2 / 45
2話
しおりを挟む
真っ赤になっている灯がじっとこちらを見てくる。その状況に柊は内心落ち着かなくて仕方なかった。その視線はヤバすぎるだろ、何でそんな無防備なんだと体を揺さぶりたくなる。
普段、灯は周りから男前で頼れる兄のようだと思われている。実際大切にしている妹がいるからというのもあるし、ずっと家族のために頑張っているところが滲み出ているのだろう。
そんな風に思われている灯のこうした様子をクラスメイトが見たら驚くに違いない。いや、見せる気などないのだが。
柊に対して安心しきってくれているからこその、こうしたどこか油断しているような表情やしぐさを、柊は誰にも見せたくないなとそっと思っている。
この気持ちが友人の域を越えているのは自分でもわかっている。いつからそういう風に思っていたのかはあまりわかっていないが、わかったところでどうしようもない。過去へ遡り「お前、気をつけろ」と自分に警告することはできないのだ。
この気持ちを渋々自分の中で認めた時は、自分の性癖についても悩んだ。自分は男が好きなのかと。一応、過去に女の子を好きになったことはあったとは思う。だが幼稚園や小学生の時の思いは小さな恋心とも呼べないような、恋に恋するようなものだったように思うし、中学生の時も結局本当に好きだったのかよくわからない。ちゃんと好きだと断言できるのは灯に対してだけのような気がして、性癖に疑問が生じるのも無理はないなと自分で思った。
ただ、これに関しては早々に解決している。ネットで見かけた男の裸にはドン引きしかしなかった。もちろん女の裸は興奮材料になる。
とはいえ性癖の疑問が解決しても根本的なことは何も解決していない。仲がいい友人、しかも男を好きになってどうすると落ち込んだりもした。
今はさほど悩んでいない。割り切ったというよりは、あまり考えないようにしているのかもしれない。自分の中で本当にどうしたいのかと考えた時、とりあえず今はただ灯のそばで見守りつつ楽しく過ごしたいと思った。何とかしてつき合いたいというより、そばにいて楽しく話したり遊んだり、そして支えてやれるのなら十分だと思った。
だから今もこうして普通に接してはいるのだが、如何せん好きだという気持ちはあるので所々で意識してしまう。今朝も学校へ向かっている途中にクスリと笑ってきた表情に対し、柊がどう思ったのかなど灯は知らないだろうなと、内心苦笑した。そして手にしているノートをまたパラパラとめくる。
黙り込んでノートを見ている柊を、灯が不安げに見てくるのがわかった。
クソ、かわいいな……。
まさか柊がそう考えているなど、灯には思いもよらないだろう。柊より十センチ近く小さい灯が必死な様子で見上げてくる様に、ドキリとしながらため息つきたくなった。
もちろん灯がそんなつもりなど皆目ないとわかった上で、かわいく見えて仕方ない。
見上げてくる灯の前髪が風に揺られてサラリと流れる。柊と違って何もセットしていないはずの髪はいつ見てもサラサラだった。以前「髪、何もつけたりしねーの?」と聞いたら「うん」と笑っていた。
「何もつけなくてもドライヤーしっかりしなくても何とかなるから無精な俺的にありがたいよ」
今も多分一切何もしていないのであろう髪がとても柔らかそうで、思わず風を遮りつつ撫でたくなるのを柊は堪えた。
「あ、あのさ……」
すると灯が不安そうな声を上げてきた。耐えきれないといった様子に柊はまたドキリとする。
「シュウ? 何か言ってくれよ」
「……これ、お前が書いたの?」
ようやく柊がそう聞くと、灯はもういいだろ? といった風に柊からノートを奪ってきた。
「ま、まぁ……」
ノートを抱えながら、灯は渋々認めてきた。
ノートには詩が書かれてあり、所々に音符の羅列がある。高校一年の頃から灯といるが、こんな趣味があるとは知らなかった。
「音符の羅列も?」
「……楽譜って言うんだよ」
「そっか。んで、楽譜も自分で考えて?」
「……うん」
柊は音符が読めないのでどんな曲なのかは見てもわからないが、灯の書いた詩は純粋にいいなと思っていた。するとまだ不安げな灯がおずおずと言ってくる。
「変だったら言えよ。黙られると凄く、何て言うか落ち着かないし嫌だ」
「ああ、悪い。変じゃないよ。俺、楽譜は読めないから何とも言えねーけど、いい詩だなって思ったし。俺は好き」
思ったことを口にすると、灯は言葉を飲み込んだような顔してまた赤らめている。
詩の言葉は灯らしく優しくて暖かい。本当にそう思った。
「……どんな曲なのか知りたい」
「いや、無理……」
口で言いにくいというのもあるが、灯は恥ずかしさがピークに達したのか「ったく、駄目だって言ったのに勝手に見て!」と文句を言いながら校舎の中へ戻っていく。柊も苦笑しながら後へ続いた。
授業が終わると、柊はすでに引退したテニス部へ顔を出しに行った。二年生たちが県大会へ出場するというので何度か練習につき合うことになっていた。
練習を終えると、皆とコンビニエンスストアへ寄ってそれぞれジュースやアイスキャンディーを買う。そろそろ肌寒い時期のせいでアイス系を口にすると後で冷えるのだが、部活を終えたばかりの体には心地いいためやめられない。柊もソーダ味のアイスキャンディーを買い、店を出ると早速袋から出して口にした。ふと気づくと、部活仲間の一人が何やらアイスキャンディーを食べながら鼻歌を歌っている。
「何かご機嫌だな」
他の友人が言うと「まーな。今度の休み、彼女とデート」と実際嬉しそうだ。
「デート、か……」
俺にはこの先も今のところ関係ない話だな。
柊がそう思っていると別の友人が「つかお前にいて永尾にいねーってのも変な話だよな」と嬉しそうな相手をからかった。
「るせー。だいたい永尾って彼女とか興味ねーの」
「俺? 別に、んなわけねーだろ。ただつき合いたい相手がいないだけ」
「真面目なんだからなー。お前ってばモテてるかビビられてるかのどっちかだよな」
「何だよ、その両極端みたいなのは!」
そんな軽口を言い合いながら、アイスキャンディーを食べ終えると皆それぞれ適当に帰る。
デートか、と一人になって柊は改めて思った。灯と遊びに出かけることはあるが、当然色気のあるやりとりなどない。
「……でもまあ、いっか。十分楽しいしな」
色んな話したり色んな遊びしたり。そして時折柊にとって凄くかわいらしいところを見せてくれたり。今のところそんなやりとりが柊にとって大事だった。
家へ帰ると、一旦リビングのソファーへドカリと座った。台所の方から母親が「またそんな乱暴に座って!」と文句を言っている。
「わりー」
あまり悪いという気持ちがこもってないまま口にしつつ、柊はふと昼に知った灯の趣味を思い返した。
「……少しくらい音楽、勉強しとけばよかったな……」
そうすればもっとあの音符を見て色々わかったかもしれないし、灯にもいい感じの言葉を伝えられたかもしれない。
「お? 何だ?」
呟いた声を耳にしたのか、丁度部屋へ入ってこようとしていた兄の声が聞こえて柊は顔をしかめた。
普段、灯は周りから男前で頼れる兄のようだと思われている。実際大切にしている妹がいるからというのもあるし、ずっと家族のために頑張っているところが滲み出ているのだろう。
そんな風に思われている灯のこうした様子をクラスメイトが見たら驚くに違いない。いや、見せる気などないのだが。
柊に対して安心しきってくれているからこその、こうしたどこか油断しているような表情やしぐさを、柊は誰にも見せたくないなとそっと思っている。
この気持ちが友人の域を越えているのは自分でもわかっている。いつからそういう風に思っていたのかはあまりわかっていないが、わかったところでどうしようもない。過去へ遡り「お前、気をつけろ」と自分に警告することはできないのだ。
この気持ちを渋々自分の中で認めた時は、自分の性癖についても悩んだ。自分は男が好きなのかと。一応、過去に女の子を好きになったことはあったとは思う。だが幼稚園や小学生の時の思いは小さな恋心とも呼べないような、恋に恋するようなものだったように思うし、中学生の時も結局本当に好きだったのかよくわからない。ちゃんと好きだと断言できるのは灯に対してだけのような気がして、性癖に疑問が生じるのも無理はないなと自分で思った。
ただ、これに関しては早々に解決している。ネットで見かけた男の裸にはドン引きしかしなかった。もちろん女の裸は興奮材料になる。
とはいえ性癖の疑問が解決しても根本的なことは何も解決していない。仲がいい友人、しかも男を好きになってどうすると落ち込んだりもした。
今はさほど悩んでいない。割り切ったというよりは、あまり考えないようにしているのかもしれない。自分の中で本当にどうしたいのかと考えた時、とりあえず今はただ灯のそばで見守りつつ楽しく過ごしたいと思った。何とかしてつき合いたいというより、そばにいて楽しく話したり遊んだり、そして支えてやれるのなら十分だと思った。
だから今もこうして普通に接してはいるのだが、如何せん好きだという気持ちはあるので所々で意識してしまう。今朝も学校へ向かっている途中にクスリと笑ってきた表情に対し、柊がどう思ったのかなど灯は知らないだろうなと、内心苦笑した。そして手にしているノートをまたパラパラとめくる。
黙り込んでノートを見ている柊を、灯が不安げに見てくるのがわかった。
クソ、かわいいな……。
まさか柊がそう考えているなど、灯には思いもよらないだろう。柊より十センチ近く小さい灯が必死な様子で見上げてくる様に、ドキリとしながらため息つきたくなった。
もちろん灯がそんなつもりなど皆目ないとわかった上で、かわいく見えて仕方ない。
見上げてくる灯の前髪が風に揺られてサラリと流れる。柊と違って何もセットしていないはずの髪はいつ見てもサラサラだった。以前「髪、何もつけたりしねーの?」と聞いたら「うん」と笑っていた。
「何もつけなくてもドライヤーしっかりしなくても何とかなるから無精な俺的にありがたいよ」
今も多分一切何もしていないのであろう髪がとても柔らかそうで、思わず風を遮りつつ撫でたくなるのを柊は堪えた。
「あ、あのさ……」
すると灯が不安そうな声を上げてきた。耐えきれないといった様子に柊はまたドキリとする。
「シュウ? 何か言ってくれよ」
「……これ、お前が書いたの?」
ようやく柊がそう聞くと、灯はもういいだろ? といった風に柊からノートを奪ってきた。
「ま、まぁ……」
ノートを抱えながら、灯は渋々認めてきた。
ノートには詩が書かれてあり、所々に音符の羅列がある。高校一年の頃から灯といるが、こんな趣味があるとは知らなかった。
「音符の羅列も?」
「……楽譜って言うんだよ」
「そっか。んで、楽譜も自分で考えて?」
「……うん」
柊は音符が読めないのでどんな曲なのかは見てもわからないが、灯の書いた詩は純粋にいいなと思っていた。するとまだ不安げな灯がおずおずと言ってくる。
「変だったら言えよ。黙られると凄く、何て言うか落ち着かないし嫌だ」
「ああ、悪い。変じゃないよ。俺、楽譜は読めないから何とも言えねーけど、いい詩だなって思ったし。俺は好き」
思ったことを口にすると、灯は言葉を飲み込んだような顔してまた赤らめている。
詩の言葉は灯らしく優しくて暖かい。本当にそう思った。
「……どんな曲なのか知りたい」
「いや、無理……」
口で言いにくいというのもあるが、灯は恥ずかしさがピークに達したのか「ったく、駄目だって言ったのに勝手に見て!」と文句を言いながら校舎の中へ戻っていく。柊も苦笑しながら後へ続いた。
授業が終わると、柊はすでに引退したテニス部へ顔を出しに行った。二年生たちが県大会へ出場するというので何度か練習につき合うことになっていた。
練習を終えると、皆とコンビニエンスストアへ寄ってそれぞれジュースやアイスキャンディーを買う。そろそろ肌寒い時期のせいでアイス系を口にすると後で冷えるのだが、部活を終えたばかりの体には心地いいためやめられない。柊もソーダ味のアイスキャンディーを買い、店を出ると早速袋から出して口にした。ふと気づくと、部活仲間の一人が何やらアイスキャンディーを食べながら鼻歌を歌っている。
「何かご機嫌だな」
他の友人が言うと「まーな。今度の休み、彼女とデート」と実際嬉しそうだ。
「デート、か……」
俺にはこの先も今のところ関係ない話だな。
柊がそう思っていると別の友人が「つかお前にいて永尾にいねーってのも変な話だよな」と嬉しそうな相手をからかった。
「るせー。だいたい永尾って彼女とか興味ねーの」
「俺? 別に、んなわけねーだろ。ただつき合いたい相手がいないだけ」
「真面目なんだからなー。お前ってばモテてるかビビられてるかのどっちかだよな」
「何だよ、その両極端みたいなのは!」
そんな軽口を言い合いながら、アイスキャンディーを食べ終えると皆それぞれ適当に帰る。
デートか、と一人になって柊は改めて思った。灯と遊びに出かけることはあるが、当然色気のあるやりとりなどない。
「……でもまあ、いっか。十分楽しいしな」
色んな話したり色んな遊びしたり。そして時折柊にとって凄くかわいらしいところを見せてくれたり。今のところそんなやりとりが柊にとって大事だった。
家へ帰ると、一旦リビングのソファーへドカリと座った。台所の方から母親が「またそんな乱暴に座って!」と文句を言っている。
「わりー」
あまり悪いという気持ちがこもってないまま口にしつつ、柊はふと昼に知った灯の趣味を思い返した。
「……少しくらい音楽、勉強しとけばよかったな……」
そうすればもっとあの音符を見て色々わかったかもしれないし、灯にもいい感じの言葉を伝えられたかもしれない。
「お? 何だ?」
呟いた声を耳にしたのか、丁度部屋へ入ってこようとしていた兄の声が聞こえて柊は顔をしかめた。
0
あなたにおすすめの小説
はじまりの朝
さくら乃
BL
子どもの頃は仲が良かった幼なじみ。
ある出来事をきっかけに離れてしまう。
中学は別の学校へ、そして、高校で再会するが、あの頃の彼とはいろいろ違いすぎて……。
これから始まる恋物語の、それは、“はじまりの朝”。
✳『番外編〜はじまりの裏側で』
『はじまりの朝』はナナ目線。しかし、その裏側では他キャラもいろいろ思っているはず。そんな彼ら目線のエピソード。
【完結】俺とあの人の青い春
月城雪華
BL
高校一年の夏、龍冴(りょうが)は二つ上の先輩である椰一(やいち)と付き合った。
けれど、告白してくれたにしては制限があまりに多過ぎると思っていた。
ぼんやりとした不信感を抱いていたある日、見知らぬ相手と椰一がキスをしている場面を目撃してしまう。
けれど友人らと話しているうちに、心のどこかで『椰一はずっと前から裏切っていた』と理解していた。
それでも悲しさで熱い雫が溢れてきて、ひと気のない物陰に座り込んで泣いていると、ふと目の前に影が差す。
「大丈夫か?」
涙に濡れた瞳で見上げると、月曜日の朝──その数日前にも件の二人を見掛け、書籍を落としたのだがわざわざ教室まで届けてくれたのだ──にも会った、一学年上の大和(やまと)という男だった。
三ヶ月だけの恋人
perari
BL
仁野(にの)は人違いで殴ってしまった。
殴った相手は――学年の先輩で、学内で知らぬ者はいない医学部の天才。
しかも、ずっと密かに想いを寄せていた松田(まつだ)先輩だった。
罪悪感にかられた仁野は、謝罪の気持ちとして松田の提案を受け入れた。
それは「三ヶ月だけ恋人として付き合う」という、まさかの提案だった――。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
仮面王子は下僕志願
灰鷹
BL
父親の顔は知らず、奔放な母のもとで育った渡辺響は、安定した職業に就くために勉強だけはずっと頑張ってきた。その甲斐あって有名進学校に進学できたものの、クラスメイトとは話題も合わず、ボッチキャラとして浮いていた。クラスの中で唯一、委員長の川嶋昴陽だけが響のことを気にかけてくれて、面倒見のよい彼に秘かに恋心を抱いていた。しかし、修学旅行の最終日に川嶋が隣で寝ていた朝倉にキスしようとしているところを目撃し、反射的にそれを写真に収めてしまう。写真を消せと川嶋に詰め寄られるが、怒りをあらわにした彼の態度に反発し――。女子から「王子」と呼ばれる人気者優等生×寂しさを抱えるボッチな茶髪男子、の失恋から始まるハートフル青春BL。
※ アルファポリス様で開催されている『青春BLカップ』コンテストに応募しています。今回は投票制ではないですが、閲覧ポイントでランキングが変わるそうなので、完結後にまとめてではなくリアルタイムでお読みいただけると、めちゃくちゃ励みになります。
※ 視点は攻め受け両方で章ごとに変わります。完結した作品に加筆してコンテスト期間中の完結を目指します。不定期更新。
ジャスミン茶は、君のかおり
霧瀬 渓
BL
アルファとオメガにランクのあるオメガバース世界。
大学2年の高位アルファ高遠裕二は、新入生の三ツ橋鷹也を助けた。
裕二の部活後輩となった鷹也は、新歓の数日後、放火でアパートを焼け出されてしまう。
困った鷹也に、裕二が条件付きで同居を申し出てくれた。
その条件は、恋人のフリをして虫除けになることだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる