緋の花

Guidepost

文字の大きさ
134 / 145

134話

しおりを挟む
 暗さは今の邦一にとって全く問題はないが、意味のわからなさとおどろおどろしさはさすがに少々落ち着かない。

「なあ、これ、どこに繋がってるんだ……?」

 だが秋星に聞いても「着いてからの楽しみやろ、こーゆーのは」とニコニコされるだけだった。
 恐らく人間だった頃だと階段も何も見えなかっただろうと思われるが、見えてもただひたすら岩を削ったかのような間を延々と降りるだけだった。

「……もうずいぶん降りてないか?」
「そぉか?」
「お前ならこういうの、一瞬でたどり着けるんじゃないのか?」
「ここは無理やな。ちゃんとした道辿らんとヤバいとこに迷い込む場合もあるからな。毎回行き方もちょいちょい変わりよるんよなぁ」

 本当に一体どこへ繋がっているんだと邦一は微妙な気持ちになる。だがそれなら多分これ以上何か言っても無駄だろうと口をつぐんだ。
 ようやく秋星が「ここや」とニッコリ振り返って来た時はもうずいぶん時間か経っているものと思ったが、秋星曰く「ものの五分も経ってへんで」らしい。しかも着いたらしいそこは相変わらず真っ暗だった。ただ、奥に赤い灯しが見えており、少なくとも今まで降りてきた階段よりはわずかながらに目に楽しいかもしれない。実際は楽しくも何ともないが。

「着いたって……何なんだ、ここ」

 怪訝な気持ちの邦一にまたニッコリ笑かけると、秋星は何やら呟いた。すると目の前に突然、監視塔のような建物と門が現れる。ポカンとそれを見ていると、秋星は近づいて中から出てきた見たこともないような恐らく魔物だろう、何かと話し、書類に記入している。

「……え?」
「クニ。何してんねん。ずっとそんなとこおったら地面から生えてくるもんに引きずりこまれんで」

 何だそれは……!

 ますます微妙な思いに駆られつつ、邦一は慌てて秋星について行くしかなかった。
 門の中に入ると、暗闇に赤い灯ししかなかった光景がまた変わる。まるで曇った天候や夜の帳が降りる手前のようにほの暗い空が淀んでいる。そして冬を感じさせるような木々の中、時折湖や遠くに灯りがいくつも灯った大きな屋敷などが見える。

「ここ、どこ……」
「Welcome to hell!!」

 邦一が聞くと秋星が芝居がかった様子で恭しげなポーズと共にリズムよく言ってきた。

「……無駄に発音いいのが苛立たしいな……」
「何でやねん」
「っていうか、ここ地獄なの」
「何でやねん……ちゃうわ」
「だってヘルって言っただろ。まぁでもそりゃ違うよな」
「魔界や」
「何だ、魔界か……。……は?」

 納得したように頷いた後に、邦一は唖然とした顔で秋星を見た。

「何」
「いや、だって……魔界……?」
「何や。地獄はありで魔界はなしなんか」
「違う。地獄は本気で言った訳じゃないし、魔界は……前に俺は立ち入られない場所って聞いてたのもあって」

 一生来ることはないと思っていた。
 魔界なのか、と邦一は少し意識して息を吸い込んでみるが、何も違和感はない。人間界と同じような空気かどうかは知らないが、少なくとも息は普通にできている。

「何やそんなことか。そりゃクニが人間のままやったら無理やな。何とか俺と一緒に入り口まで来ることはできても、さっきの門で引っかかるやろし、万が一すり抜けられても中に入ったとたんに中身破裂するなりして死ぬやろな」
「……相変わらずろくでもない……」
「しゃあないやろ。そもそも人間が来る必要のない場所や」
「それはそうだけど……でも魔物は人間界に来てるのに」
「そりゃこっちのもんは人間界に対して対応できる知識と能力があるからな。人間はないやろ」

 そう言われると確かにそうなので何も言い返す言葉はない。

「生態系のヒエラルキーめちゃくちゃにすんのがオチや。今の人間には無理やな」
「まぁそうなんだろうけども……でもそれなら例えば俺みたいに人間から魔物になるのも生態系をめちゃくちゃにする可能性はないのか?」

 別に反論したいのではなく、ただ純粋に疑問だった。それは秋星もわかっているらしく、道々案内しながら説明してくれる。

「魔物の生態にも方法にもよるけどな。例えばクニは男やから人のままでも問題なかったけど、女で人間のまま俺と結ばれるいうならアカンわな」
「あぁ、ダンピール生む可能性があるから……」
「そーいうこと。その場合、人間を魔物にしてから結ばれたほうがえぇわな。やけど人間を魔物にするくらいなら殺すと考える魔物かておるやろし、太古から人とのハーフが存在してきたよぉな魔物やったら相手が人間のままくっついても生態が乱れる訳やないし──」

 そんな話をしているうちに目的の場所へ着いたらしい。ここだと言われて見上げた邦一はまた唖然とした。

「何この城によくあるみたいな外観」
「みたいな、やなくて城やな」

 実際、目の前に見えているのは跳ね橋、そして石が積み上げられた塀にやたらと大きな構えの門だった。

「え」

 またもや唖然としている中、跳ね橋が降りて城門が開いた。まるで映画でも観ているようだが、目の前で現実に起こっている。
 秋星に続いて行くと、中も完全に城の造りそのものだった。

「お前……王子か何なんかなの……?」
「クニが冗談言うとか貴重やな」
「いや、本気で……」
「俺は橘家の純血、橘秋星やな。名前をしかもフルネームで名乗るなんてクニやからこそやで? ありがたく喜びにうち震えてな」

 いや、それは無理だけれども、と邦一は微妙な顔を秋星に向けた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【WEB版】監視が厳しすぎた嫁入り生活から解放されました~冷徹無慈悲と呼ばれた隻眼の伯爵様と呪いの首輪~【BL・オメガバース】

古森きり
BL
【書籍化決定しました!】 詳細が決まりましたら改めてお知らせにあがります! たくさんの閲覧、お気に入り、しおり、感想ありがとうございました! アルファポリス様の規約に従い発売日にURL登録に変更、こちらは引き下げ削除させていただきます。 政略結婚で嫁いだ先は、女狂いの伯爵家。 男のΩである僕には一切興味を示さず、しかし不貞をさせまいと常に監視される生活。 自分ではどうすることもできない生活に疲れ果てて諦めた時、夫の不正が暴かれて失脚した。 行く当てがなくなった僕を保護してくれたのは、元夫が口を開けば罵っていた政敵ヘルムート・カウフマン。 冷徹無慈悲と呼び声高い彼だが、共に食事を摂ってくれたりやりたいことを応援してくれたり、決して冷たいだけの人ではなさそうで――。 カクヨムに書き溜め。 小説家になろう、アルファポリス、BLoveにそのうち掲載します。

【8話完結】いじめられっ子だった俺が、覚醒したら騎士団長に求愛されました

キノア9g
BL
いじめられ続けた僕は、ある日突然、異世界に転移した。 けれど、勇者として歓迎されたのは、僕を苦しめてきた“あいつ”の方。僕は無能と決めつけられ、誰からも相手にされなかった。 そんな僕に手を差し伸べてくれたのは、冷酷と恐れられる騎士団長・ジグルドだった。 なのに、あいつの命令で、僕は彼に嘘の告白をしてしまう――「ジグルドさんのことが、好きなんです」 それが、すべての始まりだった。 あの日から彼は、僕だけをまっすぐ見つめてくる。 僕を守る手は、やさしく、強くて、どこまでも真剣だった。 だけど僕には、まだ知られていない“力”がある。 過去の傷も、偽りの言葉も超えて、彼の隣にいてもいいのだろうか。 これは、いじめられっ子の僕が“愛されること”を知っていく、嘘と覚醒の物語。 全8話。

【完結】取り柄は顔が良い事だけです

pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。 そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。 そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて? ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ! BLです。 性的表現有り。 伊吹視点のお話になります。 題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。 表紙は伊吹です。

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき
BL
隣の席のイケメンに懐かれた平凡男子の話

愛され少年と嫌われ少年

BL
美しい容姿と高い魔力を持ち、誰からも愛される公爵令息のアシェル。アシェルは王子の不興を買ったことで、「顔を焼く」という重い刑罰を受けることになってしまった。 顔を焼かれる苦痛と恐怖に絶叫した次の瞬間、アシェルはまったく別の場所で別人になっていた。それは同じクラスの少年、顔に大きな痣がある、醜い嫌われ者のノクスだった。 元に戻る方法はわからない。戻れたとしても焼かれた顔は醜い。さらにアシェルはノクスになったことで、自分が顔しか愛されていなかった現実を知ってしまう…。 【嫌われ少年の幼馴染(騎士団所属)×愛され少年】 ※本作はムーンライトノベルズでも公開しています。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

絶滅危惧種オメガと異世界アルファ

さこ
BL
終末のオメガバース。 人々から嫌われたオメガは衰退していなくなり、かつて世界を支配していたアルファも地上から姿を消してしまった。 近いうち、生まれてくる人間はすべてベータだけになるだろうと言われている。 主人公は絶滅危惧種となったオメガ。 周囲からはナチュラルな差別を受け、それでも日々を平穏に生きている。 そこに出現したのは「異世界」から来たアルファ。 「──俺の運命に会いに来た」 自らの存在意義すら知らなかったオメガの救済と、魂の片割れに出会う為にわざわざ世界を越えたアルファの執着と渇望の話。 独自のオメガバース設定となります。 タイトルに異世界とありますがこの本編で異世界は出てきません。異世界人が出てくるだけです。

処理中です...