子猫のような君が愛しくて……

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5話

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 授業を終えて外を歩いていると「岬!」と聞き覚えしかない声が実央を呼び止めてきた。振り返ると案の定、友人の羽嶋 佑二(はしま ゆうじ)だった。

「何」
「今日、サークルの飲み会があるんだけ──」
「行かない」
「返事はやくねっ? せめてもう少し考えて」
「……」

 黙ったまま実央は佑二を見上げた。貴よりは低いが佑二も背が高い。なので忌々しいことに見上げないと顔を合わせられない。

「どうした?」
「……行かない」
「ああ……少し考えて答えたってことね……。でも岬、絶対今、ただ黙ってただけで考えてないだろ」
「今日、貴くん帰ってくるの早いって言ってたし、そうでなくても俺、別に行く理由ねえし」

 貴と付き合っていることを言いふらすつもりはない。貴を好きになったときから迷うことなく一筋に好きだった実央としても、世間を知らないわけではない。男同士が当たり前ではないと承知しているため特に誰にも言うつもりは元々なかった。佑二が知っているのはたまたまだ。貴と一緒にいるところを見られた。他の誰かだったらそれでも誤魔化していたかもしれないが、佑二ならいいかと思ったので実央は翌日、正直に打ち明けた。すると戸惑いつつも「別に友だちが誰を好きかなんてそれこそ知ったこっちゃないしな」と笑って受け入れてくれた。とても明るくて楽しいだけでなく、いいやつでもある。
 ただそれとこれとは別だ。しかもサークルの飲み会などと言いながらも前に一度だけ行ったことはあるが、まるで耳にしたことのある「合コン」みたいな感じだった。実際カップルができ上がったりくっついたり離れたり、といったことも飲み会を通じてそれなりにあるようだ。なおさら行く理由がない。

「たまにはお前ともゆっくりさあ」
「どのみち俺もお前も未成年だろ。まだ酒、飲めないだろ」
「そりゃまあ、そうなんだけど……岬って一見そういうこと『まあいいじゃん』とか言いそうなのに意外にもしっかりしてるよな」
「意外とか余計。俺はしっかりしてるの。あと貴くんが『お酒は二十歳まで飲まないようにしようね』って言ってたから飲まない」
「模範的恋人かよお互い……! 俺さー、お前みたいな彼女欲しくなるわ」

 呆れたような顔をしてから佑二がわけのわからないことを言ってきた。実央は二歩ほど佑二から距離を取る。

「おい、今なんで離れた」
「俺、貴くん以外男に興味ねえから」
「俺もないよっ? ああ、そうじゃなくて。別にお前と付き合いたいなんて思ったことないし、男の子がいいとも思ったことないから! ただお前ってめちゃくちゃ一途に宮野さん大好きじゃん」
「……うるせぇ」

 佑二に言われるまでもなく、実際一途に貴がめちゃくちゃ大好きだ。佑二が思っているであろう大好きより一億倍は大好きだ。だが言われると照れ臭いしニコニコして「うん」などと柄でもない。実央はムッと眉を潜ませながらプイと顔を逸らした。

「そういうとこもさあ、かわいい女の子にされたら俺、わりと好きかも」

 とりあえず実央はさらに二歩、後ろへ下がった。

「いや、だからお前が好きとかそういうんじゃないって!」

 思わず大きな声を出した佑二を、近くにいた他の見知らぬ学生たちが怪訝な顔や引いたような顔で見ていく。

「クソ、変な風に恥ずかしいだろ」
「お前が勝手に大声出すからだろ」
「ああ、そうでしょうとも。とにかくあれだよ、女の子ね。俺が言ってるのは女の子がってことだから。岬がどうこうじゃなくて。だからそんな野良猫みたいな警戒心むき出しの顔で俺を見ないでくんない? 俺ら親友でしょ」
「親友かどうかは……」
「冷たい……!」

 結局飲み会へは絶対に行かないという実央に「じゃあせめて明日以降俺に付き合って飯食いに行くこと」と約束させられた。実央は帰りながらため息をつく。
 別に佑二と食事に行くのが嫌なわけではない。佑二に「親友」と言われたことも本当は嬉しいくらいだ。それに貴も「誰かとどこかへ出かけるなんて」などと怒ったりしない。友人と遊びに行くと言えば、貴はむしろ「いいね。ゆっくり楽しんでおいで」と嬉しそうに勧めてくる。その辺も大人なのだろう。実央なら「いってらっしゃい」と言いつつも絶対「俺置いて行っちゃ嫌だ」と思ってしまう。もちろん情けないし恥ずかしいので口には絶対しないが、よくしてしまうらしい、きっと拗ねたような顔になってしまうに決まっている。
 ため息をついたのは単に貴といる時間が少しでも減ってしまうのが切ないからだ。とはいえ、だからといって貴にだけべったりしていたら駄目だということくらい自分でもわかっている。

「せめて最後までエッチ、できてたらまた違ってたのかも。いや、うん、絶対違う。そうだよ、絶対そうだ」

 ちゃんとセックスができればきっと実央も自信のようなものができ、もう少し貴離れもできるかもしれない。うんうんと頷きながら、実央はマンションの入り口にあるセンサーに鍵を向け、開く自動ドアの中へ入って行った。ちなみに最初、貴の家の玄関ドアまでやって来られたのは誰かが入っていった後に続いたからだ。今はこうして貴の家の鍵を自分用として持っていることに、ため息をついていたはずの実央は一人、ニコリと顔を崩した。
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