13 / 45
13話
しおりを挟む
最近、思っていることが灯にはある。何となくではあるのだが、梓が自分を避けているのではないか、と思われるのだ。とはいえ本当に何となくだ。ハッキリ感じられるのではない。
灯が話しかけるといつもと変わらず返してくれるし、態度も別に変わらない。だが、何だろうか、どこかそれとなく一歩、一線引いているかのような感じがする。それに教えてくれていたギターの練習も最近はできていない。休みなどのタイミングが合わないだけだといえばそれまでなのだが、どうにも違和感のようなものを灯は覚えた。
「シュウ」
学校の休み時間、椅子に座って前の授業で使った教科書や資料集を既に沢山入っているらしい机の中に何とか押し込んでいる柊のところへ行くと、自分を見てもらえるよう、しゃがんで下から覗き込む。
「っ、……何やってんだよ……」
一瞬驚いたような顔をした柊が微妙な表情で灯を見てきた。
「あのさ」
「つかそのまま話かけんな。普通に椅子に座れよ」
「わかった。……シュウ、何で顔赤いの?」
「っこれはあれだ。えっと、教科書無理やり机に押し込んでるから」
柊の返事に灯は笑いながら柊の机を見る。持って帰るのが面倒なのか柊は教科書を学校に置きすぎだと思う。だというのに頭はいいのだから灯としては少々納得がいかないが。
「なぁ、シュウ」
言われた通り、とりあえず空いている柊の前の椅子に座ると改めて灯は呼びかけた。
「ん?」
「あのさ、アズさんって忙しい?」
「梓? さぁ、俺は知らねーけど、何で?」
そもそも普段仲よく一緒にいるのではないらしい柊に聞いても当然わからないと返ってくるのかもしれないが、それでも気になってしまってつい聞いていた。
ただ何故と聞き返されると少々返答に困る。明確な理由はないのだ。何となく梓が自分を避けているのではないかと思っているだけだし、それが何故気になるのかと、もしさらに聞かれたとしても返答に困る。
寂しく感じるから、だろうか?
灯は自分でもよくわからなかった。そもそも梓をどういう括りで把握すればいいかもよくわからない。
灯は梓よりも年下だ。向こうは大学生であり、こちらは高校生だ。それでも友人と言っていいのだろうか。もしくはアルバイト仲間だろうか。それともギターを教えてくれる柊のお兄さん、だろうか。
灯としては、友人というカテゴリーだったらいいなと思う。普段友人相手に「これから友だちだ」などと宣言するわけではないが、相手が自分と何らかの立場が違うとなると難しいものだなと灯は思った。
「あいつと何かあったのか?」
「え? あはは、違うよ、シュウ。その、次の日曜にアズさんと約束があるんだけど、大丈夫かなあって思って」
「約束ぅ?」
灯の言葉に柊がよくわからない反応をしてきた。
結局、日曜日は約束通り梓は灯の家へ来た。しかも柊も一緒だった。二人が一緒にいるところを見てまず浮かんだのは、背の高いイケメン二人が歩いているところは圧巻だろうなということよりも、道中どんな会話をしながら一緒に歩いてたんだろう、だった。思わず灯は小さく笑ってしまう。
「……何だよ」
そんな灯に柊が微妙な顔をしてきた。梓はニコニコ笑顔だ。
「ひーちゃんだ!」
奥から出てきた恋が柊に気づくと、嬉しそうに駆けつけてきて柊に抱きついた。柊も途端にこやかになり、恋を抱き上げる。
「おお、熱烈な歓迎だな」
それを見ていた梓が感嘆したように言うと、恋を下ろした柊はジロリと梓を睨んだ。
「煩い」
梓は気にした様子もなく、ニッコリ恋に笑いかけた。
「君が恋ちゃん? 俺、この柊のお兄ちゃんなんだ。よろしくね」
すると恋は梓を見て、サッと灯の元に戻ってくると後ろに隠れた。そして恥ずかしそうな様子で梓を見上げた。
「れん、いつも人見知りなんてしないだろ」
そんな恋がかわいいながらもおかしくて、灯が優しく言うと「だって大きいお兄ちゃんなんだもん」と灯からするとわかるようでいまいち基準のわからない理由を言われた。それでも梓が兄属性だからだろうか、恋はすぐに梓と仲よしになっていた。梓も楽しそうに恋を抱き上げて遊んでいる。
「ちょっ、れんちゃんを気安く抱くな! 梓!」
嫌そうに言う柊に、梓はおかしそうに笑う。
「お前、ヤキモチ?」
「はぁっ?」
一応喧嘩をしているのだろう。だが灯の目には微笑ましく見えた。二人のやり取りが楽しくて、つい笑ってしまう。小さい子はよくない空気には敏感だと言うが、恋も怯えることもなく楽しそうにしていた。
「あら、今日は賑やかね」
夕方になると、用事のあった母親が帰ってきた。そして梓と柊に気づき「灯がいつもお世話になっています」とにこやかに頭を下げる。
「ちょっ、おばさん、やめろよ」
柊が困ったように言う横で梓は「こちらこそ、仲よくさせてもらってます」と同じように頭を下げている。
「おかーさん、ひーちゃんはれんがおせわするのよ」
ついでに恋は相変わらずわかるようでわからないことを言いながら母親に駆け寄った。灯も母親から買い物袋を受け取るため母親の元へ行き、そのまま台所へ向かった。
灯が話しかけるといつもと変わらず返してくれるし、態度も別に変わらない。だが、何だろうか、どこかそれとなく一歩、一線引いているかのような感じがする。それに教えてくれていたギターの練習も最近はできていない。休みなどのタイミングが合わないだけだといえばそれまでなのだが、どうにも違和感のようなものを灯は覚えた。
「シュウ」
学校の休み時間、椅子に座って前の授業で使った教科書や資料集を既に沢山入っているらしい机の中に何とか押し込んでいる柊のところへ行くと、自分を見てもらえるよう、しゃがんで下から覗き込む。
「っ、……何やってんだよ……」
一瞬驚いたような顔をした柊が微妙な表情で灯を見てきた。
「あのさ」
「つかそのまま話かけんな。普通に椅子に座れよ」
「わかった。……シュウ、何で顔赤いの?」
「っこれはあれだ。えっと、教科書無理やり机に押し込んでるから」
柊の返事に灯は笑いながら柊の机を見る。持って帰るのが面倒なのか柊は教科書を学校に置きすぎだと思う。だというのに頭はいいのだから灯としては少々納得がいかないが。
「なぁ、シュウ」
言われた通り、とりあえず空いている柊の前の椅子に座ると改めて灯は呼びかけた。
「ん?」
「あのさ、アズさんって忙しい?」
「梓? さぁ、俺は知らねーけど、何で?」
そもそも普段仲よく一緒にいるのではないらしい柊に聞いても当然わからないと返ってくるのかもしれないが、それでも気になってしまってつい聞いていた。
ただ何故と聞き返されると少々返答に困る。明確な理由はないのだ。何となく梓が自分を避けているのではないかと思っているだけだし、それが何故気になるのかと、もしさらに聞かれたとしても返答に困る。
寂しく感じるから、だろうか?
灯は自分でもよくわからなかった。そもそも梓をどういう括りで把握すればいいかもよくわからない。
灯は梓よりも年下だ。向こうは大学生であり、こちらは高校生だ。それでも友人と言っていいのだろうか。もしくはアルバイト仲間だろうか。それともギターを教えてくれる柊のお兄さん、だろうか。
灯としては、友人というカテゴリーだったらいいなと思う。普段友人相手に「これから友だちだ」などと宣言するわけではないが、相手が自分と何らかの立場が違うとなると難しいものだなと灯は思った。
「あいつと何かあったのか?」
「え? あはは、違うよ、シュウ。その、次の日曜にアズさんと約束があるんだけど、大丈夫かなあって思って」
「約束ぅ?」
灯の言葉に柊がよくわからない反応をしてきた。
結局、日曜日は約束通り梓は灯の家へ来た。しかも柊も一緒だった。二人が一緒にいるところを見てまず浮かんだのは、背の高いイケメン二人が歩いているところは圧巻だろうなということよりも、道中どんな会話をしながら一緒に歩いてたんだろう、だった。思わず灯は小さく笑ってしまう。
「……何だよ」
そんな灯に柊が微妙な顔をしてきた。梓はニコニコ笑顔だ。
「ひーちゃんだ!」
奥から出てきた恋が柊に気づくと、嬉しそうに駆けつけてきて柊に抱きついた。柊も途端にこやかになり、恋を抱き上げる。
「おお、熱烈な歓迎だな」
それを見ていた梓が感嘆したように言うと、恋を下ろした柊はジロリと梓を睨んだ。
「煩い」
梓は気にした様子もなく、ニッコリ恋に笑いかけた。
「君が恋ちゃん? 俺、この柊のお兄ちゃんなんだ。よろしくね」
すると恋は梓を見て、サッと灯の元に戻ってくると後ろに隠れた。そして恥ずかしそうな様子で梓を見上げた。
「れん、いつも人見知りなんてしないだろ」
そんな恋がかわいいながらもおかしくて、灯が優しく言うと「だって大きいお兄ちゃんなんだもん」と灯からするとわかるようでいまいち基準のわからない理由を言われた。それでも梓が兄属性だからだろうか、恋はすぐに梓と仲よしになっていた。梓も楽しそうに恋を抱き上げて遊んでいる。
「ちょっ、れんちゃんを気安く抱くな! 梓!」
嫌そうに言う柊に、梓はおかしそうに笑う。
「お前、ヤキモチ?」
「はぁっ?」
一応喧嘩をしているのだろう。だが灯の目には微笑ましく見えた。二人のやり取りが楽しくて、つい笑ってしまう。小さい子はよくない空気には敏感だと言うが、恋も怯えることもなく楽しそうにしていた。
「あら、今日は賑やかね」
夕方になると、用事のあった母親が帰ってきた。そして梓と柊に気づき「灯がいつもお世話になっています」とにこやかに頭を下げる。
「ちょっ、おばさん、やめろよ」
柊が困ったように言う横で梓は「こちらこそ、仲よくさせてもらってます」と同じように頭を下げている。
「おかーさん、ひーちゃんはれんがおせわするのよ」
ついでに恋は相変わらずわかるようでわからないことを言いながら母親に駆け寄った。灯も母親から買い物袋を受け取るため母親の元へ行き、そのまま台所へ向かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました
あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」
穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン
攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?
攻め:深海霧矢
受け:清水奏
前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。
ハピエンです。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
自己判断で消しますので、悪しからず。
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
僕の恋人は、超イケメン!!
刃
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる