偽りの仮面

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18話

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 改めて付き合うようになってから、芳は伊吹にますます男らしさを感じている。
 いもしない相手に嫉妬までしてくれたかわいい伊吹に対して、芳はもっとこう、男を全面的に出した感じで対応する予定ではあった。

「俺の話を聞け! お前が嫉妬してる相手は、お前自身なんだよ!」
「……!」
「過去のやつなんて存在しないも同然だ、ずっと伊吹が好きだったんだよ! だって、俺の初恋は中学の頃のお前なんだから。ダサいと思ったから、言わなかったけど。……俺、お前以外に恋とかしたことないし、キスだってお前が初めてだったんだからな? 誰かを抱いたことなんかないし、お前以外に抱きたいとも思わない。キスだってお前以外としたいと思ったこともない! こんな俺、お前は呆れるだろうし格好つけて実は童貞だったとか笑えるだろ?」

 そしてフッと笑う。すると伊吹は頬を染めて「そんなことない!」と涙を流してくる。
 そんな予定だった。
 でも実際はとてつもなくさらりと打ち明ける羽目になった上に何故か伊吹には喜ばれた。つい、童貞が好きなのだろうかと思ってしまうところだった。
 伊吹が喜ぶのは、その後に芳が「お前と再会した時、お前に彼女がいて嫉妬に狂いそうだった。本当の俺はこんなに情けないんだ……恥ずかしくてお前の顔も見れない」などと言い、「そんな。打ち明けてくれて嬉しい……ますます俺、芳が好きになったよ……キスして……?」というような展開になった時のはずだった。そして芳は「……今それしたら……どうなるかわからないぞ」などとドヤ顔で言うのだ。
 どうともならないが。
 そしてそんな展開には毛ほどもならなかったが。
 本音を打ち明け、もう格好つける必要はなくなったものの、芳が伊吹より年上で大人である事実は変わらない。
 伊吹が男らしいのは正直格好がいいし、ますます惚れるしでいいことではある。実際は女々しい伊吹が見たい訳ではないし、そもそも男である伊吹を堪らなく好きだと思っている。ただ、年上の大人という立場に芳は相応しくはありたい。
 ということで、やはりホテルのスイートの出番だろう、と芳は気合いを入れた。何故か伊吹には「乙女」だと言われたが、止める気はない。二人の初めてを素晴らしいものにしたい。伊吹も苦笑はしていたかもしれないが、嫌がるほどではなかったように思う。

 ……とりあえず伊吹のアルバイトのスケジュールと合わせるか。

 強引に日程を決めて決行するのは芳としては男らしいと思えないので、少し情けないかもしれないが「共に過ごしたいから休みを合わせたい」と告げた。いっそ伊吹が鈍い子ならよかったのだが、すぐに察したようで微笑みをくれながら休みを教えてくれた上に「合わせたいって提案、何か嬉しい」「週末、あれだったら休み取るから」と言われた。



「ねぇ芳。俺、芳が好きだから芳のしたいようにしたいとは思ってるよ」
「相変わらずかわいいな、伊吹は」
「はは……、それに下世話なこと、言いたくないなとも思う」
「伊吹が言うことなら何だって愛しいから、大丈夫だ」
「……うん、ありがとう……じゃあ言うけどこの部屋……いくらなの……」

 微妙な顔をした伊吹が辺りを見回した。休みを合わせた二人は芳が予約を入れたホテルへ来ていた。伊吹を見ると、微妙というか若干引いているようにも見える。芳がそう口にすると「そうだね、間違ってないかも」と返ってきた。

「何故だ……部屋、気に食わなかったか? もっと広いほうがよかった?」
「何でそうなるかな。むしろ逆……何でこんなに広いの」
「スイートだからだな」
「そんな事実が聞きたいんじゃなかったよ……」
「値段を口にするものじゃないだろ。それに伊吹は気にするな」
「気にもなるよ! スイートって言ってたけど……まさか本格的なスイートを予約するなんて思ってなかった……俺、多分割り勘とかできそうもないんだけど……」

 確かに高かった。だがかけがえのない時間を過ごすことを思えばその価値があると芳は思っている。

「何故割り勘なんて発想になるんだ。伊吹、俺のためを思ってくれるなら、この部屋を楽しんで欲しいし俺に出させて欲しい」
「……芳……。……、……わかったよ、ものには限度ってものがあるし芳がたまに心配でならないけどね、今回だけは受け入れるよ」
「ありがとう、伊吹。あと最近たまに辛辣だね、そんな伊吹も好きだよ……」

 微笑むと芳は伊吹を引き寄せた。伊吹のほうが少しだけ身長が高いものの、全体的な作りが芳からすればほっそりとしているので気にならない。

 ……伊吹もだけど最近の子って背はあるのに一見華奢な子が多いよな。

 伊吹に「最近の子」と言えば「五歳しか変わらないよ」と呆れられるので口にはしないがそっとそんなことを思う。

「何考えてんの」
「伊吹のこと。あと、キスしたいなぁって」
「いいよ」

 フッと小さく笑いながら抱きしめキスをしあった。キスはだんだんと深くなっていく。お互いの舌を味わい、絡め合う。
 伊吹の味を感じながらさらに自分の舌を伊吹の上顎に擦り付けると切なげな吐息が漏れてきた。
 キスはもう何度もしてずいぶん慣れた。伊吹がどうされるのが好きかも把握してきている。だが高ぶる心や嬉しさには一向に慣れない。キスをする度に新鮮で最高の気持ちになる。このままずっとキスをしていたいと思いつつ、芳は何とか唇を離した。

「何……?」
「風呂に……」
「いらない、このまましよ」
「……えっ。いやでも」
「二人きりの、それもするために芳が用意してくれた最高の部屋でさ、芳とキスしてこれ以上俺、我慢できない」

 俺の伊吹が相変わらず男らしい……!

 感動しつつも、せっかくロマンチックな演出をと風呂にはアロマライトを仕込んでいる。そこでもっとイチャイチャしてから二人でバスローブを羽織り、夜景をバックにシャンパンを飲みながら愛を語り合う予定だった。

「芳、どうしたの? ああ、俺ならその、自分ちで先に風呂入って……準備、してるから大丈夫。それに芳は入らなくてもいい匂いだよ」

 ますます男らしい……!

 謎の感動を更に覚えつつ、恋人にそんなことを言われ逡巡する訳などなかった。
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