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109話
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レッドが現れるとモヴィは「私はこれで失礼いたします!」と啓礼し、慌ただしく立ち去っていった。
「違う、違うぞ。俺はモヴィを苛めてないし迫ってもいない」
無言で見てきたレッドに、ウィルフレッドはムキになって言った。するとため息を吐かれる。ついでにフェルのほうから「クフン」というそれこそため息のような鳴き声が聞こえてきた。
『貴様。不敬で罰するぞ』
『レッドをスルーで私ですか。だいたい私が何をしたと。それにクライドとの噂も悪くないではないですか』
『貴様は肉で懐柔され過ぎだ!』
『そんなことはありません』
心の中で言い合っていると「王子?」と怪訝そうにされた。ウィルフレッドは慌ててレッドを見上げ「何でもない! モヴィに対しても何でもないぞ! 苛めてない」とまたムキになる。
「別に苛めているとは思いませんよ。でも本当に何をしてたんです?」
「フェルの散歩をしていたらたまたま会っただけだ。今例の男を捜索しているんだってな」
「ああ、はい。人員に限りがありますので本格的には難しいですが、交代制で探させてはいます。手配書はクリード王子から届いた人相書きを元に画家に描かせたものが載っています」
レッドはそう言いながら一枚の手配書を見せてきた。顔はこれといってパッとしない様子で、むしろよく人相書きが書けたしそれを参考に画家も顔が描けたなとウィルフレッドは変に感心した。ただ特徴的なのは褐色の肌をしているところだろうか。髪の色は薄いのだがこの辺では見ることのない肌色だ。これなら少なくとも見かけたら見逃すことはなさそうだ。
「その話をしていただけのようには見えませんでしたが」
「あー……ちょっとした話の流れでな、俺に恋人が出来ただのといった噂があるらしいと聞いていた」
レッドとの噂があればいいなどと思っていたため少し口にしにくかったが、下手に嘘を吐くよりはある程度正直に言ったほうが気まずさもないだろうと口にすれば「恋人ですか」と淡々とした様子の言葉が返ってきた。分かってはいるが、改めてレッドはウィルフレッドのことを何とも思っていないのだろうなと分かり、面白くない。
そういえばレッドもアリーセとくっつけばいいと思っていたんだっけなとウィルフレッドはジロリとレッドを睨み上げる。おまけにクライドが相手でも悪くないと思っていそうだった気がする。
むしろ噂を流したのはレッドではないだろうなとさえ思えてきた。ただこれに関してはあり得ないと分かっている。レッドは間違いなくウィルフレッドに忠実だし、自分の王子のことに関しての噂を気軽に流すような男ではない。
「最初はアリーセ王女との結婚話は本当かと聞かれた。しかも俺に恋人がいるらしいから余計本当かもと思った、とな。しかもおまけに他にも恋人として噂がある相手はいるのか聞けばクライドの名前が出た。意味が分からん。一体俺はどういう状況なんだ、噂では」
「火のない所に煙は立ちませんよ」
「お前までそんなことを言うのか? この俺がアリーやクライドと、だと? 冗談じゃない」
「しかしどちらともお似合いではあります」
これは傷つく。
傷つくぞ。
前からちょくちょくレッドからは言われていた気がするが、好きだと自覚して改めて「どちらとも恋人として似合う」となどと言われるといくら元魔王といえども傷つく。魔王だって心臓はある。傷くらいつく。
「ちっとも似合わん!」
「でも少なくとも王子はクライド殿がお好きでは」
何故そうなる……!
まさかと思うが本当にクライドとの噂を流したのはレッドではないだろうかと思いそうだ。しかも何故よりによって元仇である男が相手なのだ。冗談ではない。
確かに仇とはいえ、ウィルフレッドの現状を知り、受け入れている存在としてありがたいとは思う。別に元魔王だからといって辛い目にあっている訳でもないし耐え難い状況など皆目ない。だがそれでも妙にホッとしたのは事実だ。悔しいし腹立たしいが、そういうこともあってどこか頼れる部分もあるかもしれない。だがそれとこれとは違う。どうあってもクライドは元仇という存在であり恋愛対象になるなど想像するだけで寒気がしそうだ。絶対認めたくないしそうだと思ったこともないが、強いて例えるなら叔父みたいな存在というのだろうか。アリーセが妹みたいなのと同様、何があってもそういう目線では見られない。
「絶対にない。ある訳がない!」
「王子でも照れることがあるんですね」
相変わらず淡々とした様子でとんでもないことを言ってくるレッドを、ウィルフレッドは信じられないといった表情でまじまじと見上げる。
「どこをどう見て、取って、俺が照れていると解釈するのだ……!」
「しかし普段の王子を見ているとクライド殿をとても頼っているようにしか」
「た、頼って」
ないと速攻否定したかったが、確かに忌々しいながらも先ほど自分でも頼れる部分もあるかもしれないと考えたところだ。ウィルフレッドは渋々認める。
「る部分は確かに塵程度にはあるかもしれん」
「塵ですか……」
「ああ、塵だな! その程度あるからなんだ? 何故それが好きに繋がる。あり得んと言っているだろうが。それを言うなら俺はお前にだって頼っている」
ムキになってしまったせいだろうか。普段なら言わないようなことまで言ってしまった気がする。
怪訝な顔をしながら今自分が言ったことを反芻しようとしていると「ありがたきお言葉」と相変わらず淡々とした言葉が返ってきた。恥ずかしさに否定しようと、ムッとしながらまた見上げると、見たことないような勢いで目をキラキラとさせているような気がするレッドがいた。
「違う、違うぞ。俺はモヴィを苛めてないし迫ってもいない」
無言で見てきたレッドに、ウィルフレッドはムキになって言った。するとため息を吐かれる。ついでにフェルのほうから「クフン」というそれこそため息のような鳴き声が聞こえてきた。
『貴様。不敬で罰するぞ』
『レッドをスルーで私ですか。だいたい私が何をしたと。それにクライドとの噂も悪くないではないですか』
『貴様は肉で懐柔され過ぎだ!』
『そんなことはありません』
心の中で言い合っていると「王子?」と怪訝そうにされた。ウィルフレッドは慌ててレッドを見上げ「何でもない! モヴィに対しても何でもないぞ! 苛めてない」とまたムキになる。
「別に苛めているとは思いませんよ。でも本当に何をしてたんです?」
「フェルの散歩をしていたらたまたま会っただけだ。今例の男を捜索しているんだってな」
「ああ、はい。人員に限りがありますので本格的には難しいですが、交代制で探させてはいます。手配書はクリード王子から届いた人相書きを元に画家に描かせたものが載っています」
レッドはそう言いながら一枚の手配書を見せてきた。顔はこれといってパッとしない様子で、むしろよく人相書きが書けたしそれを参考に画家も顔が描けたなとウィルフレッドは変に感心した。ただ特徴的なのは褐色の肌をしているところだろうか。髪の色は薄いのだがこの辺では見ることのない肌色だ。これなら少なくとも見かけたら見逃すことはなさそうだ。
「その話をしていただけのようには見えませんでしたが」
「あー……ちょっとした話の流れでな、俺に恋人が出来ただのといった噂があるらしいと聞いていた」
レッドとの噂があればいいなどと思っていたため少し口にしにくかったが、下手に嘘を吐くよりはある程度正直に言ったほうが気まずさもないだろうと口にすれば「恋人ですか」と淡々とした様子の言葉が返ってきた。分かってはいるが、改めてレッドはウィルフレッドのことを何とも思っていないのだろうなと分かり、面白くない。
そういえばレッドもアリーセとくっつけばいいと思っていたんだっけなとウィルフレッドはジロリとレッドを睨み上げる。おまけにクライドが相手でも悪くないと思っていそうだった気がする。
むしろ噂を流したのはレッドではないだろうなとさえ思えてきた。ただこれに関してはあり得ないと分かっている。レッドは間違いなくウィルフレッドに忠実だし、自分の王子のことに関しての噂を気軽に流すような男ではない。
「最初はアリーセ王女との結婚話は本当かと聞かれた。しかも俺に恋人がいるらしいから余計本当かもと思った、とな。しかもおまけに他にも恋人として噂がある相手はいるのか聞けばクライドの名前が出た。意味が分からん。一体俺はどういう状況なんだ、噂では」
「火のない所に煙は立ちませんよ」
「お前までそんなことを言うのか? この俺がアリーやクライドと、だと? 冗談じゃない」
「しかしどちらともお似合いではあります」
これは傷つく。
傷つくぞ。
前からちょくちょくレッドからは言われていた気がするが、好きだと自覚して改めて「どちらとも恋人として似合う」となどと言われるといくら元魔王といえども傷つく。魔王だって心臓はある。傷くらいつく。
「ちっとも似合わん!」
「でも少なくとも王子はクライド殿がお好きでは」
何故そうなる……!
まさかと思うが本当にクライドとの噂を流したのはレッドではないだろうかと思いそうだ。しかも何故よりによって元仇である男が相手なのだ。冗談ではない。
確かに仇とはいえ、ウィルフレッドの現状を知り、受け入れている存在としてありがたいとは思う。別に元魔王だからといって辛い目にあっている訳でもないし耐え難い状況など皆目ない。だがそれでも妙にホッとしたのは事実だ。悔しいし腹立たしいが、そういうこともあってどこか頼れる部分もあるかもしれない。だがそれとこれとは違う。どうあってもクライドは元仇という存在であり恋愛対象になるなど想像するだけで寒気がしそうだ。絶対認めたくないしそうだと思ったこともないが、強いて例えるなら叔父みたいな存在というのだろうか。アリーセが妹みたいなのと同様、何があってもそういう目線では見られない。
「絶対にない。ある訳がない!」
「王子でも照れることがあるんですね」
相変わらず淡々とした様子でとんでもないことを言ってくるレッドを、ウィルフレッドは信じられないといった表情でまじまじと見上げる。
「どこをどう見て、取って、俺が照れていると解釈するのだ……!」
「しかし普段の王子を見ているとクライド殿をとても頼っているようにしか」
「た、頼って」
ないと速攻否定したかったが、確かに忌々しいながらも先ほど自分でも頼れる部分もあるかもしれないと考えたところだ。ウィルフレッドは渋々認める。
「る部分は確かに塵程度にはあるかもしれん」
「塵ですか……」
「ああ、塵だな! その程度あるからなんだ? 何故それが好きに繋がる。あり得んと言っているだろうが。それを言うなら俺はお前にだって頼っている」
ムキになってしまったせいだろうか。普段なら言わないようなことまで言ってしまった気がする。
怪訝な顔をしながら今自分が言ったことを反芻しようとしていると「ありがたきお言葉」と相変わらず淡々とした言葉が返ってきた。恥ずかしさに否定しようと、ムッとしながらまた見上げると、見たことないような勢いで目をキラキラとさせているような気がするレッドがいた。
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