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6話
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蓮のアルバイト先のオーナーが叔父だとわかった時、不思議に思っていたことが半分以上解決した気になっていた。それでもなんとなく何かが引っかかるような気がするのを柾は感じる。とはいえそれが何なのか分からないが、基本的にはあまり気にしない性格の柾は「まあいいか」と思った。
とりあえずコーヒーもパンも美味かったし雰囲気がとても落ち着いた感じだったので、蓮が関係なくてもまた行きたいなと思う店だった。
そういえばその帰り、一緒に飯でもと気軽に誘った柾だったが「家で食う」という提案をした時の蓮が見せてきた反応が少々気になっていた。あまり人を私生活に踏み込ませたくないと言っていた智也の言葉を思い出す。
蓮の叔父だったら家にも入れるのだろうかとなんとなく思ったところで、そりゃ身内なのだから別に普通だろうと自分に突っ込んだ。
店で酒を飲みつつ、蓮が言っていたように中々美味い料理を食べる。相変わらず蓮はほとんど酒を飲んでいなかったけれども、もしかしたらかなり柾に打ち解けてくれているのか、存外な程色々話をしたような気がする。
「ああ。知っている相手でも。もし自分の中に踏み込んできた時にその現状を見て引かれたり嫌悪されたらどうしようって思うのかもしれない」
蓮の言葉に、それはやはり自分も入っているのだろうかと柾はなんとなく切なさを感じた。ただ、こうして話している蓮はどう見ても嫌なところなどなさそうだし、何故そんな風に考えるのかさっぱりわからない。
「……。なんでそう思うのか分からないな。蓮を見ていてそんな風に思うことなんてないと思うんだけど」
怪訝そうに言うと「それは踏み込んでないからだよ」と蓮が静かに笑ってきた。その表情と言い方がとても色気のあるように見え、柾は少しポカンとした。
「……そうかなあ」
だがポカンとなる意味がわからないとばかりに酒を飲み誤魔化しながら呟いた。
翌日、柾はまたカフェテリアで蓮を見かけた。
「別にどこで会おうとか言ってなくてもここに居たら蓮に会えそうだよな」
おかしそうにそう言うと、蓮は一瞬びくりと体を震わせたように柾には見えた。だが気のせいかもしれない。蓮を見ると苦笑しながら柾を見ていた。
「変なこというな」
「だって間違ってないだろ。ここ好きなの?」
笑いながら聞くと蓮は少し困ったような顔になった後で呟いた。
「別にそういう訳じゃない。でもあまり外が好きじゃないから」
「あ、ああ、そっか」
一瞬、蓮の腕に視線がいった後に柾はその視線をすぐに蓮の顔に戻した。そして気を取り直すように蓮の向かいに座り、買ってきたアイスコーヒーのプラスチックカップをテーブルに置く。蓮も買っていたようだがほとんど飲んでおり少しだけ残っているアイスコーヒーも氷が溶けて色が薄くなっている。
「ほとんどないね。これ、いる?」
「まさか。お前が買ってきたんだからお前が飲めばいい」
「まーそうなんだけどさ。俺、コーヒー買うのとオレンジジュース買うのどっちにしようか迷ってたんだよね。でもさすがに一度に二つとかアメリカ人かな? って感じだし」
あはは、と笑うと蓮が怪訝そうな顔で「アメリカ人?」と呟いてきた。
「ほら、よく映画とかで観ない? 朝食にさーオレンジジュースとホットコーヒー両方あるだろ。あれなんだろね? アメリカ人はひたすら飲みたくて仕方ないのかな」
「飲みたくて仕方ないって、なに……。あれは別に交互に飲むためのものじゃない。オレンジジュースは飲み物ってより果物を食べてる感覚なんだと思う。目覚めに冷たいしぼりたてのジュースを飲んで、それから食事をしながらたまにコーヒーを飲む、みたいな」
淡々と言ってくる蓮に柾は感心の目を向けた。
「そうなんだ! 蓮って物知りだね」
「そ、そんなことはない。智也さんがそういうものだって前にたまたま言ってただけだ」
困ったように返してくる蓮をおかしく思いつつ、柾はさらに聞いた。
「叔父さんのこと、名前呼びなんだ」
「叔父さんって言ったら気にくわないって言われるし、名字は同じだからな」
そう言われてみればそうだ。智也は確かに高校生から叔父さん呼ばわりされるにはまだ少々若そうだし、お互い同じ名字なのだから名前呼びが自然だろう。
「俺のことは名前で呼んでくれないのに」
だが冗談で笑いながら言うと、蓮は何故かさらに困ったように顔を赤らめて俯く。怪訝そうにそんな蓮を見ていると普通に戻り「で、結局コーヒーとオレンジジュースがなんなんだよ」と出していたノートを鞄にしまいながら言ってくる。
「ああ。いや、お前がアイスコーヒー飲むってんなら俺、も一回オレンジジュース買ってこようかなって思っただけ。そんで蓮にあげたアイスコーヒーちょっと貰おうかなって」
あはは、と蓮を見るとまた何故か顔を赤くしている。柾はハッとなった。もしかしてまた熱中症気味になっているのではと思ったのだ。だがここはさすがにエアコンが効いている。
「具合でも悪いのか……?」
それでもやはり心配なので気遣わしげに聞くと「ち、違う」と蓮は否定してきた。
「じゃあなんでちょこちょこ顔、赤くなってるの? 本当に大丈夫?」
「多分気のせいだ。俺はなんともない。でも、ありがとう」
ほんのり笑みを浮かべながら蓮が言ってきたので柾もホッとする。
「なら、よかった。じゃあオレンジジュース買ってこよかな。あ、それとも蓮も飲む?」
「オレンジジュース? いらない」
「あれ? 嫌い?」
「……嫌いじゃないけど口の中、しみるから」
「口内炎にでもなったの?」
柾が聞くと、なにやらハッとしてきた後に蓮はそっと首を降ってきた。
「いや、たまたま噛んでしまっただけ……」
「そっか」
「とりあえずそのコーヒーは秋尾が飲めよ。どのみち俺、もう行かなきゃ。次、講義あるから」
「え? そっか。じゃあまた」
柾がニコニコ手を振ると、蓮は少し頭を下げた後に立ち去っていった。そこに別の友達が何人かやってくる。
「お前、香月と友達だっけか」
「あー、うん。最近ね」
「そーなんだ。彼、カッコいいよね」
「え、田中さん、あーゆのタイプ? 俺は?」
「内山くんはあともう少しミステリアスにしたら少しだけタイプになるかもよ」
「お前らなに言ってんの。つか柾、いつの間に知り合いになってたんだよ」
「ほんと最近だよ。……なんで」
「いや、全然タイプが違うし授業もバラバラな気がしたから。俺は同じ授業あるんだけどさ、いいやつそうだけどあんま付き合いに乗ってこないし」
一瞬、傷のことが噂にでもなっているのかと内心ギクリとした柾はこっそりホッとする。
「けっこう気が合うよ」
「へえ、じゃあ今度合コン誘ったら来るかな」
「あー、それはどうだろうね」
柾は苦笑した。なんとなくだが、蓮がそういうのは苦手そうな気がしたのだ。
「あいつ居たら相手の女の子たち喜びそーなんだけどな」
「で、俺らがそれ切ないフラグだろ」
別の友達が突っ込んでいる。
「でも一人はそういうヤツ欲しいだろ。柾が出てくれんなら問題ねーんだけど。明日もあるんだけど、柾参加しない?」
「俺? まあ大抵バイトだから」
合コンがあまり好きではない柾は笑って断る。苦手そうだと思いつつ、実際蓮はどうなんだろうなとなんとなく思った。好みの女子とか、そういう話を今度はしてみようとそして笑みを浮かべていると「なんか想像して笑うとか、いつから爽やか柾はむっつりになったんだ」と友達から笑われた。
とりあえずコーヒーもパンも美味かったし雰囲気がとても落ち着いた感じだったので、蓮が関係なくてもまた行きたいなと思う店だった。
そういえばその帰り、一緒に飯でもと気軽に誘った柾だったが「家で食う」という提案をした時の蓮が見せてきた反応が少々気になっていた。あまり人を私生活に踏み込ませたくないと言っていた智也の言葉を思い出す。
蓮の叔父だったら家にも入れるのだろうかとなんとなく思ったところで、そりゃ身内なのだから別に普通だろうと自分に突っ込んだ。
店で酒を飲みつつ、蓮が言っていたように中々美味い料理を食べる。相変わらず蓮はほとんど酒を飲んでいなかったけれども、もしかしたらかなり柾に打ち解けてくれているのか、存外な程色々話をしたような気がする。
「ああ。知っている相手でも。もし自分の中に踏み込んできた時にその現状を見て引かれたり嫌悪されたらどうしようって思うのかもしれない」
蓮の言葉に、それはやはり自分も入っているのだろうかと柾はなんとなく切なさを感じた。ただ、こうして話している蓮はどう見ても嫌なところなどなさそうだし、何故そんな風に考えるのかさっぱりわからない。
「……。なんでそう思うのか分からないな。蓮を見ていてそんな風に思うことなんてないと思うんだけど」
怪訝そうに言うと「それは踏み込んでないからだよ」と蓮が静かに笑ってきた。その表情と言い方がとても色気のあるように見え、柾は少しポカンとした。
「……そうかなあ」
だがポカンとなる意味がわからないとばかりに酒を飲み誤魔化しながら呟いた。
翌日、柾はまたカフェテリアで蓮を見かけた。
「別にどこで会おうとか言ってなくてもここに居たら蓮に会えそうだよな」
おかしそうにそう言うと、蓮は一瞬びくりと体を震わせたように柾には見えた。だが気のせいかもしれない。蓮を見ると苦笑しながら柾を見ていた。
「変なこというな」
「だって間違ってないだろ。ここ好きなの?」
笑いながら聞くと蓮は少し困ったような顔になった後で呟いた。
「別にそういう訳じゃない。でもあまり外が好きじゃないから」
「あ、ああ、そっか」
一瞬、蓮の腕に視線がいった後に柾はその視線をすぐに蓮の顔に戻した。そして気を取り直すように蓮の向かいに座り、買ってきたアイスコーヒーのプラスチックカップをテーブルに置く。蓮も買っていたようだがほとんど飲んでおり少しだけ残っているアイスコーヒーも氷が溶けて色が薄くなっている。
「ほとんどないね。これ、いる?」
「まさか。お前が買ってきたんだからお前が飲めばいい」
「まーそうなんだけどさ。俺、コーヒー買うのとオレンジジュース買うのどっちにしようか迷ってたんだよね。でもさすがに一度に二つとかアメリカ人かな? って感じだし」
あはは、と笑うと蓮が怪訝そうな顔で「アメリカ人?」と呟いてきた。
「ほら、よく映画とかで観ない? 朝食にさーオレンジジュースとホットコーヒー両方あるだろ。あれなんだろね? アメリカ人はひたすら飲みたくて仕方ないのかな」
「飲みたくて仕方ないって、なに……。あれは別に交互に飲むためのものじゃない。オレンジジュースは飲み物ってより果物を食べてる感覚なんだと思う。目覚めに冷たいしぼりたてのジュースを飲んで、それから食事をしながらたまにコーヒーを飲む、みたいな」
淡々と言ってくる蓮に柾は感心の目を向けた。
「そうなんだ! 蓮って物知りだね」
「そ、そんなことはない。智也さんがそういうものだって前にたまたま言ってただけだ」
困ったように返してくる蓮をおかしく思いつつ、柾はさらに聞いた。
「叔父さんのこと、名前呼びなんだ」
「叔父さんって言ったら気にくわないって言われるし、名字は同じだからな」
そう言われてみればそうだ。智也は確かに高校生から叔父さん呼ばわりされるにはまだ少々若そうだし、お互い同じ名字なのだから名前呼びが自然だろう。
「俺のことは名前で呼んでくれないのに」
だが冗談で笑いながら言うと、蓮は何故かさらに困ったように顔を赤らめて俯く。怪訝そうにそんな蓮を見ていると普通に戻り「で、結局コーヒーとオレンジジュースがなんなんだよ」と出していたノートを鞄にしまいながら言ってくる。
「ああ。いや、お前がアイスコーヒー飲むってんなら俺、も一回オレンジジュース買ってこようかなって思っただけ。そんで蓮にあげたアイスコーヒーちょっと貰おうかなって」
あはは、と蓮を見るとまた何故か顔を赤くしている。柾はハッとなった。もしかしてまた熱中症気味になっているのではと思ったのだ。だがここはさすがにエアコンが効いている。
「具合でも悪いのか……?」
それでもやはり心配なので気遣わしげに聞くと「ち、違う」と蓮は否定してきた。
「じゃあなんでちょこちょこ顔、赤くなってるの? 本当に大丈夫?」
「多分気のせいだ。俺はなんともない。でも、ありがとう」
ほんのり笑みを浮かべながら蓮が言ってきたので柾もホッとする。
「なら、よかった。じゃあオレンジジュース買ってこよかな。あ、それとも蓮も飲む?」
「オレンジジュース? いらない」
「あれ? 嫌い?」
「……嫌いじゃないけど口の中、しみるから」
「口内炎にでもなったの?」
柾が聞くと、なにやらハッとしてきた後に蓮はそっと首を降ってきた。
「いや、たまたま噛んでしまっただけ……」
「そっか」
「とりあえずそのコーヒーは秋尾が飲めよ。どのみち俺、もう行かなきゃ。次、講義あるから」
「え? そっか。じゃあまた」
柾がニコニコ手を振ると、蓮は少し頭を下げた後に立ち去っていった。そこに別の友達が何人かやってくる。
「お前、香月と友達だっけか」
「あー、うん。最近ね」
「そーなんだ。彼、カッコいいよね」
「え、田中さん、あーゆのタイプ? 俺は?」
「内山くんはあともう少しミステリアスにしたら少しだけタイプになるかもよ」
「お前らなに言ってんの。つか柾、いつの間に知り合いになってたんだよ」
「ほんと最近だよ。……なんで」
「いや、全然タイプが違うし授業もバラバラな気がしたから。俺は同じ授業あるんだけどさ、いいやつそうだけどあんま付き合いに乗ってこないし」
一瞬、傷のことが噂にでもなっているのかと内心ギクリとした柾はこっそりホッとする。
「けっこう気が合うよ」
「へえ、じゃあ今度合コン誘ったら来るかな」
「あー、それはどうだろうね」
柾は苦笑した。なんとなくだが、蓮がそういうのは苦手そうな気がしたのだ。
「あいつ居たら相手の女の子たち喜びそーなんだけどな」
「で、俺らがそれ切ないフラグだろ」
別の友達が突っ込んでいる。
「でも一人はそういうヤツ欲しいだろ。柾が出てくれんなら問題ねーんだけど。明日もあるんだけど、柾参加しない?」
「俺? まあ大抵バイトだから」
合コンがあまり好きではない柾は笑って断る。苦手そうだと思いつつ、実際蓮はどうなんだろうなとなんとなく思った。好みの女子とか、そういう話を今度はしてみようとそして笑みを浮かべていると「なんか想像して笑うとか、いつから爽やか柾はむっつりになったんだ」と友達から笑われた。
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