緋の花

Guidepost

文字の大きさ
65 / 145

65話

しおりを挟む
 放課後、大人しく言われた通り教室に留まり、部活やらアルバイトやらで早々に教室から出ていくクラスメイトを秋星はぼんやり見ていた。時折「どうしたの、橘くんがまだ残ってるの珍しいね」と話しかけられたりしたがニコニコと適当にあしらう。とりあえず、用事がなければ遊びに行かないかという誘いには即「ごめんな、用事があってちょっとだけここで時間潰してるだけやねん」と断りを入れた。
 笑顔ながらに有無を言わせない態度のお陰で「じゃあ一緒にいてあげる」と言ってくる者はいなかった。声をかけてきた者は名残惜しそうに帰っていく。

 クニ、まだかな。

 別に人間観察が好きな訳ではないので既に退屈だったりする。これが他のヴァンパイアならそれなりに人間観察を楽しむだろう。別に誰彼となく襲う者はいないが、人間を色々見ながらその味や反応を想像して楽しむ輩はそれなりにいそうだ。
 秋星も昔なら楽しめたかもしれないが、秋星以外に興味がない今はどうでもいい。家で花を生けたりゴロゴロしたり、チョコレートを食べたりしているほうが楽しい。
 そんなことを考えていると教室の出入口が開いた。匂いはしないが一瞬でも邦一だろうかと思った秋星は不愉快なものを見たような顔をする。

「橘くん」

 入ってきたのは三年生の女子だった。水白 月梨(みじろ るり)という名前だと秋星は把握している。

「何やろか、先輩」

 ニッコリと笑みを向けるが内心は「はよ出てけ」と思っている。はっきり言ってワーウルフは好きじゃない。ヴァンパイアの中には、悪魔と同じようにワーウルフを使い魔としている者もいるが秋星はどうにも好かない。
 月梨も人間の振りをして上手く隠しているのだろうが、秋星にしてみれば見ただけでわかる。
 ふと前に邦一がワーウルフに話しかけられたと言っていたことを思い出す。目の前のワーウルフは確かそいつの身内だったか。

「私は水白って言うの」
「知ってるで」

 思わせ振りに笑う。

 お前の正体くらい、知らん訳ないやろが。

「……ちょっと話があるの。付き合ってくれない?」
「また今度にして。俺、用事あんねん」

 今度も付き合う気はないけどな。

 笑みを浮かべたまま答えると、月梨もニッコリと微笑みながらそばへやって来た。そして顔を近づけてくる。

「……あなたの正体のことに関係あるの。ここじゃ話せないでしょう?」
「秋星?」

 丁度その時、邦一が教室へ入ってきた。そしてポカンとした顔をしている。

「……用事は彼かしら」
「やったら何やの」
「彼はあなたのこと、知ってるの?」
「それで脅してるつもりか、わんこ」

 見据えるように言えば、月梨がじろりと見返してくる。

「……違うわよ。知っているなら一緒に来ればと思っただけ。知らないなら待ってもらえないかしら」
「秋星? あの、その人と用事あるなら俺、どこかで待つか先に帰るけど」
「お前が帰ることないねん、この人が帰ればえぇことやし。いや、ってゆーか俺とクニが帰ったらええんや」
「っちょっと!」

 席から立ち上がり、邦一のほうへ向かう秋星を月梨が引き留めようとする。

「でもこの人は用事あるみたいじゃないか。普段外面いいくせにどうしたんだよ。じゃあ俺、終わるまで待って……」
「待たんでえぇ。……あーもぅ。鬱陶しぃなぁ。何やの? こいつも一緒でええから、手っ取り早く済ませてや」

 本当に教室から出て行きかねない邦一の腕をつかみ、秋星はため息を吐いた。本気で鬱陶しいと思いつつ月梨を見る。

「……ほんと、この人が言うみたいに普段は外面良さそうなのにね。じゃあついてきて」

 ジロリと秋星を見た後に歩き出した月梨に一応続きながら「……この犬が」と呟くと邦一が呆れた顔で見てくる。

「女の子に対して、何て言い草だよ……!」
「煩い。俺はワーウルフ、好かんねん」

 周りに人はいないが、念の為小さな声で呟くと邦一が唖然としてきた。

「はっ?」
「クニ」
「あ、ああ」

 邦一も周りを気にしたようにちらりと視線を向けながら口を閉じた。
 使われていない教室へ入ると、月梨は邦一を見た後に秋星を見てきた。

「その人、人間よね? 本当に大丈夫なのね?」
「やから一緒におるねん。ほんまわんこは警戒心強いなぁ。はよ用件言い」

 秋星の様子にそろそろ慣れてきたのかため息だけ吐くと、月梨は近くにある机に軽くもたれるようにして楽な体勢を取った。

「私の住んでいる付近で最近行方不明者が出たの」
「普通やったらそんなこと俺に言われてもって返すとこやけどな。まぁお前はわんこにしては珍しくアホやないみたいやし、何かあるっちゅうことか」 
「……ほんといい性格してるわね。……ええそうよ。今のところ二人だと思われるんだけど、どちらも女性。まだそんなに騒がれてはいないけどもずっとこのままだとどうかしらね。あと、最初の人は分からないけど、もう一人は行方不明になる前に最近妙なことがあると言っていた」

 気のせいかもしれないが、どうにも気絶しているのか意識がはっきりしない空白の時間が何度かあるのだと漏らしていたという。おまけに実際少し具合が悪そうにも見えた。

「お前の知り合いなんか?」
「そうね。人間だけどいい子で。学校は違うけれども近所に住んでいていつの間にか顔を合わせたら話すようになってた。その子がいなくなってから私、こっそり部屋に忍び込んで探ったりしたの。そうしたら微かだけれども匂いが残ってた」

 一旦口をつぐむと月梨は邦一を見る。そして小さくため息を吐いてから続けた。

「私たちの嗅覚だけはあなたたちよりも優れてるの、知ってるでしょう? とてもあなたと雰囲気の似た匂いだった」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

絶滅危惧種オメガと異世界アルファ

さこ
BL
終末のオメガバース。 人々から嫌われたオメガは衰退していなくなり、かつて世界を支配していたアルファも地上から姿を消してしまった。 近いうち、生まれてくる人間はすべてベータだけになるだろうと言われている。 主人公は絶滅危惧種となったオメガ。 周囲からはナチュラルな差別を受け、それでも日々を平穏に生きている。 そこに出現したのは「異世界」から来たアルファ。 「──俺の運命に会いに来た」 自らの存在意義すら知らなかったオメガの救済と、魂の片割れに出会う為にわざわざ世界を越えたアルファの執着と渇望の話。 独自のオメガバース設定となります。 タイトルに異世界とありますがこの本編で異世界は出てきません。異世界人が出てくるだけです。

処理中です...