ニコラシカ

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16話

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 百メートルどころか、五百メートル程全力疾走したような気分になった。あり得ない程疲労し、消耗している自分が居た。女性相手でも結構疲れるものだが、郭夜とした後の朝哉は精力全てを放出したような気にさえなった。
 それでも後悔は不思議となかった。むしろかなり気持ちがよかった。あれほど男相手無理、親友相手無理と言っていた癖にと自分が微妙になる。
 終わった後、ぐったりとしていた郭夜にもどこか心を動かされた。いつも男前で、下手をすれば殴ってくる勢いの郭夜が「自分に突っ込まれてぐったりしている」という状態がもしかしたら擽られるのかもしれないなどと思ってみつつ、それに擽られるとか性格悪いな! と自分に突っ込む。
 一応体が心配だったので、その日はそのまま郭夜の部屋に泊まった。
 翌日、案の定かなり尻が辛そうだった。

「なんか、ごめん」
「謝るくらいなら俺をイかせるテクニックでもネットで勉強して身につけろ」

 だが態度は相変わらず「本当に俺のこと好きなのっ?」と聞きたくなるような様だ。

「お、俺別に下手じゃねーもん」
「別に下手だなんて言ってない。でも男同士でのやり方とか知らないだろ」
「そ、それはそうだけど」
「後ろ、慣れると相当それこそヤバイらしい。お前、俺をお前のでどうしようもなく喘がせてみたくない?」

 自分ので快楽に溺れ、喘ぐ郭夜。言われて想像し、即反応する自分の息子を叱りつけてやりたい。だがお互い男同士が初めてでもあれほど気持ちがよかったのなら、慣れていくとかなりヤバイのでは、と朝哉も思ってしまう。
 なるほどと思い、男の沽券もあるしと少し勉強してみることにした。家に居る時にネットで検索してみつつ、ふと「あれ?」っと思ったが、何に対して違和感を感じたのかわからない。
 その後何度か郭夜とセックスをした。少しずつではあるが郭夜も慣れて来ているのではないかと朝哉は思っている。朝哉自身もどこか落ち着かないとはいえ、かなり郭夜との行為に慣れた。
 それよりもなによりも一番落ち着かないのは、と最後にした日から一週間は少なくとも経っている今、朝哉はむぅ、としながら思った。

 あいつ、邪魔……!



 その男、水島 太一(みずしま たいち)は数日前から郭夜の部屋に泊まり込んでいた。

「お前、いい加減帰れ」

 郭夜がため息を吐くと「ヤダ」とニコニコ言ってくる。
 太一は郭夜が一人暮らしをしている今は滅多に会わないが、それでも連絡はたまに取っている郭夜の幼馴染だった。数日前、いきなり「泊めて」とやって来たのだ。その時は別に何も聞かなかったが、さすがに数日ともなると郭夜でも黙ってはいられない。

「だいたいお前、夏鈴ちゃんと住んでるだろ。っていうか彼女と旅行行くはずじゃなかったのか? 鬱陶しいくらい自慢してきてたろ」

 お前のおかげで少し進展しそうだった朝哉とゆっくりできていない。せっかくこの俺がなんとか後ろを一人で慣らすことまでして、あの馬鹿が流されまくり俺と寝る勉強をするまでにこぎつけたというのに。

 むすっとしながら太一を見ると、太一は少し釣り目気味の目を下げながらあからさまにシュンとしている。

「カリンとはケンカ中。家出なう、なの!」
「は?」

 唖然として郭夜が太一を見ると「いーだろ、幼馴染なんだし久しぶりなんだから仲よくしよーよ」などと言ってくる。

「よくあるか。仲直りするか、もしくは家出するなら実家帰れ」
「えー、ヤダよ。だいたい実家は親煩いし。いや郭夜も煩いけど」

 泊めてやっているのにその物言い、とばかりに郭夜が舌打ちしても我関せずといった様子で買ってきた雑誌を菓子を食べながら見ている。

「いつまでいる気だよ」
「気が向くまで?」

 返事に舌打ちしても太一は全く気にしない。朝哉ならいちいち馬鹿みたいに反応してくるのになと思っていると「郭夜、なに笑ってんの? キモいよ?」などとニコニコ言ってくる。

「は? 別に笑ってないけど」
「えー、なんかニヤってしてたよ。あー、わかった! 彼女のことでも考えてたんだろ。やーらしーな」
「……なんでそうなる」

 ムッとして軽く胸倉をつかんだところでやはり気にするでもなく、むしろ「まぁまぁ。熱くなるなよー」と抱き着いてきた。

「うざい」

 引きはがそうとしたところで「なにやってんの?」という声がした。ポカンとして玄関の方向を見ると朝哉がそれこそ顎でも外れるのではないかというくらい口を開けて郭夜と太一を見ている。

「朝哉? って鍵どうした」
「開いてたけど」
「あー、さっき菓子買いに行った時締めるの忘れてた」

 郭夜が怪訝な顔をしていると太一が「テヘ」という音でも聞こえてきそうな、郭夜的に腹立たしい顔で笑ってくる。実際イライラしたように郭夜が太一を見ると朝哉が繰り返して聞いてきた。

「鍵とかどうでもいいよ。だいたい俺だって最初郭夜が部屋にいた時今の郭夜より驚いたんだからな! それよりなにやってんのって言ってんの」

 そしてムッとしたような顔をして近づいてくる。

「誰?」

 それに対し、太一が呑気な顔をして郭夜に聞いてくる。

「……大学の友達」
「ああ」
「ちょっとかぐちゃん? ただの友達じゃねーよ! 親友だろ! あと郭夜が好きな相手だよ!」

 答えた郭夜の言葉に太一が頷いていると憤慨しながら朝哉が言わなくていいことまで訂正してくる。

「っちょ、おま……」
「へー、そうなんだ? ふーん。俺はねー郭夜といい仲の太一だよー。よろしくね」

 郭夜が朝哉に向き直る前に、太一がニコニコと朝哉を見ながらくっついていた郭夜をさらにぎゅっと抱きしめる。何をするんだと郭夜が抗議する前に、だが朝哉が「いい仲ってなんだよ」と太一から郭夜を引き離してきた。助かったと郭夜が礼を言う前に同じように太一が「そのままだよ。ねー郭夜」とニコニコ郭夜に話しかけてくる。言葉を挟めない郭夜はため息をついてからようやく口を改めて開いた。

「いい仲ってほんと、なんだよ。こいつは水島太一な。俺の幼馴染」

 朝哉に太一を紹介していると、今度は「俺にはその人紹介してくれないの?」とショックを受けた風にまた太一が抱き着いてくる。それに対し朝哉が「あーっ」と煩い。とりあえず無視して太一に「さっき言ったろ。大学の友達だって。ああ、名前か。朝哉。野滝朝哉な」と続けた。

「朝哉か」
「呼び捨てにすんなよ!」
「えー。だって郭夜だってしてるのに。じゃあともくんね。よろしく」

 少し悲しそうな顔をしたかと思うとすぐにニッコリと朝哉に笑いかけ、太一は手を振った。

「つかお腹空いたね。ご飯食べよ、郭夜、ご飯」
「煩い」

 マイペースな太一の勢いに警戒気味だった朝哉がハッとなり「お前ほんとなんだよ。帰って家で食えよ」と太一をむぅっとした顔で見る。朝哉の言葉に「普段からお前もな」と内心突っ込みつつも郭夜は怪訝に思っていた。
 この、まるでヤキモチを妬いているかのような朝哉の態度はなんなのだ、と。
 一瞬、もしや朝哉が自分を好きになって……? とそわそわした郭夜だが、すぐに多分犬の習性だ、と思い直す。
 犬は基本、ボスである飼い主が別の生き物にかまっていると、その生き物よりも上位の立場にいるはずだと思っていた自分の順位がわからなくなってしまうらしい。その順位をはっきりさせる為にボスの前でその生き物を攻撃するのだとか。
 別に朝哉が犬だと本当に思っている訳ではないし朝哉がいつも親友だと言ってくる自分が飼い主だと主張するつもりもないが、普段からどうしても犬を彷彿とさせてくるため、今もヤキモチを妬いた犬に対しての飼い主としての対応を考え実行してみることにした。
 ちなみにこれでも朝哉のことが、郭夜は本当に好きである。
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