偽りの仮面

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12話 ※

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 伊吹が積極的で、どうしたらいいかわからない。
 芳は内心、いっぱいいっぱいだった。仕方がない。こういった経験は今まで全くないのだ。

「ねぇ、芳。芳はもしかして俺とキスしたくないの?」

 そう聞かれた時はどうしようかと思った。したくない訳がない。
 思わず軽く咳き込んでしまった後に誤魔化すように笑みを向けて「何故」と聞いた。

「だって全然キスしないだろ。前に一度俺からしようとしたらかわされたし……だから嫌なのかなって……男同士だからとかは関係ないよな? だって既にお互い好きだろ……それとも、もう違うとか……」

 違う? そんなこと、起こり得ない。

 どれ程芳が伊吹のことを好きか、上手く伝えられたらいいのにと思う。後、そんなことを言ってくる伊吹もかわいくて仕方ない。

「……そんなこと、ないよ。ただ、そうだな……俺はお前より年が上なのと昔の小さなお前を覚えてるだけに……してもいいんだろうかとつい思ってしまって」

 完全に嘘をついても綻びが出そうだと思い、一応本当に思っていたことを口にした。

 ──正確ではないが。

 ずっとかわいがっていた小さな伊吹という印象もある。だが正直なところやはり好きだと腹を括った時点でそれはなるべく気にしないようにしている。手を出せないのはただ純粋に出していいのかわからないからだ。
 嫌われないだろうか、やり方を間違えないだろうか、タイミングに問題はないか、など考えたらきりがない。余裕ぶってはいるが、内心はこんなものだ。情けなさ過ぎて絶対に見せられない。
 だがそんな芳に対し、少々誤魔化したとはいえ伊吹は「そんなの……いいよ……だって恋人だろ」と言ってくれた。

 かわいい。やはりかわいい。駄目だ、タイミングもやり方も今、どうでもよくなってしまった。

 思わず実際「かわいい」と口にした後に芳は何か言いかけている伊吹の口を塞いだ。やり方なんて本当にわからない。キスすら経験ないのだ。昔付き合っていた彼女の唇にほんの一瞬触れる程度すら無理だった。当時の彼女には本当に申し訳ないが、気持ち悪いとさえ思ってしまった。
 だというのに何だろうか。伊吹とのキスは呼吸をする一瞬の時間すら惜しいと思う程、ひたすら触れ合い絡め合い味わい、堪能したくて堪らない。伊吹の味を感じれば感じる程、自我を失いそうになる。
 これでは駄目だとゆっくりただ唇が触れるだけにしようとしても、伊吹もひたすらに芳を求めてきた。芳に経験がないせいでとてもではないが上手いキスとは言えない筈だというのにとてつもなく興奮する。しかも伊吹は芳の拙さなど気にもしないでむしろ自分が悪いかのように謝ってきた。
 優しくてかわいくて本当に好きで堪らなくて、芳が口にできたのはせいぜい「俺もだよ」の一言くらいだ。

 何が「俺もだよ」だ。俺が下手なんだよ。

 だがそれもどうでもよくなる。もっと求めてとばかりに積極的な伊吹に溺れそうになりながらも、これではいけないと芳は自分からも求めていった。
 だが伊吹に「したい」と抱きしめられると水をかけられたかのようにハッとなった。

「したい、こんなの何もしないとか無理だろ……俺、男同士とかあまりわからないけどその、俺は入れるほうでも入れられるほうでもいい……芳としたい」

 伊吹が……俺の伊吹がかわいいだけでなくとてつもなく格好がいい……。
 当然だ、俺もお前を抱きたい。

 微笑みを浮かべてそう言えたらどれほどよかっただろうか。しかしこれこそやり方がわからない。いや、一応勉強は始めている。大事で大切な伊吹を、いずれ大事に大切に扱えるよう、余すことなく知識として取り入れ中だ。
 だが今日の予定ではなかった。まだ準備が足りない。主に心の。
 それに最初はこれだという完璧なホテルのスイートでシャンパンを飲み夜景を堪能しながら甘い夜を過ごすと密かに決めている。

「きょ、今日は駄目だ……」
「何で」 
「伊吹……男同士だと男女と違って結構準備がいるんだぞ。しかも負担もかかる」

 もっともらしく年上のできる男のように言えているだろうか。自分だって本当はしたくて堪らないため、欲を堪え気持ちを抑えながらの台詞だけに上手く言えているか余計わからない。
 だが一応大丈夫そうだった。伊吹は芳の態度には疑問はないようで、単に今すぐにできないことに対して不満を覚えているようだ。

「芳のキスで凄いその気にさせられたのに。どーやって鎮めよ……」

 何てことだ……かわいい。それに俺だって……。ああ、母さん。伊吹のおばさん。本当にごめん。

「伊吹がかわいすぎて俺も少しキツい。だから最後まではしないけど、触れてもいいか……?」

 なけなしの勇気と知識と気力を振り絞り、芳は伊吹のシャツをはだけさせ、ズボンの前を寛げさせた。そして確かに熱く硬くなっている伊吹自身を取り出す。
 何だろう……むしろ伊吹が男でよかったとさえ芳は今、思った。女には決して持ち得ない、平らな胸や小さく薄い色の乳首、引き締まった脇腹や鳩尾や腹、そして複雑なものは一切ない股に付いたわかりやすくそして扇情的なぺニス。その何もかもが愛しいだけでなく腰にくる。
 伊吹だからだろうか。伊吹が女でも同じだろうか。

「……芳?」

 切なそうな伊吹の声にだがハッとなる。芳は自分の同じく硬くなっているものを取り出すと、伊吹のと一緒に握った。

「わ、え……っ?」

 一緒に持たれるとは思っていなかったようで伊吹が少し驚いてきた。かわいい、と芳は熱っぽさを孕んだ笑みを伊吹へ向けた。
 これなら準備もいらないし、童貞である芳でもできる。一人でするのにはさすがに慣れているので戸惑いもない。

 勉強中にこのやり方を発見しておいてよかった……。

 おまけに想像以上に気持ちいい。お互いの弱い、いいところが一緒に持って擦ることでさらに感度が高まるようで、どんどんと深みにはまっていった。

「は、ぁ……芳……」
「伊吹……気持ち、いい?」
「ん……ヤバい……」

 俺もヤバい。

 心の中で答えると、芳は伊吹の唇をキスで貪りながら手の動きを速めた。
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