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豹のファーストキス
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昼休み、颯一はぼんやりと自分の席に座っていた。昨夜、友だちから借りたゲームをやってつい寝るのが遅くなり、今とても眠かった。
「なあ込谷て童貞なんだろ」
そんな颯一にクラスメイトがおかしげに聞いてきた。
「……何だよいきなり。藪から棒に失礼すぎるだろ……」
眠さでぼんやりしていた脳がほんのり覚醒しつつ、颯一は友人をジロリと睨む。
「あはは、だってこないだ例の先輩に言われてたじゃん、食堂で。聞こえてきたのん、ふと今思い出して何気に聞いてみた」
「……ぐ。……ていうか聞こえてたんならあえてまた俺に確認する必要ねーだろ……!」
ほんっとあの変態め、と颯一が頬を赤らめとてつもなく嫌な顔していると、友人はまた笑ってきた。
「別にそんな気にすることねーじゃん。俺だって童貞だっつーの」
「え、マジで?」
途端颯一はキラキラした目を友人へ向ける。ある意味早くもこの学校に染まっていたのか、颯一にとって皆はやたら経験者のような気がしていた。
……男と、だけれどもさ。男と経験するくらいなら永遠の妖精でいいとすら思っているけれどもさ。
いや嘘です、永遠の妖精は嫌だ、せめて大人になったらでいいんで経験したい。
「おい、何か知らねぇけど帰ってこいよ」
いつのまにやら眠気も相まってそう考えていた颯一に、友人が微妙な顔をして言っている。
「な、何だよ。ていうかホント? お前も童貞なの?」
「まあな。でもこないだ彼女できたから言ってるうちかもなー」
「よし、死ね」
「ひでぇな。お前も作りゃーいーじゃん」
颯一はむっと友人を睨んだ。その際に改めてその友人の顔を見たが、可もなく不可もなくといった顔をしている。
「そう簡単に作れたら今頃俺だってバラ色の人生謳歌してんだよ。何でお前にいるのに俺にいねーんだ」
「お前が平凡そうだからじゃねーか?」
「っくそ、お前もじゃん! ともが言うならまだしもお前に言われたくはねーよ!」
その友悠は颯一の後ろの席で別の友人と話していたが、颯一の声を聞いて苦笑している。
「でも俺には彼女いるし、お前にはいねーだろ。あ、そっか、ごめん、先輩がいたな」
「……っやめてもろて! あの変態の存在を出すな……。何でアレ出してくんだよマジやめてあげて」
颯一は顔色を青くしながら必死になって首を振る。そんな様子をプッと吹き出しながら見た後で、友人が「そうだ」と頷いてきた。
「あれだ、キスくらいなら経験あんだろ?」
キス「くらい」? キスはそんな程度のものなのか……?
ドラマなどで男女が唇を合わせているのを見て思わず自分の唇をつきだしそうになったり枕でちょっと試してみたことのある勢いの俺は。
そんなこと考えながら颯一は思い出した。そしてすさまじい勢いで頷く。
「っある! あるよそれくらい、ある!」
「え、あんの……?」
途端怪訝そうな声がして颯一こそ怪訝な様子で振り向く。
「……とも?」
「あ、いや」
すると友悠がばつが悪そうな顔をして目をそらした。
「ていうか、マジで? 誰? 誰? まあ込谷ならこの学校じゃねぇよな、どんな子だったん? かわいい子?」
友人は驚きつつ楽しげに聞いてきた。颯一は顔を赤らめつつ、呟くように言う。
「……き、近所のゆかりちゃん……?」
「誰だよ近所のゆかりちゃん! 近所にそんなヤツいたかっ?」
「いきなり出てくんな!」
頭上から唐突に言われたのに対し、颯一はもはや慣れた勢いでツッコミを入れた。それからジロリと声のした方を見る。友人は「おおぅ」と声をあげ、友悠に至っては既に胃の辺りを押さえている。
「だって仕方ないだろ。そうちゃんが気になることをだな! いや、とにかく、ゆかりちゃん誰だ? 近所にそんなヤツいた記憶がないんだが……」
睨まれても気にした様子もなく、颯一と友悠の悩みの種である渉が唐突に現れ、真剣な様子で颯一の肩をつかんで聞いてきた。クラス内では今さら特に驚いた様子もなく、そんな渉を憧れの目で見るか微妙な目で見ている。
「俺に触れんな。離せ変態!」
「ひどいな、そうちゃん。そしてゆかりちゃんについて言わないのなら、もっと酷く触れるぞ?」
酷くって、何……!
颯一は次の瞬間には正直に語っていた。
「すげーかわいい女の子……そ、その……い、今は多分もう五歳に、なってる……」
それを聞いた友人も友悠も「ああ……」と生ぬるい目で、いや、暖かい目で颯一を見てきた。
当時中学二年だった颯一に、とても懐いてくれていた近所の凄くかわいらしい三歳の女の子、ゆかりちゃんはおませさんだった。颯一が好きだといつも言ってくれ、抱っこをせがんでくる。そんなある日、抱き上げた際に「そーちゃ、しゅきー」と不意打ちでチュッとやられたのだ。
「ちゅ、中学二年の春でした……。俺のファーストキスはイチゴ飴の味とよだれ味、というか、その、何ていうか……」
「込谷……いいよ、もう、いい……」
友人が痛々しげな表情で言ってくるのを、颯一はさらに痛々しい思いで受ける。友悠は「確かにそうって小さい子どもに好かれそう。……ていうか対等な扱い受けそう」などと呟きながらそっと苦笑していた。
「ゆかりちゃんめ……! 俺のそうちゃんの大事なファーストキスを……! 許すまじ。だが仕方ない。あれだな、セカンドキスはじゃあ俺と……」
一人、渉だけが怒り心頭で友悠や颯一をドン引きさせてくる。
「何でそーなるんだよ……!」
「そうちゃんとセカンドキス、か……。うん、それはやっぱ大事な初夜で、だな!」
「何言ってんだよ……っていうかそこで赤くなるなよ……! マジお前近寄んなよ、マジで消えてくれよ!」
颯一は悲鳴にも近い勢いで叫び、そして友悠の後ろに隠れる。結果、またいつものように渉は友悠に怒り、そして友悠のいたいけな胃をじわじわと痛めつけていた。
「なあ込谷て童貞なんだろ」
そんな颯一にクラスメイトがおかしげに聞いてきた。
「……何だよいきなり。藪から棒に失礼すぎるだろ……」
眠さでぼんやりしていた脳がほんのり覚醒しつつ、颯一は友人をジロリと睨む。
「あはは、だってこないだ例の先輩に言われてたじゃん、食堂で。聞こえてきたのん、ふと今思い出して何気に聞いてみた」
「……ぐ。……ていうか聞こえてたんならあえてまた俺に確認する必要ねーだろ……!」
ほんっとあの変態め、と颯一が頬を赤らめとてつもなく嫌な顔していると、友人はまた笑ってきた。
「別にそんな気にすることねーじゃん。俺だって童貞だっつーの」
「え、マジで?」
途端颯一はキラキラした目を友人へ向ける。ある意味早くもこの学校に染まっていたのか、颯一にとって皆はやたら経験者のような気がしていた。
……男と、だけれどもさ。男と経験するくらいなら永遠の妖精でいいとすら思っているけれどもさ。
いや嘘です、永遠の妖精は嫌だ、せめて大人になったらでいいんで経験したい。
「おい、何か知らねぇけど帰ってこいよ」
いつのまにやら眠気も相まってそう考えていた颯一に、友人が微妙な顔をして言っている。
「な、何だよ。ていうかホント? お前も童貞なの?」
「まあな。でもこないだ彼女できたから言ってるうちかもなー」
「よし、死ね」
「ひでぇな。お前も作りゃーいーじゃん」
颯一はむっと友人を睨んだ。その際に改めてその友人の顔を見たが、可もなく不可もなくといった顔をしている。
「そう簡単に作れたら今頃俺だってバラ色の人生謳歌してんだよ。何でお前にいるのに俺にいねーんだ」
「お前が平凡そうだからじゃねーか?」
「っくそ、お前もじゃん! ともが言うならまだしもお前に言われたくはねーよ!」
その友悠は颯一の後ろの席で別の友人と話していたが、颯一の声を聞いて苦笑している。
「でも俺には彼女いるし、お前にはいねーだろ。あ、そっか、ごめん、先輩がいたな」
「……っやめてもろて! あの変態の存在を出すな……。何でアレ出してくんだよマジやめてあげて」
颯一は顔色を青くしながら必死になって首を振る。そんな様子をプッと吹き出しながら見た後で、友人が「そうだ」と頷いてきた。
「あれだ、キスくらいなら経験あんだろ?」
キス「くらい」? キスはそんな程度のものなのか……?
ドラマなどで男女が唇を合わせているのを見て思わず自分の唇をつきだしそうになったり枕でちょっと試してみたことのある勢いの俺は。
そんなこと考えながら颯一は思い出した。そしてすさまじい勢いで頷く。
「っある! あるよそれくらい、ある!」
「え、あんの……?」
途端怪訝そうな声がして颯一こそ怪訝な様子で振り向く。
「……とも?」
「あ、いや」
すると友悠がばつが悪そうな顔をして目をそらした。
「ていうか、マジで? 誰? 誰? まあ込谷ならこの学校じゃねぇよな、どんな子だったん? かわいい子?」
友人は驚きつつ楽しげに聞いてきた。颯一は顔を赤らめつつ、呟くように言う。
「……き、近所のゆかりちゃん……?」
「誰だよ近所のゆかりちゃん! 近所にそんなヤツいたかっ?」
「いきなり出てくんな!」
頭上から唐突に言われたのに対し、颯一はもはや慣れた勢いでツッコミを入れた。それからジロリと声のした方を見る。友人は「おおぅ」と声をあげ、友悠に至っては既に胃の辺りを押さえている。
「だって仕方ないだろ。そうちゃんが気になることをだな! いや、とにかく、ゆかりちゃん誰だ? 近所にそんなヤツいた記憶がないんだが……」
睨まれても気にした様子もなく、颯一と友悠の悩みの種である渉が唐突に現れ、真剣な様子で颯一の肩をつかんで聞いてきた。クラス内では今さら特に驚いた様子もなく、そんな渉を憧れの目で見るか微妙な目で見ている。
「俺に触れんな。離せ変態!」
「ひどいな、そうちゃん。そしてゆかりちゃんについて言わないのなら、もっと酷く触れるぞ?」
酷くって、何……!
颯一は次の瞬間には正直に語っていた。
「すげーかわいい女の子……そ、その……い、今は多分もう五歳に、なってる……」
それを聞いた友人も友悠も「ああ……」と生ぬるい目で、いや、暖かい目で颯一を見てきた。
当時中学二年だった颯一に、とても懐いてくれていた近所の凄くかわいらしい三歳の女の子、ゆかりちゃんはおませさんだった。颯一が好きだといつも言ってくれ、抱っこをせがんでくる。そんなある日、抱き上げた際に「そーちゃ、しゅきー」と不意打ちでチュッとやられたのだ。
「ちゅ、中学二年の春でした……。俺のファーストキスはイチゴ飴の味とよだれ味、というか、その、何ていうか……」
「込谷……いいよ、もう、いい……」
友人が痛々しげな表情で言ってくるのを、颯一はさらに痛々しい思いで受ける。友悠は「確かにそうって小さい子どもに好かれそう。……ていうか対等な扱い受けそう」などと呟きながらそっと苦笑していた。
「ゆかりちゃんめ……! 俺のそうちゃんの大事なファーストキスを……! 許すまじ。だが仕方ない。あれだな、セカンドキスはじゃあ俺と……」
一人、渉だけが怒り心頭で友悠や颯一をドン引きさせてくる。
「何でそーなるんだよ……!」
「そうちゃんとセカンドキス、か……。うん、それはやっぱ大事な初夜で、だな!」
「何言ってんだよ……っていうかそこで赤くなるなよ……! マジお前近寄んなよ、マジで消えてくれよ!」
颯一は悲鳴にも近い勢いで叫び、そして友悠の後ろに隠れる。結果、またいつものように渉は友悠に怒り、そして友悠のいたいけな胃をじわじわと痛めつけていた。
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