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107話
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リストリアには現在術者が五人いる。
昨年ウィルフレッドとアレクシアが滞在していた時にアレクシアが紹介されたのは三人だったが、丁度仕事でいなかった二人を含め、腕のいい術者が五人所属しているという。
ケルエイダのように大国でもニ、三人が大半なので五人でも数は多いと思われる。伝統ある術をしっかりと受け継ぐためもあるのだろう。
だが過去にはさらにもう一人いたのだという。その一人はクリードが以前知っている限りではリストリアの方針に合わなかったということだった。
ルイの「クリード、ところでウィルが聞いていた術者については分かったのか?」という質問に対し、クリードは「僕が調べられた範囲でだが」と頷いてきた。
「名前はザフィア。年は確か四十前後だったか。かなり力のある術者だった。能力は高いが、ただ前にウィルフレッドにも言ったようにリストリアの方針が合わなくて周囲とは反発していたそうだ」
「ねえ、リストリアの方針ってどんな? あと彼はどう合わなかったの?」
ラルフが口を挟んできた。だがウィルフレッドも少々気になったので内心うんうんと頷く。
「オートマタの技術は知っての通り昔から伝統的なものとして受け継がれている。伝統工芸とかと同じようにね。高く質のいい魔力が必要ではあるけれども、あくまでも芸術の一つだね」
それはウィルフレッドも知っているし、自分は国を統べる予定ではあるものの別にひたすら片っ端から戦争がしたい訳ではないのもあり、リストリアの伝統魔法はそういうものだと思っていた上で戦力に使えるなどとも考えたことはない。
「でも彼はその高い能力を国の宝というよりは政治的戦略に生かさないのはもったいないと主張していたらしいんだ。とはいえ本人は軍人志向でも国を動かしたい訳でもなくてね、ただひとえに魔法に注がれていたというか。質のいい魔力をひたすら活かしたい、使いたい、向上させたいといった、ある意味術者としての欲望というのかな。とはいえ彼の考えは危険思考と見なされた」
周囲とひたすら反発し合い、結果捕らえられた。だが逃亡したのだという。
「僕を含めた王子、王女は聞かされていなかった。確かに何年も前の話で僕自身まだ成人もしていなかったらしいから妹や弟たちはもっと小さかった訳だしね」
「その術者を追って捕まえようとはしなかったの?」
アレクシアが聞くとクリードは苦笑した。
「もちろんしたと思うよ。だが彼は中々腕のいい術者だった。実は今でも秘密裏に探してはいるらしい。側近の一人が祖父並みに年配でね。これらの話は彼に聞いたんだ。よく知っていたし、彼は本当に信頼できる人なので安心して欲しい」
クリードの話を聞けば聞くほど、その術者が怪しいように思えた。とはいえ、一介の、と言うには能力が高かったにしてもただの術者が一人でケルエイダ相手にオートマタを使って攻撃してくるだろうかという疑問が残る。
「誓って僕を含めたリストリアの王族はケルエイダを攻撃しようなどと思っていない」
クリードも同じ考えに至っていたからであろう、また先ほども口にしたことを改めて真剣な様子で言ってきた。ルイに術者について聞かれた時に顔を変に引き締めたように見えたのはそのせいかもしれない。
「それは分かっているよクリード。しかし、術者が何故ケルエイダにという疑問はおそらくここにいる皆が抱いたとは思う。いくら魔法に強く興味を抱いているからといって、では親交の深いケルエイダを魔法を使って攻撃しようとはあまり思わなくないか」
「それは僕も思う。けど心当たりなど全くないんだ」
「ねえ」
ラルフが手を挙げた。ルイは「いちいち手を挙げなくていい」と呆れながらも続けるよう促してきた。
「そんでさ、そのザフィアとやらはどこいったかは全くつかめてないの?」
「そうだね、捕まえられてないのはうまく逃げるからというより今現在も居場所を見つけられていないからのようだ」
「まだリストリアにいる可能性は?」
ウィルフレッドが聞くとクリードは「ああ」と顔を向けてきた。
「僕の側近が言うにはおそらくもう、我が国にはいないのではないかとは言っていたよ。絶対という確信はないんだけどもね。最初に逃げられたとはいえリストリアの警備は能無しではないしね、ここまで見つけられないとなると僕も他国へ逃げたのかもしれないなとは思った」
「ではそうなのでしょう。ということはその逃げた先でケルエイダを攻める算段が立てられたということ。それならしっくりいくのでは。ザフィアもそれなら喜んで力を使うのではないでしょうか」
「確かに──」
「各国へ手配書は出せませんか? ルイ──兄上」
この場合は口にはしていないが各国の責任者へ、ではなく各国へ潜ませているケルエイダの者へ、だ。
「ウィル、呼び捨てでいいんだよ。ウィルが記憶を失っていた時はそうして呼び捨てにしてくれていたんだ」
もしかしたらルイの言う記憶喪失の時の癖が無意識に出たのだろうか、呼び捨てかけて訂正したウィルフレッドにルイが嬉しそうにニコニコと笑いかけてくる。
「そういう訳にはいきません。で、ザフィアですが。おそらく他国にいるとは思いますが念のため、ケルエイダでも捜索に人員を割くことは出来ますか」
ウィルフレッドの言葉にがっかりした後でルイは頷いた。
「もちろん。さっそく手配しよう」
「僕のほうでもリストリアへ戻り次第文書を出させてもらうよ」
クリードは満足げに言うとウィルフレッドをじっと見てきた。
「……何です」
「本当にアリーと付き合う方向では考え──」
「られません」
呆れつつ力いっぱい否定したところでマシになったもののまだ続いている筋肉痛に、ウィルフレッドを顔をしかめながら腰を押さえた。
「そんなに否定しちゃったり、すごく筋肉痛っぽかったり、まさかウィル、既に恋人がいるとかじゃ」
ラルフが青い顔をしながらウィルフレッドを見てきた。
筋肉痛をどう勘違いされているのかが分かり、そんな理由の訳ないもののレッドとのダンスが原因のせいかウィルフレッドの顔が熱くなった。
「ち、違います!」
「えーほんとにぃ?」
ラルフが疑わしそうな顔をしている。その後ろでルイが「ウィルに恋人……?」とこれまた青ざめた顔をしていた。
昨年ウィルフレッドとアレクシアが滞在していた時にアレクシアが紹介されたのは三人だったが、丁度仕事でいなかった二人を含め、腕のいい術者が五人所属しているという。
ケルエイダのように大国でもニ、三人が大半なので五人でも数は多いと思われる。伝統ある術をしっかりと受け継ぐためもあるのだろう。
だが過去にはさらにもう一人いたのだという。その一人はクリードが以前知っている限りではリストリアの方針に合わなかったということだった。
ルイの「クリード、ところでウィルが聞いていた術者については分かったのか?」という質問に対し、クリードは「僕が調べられた範囲でだが」と頷いてきた。
「名前はザフィア。年は確か四十前後だったか。かなり力のある術者だった。能力は高いが、ただ前にウィルフレッドにも言ったようにリストリアの方針が合わなくて周囲とは反発していたそうだ」
「ねえ、リストリアの方針ってどんな? あと彼はどう合わなかったの?」
ラルフが口を挟んできた。だがウィルフレッドも少々気になったので内心うんうんと頷く。
「オートマタの技術は知っての通り昔から伝統的なものとして受け継がれている。伝統工芸とかと同じようにね。高く質のいい魔力が必要ではあるけれども、あくまでも芸術の一つだね」
それはウィルフレッドも知っているし、自分は国を統べる予定ではあるものの別にひたすら片っ端から戦争がしたい訳ではないのもあり、リストリアの伝統魔法はそういうものだと思っていた上で戦力に使えるなどとも考えたことはない。
「でも彼はその高い能力を国の宝というよりは政治的戦略に生かさないのはもったいないと主張していたらしいんだ。とはいえ本人は軍人志向でも国を動かしたい訳でもなくてね、ただひとえに魔法に注がれていたというか。質のいい魔力をひたすら活かしたい、使いたい、向上させたいといった、ある意味術者としての欲望というのかな。とはいえ彼の考えは危険思考と見なされた」
周囲とひたすら反発し合い、結果捕らえられた。だが逃亡したのだという。
「僕を含めた王子、王女は聞かされていなかった。確かに何年も前の話で僕自身まだ成人もしていなかったらしいから妹や弟たちはもっと小さかった訳だしね」
「その術者を追って捕まえようとはしなかったの?」
アレクシアが聞くとクリードは苦笑した。
「もちろんしたと思うよ。だが彼は中々腕のいい術者だった。実は今でも秘密裏に探してはいるらしい。側近の一人が祖父並みに年配でね。これらの話は彼に聞いたんだ。よく知っていたし、彼は本当に信頼できる人なので安心して欲しい」
クリードの話を聞けば聞くほど、その術者が怪しいように思えた。とはいえ、一介の、と言うには能力が高かったにしてもただの術者が一人でケルエイダ相手にオートマタを使って攻撃してくるだろうかという疑問が残る。
「誓って僕を含めたリストリアの王族はケルエイダを攻撃しようなどと思っていない」
クリードも同じ考えに至っていたからであろう、また先ほども口にしたことを改めて真剣な様子で言ってきた。ルイに術者について聞かれた時に顔を変に引き締めたように見えたのはそのせいかもしれない。
「それは分かっているよクリード。しかし、術者が何故ケルエイダにという疑問はおそらくここにいる皆が抱いたとは思う。いくら魔法に強く興味を抱いているからといって、では親交の深いケルエイダを魔法を使って攻撃しようとはあまり思わなくないか」
「それは僕も思う。けど心当たりなど全くないんだ」
「ねえ」
ラルフが手を挙げた。ルイは「いちいち手を挙げなくていい」と呆れながらも続けるよう促してきた。
「そんでさ、そのザフィアとやらはどこいったかは全くつかめてないの?」
「そうだね、捕まえられてないのはうまく逃げるからというより今現在も居場所を見つけられていないからのようだ」
「まだリストリアにいる可能性は?」
ウィルフレッドが聞くとクリードは「ああ」と顔を向けてきた。
「僕の側近が言うにはおそらくもう、我が国にはいないのではないかとは言っていたよ。絶対という確信はないんだけどもね。最初に逃げられたとはいえリストリアの警備は能無しではないしね、ここまで見つけられないとなると僕も他国へ逃げたのかもしれないなとは思った」
「ではそうなのでしょう。ということはその逃げた先でケルエイダを攻める算段が立てられたということ。それならしっくりいくのでは。ザフィアもそれなら喜んで力を使うのではないでしょうか」
「確かに──」
「各国へ手配書は出せませんか? ルイ──兄上」
この場合は口にはしていないが各国の責任者へ、ではなく各国へ潜ませているケルエイダの者へ、だ。
「ウィル、呼び捨てでいいんだよ。ウィルが記憶を失っていた時はそうして呼び捨てにしてくれていたんだ」
もしかしたらルイの言う記憶喪失の時の癖が無意識に出たのだろうか、呼び捨てかけて訂正したウィルフレッドにルイが嬉しそうにニコニコと笑いかけてくる。
「そういう訳にはいきません。で、ザフィアですが。おそらく他国にいるとは思いますが念のため、ケルエイダでも捜索に人員を割くことは出来ますか」
ウィルフレッドの言葉にがっかりした後でルイは頷いた。
「もちろん。さっそく手配しよう」
「僕のほうでもリストリアへ戻り次第文書を出させてもらうよ」
クリードは満足げに言うとウィルフレッドをじっと見てきた。
「……何です」
「本当にアリーと付き合う方向では考え──」
「られません」
呆れつつ力いっぱい否定したところでマシになったもののまだ続いている筋肉痛に、ウィルフレッドを顔をしかめながら腰を押さえた。
「そんなに否定しちゃったり、すごく筋肉痛っぽかったり、まさかウィル、既に恋人がいるとかじゃ」
ラルフが青い顔をしながらウィルフレッドを見てきた。
筋肉痛をどう勘違いされているのかが分かり、そんな理由の訳ないもののレッドとのダンスが原因のせいかウィルフレッドの顔が熱くなった。
「ち、違います!」
「えーほんとにぃ?」
ラルフが疑わしそうな顔をしている。その後ろでルイが「ウィルに恋人……?」とこれまた青ざめた顔をしていた。
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