不機嫌な子猫

Guidepost

文字の大きさ
139 / 150

138話

しおりを挟む
 抱えられて放心しているとラルフのムッとした声が聞こえてきた。

「ちょっとさーレッド。そもそもお前のこと俺、あんまり許してないから」

 何の話だ、とウィルフレッドは振り返ろうとした。だが抱えられたままびくともしない。そしてレッドはウィルフレッドを抱えたまま黙っている。
 何か許す許さないといったやり取りをレッドはラルフとしていたのだろうかと怪訝に思っているとラルフが続けてきた。

「ウィルは俺の可愛い可愛い弟なの。分かる? それこそ可愛さ溢れてちゅーだってしたくなるくらいね。リストリア王に溺愛されてるアリーセ王女だと第三王子だけにウィルが下手をするとあっちの国行っちゃうかもだし、お前は本当に仕事の出来るやつだと分かってるし多分お前以外だったなら本気で蹴散らしてるかもだけどさー、だからといって諸手上げて喜んでお前にあげる、なんて言えないの。分かる?」

 何て話をしているのだ……!

 ポカンとしていた顔が今の話で途端に引きつる。

「……何故俺がウィルフレッド様と……」
「舐めないでもらいたいな。だいたいお前、昔からウィルのこと大好き過ぎでしょ。つってもとうとう恋人になったかもしれないって情報は兄上であるルイから。レッド、お前さー気をつけたほうがいいよ。兄上は俺以上に納得してないから。今はアルス王国やら何やらのことでまだごたついてるから何も言ってこないんだろうけど」

 なんてことだよとウィルフレッドは何も言えずに身を強張らせていた。腹立たしさ云々というより相当な羞恥に襲われている。むしろ縦に抱えられていてラルフからもレッドからも顔が見えなくて良かったと思えた。
 何故恋人になったかもしれないなどとばれているのか。
 まさか肉体関係か、と思ったが、その関係なら恋人でない頃にもあった。ということは雰囲気か何かで察せられたとしか思えない。レッドを助けようと必死だったからか。しかし主人ならそもそも自分の側近が死にかけているというのに悠長に構えてなどいられないはずだ。
 なんにせよ、ウィルフレッドにとっては雰囲気で気づかれるなど、肉体関係がバレるよりも恥ずかしい気がした。

「レッド……頼むからこのまま部屋まで急いで俺を運べ」

 顔が熱くて堪らないウィルフレッドが小声でぼそりと呟くと、レッドも小さく「御意」と呟いた。

「ラルフ様。俺は騎士としても側近としても、そして恋人としてもウィルフレッド様を生涯お慕いし、大切にし続けます。では失礼いたします」
「あ、ちょっと」

 有無を言わさないといった態度でレッドはそのまま移動した。この時ばかりは無口で淡々としたレッドでよかったと思う。その上でレッドの男らしい毅然とした態度にウィルフレッドは顔だけでなく全身が熱くて堪らなくなった。そして自室が近くなったところでようやく、抱えられて運ばれている恥ずかしさよりも重要なこと、レッドが死にかけていた怪我人だったと改めて思い出した。

「お、下ろしてくれ」
「? このまま部屋まで運びますが」
「違う、お前が重傷を負っていたことを今更ながらに思い出したのだ」
「ああ。ご安心ください。もう治りました」

 いくらクライドの魔法が凄いとはいえ、レッドは本当に死にかけていた。

「……い、痛みくらいは残っているのだろう?」
「それも既にありません」

 言い切るとレッドはウィルフレッドを運び続けた。
 鍛え方が違うのだろうか、と一瞬放心していたウィルフレッドは改めて落ちないようにぎゅっとレッドにしがみつきながら微妙に思った。ウィルフレッドは未だに少々筋肉痛が残っている。必死に誤魔化していたが、実は戦いの翌日は肉離れの一種かと思うほどの筋肉痛に襲われていた。自分よりも周りの人間のほうが魔王のように思えてくる。
 ふと耳元でため息が聞こえた。

「おい。やはりまだ体に堪えるのではないのか」
「違います。しがみついてくる王子が可愛くて堪らないだけです」
「……、は、はぁ? お、お前そういう性格だったか?」
「俺はこういう性格です。ただ王子への気持ちはひた隠しにしていたので」

 妙にむずむずとしてきた。全身の熱が下肢に集まりそうだ。ウィルフレッドは一気にその気になった。

「本当に完全に治ったというなら、部屋へ俺を連れて行ったらそのまま俺を抱け」
「……光栄ですがさすがにそれは。まだ日中で、俺は仕事中ですし王子も仕事をしてください」
「俺のおもりも仕事だろうが。じゃないと俺は一人でするぞ。どうせお前は俺の様子を窺わねばならんのだろう? 俺が一人でするのをこっそり見てるなら一緒にすればいいだろうが」
「……あなたがおひとりでされるのを見ているのも中々俺は楽しめますが」

 ウィルフレッドの屋敷につき、結局抱えたままレッドはウィルフレッドの自室まで運んだ。下ろされながらそんなことを言われ、ウィルフレッドはまた顔が熱くなるのが分かった。

「な、何のプレイだ! まさかそれを見ながらお前もするのか?」
「いえ、俺はあなたがなさっていることをただじっと腕組みでもして見ております」

 本当に何のプレイだよ……!

「……クソ、ちょっと興奮しただろうが。が、分かった。仕事をする。その代わり今晩は絶対俺を抱け」
「御意」

 レッドが小さくではあるが笑った。
しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結、恋愛ルート、トマといっしょに里帰り編、完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

処理中です...