虎と豹とキリン

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虎と豹の再会

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「幼馴染ってさ、色々近そうでいて気づきにくいものだな、そうちゃん」

 ある日馬見塚 渉(まみづか あゆむ)が不意に込谷 颯一(こみや そういち)の手を取って言ってきた。

「は? どういう意味だよ」

 颯一は怪訝な表情で、一つ年上の幼馴染を見上げる。



 渉は昔から整った顔立ちをしていたし、背も高い。おまけに頭もいいと、三拍子そろっていた。顔はかわいらしいと言われたことはあれど、カッコいいと言われることはまずない、背も普通で頭もそこそこである颯一にとっては少々腹立たしい限りだが、それでもずっと仲よかった。見た目はカッコいいものの、渉はどこか古風でところどころ変った性格ではあるとは思っていた。それをひっくるめても普通に仲いい幼馴染だと。
 その後、渉の親が理事長している寮のある学校に彼が入った関係で、颯一は渉に会うことなくなった。そして颯一も中学卒業したこの度、親の勧めもあり渉と同じ高校へ行くこととなった。
 そこは男子校で基本寮へ入ることになっている。春休みの内にまずその寮へ来た颯一が学校の門まで来ると、案の定閉まっていたためインターフォンを押した。

『はい?』
「あ、すみません。この春からここに入学することになった込谷颯一と言いますが……」
『コミヤ、コミヤ、と……ああ! えーっと、少々お待ち下さいね』

 ああ?

 インターフォン先の反応に少しだけ首を傾げてた後、颯一は待った。
 待つ。そして、待つ。

 ……え、何なの? 待ってってひょっとして何かの隠語なの? 実は入れとか帰れとか、隠されたボタンを探せとかなの?

 そう思ってしまうくらい、かなり待っている気がした。もう一度鳴らしてみようかと思った時「お待たせ!」と声がかかる。

「ああ、いえ……」

 颯一が声のした方を見ると、何やら学生服を着た背の高いイケメンがニコニコこちらを見ている。見たことある顔の気がするなどと思っていると、その生徒がどこかへ電話して「開けていいです」と言った。すると門が自動で開いた。

 え、何。どういうこと……?

「あの……?」
「ああいや、俺が来るまでに開いてたら、もしかしたらいなくなっちゃうかもだろ? だから」

 だからじゃねぇよ。

 颯一は顔が少々引きつるのを堪えながら思った。

 そんな個人的な理由で締めだし食らい、不安にすらなっていた俺の純情を返せ。

「ん? どうかしたのか?」
「……いえ」

 だが触らぬ神に何とやらだと思い、颯一は口をつぐむ。そして目の前の変な生徒をやり過ごそうとした。

「んん? 変なそうちゃんだな」
「は? あんたに変って言われる筋合……て、そうちゃん?」

 言い返そうとして颯一は怪訝な顔をし、首を傾げた。なぜ見知らぬ相手からそんな呼ばれ方されるのか。

 そんな風に呼ぶのは……呼ぶのは。

「え? 渉?」
「そうだよ? ええ、まさか気づいてなかった? 何だよ、冷たいものだな」
「いや……まあ、えっと、その、悪い」

 それくらいさらにイケメン度が上がっていたというのもある。ただ、一番大きいのはお前のやり方に唖然としていたからだ、と言おうと思ったが面倒になり、とりあえず颯一は謝っておく。

「まあいい。じゃあ行こうか」
「は? どこへ?」
「寮だよ。今日からだろ? お前のおばさんから聞いてる。俺案内しようと思って守衛さんに言ってたんだよ、お前来たら呼んでくれって。いやー理事長の息子ってこういう時に便利だよな」
「そんなくだらないことに理事長の息子権限使うなよ……」

 呆れたように颯一は言うも、渉はただニコニコしている。颯一はため息つき、渉の後をついて寮まで歩いていった。
 久しぶりに会った渉はますます背が伸び、本当に格好よくなっていた。ついでに春休みだというのにわざわざ制服を着て迎え出るほどの変わり具合も相変わらずだ。

「ほんと久しぶりだな」

 それでもやはり懐かしいなと思い、颯一はようやくニッコリ背の高い相手を見上げて言った。

「ああ。……そうちゃん、ちょっと変わった?」
「そうか? そんなの言われたことないけど」
「……うーん」

 その時はそんな会話で終わっていた。いっそそのまま終わっていればよかったのにとその翌日の今、手を握られながら颯一は心底思った。
 翌日、まだ同室になる相手も来ていないためのんびり片づけしているところへ渉がやってきた。そして冒頭へ戻る。あろうことか幼馴染はその手をギュっと握りしめてきた。

「やっぱり間違いない……! 俺、昨日久しぶりにそうちゃんに会って以来、胸のトキメキが止まらないんだ。勘違いかなとかも思ったけど、今やはりそうちゃんを見て間違いないなと悟った。これが愛なんだな!」
「…………は?」
「小さい頃から好きは好きだったけど! まさかだよな、ほんと」
「な、に言って……?」
「だって! そうちゃんがこんなにかわいいなんて! あーまじかわぇぇ!」

 こいつ、おかしくなった……!

 颯一は慌てて渉の手を振りほどいた。

「そうちゃん……! すきだあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 途端、渉がニッコリ頬を染めてこちらに向かって飛びつこうとしてきた。
 前から変なヤツではあった、ところどころ変なヤツではあった。見た目がいいだけに残念なところはあった。だがしかし。

 これは、酷い……!

「っひぃ?」

 颯一は思わず蹲った。だがおかげでそこへ飛び込んできた渉の鳩尾に直撃できた。

「っごふっ、ひど……」
「ひ、酷いのはテメーだろが! 冗談にもほどがある……! おら、出て行けバカヤローが」

 鳩尾を押さえ苦しげな幼馴染を見て、颯一はオロオロするどころか少々キレ気味になりつつ足蹴にした。

「ちょ、やめ、いや、冗談じゃなくて、俺、ほっ本気だっ! だからやめ……」

 ひたすら蹴りを入れながら追い出そうとしていると渉がそんなこと言ってきた。

「余計酷いわ! ちょ、いいからとりあえず出ていけ!」

 何なんだ……っ?

 渉を追い出し鍵をかけた後で、颯一は鳥肌だらけの自分の腕を見ながら呆れて心臓をどきどきさせつつ顔を引きつらせた。

 とりあえず二度と一人の時にあのバカを部屋へ入れるのはやめよう。

 外で「そうちゃーん」などと言いながらドアを叩いている幼馴染を本気で無視しながら、颯一は部屋の片づけに集中しようとした。
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