63 / 150
63話
しおりを挟む
「ここは──」
新しい道を進み、見つけた歪からなんとか出てきたウィルフレッドは辺りを見渡した。景色からするとおそらくここもケルエイダ王国の中だろう。多分だが国境外には出ていないと思われる。だがそこまでさほど歩いたとは思えないというのに今までと違い、全然見覚えのない景色だった。元の場所から離れたところへ出てきたように思える。
レッドに「フェルとここで待っていてください」と言われ、どのみち好奇心があっても無駄に動くのは趣味ではないつもりのウィルフレッドは素直に待機していた。一応歪が閉じないよう見張っていて欲しいと言われているので役目がない訳でもない。なので拗ねる理由もない。
「ゴーレムが現れる前に言いかけていたあの仕掛けの理由、罠以外は結局何を言おうとしていたのだ」
待っている間にウィルフレッドがフェルに問えば「ああ」とフェルは声に出して話しかけてきた。
「結果が既に出ましたが、ゴーレムを倒すことで道が現れるようにしていたのだと」
「ああ、確かにそうだったが……わざわざ俺たちのためにか」
「まさか。あからさまだったでしょう。万が一部外者が紛れ込んでも普通なら避けて通るかと」
「そうだな。馬鹿眼鏡は大興奮であっさり手に取りやがったが」
「人間の欲とはすさまじいですね。まあ、結果ゴーレムが現れる訳です。そうすると作成者はその罠が作動したことを知れる。おまけに普通なら作動させた者はゴーレムにやられるでしょう」
「なるほど」
「そして作成者に対してゴーレムは忠実です。なのであれを作動させないとこの道がない状態にしておき、作成者が作動させるとゴーレムは命令通り体を崩して道を開くだけという訳です。作成者ならゴーレムを倒す必要もないですし。分かりませんが、もしゴーレムが倒されることなく自ら崩れていたなら仕掛けを解いても我々が来た道もそのままだったのではないか、と。そうするとこの歪から魔物を放り込んだとしても道はそのままなので魔物は好きに徘徊し、いくつかの歪からまた外へ出られます。あの台座の石も魔力が強そうでしたし、バジリスクといった程度の魔物はあの石をむしろ避けるでしょうね」
エメリーはあれら魔物以下か、とウィルフレッドは口元をニヤリと歪める。
「ということはあの場所は何度も利用するつもりだったと考えられるな。広げていくなりして。拠点にするつもりだったか……。あと少なくとも、もしここに術者なりその作成者が未だにいたとしても作動に気づいて既に逃げているだろうな」
「そうでしょうね」
そんな話をしているとレッドとエメリーが戻ってきた。やはり特に怪しい人物どころか何の痕跡もなかったらしい。城からここへ来るまでにも数日経っているので元々既にいなかったかもしれないが、新たに現れた魔物を思うとまだ潜んでいたかもしれない。だが何の痕跡もないということはやはり完全に気づかれたということだろう。ウィルフレッドはエメリーに「貴様のせいだ」と言ったが怪訝な顔をされただけだった。
結局どうやって魔物を呼ぶなりなんなりしていたかは分からないままだ。魔物に関しては今人間界に存在していると思われていた魔物よりは強いため、どこからか呼び寄せたか何かをしたと思われるのだが、方法が分からないのでは対処のしようがない。ただ、ウィルフレッドからすればあの程度の魔物は実際のところ強いとは言えない。なのでこの歪を作った者ならさほど難しいことでもなかったのかもしれない。それに魔物は色んな意味で人間を好む。だからこの歪にさえ魔物を誘い込むなりなんなりすれば後は操る必要もなくあらゆる道から、村やら人間やらを襲わせることは出来ただろうと思った。もっと強い魔物ならプライドが高く思慮深くなるはずなので魔王でもなければ簡単には利用できないはずだ。
……まあ、とりあえずはこの歪さえ閉じれば今のところは大丈夫だろう。とはいえそいつを捕まえないことには根本的な解決にはならんけどな。
ウィルフレッドは二人にこの場所がどこなのか把握し、その上でどちらかが大きくなったフェルに乗ってルイをここまで連れてこいと命じた。
「首輪を外したフェルを、ウィルフレッド様なしで我々が扱えるでしょうか」
エメリーに聞かれ、それくらいフェルなら問題ないわと言い返そうとしてウィルフレッドはハッとなった。自分がいないとフェルを扱えないという前提で今回の遠征も連れてきてもらっていたし、この歪の調査もルイに認めてもらっていたようなものだと思い出す。
「だ、大丈夫だ。俺が今から言い聞かせる。言い聞かせるから人を乗せて往復するくらいは問題ない。薬は抵抗なく飲むやつだがこれでも頭のいい魔獣なのだ。お前たちを襲うこともしない。その、あれだ。魔物を倒したりとかはさすがに俺がいないと難しいけどな!」
我ながら少々苦しい言い訳だとウィルフレッドは思ったが、フェルのことを何も知らないせいもありレッドもエメリーも納得したようだ。どちらもそれぞれタイプは違うが癖のある性格をしている割に案外チョロいなとウィルフレッドは内心ほくそ笑む。
レッドとエメリーのどちらがルイを迎えに行くかは、結局レッドになったようだ。本来ならルイの側近であるエメリーの仕事かもしれないが、普段からフェルと接する機会の多いレッドのほうがより安心だろうという理由らしい。エメリーは「二人きりにする組合せでもないですし」と何やら意味の分からないことをぼそりと呟いていたが、待てと言っても石を取るような変わり者だと改めて認識しているウィルフレッドは流すことにした。
ルイを呼びに行かせたのは、歪を閉じるのも多分術者とまではいかなくともルイ程度の魔力がないと出来ないだろうと思われたからだ。エメリーも普通に考えたら強い魔法を使えるが、さほど特化してはいない。レッドは剣などは強いが魔力は低い。魔力を無効化出来る才能はありそうだが、この歪を閉じる力はないだろう。フェルも多分かなりの魔力を持っている可能性があるが、フェルやルイが言っていたようにこれは人間が作ったものなのだろう。術者なりなんなりが魔物である可能性よりは人間である可能性のほうが高い。ということはフェルよりもルイのほうが扱いやすいはずだとウィルフレッドは判断した。
後で分かったが襲われた村からは相当離れた場所だったようだ。フェルの足だからこそすぐにルイを連れてレッドは戻ってきたが、歩きで向かっていたら少なくとも日が暮れていただろうと思われた。
「歪の中は空間も歪んでいるんだろうね。だから距離感がおかしくなっているのかもしれない」
案の定なんとか歪を塞いだルイは、そんなことを言っていた。
新しい道を進み、見つけた歪からなんとか出てきたウィルフレッドは辺りを見渡した。景色からするとおそらくここもケルエイダ王国の中だろう。多分だが国境外には出ていないと思われる。だがそこまでさほど歩いたとは思えないというのに今までと違い、全然見覚えのない景色だった。元の場所から離れたところへ出てきたように思える。
レッドに「フェルとここで待っていてください」と言われ、どのみち好奇心があっても無駄に動くのは趣味ではないつもりのウィルフレッドは素直に待機していた。一応歪が閉じないよう見張っていて欲しいと言われているので役目がない訳でもない。なので拗ねる理由もない。
「ゴーレムが現れる前に言いかけていたあの仕掛けの理由、罠以外は結局何を言おうとしていたのだ」
待っている間にウィルフレッドがフェルに問えば「ああ」とフェルは声に出して話しかけてきた。
「結果が既に出ましたが、ゴーレムを倒すことで道が現れるようにしていたのだと」
「ああ、確かにそうだったが……わざわざ俺たちのためにか」
「まさか。あからさまだったでしょう。万が一部外者が紛れ込んでも普通なら避けて通るかと」
「そうだな。馬鹿眼鏡は大興奮であっさり手に取りやがったが」
「人間の欲とはすさまじいですね。まあ、結果ゴーレムが現れる訳です。そうすると作成者はその罠が作動したことを知れる。おまけに普通なら作動させた者はゴーレムにやられるでしょう」
「なるほど」
「そして作成者に対してゴーレムは忠実です。なのであれを作動させないとこの道がない状態にしておき、作成者が作動させるとゴーレムは命令通り体を崩して道を開くだけという訳です。作成者ならゴーレムを倒す必要もないですし。分かりませんが、もしゴーレムが倒されることなく自ら崩れていたなら仕掛けを解いても我々が来た道もそのままだったのではないか、と。そうするとこの歪から魔物を放り込んだとしても道はそのままなので魔物は好きに徘徊し、いくつかの歪からまた外へ出られます。あの台座の石も魔力が強そうでしたし、バジリスクといった程度の魔物はあの石をむしろ避けるでしょうね」
エメリーはあれら魔物以下か、とウィルフレッドは口元をニヤリと歪める。
「ということはあの場所は何度も利用するつもりだったと考えられるな。広げていくなりして。拠点にするつもりだったか……。あと少なくとも、もしここに術者なりその作成者が未だにいたとしても作動に気づいて既に逃げているだろうな」
「そうでしょうね」
そんな話をしているとレッドとエメリーが戻ってきた。やはり特に怪しい人物どころか何の痕跡もなかったらしい。城からここへ来るまでにも数日経っているので元々既にいなかったかもしれないが、新たに現れた魔物を思うとまだ潜んでいたかもしれない。だが何の痕跡もないということはやはり完全に気づかれたということだろう。ウィルフレッドはエメリーに「貴様のせいだ」と言ったが怪訝な顔をされただけだった。
結局どうやって魔物を呼ぶなりなんなりしていたかは分からないままだ。魔物に関しては今人間界に存在していると思われていた魔物よりは強いため、どこからか呼び寄せたか何かをしたと思われるのだが、方法が分からないのでは対処のしようがない。ただ、ウィルフレッドからすればあの程度の魔物は実際のところ強いとは言えない。なのでこの歪を作った者ならさほど難しいことでもなかったのかもしれない。それに魔物は色んな意味で人間を好む。だからこの歪にさえ魔物を誘い込むなりなんなりすれば後は操る必要もなくあらゆる道から、村やら人間やらを襲わせることは出来ただろうと思った。もっと強い魔物ならプライドが高く思慮深くなるはずなので魔王でもなければ簡単には利用できないはずだ。
……まあ、とりあえずはこの歪さえ閉じれば今のところは大丈夫だろう。とはいえそいつを捕まえないことには根本的な解決にはならんけどな。
ウィルフレッドは二人にこの場所がどこなのか把握し、その上でどちらかが大きくなったフェルに乗ってルイをここまで連れてこいと命じた。
「首輪を外したフェルを、ウィルフレッド様なしで我々が扱えるでしょうか」
エメリーに聞かれ、それくらいフェルなら問題ないわと言い返そうとしてウィルフレッドはハッとなった。自分がいないとフェルを扱えないという前提で今回の遠征も連れてきてもらっていたし、この歪の調査もルイに認めてもらっていたようなものだと思い出す。
「だ、大丈夫だ。俺が今から言い聞かせる。言い聞かせるから人を乗せて往復するくらいは問題ない。薬は抵抗なく飲むやつだがこれでも頭のいい魔獣なのだ。お前たちを襲うこともしない。その、あれだ。魔物を倒したりとかはさすがに俺がいないと難しいけどな!」
我ながら少々苦しい言い訳だとウィルフレッドは思ったが、フェルのことを何も知らないせいもありレッドもエメリーも納得したようだ。どちらもそれぞれタイプは違うが癖のある性格をしている割に案外チョロいなとウィルフレッドは内心ほくそ笑む。
レッドとエメリーのどちらがルイを迎えに行くかは、結局レッドになったようだ。本来ならルイの側近であるエメリーの仕事かもしれないが、普段からフェルと接する機会の多いレッドのほうがより安心だろうという理由らしい。エメリーは「二人きりにする組合せでもないですし」と何やら意味の分からないことをぼそりと呟いていたが、待てと言っても石を取るような変わり者だと改めて認識しているウィルフレッドは流すことにした。
ルイを呼びに行かせたのは、歪を閉じるのも多分術者とまではいかなくともルイ程度の魔力がないと出来ないだろうと思われたからだ。エメリーも普通に考えたら強い魔法を使えるが、さほど特化してはいない。レッドは剣などは強いが魔力は低い。魔力を無効化出来る才能はありそうだが、この歪を閉じる力はないだろう。フェルも多分かなりの魔力を持っている可能性があるが、フェルやルイが言っていたようにこれは人間が作ったものなのだろう。術者なりなんなりが魔物である可能性よりは人間である可能性のほうが高い。ということはフェルよりもルイのほうが扱いやすいはずだとウィルフレッドは判断した。
後で分かったが襲われた村からは相当離れた場所だったようだ。フェルの足だからこそすぐにルイを連れてレッドは戻ってきたが、歩きで向かっていたら少なくとも日が暮れていただろうと思われた。
「歪の中は空間も歪んでいるんだろうね。だから距離感がおかしくなっているのかもしれない」
案の定なんとか歪を塞いだルイは、そんなことを言っていた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
712
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる