたよりは時間がかかると知った。風が影響しない魔力を使った船というのもあるが、元々多大なる魔力を持つがため祖国を離れることとなったサファルとしては極力使いたくない。よって食料などを求めて上陸するのもできるなら一、二週間おきにしたかったが最悪の場合一か月以上補充できないという羽目にもなる。
 ただ幸い食料に関しては海の魔物すら食う、をモットーにわりとやり過ごせている。不足がちになるビタミンも意外に魔物の肉から多少は取れたりするようだ。風呂に関しても他の船にはないことが多いと聞いた。だがサファルとしては風呂のない生活は耐えられないため、桶を作るとそこに海水を入れ、ちょっとした魔法で真水にそして湯に変えて皆にも使わせた。こういった衛生面からしても船員の健康を保てる結果になったかもしれない。
 そんな感じに過ごしてはいたが、ある日見つけた陸地に皆は大いに盛り上がった。いくら船員たちが船をこよなく愛し、そしてこの船が快適に過ごせていると言っても何もかも揃っている訳ではない。たまに陸地へ上がらないとどうしても諸々厳しいものがある。
 時期的にはちょうど年末が近かった。上陸した土地は、本国や隣国で感じた印象と違い一見、木や石などでできた建物すらなかった。おまけに人々は漆黒の闇のように肌が黒い。
 だが船員たちは皆驚かなかった。聞けば以前にもこの辺りのどこかに上陸したことがあるらしく、肌の色はこの土地特有であるらしい。サファルからすれば生まれて初めて見る人々もあり驚きは隠せなかったが、不思議と怖い気持ちはなかった。むしろ漆黒の肌を美しく思う。

「カジャックと正反対ですね」
「俺は真っ白じゃないが」

 苦笑しているカジャックも特に怯えた様子はない。どのみちカジャックにしてみれば元々サファルたちですらジンやアルゴ以外でほぼ初めて見る人間であっただろうし、サファルとは見方も違うかもしれない。
 言葉は全く通じないのではと思えたが、彼らの中に一人、サファルたちの使う言語を辛うじて話せる者がいた。以前にも誰か来たことがあり、その者から教わったのだと言う。
 本国から持ち出してきた火薬や衣服などの工業製品や金属で出来た工芸品、肉や魚の燻製といった商品を提供できると言うと、おそらくその者の家だろうかに招待された。建物はないと思っていたが、案内されてついていった町では草やヤシの葉などで屋根を葺いて壁や柱を粘土や木材で作ってある様子の家が多々ある。その者の家は石造りの家だったし、さらに向こうには数階建てはありそうな建築物もあった。思った以上に発達しているようだ。

「名前、何ていうんですか。俺はサファル。この人はカジャックです」

 商売をするにしてもまずは商品を見てもらい、そこからこの土地での産物に着眼したいと考えていたサファルは親しげに聞く。他の船員たちも最初は一緒に来たが「近くに食事などを提供できるところがある」と聞いて喜び勇んで向かっていった。サファルが「羽目、外し過ぎないで」と言えば「任せてくださいよ」などと返ってきたが、どこまで信用していいものかと苦笑する。食事「など」のなどに含まれるものも気になるところだが、そもそもこういった旅は今のところはサファルやカジャックよりも船員のほうが慣れているため、自由にさせている。

「俺、コジョ・メンサ。ここ、生まれた曜日と第何子、で名前、きまる」
「へえ。面白いですね。コジョはじゃあ?」
「俺、月曜に生まれた三番目の息子」

 曜日ごとに名前かあ。面白いな。何か商品に使えないかな。美容ものとか女性に絡むものとか面白そうだけど。

 そんなことを思いつつ、サファルはコジョからこの土地での話を聞いた。以前来ていた者は別の国を目指す過程でここへ立ち寄ったのだという。

「オマエらもそう、ちがうのか」
「俺たちは別に目指してる国はないよ。開拓目的の目的が違うというか。あなたたちとも何か取引できるものがあればしたいなと思ってる」

 相手の話し方につられ、さすがに片言にはならないが敬語はすぐに取れた。後でカジャックが「俺には取れないのに……」と呟いているのを耳にしてサファルは苦笑した。
 その後周辺を案内してもらい、ここいらで取れる農作物も教えてもらった。
 町の雰囲気がお祭りモードのように見えたからだろうか。日が暮れてくると、サファルはふと聖モナの日を思い出す。おそらく今頃サファルの村でも皆で祝っている頃だろう。そう思っていると「今日、聖モナの日の祭り。ゆっくりしていく、いい」などとコジョに言われた。

「えっ。ここでも聖モナの日あるの? モーティナの神が信じられてるの?」

 驚いて思わずポカンとした顔を向けると、コジョが笑ってきた。黒くて一見表情がわからないように見えるが案外豊かなようだ。

「別の宗教もある。ここ、信仰、半々」
「そうなんだ。別の宗教と信者は半々か。にしても面白いなあ。人が広がるより信仰のが広がるもんなんだな」
「オマエらの国、モーティナ信じてる」
「まあ、国はね。でも俺たちっていうかわりと多くの村民とかはそこまで信心深くないかな。あ、だけどさ、聖モナの日を祝えるのは嬉しいかも」

 人種も文化も違えどもそういう部分は共通なのかと趣深い。実際、町を堪能した後にコジョの家で祝いの席に参加させてもらったが、食事内容や習慣的なものは全く違うものの祈る内容にあまり違いはなかった。

「他の皆は今、どこで過ごしてるんでしょうね」

 そのまま泊めてくれるとの好意に甘え、離れに案内されたサファルはカジャックの胸元に寝転がりながら笑みを浮かべる。

「貨幣価値が違うから金以外にいくつかの商品も渡してある。多分どこかの宿屋やそれとも、まぁ、そういったところで過ごしてるか」

 そういったところ、とぼかすように言った後でカジャックが小さく笑った。

「俺はそういう発散、あんたがいてくれるおかげで困ったことないです」
「相変わらずで何よりだよ、サファル」

 苦笑するカジャックの唇にサファルは自分からキスをしに行った。軽くした後に自ら舌を絡める。

「……サファル、他人の家だが」
「今日は聖モナの日ですよ。こういう愛し方でもってお祝いもありじゃないですか」
「物は言いようだな」
「久しぶりの陸地なんです。どっしり愛したいし愛されたいんで、コジョには申し訳ないですが俺、やめませんからね。カジャック、いいモナの日を、ですよ」
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