不機嫌な子猫

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140話 ※

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 ずっと願って止まなかったはずだった。
 だが、気づけば最近ウィルフレッドはキープに登ってそこから見下ろす風景を眺める暇もないほど、仕事をしたり兄姉に振り回されつつも満喫したり、レッドとの二人きりの時間を心底楽しんでいた。祖父母にも自ら元魔王だったと打ち明けた上で、今も変わらずフィーカに誘われる。そしてそれの時間もとても楽しみにしている自分がいる。城下町へ出向くと民たちはいまやウィルフレッドを王子だと認識した上で、それでも親しげに話しかけてきたり食べ物を勧めてくれたりする。フェルは魔獣だと知られている上で、散歩に連れだした際に城でも城下町でも小さな体を撫でられたりして可愛がられていた。
 そんな時間が、この力を持つことでいつ何時崩れ去るかもしれないなんて、あってはならない。
 極限でも飲み込まれなかった。それは事実だ。だが、今後もないなんて保証はない。
 昨日、レッドに剣の稽古を付き合ってもらった。笑えてくるほど剣は軽く、そして思い通りに動いた。騎士の中でも一、二を争う腕前のレッド相手に、もう少しでチェックメイトが取れそうにもなった。
 いい思い出が出来た。

「それはそうだが、もう十分だ。封印してくれ」
「いいのか?」
「……構わん。現世のウィルフレッドが持っていてはいけないはずの力だ。扱いきれるものならきっと俺は赤子の時、死にかけることはなかったし病弱でもなかった。そうだな、またいずれ別の存在として生まれ変わった時へ持ち越そう。その際にまた記憶を持ち、もし野望も持つ者であったのなら、その時こそ魔王としての力を最大に楽しんでやる」
「何なら今お前を封印しておくが?」
「冗談じゃない。貴様はまた来世、俺を見つけて見定めろ」
「俺がまだ生きていると?」
「貴様ならな」

 ウィルフレッドはあえて髪を耳にかけ、皆もつけているピアスとはまた別の、クライドの耳だけについているカフスのあたりを撫でた。クライドのカフスに魔法が込められているのは、計り知れない程の魔力を得てから辛うじてしか分からないが感じられた。おそらく何らかの封印魔法だ。例えば耳の形、とかだろうか。別に人間でなくともここまで力のあるエルフなら重宝されるはずだ。だというのに隠すというのはもしかしたら人間の血が混じっているハーフエルフのかもしれない。などとウィルフレッドは口にしないまま勝手に想像してみたりしていた。
 クライドは鼻で笑うと「後悔しないな? もう解放などしてやらんぞ」とウィルフレッドを見てきた。



「クライド殿が何か唱えて魔法を使っておられたのは分かりますが……王子の力はなくなったのですか」

 自室へ戻ると、レッドが聞いてきた。

「そうだ、なくなった。軽かった体がもう重いしな。明日からまた剣の基本的な訓練だレッド。付き合うのだぞ」
「それで……よかったのですか」
「ああ。今の俺には不要なものだと分かった。それにもしかしたら来世で俺はまた記憶がよみがえり、国や世界征服を考えるかもしれん。その時の楽しみに取っておく」

 ニヤリと笑うと、何故かレッドが納得のいかないといった顔をしてくる。

「何だ」
「……いえ」
「言え。命令だ」
「……クライド殿と来世を誓うところを見せさせられましたので。それに解放してやらんといった言葉は違うと分かっていてもまるでプロポーズでした」
「はぁ? 何の話だ」
「来世であなたを見つけて見定めろ、と」
「それが何故来世を誓うになるのだ……」
「俺こそ、王子と来世までもともにいたいというのに」

 そんなことを最高に格好のいい相手から言われて平常心でいられる恋人がいれば見てみたい。ウィルフレッドはなくなった力のせいで全然レッドを引っ張りきれていないまま、何とかベッドへ無理やり連れ込んだ。

「急にどうされたんですか」
「やるぞ」
「王子、まだ明るいので……」
「だったらカーテンを閉めればいいだろう! 仕事だと言うなら、俺のこのお前が愛しくて堪らないせいで高ぶった感情を側近として恋人として静めるのも仕事だと知れ!」
「王子」
「なあ、どうしたらお前もその気になる? この間言ってたみたいに俺が一人でするところをお前に見せつければいいのか? そうやって俺のプライドをぐしゃぐしゃに潰してようやくその気になるか?」

 耐え難い程の高ぶりに思い切り熱い息を吐けば、レッドがキスをしながらウィルフレッドを押し倒してきた。

「我が君にそんなこと、させられません」
「……は。言いながらもお前のものはその気になった。よもやするより見たいのではないか?」
「あなたの可愛さにやられただけです」

 レッドが毎日着せているだけあって、ウィルフレッドの服は簡単に乱された。レッドの唇が熱い。そしてその熱が唇や顔、首筋や体を這うごとにますますレッドがもっと欲しくて堪らなくなる。

「こんなにここを尖らせて……はしたない」

 乱された服からのぞく胸元にレッドの鋭い視線が走るだけでさらにそこは痛い程疼いて尖ってきた。

「お前のせい……責任、取れ」
「もちろん」

 ちゅ、っと胸先を軽く吸われただけで下肢まで響くほどの快楽がその先から体を巡っていく。

「何もかも、あなたに関するすべての責任を俺が取りたい。取らせてください」

 後ろを解される際にはウィルフレッドのものがレッドの熱い口に含まれた。いくら過去の記憶であらゆることを経験していても、同時にされて我慢できるほどこのウィルフレッドの体は達観していない。何度もレッドの名前を呼んで、呆気なく果ててしまった。

「はぁ……俺の王子」
「……っく」
「疲れましたか?」
「ま、まだ大丈夫だ。やめるなよレッド。お前ので俺の中をいっぱいにしない限り、俺は満足なんてしないからな」
「……王子のそういうところはまさか前世の記憶からですか」

 座りなおしたレッドの上にぐっと抱え込まれた。背後からレッドの呆れたような声が聞こえてきてウィルフレッドは喉を少し詰まらせる。

「き、おく、というか……だな」
「仕方ありません。でも今のあなたは俺だけのウィルフレッド様でいてください。誰にもあなたを触れさせたくない」
「あ、当たり前だ! きっとな、来世でもお前だけに触れて欲しいぞ……」

 むきになって言い返したが、正直なところ今の独占欲だけでまた少し達しそうになった。どのみち「嬉しいです」と囁かれながらゆっくりと下ろされ、レッドの硬く勃ち上がったものがウィルフレッドの中を満たしてきた途端、情けないことに吐精してしまった。

「こ、これはた、たまたまっ」

 顔がとてつもなく熱くなりながら後ろを振り向き、少し半狂乱気味に言い訳しかけたらキスをされた。

「ああ……なんて可愛いんだ」
「っも、言うの、やめ……」

 また先から出してしまい、羞恥におかしくなればいいのか、素直に快楽に溺れればいいのか分からなくなってきた。だが上に乗った状態で後ろから抱きしめられ、激しく求められているうちにレッドにならもうなんでもよくなってきた。突き上げられ体やペニスを愛撫されながらまた中をさらに大きくなったもので満たされ突かれ、どろどろになりながらウィルフレッドが出来ることはまた何度もレッドの名前を必死に呼ぶくらいだった。
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