18 / 20
18話
しおりを挟む
力が抜けた後でぼんやりとしていて、自分で言った言葉も意識していなかった。
「何故そんな事聞くの?」
優しくキスをしてきながら瑞希が聞く。
「……え……俺、何か……言いまし、た……?」
言ったかもしれない。でもなんだか疲れてよくわからない。
ひたすらぐったりしているといつものように瑞希が周を抱き上げて階段もよろける事なく降り、風呂場に連れていってくれる。夜だとティッシュや濡れタオルで拭いてくれた後はそのまま眠るが、日中だといつもこうしてシャワーで綺麗にしてくれていた。
お風呂を出た後はリビングで周はぼんやりとしていた。瑞希はその間に周の部屋を綺麗にした挙句晩御飯の準備までしていた。
本当に何でこんな人が自分なんかを好きなんだろう。
ぼんやりしつつ周は思う。やっぱり何かの間違いだろうか。それとも先程朔に言ったのは、朔を大人しく帰らせる為の方便だろうか。
一応瑞希が周を好きだとすれば、一連の瑞希の行動は周にも理解できる。
でも、と思う。別に自分の事は嫌いではないが、客観的に見るくらいはできる。顔はいたって普通。悪くもないだろうけれども間違ってもいいとは言えない。人を惹きつけるようなオーラも勿論ないし、だいたい性格は自分でもわかっているが大人しい。
頭は悪くないとは思う。飛びぬけてよくはないが、真面目な性格だし昔からこつこつしてきたおかげもあって希望した公立高校へも入れた。
しかし運動はやはり普通で、基本運動しないから体つきも貧相だ。筋肉は欲しいなと思うけが、真面目な割に面倒くさがりだから何もしていない。食事だって親だけではなく朔やそして瑞希にまで言われるくらい適当だった。身長は、普通だなと思える高さにどうにもあと一歩足りない。
「……ほんとなんで」
思わず呟くくらい、自分のいい所がほとんど見い出せない。
というかだいたい自分はどうなのだと周は自分に問う。
元々ずっと好きで思いつめた挙句いきなり抱きつく事までしたくせに。そして失恋したんだとショックを受けていたくせに。相手が男だとわかった途端その気持ちは無かったものになったのか?
しかし、だとしたら何故今もこうして相手の言いなりなのだろうか。怖いからというのもあったけれども。
「周、大丈夫?」
「……え?」
不意に大丈夫かと聞かれて周はハッと見上げた。すると首を傾げている瑞希がジッと周を見た後に、座っているソファーの横に腰をおろしてきた。
「もうすぐご飯できるよ」
「あ、はい……。いつも……すみません」
「いいよ、可愛い周のためだから」
また可愛いと言われ、周は少し戸惑ったように瑞希を見た。
「何?」
「……あの……さっき、朔に言った事……」
「……ああ。それこそさっきイった後に変な事呟いてたね。何故?」
「え?」
「だから何故そんな事聞くの?」
そんな事。
ああ、朔に言った事という、事?
「す、好き、って……」
「? うん?」
瑞希は怪訝そうな顔をした。いつも柔らかい笑みを浮かべているので、怪訝そうな顔をされると「そんなにあり得ない変な事を言ったのだろうか」という気分になる。思わず黙っていると「ああ」と何かに気付いたかのような表情をした後で周の髪を優しく撫でてきた。
「俺がいつも好きだと言うより可愛い、て言っているから? 珍しかったの?」
違います。
少し微妙な気持ちになった。
でも、それって……やはり瑞希が自分を好きなのは間違いないって事だ、よね? そうだよね?
「つい思っている気持ちが出ちゃってるからいつも可愛い、可愛いって言ってるけど、もちろんちゃんと愛してる。好きだよ周」
思わず周はポカンと瑞希を見た。サラリと言われた。嘘だろう? と思わず言いたくなるくらい、サラリと。
こんなに綺麗でカッコよくて、背も高くて行っている大学を思えば多分頭も凄くよくて。料理だって何だってできる、ただし男、な人が。
なんというか思わずこちらが乙女な気分になりそうなほど、あまりに当然といった風にカッコよくサラリと言ってきた。
ああでもやっぱり本当なら、なんて言うか何故今まであんな事をしてきたのかが理解できるから俺……怖くない。
意味がわからなくて怖くて仕方がなかったけれども、そして今後も想像もつかないような事をされるのはやはり緊張するかもだけれども、もう、あれほど怖くない。
「……から暫くはごめんね」
え?
何か、言っていた?
自分の考えに没頭していて今の言葉は聞こえていなかった。
「あは、なんかその顔、可愛い」
だが聞き返そうとする前にそんな事を言われて優しくキスをされつつまた押し倒されてしまい、結局聞き返すことのないまま流され、そしてまたお風呂に入れられた後でふらふらになりながら瑞希の作ってくれたご飯を食べた。
何度もしたからいつもなら夜はただ一緒に眠るだけだったが、その夜周はまた抱かれた。まるで仕納めかのような印象すらある勢いだったが、とりあえずもう怖くはなかった。激しく求められ、それに応じるように周はひたすら委ねた。
そのせいで翌日体はガタガタだった。なんとかふらふらと学校に行くと、朔に微妙な顔で見られて赤くなる。
「……赤くなるの、やめてくれ」
「……ご、ごめん」
「いや、うん。……その……だ、大丈夫なのか?」
多分なぜふらふらなのか、察しがついているんだろうと周はなおさら赤くなる。辛うじて「うん」と呟くと俯いた。
その時の朔の表情がとてつもなく複雑だったのだがそれには気付かないまま、とりあえずゆっくりと席に座る。
あまりに疲れていたのだろうか、珍しく周は授業の時に少し居眠りしてしまい、その授業を担当していた教師の鬼崎に「珍しいな、とりあえず起きろ」と注意をされてまた赤くなった。
「ほんと大丈夫なんか? その、あれだ、興味本位で聞いてるんじゃないぞ」
昼休みに朔と一緒に昼ご飯を食べていると、また言われた。本当に心配してくれているのはわかるので周はコクリと頷く。
「大丈夫……。あ、そ、その……か、体も、だ、だけどっ、その、み、瑞希はその、こ、怖くなくなった」
なんとかそう伝えるとまた微妙な顔をされた。変な事を言ってしまったのだろうかと思っているとため息をつかれた後で頭を撫でられた。
「まあ、なら、いい。周が大丈夫ならいいんだ」
「……うん。ありがとう、朔」
「お前、やっぱあのストー……いや、英さん、好きなのか?」
「ストーカーて言ってもいいよ」
周は少し苦笑しながら朔を見た。
「……自分でもほんと、なんかよくわからなくて……」
「……そっか。まあとりあえずちゃんと自分を大事にしろよ? お前はすぐ色々めんどがって投げんだからな」
「なんだよ、それ。そんな事、ねーし。……でもうん、そうする。ありがとう」
もうしばらく、ようやく理解できるようになった瑞希と接したらわかるかもしれない。
そう思った周だが、その日から瑞希は家に来なくなった。
「何故そんな事聞くの?」
優しくキスをしてきながら瑞希が聞く。
「……え……俺、何か……言いまし、た……?」
言ったかもしれない。でもなんだか疲れてよくわからない。
ひたすらぐったりしているといつものように瑞希が周を抱き上げて階段もよろける事なく降り、風呂場に連れていってくれる。夜だとティッシュや濡れタオルで拭いてくれた後はそのまま眠るが、日中だといつもこうしてシャワーで綺麗にしてくれていた。
お風呂を出た後はリビングで周はぼんやりとしていた。瑞希はその間に周の部屋を綺麗にした挙句晩御飯の準備までしていた。
本当に何でこんな人が自分なんかを好きなんだろう。
ぼんやりしつつ周は思う。やっぱり何かの間違いだろうか。それとも先程朔に言ったのは、朔を大人しく帰らせる為の方便だろうか。
一応瑞希が周を好きだとすれば、一連の瑞希の行動は周にも理解できる。
でも、と思う。別に自分の事は嫌いではないが、客観的に見るくらいはできる。顔はいたって普通。悪くもないだろうけれども間違ってもいいとは言えない。人を惹きつけるようなオーラも勿論ないし、だいたい性格は自分でもわかっているが大人しい。
頭は悪くないとは思う。飛びぬけてよくはないが、真面目な性格だし昔からこつこつしてきたおかげもあって希望した公立高校へも入れた。
しかし運動はやはり普通で、基本運動しないから体つきも貧相だ。筋肉は欲しいなと思うけが、真面目な割に面倒くさがりだから何もしていない。食事だって親だけではなく朔やそして瑞希にまで言われるくらい適当だった。身長は、普通だなと思える高さにどうにもあと一歩足りない。
「……ほんとなんで」
思わず呟くくらい、自分のいい所がほとんど見い出せない。
というかだいたい自分はどうなのだと周は自分に問う。
元々ずっと好きで思いつめた挙句いきなり抱きつく事までしたくせに。そして失恋したんだとショックを受けていたくせに。相手が男だとわかった途端その気持ちは無かったものになったのか?
しかし、だとしたら何故今もこうして相手の言いなりなのだろうか。怖いからというのもあったけれども。
「周、大丈夫?」
「……え?」
不意に大丈夫かと聞かれて周はハッと見上げた。すると首を傾げている瑞希がジッと周を見た後に、座っているソファーの横に腰をおろしてきた。
「もうすぐご飯できるよ」
「あ、はい……。いつも……すみません」
「いいよ、可愛い周のためだから」
また可愛いと言われ、周は少し戸惑ったように瑞希を見た。
「何?」
「……あの……さっき、朔に言った事……」
「……ああ。それこそさっきイった後に変な事呟いてたね。何故?」
「え?」
「だから何故そんな事聞くの?」
そんな事。
ああ、朔に言った事という、事?
「す、好き、って……」
「? うん?」
瑞希は怪訝そうな顔をした。いつも柔らかい笑みを浮かべているので、怪訝そうな顔をされると「そんなにあり得ない変な事を言ったのだろうか」という気分になる。思わず黙っていると「ああ」と何かに気付いたかのような表情をした後で周の髪を優しく撫でてきた。
「俺がいつも好きだと言うより可愛い、て言っているから? 珍しかったの?」
違います。
少し微妙な気持ちになった。
でも、それって……やはり瑞希が自分を好きなのは間違いないって事だ、よね? そうだよね?
「つい思っている気持ちが出ちゃってるからいつも可愛い、可愛いって言ってるけど、もちろんちゃんと愛してる。好きだよ周」
思わず周はポカンと瑞希を見た。サラリと言われた。嘘だろう? と思わず言いたくなるくらい、サラリと。
こんなに綺麗でカッコよくて、背も高くて行っている大学を思えば多分頭も凄くよくて。料理だって何だってできる、ただし男、な人が。
なんというか思わずこちらが乙女な気分になりそうなほど、あまりに当然といった風にカッコよくサラリと言ってきた。
ああでもやっぱり本当なら、なんて言うか何故今まであんな事をしてきたのかが理解できるから俺……怖くない。
意味がわからなくて怖くて仕方がなかったけれども、そして今後も想像もつかないような事をされるのはやはり緊張するかもだけれども、もう、あれほど怖くない。
「……から暫くはごめんね」
え?
何か、言っていた?
自分の考えに没頭していて今の言葉は聞こえていなかった。
「あは、なんかその顔、可愛い」
だが聞き返そうとする前にそんな事を言われて優しくキスをされつつまた押し倒されてしまい、結局聞き返すことのないまま流され、そしてまたお風呂に入れられた後でふらふらになりながら瑞希の作ってくれたご飯を食べた。
何度もしたからいつもなら夜はただ一緒に眠るだけだったが、その夜周はまた抱かれた。まるで仕納めかのような印象すらある勢いだったが、とりあえずもう怖くはなかった。激しく求められ、それに応じるように周はひたすら委ねた。
そのせいで翌日体はガタガタだった。なんとかふらふらと学校に行くと、朔に微妙な顔で見られて赤くなる。
「……赤くなるの、やめてくれ」
「……ご、ごめん」
「いや、うん。……その……だ、大丈夫なのか?」
多分なぜふらふらなのか、察しがついているんだろうと周はなおさら赤くなる。辛うじて「うん」と呟くと俯いた。
その時の朔の表情がとてつもなく複雑だったのだがそれには気付かないまま、とりあえずゆっくりと席に座る。
あまりに疲れていたのだろうか、珍しく周は授業の時に少し居眠りしてしまい、その授業を担当していた教師の鬼崎に「珍しいな、とりあえず起きろ」と注意をされてまた赤くなった。
「ほんと大丈夫なんか? その、あれだ、興味本位で聞いてるんじゃないぞ」
昼休みに朔と一緒に昼ご飯を食べていると、また言われた。本当に心配してくれているのはわかるので周はコクリと頷く。
「大丈夫……。あ、そ、その……か、体も、だ、だけどっ、その、み、瑞希はその、こ、怖くなくなった」
なんとかそう伝えるとまた微妙な顔をされた。変な事を言ってしまったのだろうかと思っているとため息をつかれた後で頭を撫でられた。
「まあ、なら、いい。周が大丈夫ならいいんだ」
「……うん。ありがとう、朔」
「お前、やっぱあのストー……いや、英さん、好きなのか?」
「ストーカーて言ってもいいよ」
周は少し苦笑しながら朔を見た。
「……自分でもほんと、なんかよくわからなくて……」
「……そっか。まあとりあえずちゃんと自分を大事にしろよ? お前はすぐ色々めんどがって投げんだからな」
「なんだよ、それ。そんな事、ねーし。……でもうん、そうする。ありがとう」
もうしばらく、ようやく理解できるようになった瑞希と接したらわかるかもしれない。
そう思った周だが、その日から瑞希は家に来なくなった。
1
あなたにおすすめの小説
ヤリチン伯爵令息は年下わんこに囚われ首輪をつけられる
桃瀬さら
BL
「僕のモノになってください」
首輪を持った少年はレオンに首輪をつけた。
レオンは人に誇れるような人生を送ってはこなかった。だからといって、誰かに狙われるようないわれもない。
ストーカーに悩まされていたレある日、ローブを着た不審な人物に出会う。
逃げるローブの人物を追いかけていると、レオンは気絶させられ誘拐されてしまう。
マルセルと名乗った少年はレオンを閉じ込め、痛めつけるでもなくただ日々を過ごすだけ。
そんな毎日にいつしかレオンは安らぎを覚え、純粋なマルセルに毒されていく。
近づいては離れる猫のようなマルセル×囚われるレオン
真空ベータの最強執事は辞職したい~フェロモン無効体質でアルファの王子様たちの精神安定剤になってしまった結果、執着溺愛されています~
水凪しおん
BL
フェロモンの影響を受けない「ベータ」の執事ルシアンは、前世の記憶を持つ転生者。
アルファ至上主義の荒れた王城で、彼はその特異な「無臭」体質ゆえに、フェロモン過多で情緒不安定な三人の王子たちにとって唯一の「精神安定剤」となってしまう。
氷の第一王子、野獣の第二王子、知略の第三王子――最強のアルファ兄弟から、匂いを嗅がれ、抱きつかれ、執着される日々。
「私はただの執事です。平穏に仕事をさせてください」
辞表を出せば即却下、他国へ逃げれば奪還作戦。
これは、無自覚に王子たちを癒やしてしまった最強執事が、国ぐるみで溺愛され、外堀を埋められていくお仕事&逆ハーレムBLファンタジー!
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
可哀想は可愛い
綿毛ぽぽ
BL
平民、ビビり、陰キャなセシリオは王立魔術学園へ入学を機に高校デビューを目指したが敢え無く失敗し不良のパシリをさせられる毎日。
同室者の男にも呆れられ絶望するセシリオに天使のような男が現れるが、彼もかなりイカれた野郎のようで……?セシリオは理想の平和な学園生活を送る事が出来るだろうか。また激重感情を抱えた男から逃げられるだろうか。
「むむむ無理無理!助けて!」
━━━━━━━━━━━
ろくな男はいません。
世界観がごちゃごちゃです。余り深く考えずに暖かい目で読んで頂けたら、と思います。
表紙はくま様からお借りしました。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる