絆の序曲

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3話

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 クラスが同じであり、灯は柊と一緒にいることが多い。ノートを見られた時は相当焦ったが、柊は馬鹿にすることなくむしろ詩について「俺は好き」とさえ言ってくれた。どうしても恥ずかしさはあるが、嬉しいと思った。 とはいえ、できればあの話題は避けて欲しくもある。

「詩を書いたり曲作るような仕事とか考えてたりする?」

 前の席に座り、灯の机に突っ伏しながらも灯を見ながら聞いてくる柊を、灯は困ったように睨んだ。

「あれのことはもう流して」
「何でだよ」
「他に知られたくない、っていうか何か恥ずかしいから」

 恥ずかしいと言うと、むしろ柊のほうが照れるような表情をしてきた。だがその後に気を取り直したように「恥ずかしがるようなことじゃねーだろ」と怪訝そうな様子で聞いてくる。

「俺は恥ずかしいの。だいたい仕事になんかできるわけないだろ。今がんばって受験へ向けて勉強してんのも、いい大学入って堅実な仕事に就くためなんだからな」
「……相変わらずの現実主義者」

 灯の言葉を聞いて、柊がプッと吹き出してきた。何だよと思っていると、女子がヒソヒソ話している声が聞こえてくる。

「今、永尾くん、笑わなかった?」
「うんうん、片倉くんに」

 それをつい聞いてしまい、灯は黙ったまま口元を綻ばせた。

「? 何笑ってんだよ」

 柊が怪訝そうな顔をしてくる。その表情はいつものように不機嫌そうに見える。

「いや……。知らないって面白いね。いつも学校では無口なシュウが、デレデレしながられんと遊んでる姿見たらさ、クラスの連中きっと楽しいことになるんじゃないかな」
「は? 意味わからねぇし……つかデレデレってなんだよ? だいたい、そういうお前だって……」
「え? 何?」
「何でもねーよ!」

 最後はボソリと言ってきたので聞こえなかった灯が聞き返すと、ムッとしたような態度が返ってきた。

 ……今のところで何照れること、あったんだろ。

 柊がムッとしている時は大抵本当に不機嫌なのではなく、照れ隠しのことが多い。
本人はバレていないと思っているところがおかしくて、灯は指摘したことない。今もどこに照れる要素があったのか謎に思いながらも、こっそり内心で楽しんでいた。
 放課後、引退した部活へ練習の手伝いに向かった柊と別れた灯はアルバイトへ向かった。
 恋を保育園に預けているので、平日は長時間の勤務が難しい。だが灯は学校の帰り道にあるカフェでアルバイトしている。丁度灯が入る時間帯は忙しくなる時間帯のようで、ほぼ毎日入っている灯に対して店長は時間の融通をしてくれるし、万が一保育園から連絡があれば帰らせてもくれる。最近辞めた人がいるのでシフトを組むのも中々大変なようだが、それでも無理は言ってこないこの職場を灯は気に入っている。
 本当はもっと稼ぎのいいアルバイトもあるかもしれないが、時間やシフトの融通してもらえるここ以外だと働くのも難しいかもしれない。
 また流している音楽の趣味も合う。スウィングジャズやビバップが主に流されているが、たまに雰囲気の合うR&Bも流れる。とても小さな音量で流れるのだが、それがまた人同士の会話の妨げにならず、耳に心地よかった。
 働いている店員は皆、灯よりも年上だ。大学生やここを主体として働いているフリーターといったところだろうか。 皆、灯の家庭事情を理解してくれていて、急に抜けたり休むことになっても快く交代してくれたり対応してくれた。

「おはようございます」

 着替え終わって店へ出ると、店長が「新しい人入ったよ」と笑いかけてきた。

「本当ですか? よかったですね」
「うん。片倉くんもこれで休みやすくなるだろ」
「今でも俺は優遇してもらってますし。で、どんな人なんですか」
「そうだなぁ、覚えは凄くよさそう。穏やかそうなイケメン?」
「何で最後疑問系なんですか」
「あはは。今日、もう少ししたら入ってるから片倉くんが確認するといいよ。かわいい女の子じゃなくてとりあえず悪かったね」
「俺、一言もそんなこと言ってませんよ……」

 そんな話しつつも手は動かしていく。さほど入っていなかった客も次第に増えてきた。
 水を運んだり注文を聞いたりオーダーを用意したり運んだりしていると席が埋まった分、逆に少しだけ手がすいてきた。そのうち「おはようございます」という聞き慣れない声が聞こえてきた。そちらを見ると背の高い男性がニコニコ灯を見ている。ジレとギャルソンエプロンがよく似合っている。
 ちなみに店長以外は皆この制服で、店長だけがビブエプロンをつけている。厨房業務もたまに手掛けているからかもしれない。

「おはようございます。新しい方ですか?」
「はい。よろしくお願いします」

 店長が言っていたように、穏やかそうな笑みを浮かべたイケメンだった。元々さほど身長があるわけではない灯よりずいぶん高いので見上げつつ、灯は微笑む。

「はい、よろしくお願いします。あと敬語いいですよ、俺のが年下ですよね、間違いなく」
「でも君のが先輩ですよ」
「しれてますよ」

 先輩と言われて少しこそばゆい感じに微笑みつつ灯が言うと「わかった、じゃあ君も敬語はなしで」と笑われた。

「すみません、俺のは性分です。年上だと思うと難しいです」
「えー」

 新しく入ってきた人は優しい笑みをしていた。やりとりに何となく温かい気持ちになりつつ、灯は時折やり方など説明した。店長が言うように覚えがいいみたいで、既にわりと把握しているだけでなく、灯が教えたこともすぐに覚えている様子だった。
 アルバイトを終えて灯はそのまま保育園へ向かう。買い物がある時は先に買い物をしていたほうが本当は楽なのだか、早く迎えに行きたいのと、恋がスーパーへ行くのが好きなため、一緒に行くようにしている。
 迎えに行くと灯を見つけ、もうあまり残っていない誰かと遊んでいた恋が嬉しそうに駆けつけてきた。

「お兄ちゃん、おかえり!」
「おう。ただいま、れん。よし、じゃあ先生にちゃんと挨拶しような」
「うん!」

 保育園を出ると二人で家の近所にあるスーパーへ向かった。元気いっぱいの恋は油断すると灯の手を離してどこかへ行こうとしたり、色んなものを欲しがる。

「これほしい!」
「れん、……何でそんなの欲しいの……」

 今も肉売り場にある鶏の玉ひもを見つけて欲しがる恋に、灯は微妙な顔を向けた。

「ほら、しっかり俺の手を握ってて。ちゃんと握れたら、今日はご飯に卵のふりかけ、かけてあげようかな」
「ほんと? て、にぎれるよー!」

 灯の言葉に、恋は必死になって握ってきた。
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