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135話
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かなり大きな建物なのに中は人気がなかった。時折外の空を見るとコウモリを幾度も見かけるくらいだろうか。
「……誰もいないのか?」
「いや、一応おるで。人間界引退したもんとか世話するもんとかな。誰も住まへん建物なんか魔界でも朽ちてくだけやしな。やけど基本的には人間界におるやん、俺の家族」
「……まぁ。他の親族とかは?」
「そりゃ色々やわ。魔界におるんもおれば、ババさまたちみたいに人間界の別のとこ住んでるもんもおるで」
「人間と変わらなかった」
「そんなもん、そんな変わるかぃな」
「あと、こんなやたらデカイ城に一族集結してる訳じゃないんだな」
「お前の家かて親子しか住んでへんやろ」
「規模違いすぎて並べる意味わからないからな、それ」
そんなことを話ながら、長い廊下を歩いた。その間、邦一は何となくずっと違和感を覚えていたのだが、しばらくしてようやく理由がわかった。カツンカツンと石の上を歩いているような音が鳴っているのが足の振動でわかるのだが、何故か音が響かない。こんな石でできていそうな中だとかなり反響しそうなものなのにまるで音がどこかに吸収されているかのようだ。
「どないしたん?」
ようやく目指す部屋に着いたのか、重苦しい扉を開けて中へ促しながら秋星が聞いてきた。
「……いや……何か音が全然響かないなと」
「あー。だって響いたら煩いやろ? 皆な、騒がしい音は好きちゃうねん」
「まぁ……、……、……え、それだけ?」
「それだけって何? 他にも理由いんの?」
「いや、何で響かないのかなとか」
「そんなもん、響かんよぉにしてるだけやん。大したことちゃうで。クニかて俺の部屋で俺が着物脱ぎ散らかしてたら邪魔やなて思って片付けるやろ。一緒やん」
「全然一緒じゃないからな」
秋星はたまに例えがおかしい。微妙な顔になりながら呆れていると腕を引っ張られた。
「何」
「何て。音とかどぉでもよぉない? ヤんねん。明るないやろ、ここ。人気もないし?」
確かに外の雰囲気も、部屋の中も暗い。そして誰かがいる気配は全くしない。そういえばそんな話をしていたのだったと思い出すが、既に興奮は引いている。
「俺の見た目、普段の様子に戻ってると思うけど……」
「そんなん、またヤり始めたらすぐやろ」
「……。あと、魔界が気になってそんな気にならないんだけど」
「案内はまた日を改めてしたるよ。そん時に俺の父方の祖父母とかな、引退してるもんにも会わせたる。俺のパートナーやて紹介したいしな」
「あー……」
それは……何となく緊張する、と邦一は微妙な顔になる。
「何なん? 嫌なんやったら別にえぇよ」
「いや。……そういうことはちゃんとしておいたほうがいいだろ。むしろ今先にするべきじゃないのか」
「アホ言いなや。今はヤんねやから」
「そこから離れないの……?」
「当たり前や」
妖艶な笑みを浮かべると、秋星はさらに邦一の腕を引いてくる。広い部屋は相当薄暗い。人間の頃だったらあまり見えなかったかもしれないが、魔物となった今でも普段は人間だった頃と変わらない容姿のせいか物凄く目がいい訳ではない。それでも目を凝らすとかなり広い部屋の奥にある天蓋付きのベッドに気づいた。秋星はそこへ誘ってくる。
そのまま押し倒され、これではどちらがどっちかわからないなと邦一は内心苦笑した。
秋星がゆっくりと顔を近づけてくる。間近で見ても男とは思えないほどきめ細やかな肌をしている。
「そういえば秋星って髭、生えないの」
「……何で今そんなん聞くん。ほんまクニは色気ないなぁ」
顔が近いまま、秋星が呆れた表情をしてきた。
「なくて結構」
「……髭が生える前に成長、止まってるみたいやな。まぁ生えるん、俺遅かったみたいやしな」
遅かったという言葉を少々忌々しそうに言う秋星を、邦一はじっと見た。
「あぁ……なるほど……。高校入ってから急に年上の俺より大人っぽくなってたみたいだけど……そっか、やっぱ止まるんだな」
「せやな。……前はな、それ、ちょっと嫌やってん」
今すぐに行為を始めるのを諦めたのか、覆い被さるのをやめた秋星は邦一の隣に転がった。そのせいで表情は見えなかったが、言葉だけでなく実際勢いのない言い方に聞こえた。
「嫌?」
「だってな、俺はもうこのままや。やのにクニはまだこの先もどんどん成長や老化してくんやったやろ。それがちょっとな、まぁ、人間やなぁって」
やはり秋星は憂えていたのだ。そびえ立つほどのプライドを持つ秋星が、言い方は微妙だが人間ごときの寿命に対して憂えていたのだと思うとほんのり心臓が軋んだ。
「……人間になりたかった?」
「……アホ言いなや?」
邦一の言葉に対しじろりと睨んできた後にため息を吐き、「……何で俺は人間やないんやろうって思ったことは……ある」と呟いてきた。
どんな時にそう思ったのだろう。
ヴァンパイアは雨風といった自然の力すら操ることができると聞いたことがある。雨を鬱陶しがってだらけている秋星を見ると、とてもそうには思えないが、そういえば日本では鬼は神だとも思われている。ヴァンパイアも吸血「鬼」だ。そんな神のような力を持つほどの存在が「何故人間ではないのか」と思うなんてと邦一は秋星の髪をそっと撫でた。
秋星の髪は普段も今も銀色ではない。ただ、本来の色は銀色であることを今の邦一は知っている。
そういえば紋様すら見たことがないなとふと気づいた。邦一を思ってか、ずっと過去のことを隠しているのと同様、本来の姿も見せないのかもしれないが、そろそろ思い出したことを明かしてもいいのかもしれない。そして秋星も包み隠さない本来の姿を邦一にさらけ出して欲しい。
魔界のこんな城ではどこか浮いた気がする秋星の着物を、邦一は体を起こしてそっと乱した。
「……誰もいないのか?」
「いや、一応おるで。人間界引退したもんとか世話するもんとかな。誰も住まへん建物なんか魔界でも朽ちてくだけやしな。やけど基本的には人間界におるやん、俺の家族」
「……まぁ。他の親族とかは?」
「そりゃ色々やわ。魔界におるんもおれば、ババさまたちみたいに人間界の別のとこ住んでるもんもおるで」
「人間と変わらなかった」
「そんなもん、そんな変わるかぃな」
「あと、こんなやたらデカイ城に一族集結してる訳じゃないんだな」
「お前の家かて親子しか住んでへんやろ」
「規模違いすぎて並べる意味わからないからな、それ」
そんなことを話ながら、長い廊下を歩いた。その間、邦一は何となくずっと違和感を覚えていたのだが、しばらくしてようやく理由がわかった。カツンカツンと石の上を歩いているような音が鳴っているのが足の振動でわかるのだが、何故か音が響かない。こんな石でできていそうな中だとかなり反響しそうなものなのにまるで音がどこかに吸収されているかのようだ。
「どないしたん?」
ようやく目指す部屋に着いたのか、重苦しい扉を開けて中へ促しながら秋星が聞いてきた。
「……いや……何か音が全然響かないなと」
「あー。だって響いたら煩いやろ? 皆な、騒がしい音は好きちゃうねん」
「まぁ……、……、……え、それだけ?」
「それだけって何? 他にも理由いんの?」
「いや、何で響かないのかなとか」
「そんなもん、響かんよぉにしてるだけやん。大したことちゃうで。クニかて俺の部屋で俺が着物脱ぎ散らかしてたら邪魔やなて思って片付けるやろ。一緒やん」
「全然一緒じゃないからな」
秋星はたまに例えがおかしい。微妙な顔になりながら呆れていると腕を引っ張られた。
「何」
「何て。音とかどぉでもよぉない? ヤんねん。明るないやろ、ここ。人気もないし?」
確かに外の雰囲気も、部屋の中も暗い。そして誰かがいる気配は全くしない。そういえばそんな話をしていたのだったと思い出すが、既に興奮は引いている。
「俺の見た目、普段の様子に戻ってると思うけど……」
「そんなん、またヤり始めたらすぐやろ」
「……。あと、魔界が気になってそんな気にならないんだけど」
「案内はまた日を改めてしたるよ。そん時に俺の父方の祖父母とかな、引退してるもんにも会わせたる。俺のパートナーやて紹介したいしな」
「あー……」
それは……何となく緊張する、と邦一は微妙な顔になる。
「何なん? 嫌なんやったら別にえぇよ」
「いや。……そういうことはちゃんとしておいたほうがいいだろ。むしろ今先にするべきじゃないのか」
「アホ言いなや。今はヤんねやから」
「そこから離れないの……?」
「当たり前や」
妖艶な笑みを浮かべると、秋星はさらに邦一の腕を引いてくる。広い部屋は相当薄暗い。人間の頃だったらあまり見えなかったかもしれないが、魔物となった今でも普段は人間だった頃と変わらない容姿のせいか物凄く目がいい訳ではない。それでも目を凝らすとかなり広い部屋の奥にある天蓋付きのベッドに気づいた。秋星はそこへ誘ってくる。
そのまま押し倒され、これではどちらがどっちかわからないなと邦一は内心苦笑した。
秋星がゆっくりと顔を近づけてくる。間近で見ても男とは思えないほどきめ細やかな肌をしている。
「そういえば秋星って髭、生えないの」
「……何で今そんなん聞くん。ほんまクニは色気ないなぁ」
顔が近いまま、秋星が呆れた表情をしてきた。
「なくて結構」
「……髭が生える前に成長、止まってるみたいやな。まぁ生えるん、俺遅かったみたいやしな」
遅かったという言葉を少々忌々しそうに言う秋星を、邦一はじっと見た。
「あぁ……なるほど……。高校入ってから急に年上の俺より大人っぽくなってたみたいだけど……そっか、やっぱ止まるんだな」
「せやな。……前はな、それ、ちょっと嫌やってん」
今すぐに行為を始めるのを諦めたのか、覆い被さるのをやめた秋星は邦一の隣に転がった。そのせいで表情は見えなかったが、言葉だけでなく実際勢いのない言い方に聞こえた。
「嫌?」
「だってな、俺はもうこのままや。やのにクニはまだこの先もどんどん成長や老化してくんやったやろ。それがちょっとな、まぁ、人間やなぁって」
やはり秋星は憂えていたのだ。そびえ立つほどのプライドを持つ秋星が、言い方は微妙だが人間ごときの寿命に対して憂えていたのだと思うとほんのり心臓が軋んだ。
「……人間になりたかった?」
「……アホ言いなや?」
邦一の言葉に対しじろりと睨んできた後にため息を吐き、「……何で俺は人間やないんやろうって思ったことは……ある」と呟いてきた。
どんな時にそう思ったのだろう。
ヴァンパイアは雨風といった自然の力すら操ることができると聞いたことがある。雨を鬱陶しがってだらけている秋星を見ると、とてもそうには思えないが、そういえば日本では鬼は神だとも思われている。ヴァンパイアも吸血「鬼」だ。そんな神のような力を持つほどの存在が「何故人間ではないのか」と思うなんてと邦一は秋星の髪をそっと撫でた。
秋星の髪は普段も今も銀色ではない。ただ、本来の色は銀色であることを今の邦一は知っている。
そういえば紋様すら見たことがないなとふと気づいた。邦一を思ってか、ずっと過去のことを隠しているのと同様、本来の姿も見せないのかもしれないが、そろそろ思い出したことを明かしてもいいのかもしれない。そして秋星も包み隠さない本来の姿を邦一にさらけ出して欲しい。
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