ケーキと幼馴染

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4話

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 いつものように昼休み、祐真はいそいそと稀斗の元にケーキを持って行く。今日は見た目も可愛らしいプチケーキを四種類作ってきていた。飾りつけ一つ一つが楽しかった。

「……お前も頑張るな」

 稀斗は呆れた表情になりながらも目の前の四種類ある小さなプチケーキの内、一つを迷う事なくつかんだ。甘いものが苦手だと言う癖にそうやって食べることに迷いの無いところが祐真はいつも嬉しい。

「お、そのケーキなんか美味そ!一口くれよ」

 その時通りかかったクラスメイトであり二人の友達でもある山下基治(やました もとはる)が稀斗の手にしたプチケーキにそのまま齧り付いてきた。

「おい山下。こんな小さなケーキに一口もへったくれもあるかよ」

 稀斗が呆れたように基治を見るも、相手はヘラリとしている。

「えー。つか美味いなこれ」
「お前もういっそ全部食えよ……」

 齧られ手元には一口分もないケーキをさらに呆れて見た後に、稀斗は基治の口にその欠片を押し込んだ。
 祐真はその様子を全部見ていた。そしてとてつもなくモヤモヤとした気持ちに陥っている自分に気付く。

 ……何だろう、これ。

「どうかしたのか?」

 稀斗が怪訝そうな目を向けてきたので祐真は「どうもしないよ」と顔を崩した。
 結局残りの三つは稀斗が食べてくれた。いつものように「甘いけどそんなに甘くない」と言ってくれるのはとても嬉しく思う。だがまだモヤモヤとしたものが祐真の中に残っていた。そのモヤモヤが、何に対してのモヤモヤなのかわからないままだ。

 もしかしたら、きぃのために作ったケーキなのにきぃが味わう事なくもとくんが食べてしまったからかなあ。

そう思うもすっきりしなかった。モヤモヤを抱えたままトイレへ行き、戻ってくると稀斗が女子と話しているのが見えた。ただの雑談というよりは何か相談事を持ちかけられているようだ。稀斗は誰からも頼られる性格なので、その光景は珍しいものでもないのだろう。ただ祐真は聞いたことはあっても見かけた記憶がないからか変に目についた。
 ちなみに女子にもし何らかの相談をされたとしても大抵の男子はちゃんと話を聞かずに「こうしたら?」「これはした?」等と直ぐに思い付いた解決案を出してしまうことが多い。それはもちろん間違ってはいない。だが稀斗の場合はとりあえず女子の話を聞くようだ。同意や相槌を打ちながら聞いていると、中にはそれだけで安心するのかすっきりとする女子もいるらしい。

「何の解決にもなってないんじゃ……」

 その話を祐真が稀斗から聞いた時は思わずポカンと呟いていた。

「まあ、ただ聞いてもらうだけで安心する時もあるんじゃないのか」

 それに対し稀斗が少し笑うように返してきた言葉は妙に説得力があった。

「そうだね、今、俺も何だかきぃに頼りたくなった!」
「なんでゆうがそーなんだよ。ったく。まあ全員がそうってわけでもないけどな。中には他の意見とやらを求めてる子だっているし」
「人によるのかもだね。確かに俺も男子だけどきぃ相手なら解決案とかよりも話聞いてもらうだけでホッとするもん」
「……何か違う」
「え?」

 前にしたそんな会話を思い出していると、稀斗が慰めるように相手の頭をポンと撫でた。撫でられた相手は嬉しそうに稀斗を見る。祐真はその光景から目をそらし、自分の席に戻った。
 たわいもない光景だ。目の前の相手を慰めるのに自然と手が伸びた稀斗に、頼った相手に優しくされて嬉しかった女子。特別何かがある訳でもない。今までだってそういうことは何度もあっただろう。ただ祐真は見かけたことがなかっただけだ。
 そんなたわいもないことだというのに祐真の胸が何故か痛んだ。

「おい、具合でも悪いのか?」

 放課後、稀斗が怪訝そうに聞いてきた。そんなにモヤモヤとした気持ちが外にも出てしまっているんだろうかと祐真はそっと首を傾げた後にそのまま横に振る。

「ううん、何でもない。きぃはこれから部活?」
「おぅ。ほんとに何でもないんだな?」
「うん。もしかしたらちょっと眠いのかも。帰ったら寝るよー」
「そうか。じゃあな」

 祐真がニッコリと笑うと稀斗も笑ってきた。いつもの優しい稀斗が今は自分に向けられているとわかると祐真の胸は今度は軽くだがツキンと響いた。

「うん。バレーがんばって」

 稀斗がバレーの練習をしているところが見てみたいと前に本人に言った事があるのだが「見学か? そんなことしてみろ、絶対お前、部員に引き入れられるぞ」と苦笑された。

「なんで」
「お前、自分の身長わかってる?」
「知ってるよ」
「ここのバレー部は弱くもないけど別に強くもないんだけどさ、やっぱ身長はあった方がいいからな。部員にはすげえ高いヤツもいるけどやっぱ七十台のが多いんだよな」
「そうなの? でもきぃ、普通の身長だけどスタメンなんでしょ?」
「普通言うな。ないよりあった方がいいに決まってんだろ」
「そうかー。俺、バレーは得意じゃないからじゃあ、やめとく……」

 そんな話をして結局稀斗がバレーを練習しているところは見たことがない。試合の時はいつも応援に行くものの、コートが遠いのが少し寂しい。とはいえ応援席から見ている内にいつも途中から夢中になって応援しているのだが。

「おう。お前はじゃあ、気ぃつけて帰れよ」

 頑張って、と祐真が言うと稀斗が笑いながら手を上げ、教室から出ていった。それを見送った後に祐真も家へ帰る。
 祐真達の学校は寮もあり、遠くから来ている生徒たちは敷地内の寮に入っていた。だが祐真や稀斗は自宅から通える範囲なので家から通学している。
 自宅に帰るといつもならいそいそとお菓子を作る準備をしたり、いいレシピ案は無いものかと模索したりするのだが、今日はそのまま自分の部屋のベッドに横たわった。

 このモヤモヤは何だろう。何故すっきりしないのだろう。

 きっと気づけばすっきりするだろうと思うのだが、検討違いなのか思いついたことはどれも祐真のモヤモヤを晴らしてくれない。今日は結局いつもよりずっと稀斗のことを考えていた。
 これじゃあまるで恋じゃないか、と祐真は自嘲した。だが歪めた口元と表情が一瞬固まった。祐真の頭の中がぐるぐると思わぬ方向に回りだす。

 待って。
 最初にモヤモヤした時のことをちゃんと考えて。

 自分に言い聞かせる。
 とりあえず、基治が自分の作ったケーキを食べた。

 ……違う。そうじゃない。
 もとくんががきぃに作ったケーキを食べた。
 ……もとくんががきぃの手にあるものを食べた。
 …………きぃがもとくんに食べさせていた。
 何これ。

 祐真は自分の頭がどんどんとすっきりしていくことをなんとも言えない気分になりながら思っていた。
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