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4話
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今でも実央が玄関の前で立っていた姿を思い出すとにやけてくる。インターホンが鳴り、画面を見れば複雑な表情をした実央がそこに立っていた。あの瞬間の気持ちは言葉では言い表せない。
貴とて男なので、好きになってしまい悩みに悩んだ挙句ようやく自分の中でその気持ちを受け入れ実央と恋人になってからずっと、本当は実央に触れたくて仕方なかった。繰り返すが男なので仕方がない。
ただ、実央のことは恋愛として好きだと意識する前からずっと好きだったし大切に思ってきた。それが親愛だっただけで大切に思う気持ちに違いはない。そんな相手を欲望のまま触れるなんてできるわけなかった。
相手も成人、いやせめて親の同意がなくとも携帯電話を契約できる年齢以上であってくれたならそこまで思わなかったかもしれない。もっと軽率に手を出していた可能性もある。だが好きになってしまった相手はあろうことか高校生だった。それも生まれた時から知っている幼馴染だ。手なんて出せるはずもなかった。
実央が高校一年生の時、要は貴が大学四年生の時に、貴は自分が実央をそういう意味で好きなのだと気づいた。たまたま実家に帰っていた時だった。久しぶりに会って一緒に過ごしている内に気づかされた。
だが、じゃあ実央も自分のことがずっと好きみたいだから付き合おう、なんて到底考えられなかった。このままなかったことにするのが何より実央にとっていいはずでは、などと大いに悩みに悩み、ようやくその一年後に恋人となった相手だ。無下に扱うなんてできるはずもなく、いくら実央が「俺は大丈夫」なんて言ってくれていてもぐっと堪え、実央が卒業し、上京してくるのを待った。
画面越しとはいえ実央がそこに立っているとわかった時の気持ちなど簡単に言い表せるものではないのも仕方ない。
とはいえそれからもさすがにすぐには手を出せなかった。正直出したいのは山々だったが、実央からだけでなく実央の両親からも信頼されているだけにとてつもなく出しづらいというのだろうか。
「……なあ」
「ん?」
実央用に用意していた布団は気づけば速攻で処分されており、結局はずっと一緒のベッドで眠っていたのだが、ある日とうとう実央が「何で手ぇ、出さねえの」と聞いてきた。
「えっと、ほら。みぃの親からもよろしく頼むって言われてるし……」
「俺の親によろしくって言われたから、じゃあ貴にぃは恋人じゃなくて保護者になっちゃうの?」
ぎゅっとくっついてきながら顔をあげて悲しげに聞かれた。そんなかわいい様子に絆されない男なんているのだろうか。
「まさか! 保護者じゃないよ、みぃは俺の大事な恋人だよ」
「じゃあ何で。俺、貴にぃとしたい。俺が襲えばいいの?」
「……」
これ以上ムラムラさせてくるのはやめて欲しいと思いつつもきゅんきゅん高鳴る胸に、貴はぎゅっと実央を抱きしめ返した。
「俺から襲わせて。でもせめてみぃが大学の入学式が終わるまではこのままで」
「意味わかんねえ、けどわかった。でもそれまでだからな。それでも何もしてくんないなら俺がするから」
拗ねたような顔で見上げてくる実央がかわいすぎて、貴はさらにぎゅっと抱きしめた。
もちろん実央が晴れて大学生となってから、貴はありがたくも手を出させていただいている。何もかも初めての経験といった実央の、恥ずかしがったり怒ったり泣いたり笑ったりする表情をたくさん満喫できた。中でも気持ちよさそうなのに素直に出さない顔が本当にかわいくて、貴としては自分の性的な欲望よりもその顔見たさに沢山実央に触れているかもしれないくらいだ。
「貴、にぃ……貴にぃ……っ」
子猫のようにかわいいと思っている実央がにぃにぃと切なげに漏らしてくるのはとてつもなくクるものがあったが、反面どうしても「兄」のような存在だった自分を思い出させられる。
「貴にぃはやめない?」
食事中に切り出したら「何で」と返ってきた。
「俺はみぃのお兄ちゃんじゃなくて恋人だから」
そう答えると少しぶすっとしていた表情が嬉しそうに変わったかと思うと「わかった」と頷いてくれた。それ以来「貴くん」と呼ばれている。何だかくすぐったくて新鮮だった。
そうして一緒に暮らすようになってもう一年以上になる。今でも最初の頃に感じた新鮮な気持ちは薄れていないだけでなく、実央がかわい くて堪らない気持ちに至ってはますます大きくなっている。
はっきりいって順風満帆だ。最高だと思う。幸せ過ぎてごめんなさいと思う。
ただ。
今日も仕事を完璧に終わらせ、終業時間と共に退社をきめた貴はいそいそと駅へ向かいながら内心ため息をついた。
ただ、どれだけイチャイチャしても、どれだけこれでもかというくらいかわいがっても、二人はまだ最後まで済ませた関係ではない。
これに関しては正直、貴とて残念だとは思っている。ずっと長らく手を出さなかったのは興味がないからでも出したくないからでもないのだ。出したくても出せなかっただけに過ぎない。出せるものならいくらでも出したいし下品な話、実央を抱いてそれこそ中で思い切り精液を出したい。もちろんコンドームはつけるが。
とはいえ多分無理なのだろうなと、貴はまた心の中でそっとため息をついた。
入らないのだ。
そう、入らない。心理的なとかではなく、物理的に入らない。貴のものは別段異常な大きさではないと思っているのだが、確かに小さくもない。比べたことが特にないのでわからないが、背が高いからかどうかはわからないものの中くらいよりはもしかしたら大きいのかもしれない。対して実央はそもそも体が小柄であり、体格差だけでも理由になる上にそれに伴って尻も小さいしさらにそこにある穴も小さかった。
実央曰く「無理やりでもいいからやってよ」らしいができるわけがない。もちろん無理やりでも入れたい欲がないとは言わないが、大切だからこそずっと手を出せなかった貴がそんなこと、できるはずもなかった。
貴とて男なので、好きになってしまい悩みに悩んだ挙句ようやく自分の中でその気持ちを受け入れ実央と恋人になってからずっと、本当は実央に触れたくて仕方なかった。繰り返すが男なので仕方がない。
ただ、実央のことは恋愛として好きだと意識する前からずっと好きだったし大切に思ってきた。それが親愛だっただけで大切に思う気持ちに違いはない。そんな相手を欲望のまま触れるなんてできるわけなかった。
相手も成人、いやせめて親の同意がなくとも携帯電話を契約できる年齢以上であってくれたならそこまで思わなかったかもしれない。もっと軽率に手を出していた可能性もある。だが好きになってしまった相手はあろうことか高校生だった。それも生まれた時から知っている幼馴染だ。手なんて出せるはずもなかった。
実央が高校一年生の時、要は貴が大学四年生の時に、貴は自分が実央をそういう意味で好きなのだと気づいた。たまたま実家に帰っていた時だった。久しぶりに会って一緒に過ごしている内に気づかされた。
だが、じゃあ実央も自分のことがずっと好きみたいだから付き合おう、なんて到底考えられなかった。このままなかったことにするのが何より実央にとっていいはずでは、などと大いに悩みに悩み、ようやくその一年後に恋人となった相手だ。無下に扱うなんてできるはずもなく、いくら実央が「俺は大丈夫」なんて言ってくれていてもぐっと堪え、実央が卒業し、上京してくるのを待った。
画面越しとはいえ実央がそこに立っているとわかった時の気持ちなど簡単に言い表せるものではないのも仕方ない。
とはいえそれからもさすがにすぐには手を出せなかった。正直出したいのは山々だったが、実央からだけでなく実央の両親からも信頼されているだけにとてつもなく出しづらいというのだろうか。
「……なあ」
「ん?」
実央用に用意していた布団は気づけば速攻で処分されており、結局はずっと一緒のベッドで眠っていたのだが、ある日とうとう実央が「何で手ぇ、出さねえの」と聞いてきた。
「えっと、ほら。みぃの親からもよろしく頼むって言われてるし……」
「俺の親によろしくって言われたから、じゃあ貴にぃは恋人じゃなくて保護者になっちゃうの?」
ぎゅっとくっついてきながら顔をあげて悲しげに聞かれた。そんなかわいい様子に絆されない男なんているのだろうか。
「まさか! 保護者じゃないよ、みぃは俺の大事な恋人だよ」
「じゃあ何で。俺、貴にぃとしたい。俺が襲えばいいの?」
「……」
これ以上ムラムラさせてくるのはやめて欲しいと思いつつもきゅんきゅん高鳴る胸に、貴はぎゅっと実央を抱きしめ返した。
「俺から襲わせて。でもせめてみぃが大学の入学式が終わるまではこのままで」
「意味わかんねえ、けどわかった。でもそれまでだからな。それでも何もしてくんないなら俺がするから」
拗ねたような顔で見上げてくる実央がかわいすぎて、貴はさらにぎゅっと抱きしめた。
もちろん実央が晴れて大学生となってから、貴はありがたくも手を出させていただいている。何もかも初めての経験といった実央の、恥ずかしがったり怒ったり泣いたり笑ったりする表情をたくさん満喫できた。中でも気持ちよさそうなのに素直に出さない顔が本当にかわいくて、貴としては自分の性的な欲望よりもその顔見たさに沢山実央に触れているかもしれないくらいだ。
「貴、にぃ……貴にぃ……っ」
子猫のようにかわいいと思っている実央がにぃにぃと切なげに漏らしてくるのはとてつもなくクるものがあったが、反面どうしても「兄」のような存在だった自分を思い出させられる。
「貴にぃはやめない?」
食事中に切り出したら「何で」と返ってきた。
「俺はみぃのお兄ちゃんじゃなくて恋人だから」
そう答えると少しぶすっとしていた表情が嬉しそうに変わったかと思うと「わかった」と頷いてくれた。それ以来「貴くん」と呼ばれている。何だかくすぐったくて新鮮だった。
そうして一緒に暮らすようになってもう一年以上になる。今でも最初の頃に感じた新鮮な気持ちは薄れていないだけでなく、実央がかわい くて堪らない気持ちに至ってはますます大きくなっている。
はっきりいって順風満帆だ。最高だと思う。幸せ過ぎてごめんなさいと思う。
ただ。
今日も仕事を完璧に終わらせ、終業時間と共に退社をきめた貴はいそいそと駅へ向かいながら内心ため息をついた。
ただ、どれだけイチャイチャしても、どれだけこれでもかというくらいかわいがっても、二人はまだ最後まで済ませた関係ではない。
これに関しては正直、貴とて残念だとは思っている。ずっと長らく手を出さなかったのは興味がないからでも出したくないからでもないのだ。出したくても出せなかっただけに過ぎない。出せるものならいくらでも出したいし下品な話、実央を抱いてそれこそ中で思い切り精液を出したい。もちろんコンドームはつけるが。
とはいえ多分無理なのだろうなと、貴はまた心の中でそっとため息をついた。
入らないのだ。
そう、入らない。心理的なとかではなく、物理的に入らない。貴のものは別段異常な大きさではないと思っているのだが、確かに小さくもない。比べたことが特にないのでわからないが、背が高いからかどうかはわからないものの中くらいよりはもしかしたら大きいのかもしれない。対して実央はそもそも体が小柄であり、体格差だけでも理由になる上にそれに伴って尻も小さいしさらにそこにある穴も小さかった。
実央曰く「無理やりでもいいからやってよ」らしいができるわけがない。もちろん無理やりでも入れたい欲がないとは言わないが、大切だからこそずっと手を出せなかった貴がそんなこと、できるはずもなかった。
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