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134話
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暗さは今の邦一にとって全く問題はないが、意味のわからなさとおどろおどろしさはさすがに少々落ち着かない。
「なあ、これ、どこに繋がってるんだ……?」
だが秋星に聞いても「着いてからの楽しみやろ、こーゆーのは」とニコニコされるだけだった。
恐らく人間だった頃だと階段も何も見えなかっただろうと思われるが、見えてもただひたすら岩を削ったかのような間を延々と降りるだけだった。
「……もうずいぶん降りてないか?」
「そぉか?」
「お前ならこういうの、一瞬でたどり着けるんじゃないのか?」
「ここは無理やな。ちゃんとした道辿らんとヤバいとこに迷い込む場合もあるからな。毎回行き方もちょいちょい変わりよるんよなぁ」
本当に一体どこへ繋がっているんだと邦一は微妙な気持ちになる。だがそれなら多分これ以上何か言っても無駄だろうと口をつぐんだ。
ようやく秋星が「ここや」とニッコリ振り返って来た時はもうずいぶん時間か経っているものと思ったが、秋星曰く「ものの五分も経ってへんで」らしい。しかも着いたらしいそこは相変わらず真っ暗だった。ただ、奥に赤い灯しが見えており、少なくとも今まで降りてきた階段よりはわずかながらに目に楽しいかもしれない。実際は楽しくも何ともないが。
「着いたって……何なんだ、ここ」
怪訝な気持ちの邦一にまたニッコリ笑かけると、秋星は何やら呟いた。すると目の前に突然、監視塔のような建物と門が現れる。ポカンとそれを見ていると、秋星は近づいて中から出てきた見たこともないような恐らく魔物だろう、何かと話し、書類に記入している。
「……え?」
「クニ。何してんねん。ずっとそんなとこおったら地面から生えてくるもんに引きずりこまれんで」
何だそれは……!
ますます微妙な思いに駆られつつ、邦一は慌てて秋星について行くしかなかった。
門の中に入ると、暗闇に赤い灯ししかなかった光景がまた変わる。まるで曇った天候や夜の帳が降りる手前のようにほの暗い空が淀んでいる。そして冬を感じさせるような木々の中、時折湖や遠くに灯りがいくつも灯った大きな屋敷などが見える。
「ここ、どこ……」
「Welcome to hell!!」
邦一が聞くと秋星が芝居がかった様子で恭しげなポーズと共にリズムよく言ってきた。
「……無駄に発音いいのが苛立たしいな……」
「何でやねん」
「っていうか、ここ地獄なの」
「何でやねん……ちゃうわ」
「だってヘルって言っただろ。まぁでもそりゃ違うよな」
「魔界や」
「何だ、魔界か……。……は?」
納得したように頷いた後に、邦一は唖然とした顔で秋星を見た。
「何」
「いや、だって……魔界……?」
「何や。地獄はありで魔界はなしなんか」
「違う。地獄は本気で言った訳じゃないし、魔界は……前に俺は立ち入られない場所って聞いてたのもあって」
一生来ることはないと思っていた。
魔界なのか、と邦一は少し意識して息を吸い込んでみるが、何も違和感はない。人間界と同じような空気かどうかは知らないが、少なくとも息は普通にできている。
「何やそんなことか。そりゃクニが人間のままやったら無理やな。何とか俺と一緒に入り口まで来ることはできても、さっきの門で引っかかるやろし、万が一すり抜けられても中に入ったとたんに中身破裂するなりして死ぬやろな」
「……相変わらずろくでもない……」
「しゃあないやろ。そもそも人間が来る必要のない場所や」
「それはそうだけど……でも魔物は人間界に来てるのに」
「そりゃこっちのもんは人間界に対して対応できる知識と能力があるからな。人間はないやろ」
そう言われると確かにそうなので何も言い返す言葉はない。
「生態系のヒエラルキーめちゃくちゃにすんのがオチや。今の人間には無理やな」
「まぁそうなんだろうけども……でもそれなら例えば俺みたいに人間から魔物になるのも生態系をめちゃくちゃにする可能性はないのか?」
別に反論したいのではなく、ただ純粋に疑問だった。それは秋星もわかっているらしく、道々案内しながら説明してくれる。
「魔物の生態にも方法にもよるけどな。例えばクニは男やから人のままでも問題なかったけど、女で人間のまま俺と結ばれるいうならアカンわな」
「あぁ、ダンピール生む可能性があるから……」
「そーいうこと。その場合、人間を魔物にしてから結ばれたほうがえぇわな。やけど人間を魔物にするくらいなら殺すと考える魔物かておるやろし、太古から人とのハーフが存在してきたよぉな魔物やったら相手が人間のままくっついても生態が乱れる訳やないし──」
そんな話をしているうちに目的の場所へ着いたらしい。ここだと言われて見上げた邦一はまた唖然とした。
「何この城によくあるみたいな外観」
「みたいな、やなくて城やな」
実際、目の前に見えているのは跳ね橋、そして石が積み上げられた塀にやたらと大きな構えの門だった。
「え」
またもや唖然としている中、跳ね橋が降りて城門が開いた。まるで映画でも観ているようだが、目の前で現実に起こっている。
秋星に続いて行くと、中も完全に城の造りそのものだった。
「お前……王子か何なんかなの……?」
「クニが冗談言うとか貴重やな」
「いや、本気で……」
「俺は橘家の純血、橘秋星やな。名前をしかもフルネームで名乗るなんてクニやからこそやで? ありがたく喜びにうち震えてな」
いや、それは無理だけれども、と邦一は微妙な顔を秋星に向けた。
「なあ、これ、どこに繋がってるんだ……?」
だが秋星に聞いても「着いてからの楽しみやろ、こーゆーのは」とニコニコされるだけだった。
恐らく人間だった頃だと階段も何も見えなかっただろうと思われるが、見えてもただひたすら岩を削ったかのような間を延々と降りるだけだった。
「……もうずいぶん降りてないか?」
「そぉか?」
「お前ならこういうの、一瞬でたどり着けるんじゃないのか?」
「ここは無理やな。ちゃんとした道辿らんとヤバいとこに迷い込む場合もあるからな。毎回行き方もちょいちょい変わりよるんよなぁ」
本当に一体どこへ繋がっているんだと邦一は微妙な気持ちになる。だがそれなら多分これ以上何か言っても無駄だろうと口をつぐんだ。
ようやく秋星が「ここや」とニッコリ振り返って来た時はもうずいぶん時間か経っているものと思ったが、秋星曰く「ものの五分も経ってへんで」らしい。しかも着いたらしいそこは相変わらず真っ暗だった。ただ、奥に赤い灯しが見えており、少なくとも今まで降りてきた階段よりはわずかながらに目に楽しいかもしれない。実際は楽しくも何ともないが。
「着いたって……何なんだ、ここ」
怪訝な気持ちの邦一にまたニッコリ笑かけると、秋星は何やら呟いた。すると目の前に突然、監視塔のような建物と門が現れる。ポカンとそれを見ていると、秋星は近づいて中から出てきた見たこともないような恐らく魔物だろう、何かと話し、書類に記入している。
「……え?」
「クニ。何してんねん。ずっとそんなとこおったら地面から生えてくるもんに引きずりこまれんで」
何だそれは……!
ますます微妙な思いに駆られつつ、邦一は慌てて秋星について行くしかなかった。
門の中に入ると、暗闇に赤い灯ししかなかった光景がまた変わる。まるで曇った天候や夜の帳が降りる手前のようにほの暗い空が淀んでいる。そして冬を感じさせるような木々の中、時折湖や遠くに灯りがいくつも灯った大きな屋敷などが見える。
「ここ、どこ……」
「Welcome to hell!!」
邦一が聞くと秋星が芝居がかった様子で恭しげなポーズと共にリズムよく言ってきた。
「……無駄に発音いいのが苛立たしいな……」
「何でやねん」
「っていうか、ここ地獄なの」
「何でやねん……ちゃうわ」
「だってヘルって言っただろ。まぁでもそりゃ違うよな」
「魔界や」
「何だ、魔界か……。……は?」
納得したように頷いた後に、邦一は唖然とした顔で秋星を見た。
「何」
「いや、だって……魔界……?」
「何や。地獄はありで魔界はなしなんか」
「違う。地獄は本気で言った訳じゃないし、魔界は……前に俺は立ち入られない場所って聞いてたのもあって」
一生来ることはないと思っていた。
魔界なのか、と邦一は少し意識して息を吸い込んでみるが、何も違和感はない。人間界と同じような空気かどうかは知らないが、少なくとも息は普通にできている。
「何やそんなことか。そりゃクニが人間のままやったら無理やな。何とか俺と一緒に入り口まで来ることはできても、さっきの門で引っかかるやろし、万が一すり抜けられても中に入ったとたんに中身破裂するなりして死ぬやろな」
「……相変わらずろくでもない……」
「しゃあないやろ。そもそも人間が来る必要のない場所や」
「それはそうだけど……でも魔物は人間界に来てるのに」
「そりゃこっちのもんは人間界に対して対応できる知識と能力があるからな。人間はないやろ」
そう言われると確かにそうなので何も言い返す言葉はない。
「生態系のヒエラルキーめちゃくちゃにすんのがオチや。今の人間には無理やな」
「まぁそうなんだろうけども……でもそれなら例えば俺みたいに人間から魔物になるのも生態系をめちゃくちゃにする可能性はないのか?」
別に反論したいのではなく、ただ純粋に疑問だった。それは秋星もわかっているらしく、道々案内しながら説明してくれる。
「魔物の生態にも方法にもよるけどな。例えばクニは男やから人のままでも問題なかったけど、女で人間のまま俺と結ばれるいうならアカンわな」
「あぁ、ダンピール生む可能性があるから……」
「そーいうこと。その場合、人間を魔物にしてから結ばれたほうがえぇわな。やけど人間を魔物にするくらいなら殺すと考える魔物かておるやろし、太古から人とのハーフが存在してきたよぉな魔物やったら相手が人間のままくっついても生態が乱れる訳やないし──」
そんな話をしているうちに目的の場所へ着いたらしい。ここだと言われて見上げた邦一はまた唖然とした。
「何この城によくあるみたいな外観」
「みたいな、やなくて城やな」
実際、目の前に見えているのは跳ね橋、そして石が積み上げられた塀にやたらと大きな構えの門だった。
「え」
またもや唖然としている中、跳ね橋が降りて城門が開いた。まるで映画でも観ているようだが、目の前で現実に起こっている。
秋星に続いて行くと、中も完全に城の造りそのものだった。
「お前……王子か何なんかなの……?」
「クニが冗談言うとか貴重やな」
「いや、本気で……」
「俺は橘家の純血、橘秋星やな。名前をしかもフルネームで名乗るなんてクニやからこそやで? ありがたく喜びにうち震えてな」
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