キャラメルラテと店員

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4話

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「この部屋には俺以外は入れちゃだめだよ……? 家族は良いけど、ね?」

 瑞希の言葉に周は怪訝そうにしていると押し倒されそのままゆっくりとキスをされた。そっと触れてくる唇がだが、最初はキスだと気づけなかった。それくらい周は色々動揺し、理解できていなかった。一旦離れた唇にすらちゃんと気づけていないまま、周は上手く口にできずに呟くように声に出す。

「い、いったい……? あ、あの……どう、いう……」
「ん?」

 何を言っていいかもわからない周に、瑞希は優しげな笑みを向けてくる。その笑みが本当に素敵であり、ああ、やっぱり綺麗な顔だなあと今の状況からしたら場ちがいな事をつい思っているとまたキスをされた。そこでようやく先程も今も自分はキスをされているんだと周は気づいた。

「っふっ?」

 自分ではない唇の感触が初めてで、周の脳内はさらに混乱する。思わずギュッと目を閉じてしまっていたが、恐る恐る開くと目の前にはあの綺麗な瑞希の顔があった。途端顔が熱くなるのがわかる。
 唇の感触がとても柔らかくて気持ち良くて、生まれて初めてキスをされていて、その相手が自分がとても好きだった人で、そしてこんなに近くで見てもその人はとっても綺麗で……。
 だが次の瞬間ハッとなる。

 ちょっと、待って。店員さんは……男、だよね? え? 男だよ、な? え、どういう展開なんだ? なぜ今俺は押し倒され、キスをされているの? だいたい店員さん以外部屋に入れちゃだめって、どういう事……?
 俺は……この目の前の店員さんが好きだったし、今でもやっぱり綺麗だなぁて思う。思うけど……だけど男だよ、な? そして今俺はどういう状況なの? これ危機?

 周が真っ赤になりながらも辛うじて抗いつつ脳内でぐるぐると考えを巡らせているのを感じ、瑞希は楽しげに微笑んだ。

「可愛いね。周、可愛い。でもそんなに戸惑った顔をしないで欲しいな。ああそうか、初めてだからそんな顔をしているんだね?」

 唇をようやく離すと、瑞希はやはり楽しげに、そして囁くように言ってきた。

「……ぇ?」
「そうだよね、戸惑うよね……この間までは中学生だったもの、ね……? 高校生になったからって周は馬鹿みたいに遊び出す子じゃないもの、ね……? そんな戸惑わなくて大丈夫だよ。優しくしてあげる。それとも君は特殊な方が好き? でも最初は普通が良いよね? どう楽しみたいか君に選ばせてあげようね」
「え、あ、あの、あの……い、一体、さ、さっきからその、一体、何……」

 瑞希が何を言っているのか、そしてどうしていいのか本気で分からず周が戸惑っていると、押し倒されていた体を瑞希は起こしてくれた。
 ああ、冗談だったのかとホッとしながら周が思っていると起こされた体を軽々と運ばれ今度は改めてベッドの上に横たえさせられた。

「……ちょ……」
「初めてだろうしね、やっぱり選ぶのも難しいかな……? よくわからないだろうしね」

 瑞希は優しく笑うと、すっと周がつい見惚れそうになる細くて綺麗な手を伸ばし周の制服のネクタイを外してきた。
 そういう経験の事を言っているのなら、周は確かに全くもって経験は、ない。それでも今この状況が普通でない事くらいは周にもわかった。

「待っ……ちょ、あの、て、店員さんっ? 一体本当に何を……何故こんな事……っ? ま、まさかその、この間のし、仕返し、に……?」
「ん……? 君こそ何を言っているの? 仕返し? よくわからないな……。君は俺が好きなんじゃないの?」

 相変わらず優しげな笑みを浮かべて瑞希は周の耳元で囁いてきた。

「す、す……っ?」

 周はまた赤くなる。確かに好きだった。一目惚れだった。とても好きだから親にもついていかずにここに一人で残っていつも遠くから眺めていた。そして眺めているだけでよかったはず想いはある時とうとう暴走し、思いあまった挙句犯罪めいた事までしてしまった。

 でも。
 まさか男だったなんて思ってもみなくて。

 男だとわかっている今、瑞希を見ればなぜ自分が女に間違えていたのかわからないくらいには男に見える。

 だけれども俺は本当に男だと思っていなくて、だからこそいつも通って……。

「で、でもて、店員さん、男ですよ、ね……? 俺も男で、その、だから……だいたいそれだからめ、迷惑じゃ……」

 もう何が言いたいのかわからなかった。
 いや本当は色々聞きたかった。はっきりしていて一番ネックである男云々をあえて置いておいたとしても、今周の脳内は疑問しかなかった。
 何故瑞希が周の名前どころかこの家を知っているのか。そしてここまでやってきたのも何故か。周に好きだと思われていると思っているなら気持ち悪くないのか、怒らないのか。
 そして、何故……キスを……しかもこうして周を押し倒してくるのか。
 色々わからない事だらけの周の脳内を取り出せたらどんなに便利だろう。結局言いたい事の半分も口にできない。

「迷惑? なぜ?」
「え? だ、だって……」
「迷惑な訳、ないよ周……。嬉しいからこそ、俺は周にプレゼントだってしていたのに」

 プレ……ゼン、ト……?
 え、まさ、か……?

 周の脳内に、ポストに入れられていた数々の雑貨やCDが浮かんだ。

「もしかし、て……あの……CDと、か……」
「うん。欲しいって言ってたよね?」

 あなたには言っていませんが……!

 ようやくここで周はほんのり恐怖を感じた。いきなり待ち伏せして抱きつく周も大概だが、目の前のこの綺麗な人は……。

 あのストーカーは……今俺を押し倒している……この、綺麗な……?

 今まで色々把握できなくてされるがままだった周はようやくきちんと抵抗し出した。
 怖い、と思った。
 だが一見背は負けているとは言え周よりも華奢に見えた瑞希は意外にも力が強い。

「は、離して……っ」
「だぁめ。離してあげないよ。明日の朝まで、時間はたっぷりあるものね? そして君は選択しなかったから……」

 瑞希がまた優しげに笑いかけてくる。自分は抵抗している筈なのに、なぜそれを抑えつけながらもそんなに涼しげに笑えるのだろうと、また場ちがいな事をふと周は思ってしまった。

「俺が選ぶ、ね……?」

 そして周の両手首をつかむとそれを周の頭上にやり、外したネクタイでしっかりと 固結びで固定された。

「い、いや、だ……やめ……」
「大丈夫……ちゃんと、優しくしてあげる」
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