キャラメルラテと店員

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7話

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「英さん、あの今日、あいてないですか?」

 数日ぶりに大学に行き、講義を受けた後になんとなく見た事がある女生徒がもじもじしながら瑞希に声をかけてきた。

「ごめんね、今日は用事、あるんだ」

 瑞希は申し訳なさそうにしながらも優しげに微笑んでからその場を立ち去る。
 カフェで働いてはいるが瑞希はアルバイトであって正社員ではない。実際は大学二年生だ。
 瑞希の大学は一年間での単位制限がないので一年の間に既に卒業最低限の単位に近いだけ取れていた。授業出席が必須もあれば、試験さえ受かれば貰える単位もある。試験さえ、とはいえ基本的には簡単に受かるものでもないものの瑞希はそれでかなりの単位を稼いでいた。
 単位に余裕はあるが在学中の態度や取り組む姿勢なども案外重視されるのも承知しており、瑞希はこうして週に何日かは真面目に大学にて授業を受けている。ただ勉強自体は嫌いではないが講義がさほど面白いと思えなかった。
 別に人生を適当に考えている訳でもないが、せっかく世間で言う「いい大学」に入っていても、卒業後は今アルバイトをしているカフェでの仕事に就いてもいいなとさえ思っている。もしくは暫く就業して資金を溜め、自分で店舗開業してもいい。
 コーヒーや軽食を作る方が瑞希には合っている気がした。周りは「せっかくの高学歴がもったいない」と言うかもしれないが、実際自分の人生は自分の責任だ。なら自分が間違ってないと思うならそれで問題ないと瑞希は思っている。
 接客する事も苦ではない。昔から人当たりはいいし、見た目に釣られ周りも瑞希に基本優しい。優しいというか懸想される事も多いのだが、瑞希自身は興味が湧かないと相手にはしなかった。
 女性的な顔立ちの他にも、背はそれなりに高いのだが線が細く見えるからか、どうにも儚げでか弱そうに見られる事も多い。その為、中には強引に事を進めようとしてくる相手もいたりするのだが、瑞希自身腕にも割と自信がある。やったこともないままできないと宣言するのが好きではないのでこれでも体は鍛えていた。
 限られた可能性の中から渋々選択するのではなく、できる限り色々な可能性を持った上で何事も選択したいと昔から考えていたからか、こうして文武両道ではあるのだが、生憎外見だけはどうしようもなかった。自分ではこの女性的な顔も華奢に見える体も特に好んではいない。
 それでも大きくなるにつれて、利用すれば案外悪くない外見なのだと思うようにはなった。特に無理に自分を作ろうとはしていないし基本自然体でありつつ、色々と自信もあるからか儚げで美形である印象の他にゆったりとした余裕もあるようで、なんとも言えない雰囲気を醸し出しているようだ。
 とは言え、普段出す事のない性質というものは瑞希にもある。
 二年になってから暫くした時にふと店にやってくる客の一人が気になるようになっていた。
 その少年は至って普通である。顔つきは悪くないのだがこれと言って目立たない。身長も小柄とまではいかないがあまり高くない。とにかく普通だった。
 最初は多分たまたま何らかの時間つぶしに入ってきたのだろう。ただここの客としては珍しく、甘いキャラメルラテを注文してきたのでなんとなく瑞希は覚えていた程度だった。
 その後何度もその少年を見かけるようになり、たまに視線を感じる。それに対して、ああなるほどねと瑞希は気づく。たまにある事だった。
 ただ真面目そうな少年が男に興味あるとは思えないけれども、と思ってからもしかして自分は女と間違えられている可能性もあるかな、とも少し思った。
 そして何故か次第にその少年の密かに見てくる、だが熱い視線が気になるようになっていった。
 普段瑞希からはあまり人と深く付き合う事はない。当たり障りのない付き合いで留める。
 だけれども。
 瑞希自身が相手を気になるのなら話は違う。そこから瑞希はその少年の事を色々調べるようになった。店に姿を見せている時点で、その気になれば相手の事を調べるなんてとても簡単な事だ。相手が無防備ならなおさらだ。
 :名前は香坂周。高校一年生。とても平凡そうだが学校は頭の良い公立高校だった。きっと真面目に勉強してきたのだろう。実際性格もとても真面目そうでそして大人しい。顔つきは悪くないので本人がそれなりに意識して自分を作ればそこそこ悪くないタイプになるだろう。だがそういう事に興味がない、というか考えも及ばなさそうである。多分女の子と付き合った事もないだろう。
 だからと言って勉強一筋というお堅いタイプでもなさそうで、ふと見かけた笑顔は可愛らしく、本当に至って普通の少年だった。
 友達もそこそこはいるようだ。多くもなく、少なくもない。だが小さい頃からの幼馴染というか親友がいるみたいで、よくその相手と一緒にいるところを見かけた。それに関しては、瑞希にとって大いに気に食わなかった。
 それでも親が海外に居て基本一人暮らしをしている少年にしては本当に色々と真面目だとしみじみ思う。夜遅くまで遊び倒す事もなければ、まあ相手が居ないのだろうが家に誰かをそういう意味で連れ込む事もない。趣味も特にこれと言ってなさそうだ。ただ、どうやら雑貨やインテリア系に多少興味があるというのはわかった。

 カフェ好きと雑貨好き、か……。……うん、いいじゃない。

 瑞希はニッコリと笑った。
 家事自体は得意じゃないのかただ単に面倒くさいのか、よくコンビニで何やら買っているようだった。

 なんなら俺が作ってあげるのに。いやもう、いっそ作りにいこうか。

 相変わらず瑞希が店員として入っている時にちょくちょくやってきてはバレていないとでも思っているのかちらちらと瑞希を盗み見してくる周にそんな事を思っていたある日。何を思ったのか周が待ち伏せまでして抱きついてきたのだ。

 ああそうなんだ。
 ……君も、俺の事、そんなに好きなんだね……?

 その日はそのまま帰ったが、その後ちょくちょく瑞希は周にプレゼントをした。直接渡してもよかったのだが周が店に来なくなったし中々機会がない。なのでポストに入れておいた。
 周の喜びそうなものばかりを選んだし、喜んでもらえると思ったのだがどうやら誰からのものか気づいていない様子だった。

 すぐに俺からのプレゼントだとわかってもらえると思ったんだけどね……。

 瑞希はそんな事を思いつつ、周の家の前でとうとう待つ事にした。
 瑞希の事を好きだと思ってくれている割に最近周はよく彼の親友の家に外泊しに行っている。そんな周にお仕置きも兼ねて、ちゃんと今もこれからも大事にしてあげると教えてあげようと心に決める。
 女生徒に断った後で、瑞希の足は迷うことなく向かった。

「君が店に来なくなったからね、俺が来ちゃったよ」

 さあ、これから存分に可愛がってあげるからね……。
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