虎と豹とキリン

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できない豹

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「そいや込谷でもマスかくんか」

 颯一と友悠は部屋の近いクラスメイト二人とまた談話室にてDVD鑑賞していた。見終わると菓子を食べながら喋っていたが、ふと友人がニヤリと聞いてきた。

「っは? どういう意味だよ? つかいきなり何なん」

 颯一は赤くなりながら引いたように友人を見た。その横で友悠も「何聞いてくれてんだ」といった顔で友人を見ている。

「えー別に普通だろ。つかお前らそーゆー話、部屋でせんの? ほら、ネタ交換とか」
「し、しねぇよ!」
「そ、そういえば今日の数学の宿題のさ……」

 颯一は赤くなって否定した。友悠の気持ちを知っているだけに余計に困る。それを察知してか、友悠が話題を変えようとしたが、誰も乗ってくれない。ついでに颯一も乗れない。助け舟はいいが話題が悪い。

「ちょ、藤田今それどーでもいいし。それよか込谷だってすることはするだろ? いくらかわい……ごほん。いくらその、あれだ。周り男しかいねぇからって、つか寧ろそれだからこそ余計にな。お前も男なら当然、するよな?」
「だよな。男のくせにしないとかねえもんな」

 友人たちは最後にはむしろ颯一を煽るかのように言ってきた。それに対し、友悠が微妙な顔になっている。煽られるとすぐ乗ってしまう颯一を思ってかもしれない。

「そ、そりゃ俺だってするよ!」

 案の定、颯一はムキになってしまった。途端友人たちが目を合わせてニヤリとしたことに颯一は気づかなかったが、友悠が微妙な顔のままため息ついている。

「だよなあ。で? おかずは何? 俺は手軽に雑誌が多いけど、こいつはAVが好きみたいでさあ」

 詰め寄るように聞いてくる友人たちを、颯一は顔を引きつらせながら押しやった。

「どーでもいいだろ! ていうか何それ、まさかお前らって人前ですんの?」

 人前でするのかと聞いた途端、友人だけでなく友悠も吹き出してきた。

「な、何で皆笑うんだよ」
「ごめん、そう。だって」
「ったく、お前まじ……! んな訳ねえだろが。本ならトイレ持ち込めるし、DVDはいいとこきたらトイレ行くか、覚えておいて後で風呂で抜いてんだよ。いくら俺らでも、ていうか俺らも基本的に女がいいしヤローの抜いてるとこなんか見たくねえし見せたくねえわ」
「あ、そ、そっそうなんだ……」

 颯一はポカンとしながら素直に頷く。友人がそれをニコニコ見ながら内心「お前のヤってるとこなら見てもいいけどな」と思っていることには当然気づかない。友悠が、話題を変えたくて仕方ない半面、颯一がこういう話に赤くなりながら答えているのを聞きたいと思ってしまう自分に呆れているのにも気づいていない。

「っていうかちょっと待てよ。そんなんしたらトイレ行ったら今抜いてんだなってバレバレじゃねえか!」
「まーそこは暗黙の了解だろ」
「え」

 颯一は困惑して友悠を見た。
 友悠がそれをしに行ってるのだろうなと思ったことなどない。颯一の前でそういう雑誌やDVDを見ていたこともない気がする。

「そう。俺を変な目で見ないでくれる……?」
「あ! ご、ごめん」

 颯一はまた赤くなって目を逸らした。

 変な目で見てたのか。ってどんな目で見てたんだ俺。

 考えていたため、やはりそんな様子を色んな思いで暖かく三人に見られていることなど気づかない。気づいていたらまたムキになって怒っていただろう。

「ということでだな、込谷のネタは何? 教えろよ。つかどういう体勢で抜くんが好きなんだ?」
「え……」
「おい。男の抜いてるところは見たくないんだろ……! そうに変なこと聞くなよ……」

 戸惑っている颯一を守るように、友悠が言ってくれた。

「いやまあそうなんだけどさー。込谷ってちょっとあまり想像つかねえっつか、何かほら、興味湧くだろ?」
「だよな」
「湧かないから! ほんともう……」

 友悠は呆れたように言うと、まだ赤い顔をしている颯一の腕をつかんだ。

「戻るよ、そう」
「あ、うん……」
「えーケチ」
「藤田って、もはや込谷の保護者だよな」

 友人二人は残念そうに言うも、本気ではないので笑って颯一たちを見送った。

「あのさ……」

 部屋へ戻ると颯一は赤い顔のまま友悠に話しかけた。
 正直、言い辛い。したことない、などと。いや、したことないのは少し違う。したことは、何度もある。
 やはり高校生ともなると皆しているものなのだろうかと、だが気になって仕方ない。
 中学の頃に何度かやってみた。その時も友人がそんな話をしているのを耳にして興味が湧いた。手元にそういう雑誌も何もなかったが、エロいこと考えるくらいは緩い想像とはいえ、むしろ中学生なのでお手のものではあった。
 そうするとペニスはちゃんと硬くなる。それを握って上下にするものだとは何となくわかっていたので、部屋でこっそりやってみたりはした。
 硬くなったそれを棒を握るように持つ。どこを持てばいいのかわからなかったので、とりあえず根元辺りを握った。それを前後や上下に動かしてみるのだが、何となく気持ちいいだけで終わってしまう。
 やりすぎると痛いし、やりすぎまでいかなくとも気づけば萎えていて、正直やり方がよくわからなかった。
 射精はしたことある。情けないことに夢精で、だが。だから射精できないのではない。多分やり方が悪いのかもしれない。自分は無精以外では実際に性交しないと射精できないかもしれないと、中学の頃は悩んだこともある。
 悩むようなことでもないと今の颯一なら思うが、当時はそれなりに悩んでいた。彼女ができたこともないしモテない平凡な自分は、一生セックスもできないかもしれないし、そうなると射精することもできないかもしれない、と。だがそんな悩みを友人に言えるわけもなく。
 高校生になると、寮で誰かと同居になるのでしなくても問題ないのではとむしろ気にしないようになっていた。友悠もそんなそぶりを見せてこないし、実は案外皆してないのだと何となく思っていた。そのため先ほど友人の言っていたことはそれなりに衝撃だった。

「どうかした? そう」
「そ、その。……とももやっぱり雑誌とか見て……トイレでしてんの……?」
「え」

 言い出し辛くて顔がとてつもなく熱くなる。ちらりと友悠を見上げるが、まともに見れなくて顔を逸らす。それでも何とか聞いてみたが、なぜか硬直された。

 ……なぜそんなに固まって……? もしかしてともは俺と仲間なんだろうか……。

 だとしたら同士だ。もしかしたら二人で色々やり方を調べたりして協力し合えば、自分でもちゃんとできるようになるかもしれないと思った。友悠が自分を好きだから固まるのだと、すでに目一杯な颯一が気づくはずもない。
 颯一は嬉しくさえ思え、また口を開いた。

「もしかして、ともって……」

 だが最後までは言えなかった。

「そうちゃん、俺はもちろんそうちゃんを想像してするぞ!」

 いきなり部屋にいつものように入ってきた侵入者はとんでもないこと言って颯一の怒りの沸点を思いきり下げてきた。

「いきなりキモいこと言うな! っていうか何で相変わらずいきなりで話入ってくんだよ……キモイしほんともうお前死ね……!」
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