絆の序曲

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14話

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 灯が母親から買い物袋を受け取り、台所へ向かうと母親も一緒に向かって行った。二人は買い物袋から中身を取り出しながら、何やら楽しげに話している。母子並ぶその光景を見ながら梓は優しげに微笑んでいた。
 柊も何だかほんわかとした気持ちでいると、梓が恋に話しかける。 

「お兄ちゃんは偉いねえ」

 すると恋はパッと嬉しそうな顔をしてコクコクと頷いた。

「うん! お兄ちゃんはね、王子さまなの」

 そして溢れんばかりの笑みを浮かべる。

「王子様?」
「今は何もないけど、れんをお姫さまにしてくれるんだって。前に言ってくれたのよ。だから王子さまなの」

 それを聞き、柊だけでなく梓も楽しそうに笑った。凄く優しい時間だなと柊はしみじみ思った。いるだけで温かい。
 その後、灯の家で夕食をご馳走になり、梓と家へ帰った。道中はまだたまに何やら話しかけてきていた梓は、家へ着く頃には珍しく何やら考え込んでいるような表情をしている。

「梓?」
「……ん?」

 少し気になり、柊が声をかけるといつもの緩んだ顔の梓だった。ただ、いつになく優しげな表情で柊の頭を撫でてくると、梓はそのまま部屋へと入っていく。

「……何だよ……?」 

 柊は何となく心がモヤモヤした。いつも優しそうな表情をしてはいるが、大抵どこか楽しそうで緩んでいる感じだったりする。だが今のはそういうのと違った。
 その後、灯の家へ行ってから一ヶ月は経とうとしていたある日。

「アズさんやっぱり忙しい?」

 休み時間に、灯が少し元気のない様子で近づいてきた。

「え」
「最近、シフトもあまり合わないみたいでさ……」
「そ、そうなのか」
「うん……俺が帰ってから入ってるのかも……俺、もしかして避けられたりしてるのかな?」

 元気がなさそうなだけじゃなく、柊を見てきた灯の表情は悲しげだった。ギターを教わったり同じ趣味を持っているから余計そんなに気にしているのだとわかっていても、柊にとっては少し心が痛い。だが自分のことはどうでもいい。

「……あの馬鹿」

 思わず柊は小さく呟いた。

「え?」
「いや……。元気出せよ。気のせいだって。大丈夫だろ」
「そうかな……」
「おぅ。だいたいアイツが人、避けるようなタイプかよ。能天気にのらりくらりやってるよーな奴だぞ」
「の、能天気とかそんなことはないと思うけど……うん、ありがとう、シュウ」

 何とか励ましてみると、灯は一応ニッコリ笑ってきた。灯の笑顔がもし少々無理をしているのだとしても、柊にとってはホッとする。
 柊は歪んだ目で灯を見てしまっているが、それでも何より一番は灯が楽しそうにしていて欲しい。そしてそんな灯と自分も楽しく過ごせたらそれでいい。

 ……たまにちょっとネタにしてる、けども……。

 とりあえず家へ帰ったら梓を問い詰めようと柊は心に決めた。灯の家へ行った日の帰りに見た梓の表情も気になっていた。
 今日はアルバイトがあったようで、梓は夜に帰ってきた。

「おい」

 どう切り出せばと思いつつ、柊は梓の部屋へ向かい、ドアを開けた。

「柊?」

 着替え中だった梓はポカンとしている。いきなり入ってきたからというよりは、家で柊から声をかけるのが最近ではほぼないからかもしれない。とりあえず柊は着替え中でも遠慮なく話しかけた。

「お前さ、もしかしてアカリ避けてる?」
「……え? 何で?」

 さりげなく答えているようでも様子はどう見ても慌てたような反応している。さすがにここまであからさまな態度は予想外で、柊は呆れた顔で梓を見た。

「自分作る余裕もねーのかよ」
「何の話」
「誤魔化すなよ! お前が俺に対して適当な態度してくんのはいい加減もううんざりなんだよ!」

 思わず今までの本音も少し漏れてしまった。ハッとなった柊はフイと横を向く。

「柊……」
「避けてる理由はっ?」
「え?」
「理由は?」
「……あー……」

 横を向いていても、梓が困ったように頭をかくのがわかった。小さくため息ついた後で、だが心を決めたのか梓が続けてきた。

「……俺もさ、灯ちゃんに本気になりそうだった、から……、かな?」

 何を言われたのかゆっくりと脳に浸透してくると柊は息を呑んだ。言葉が出なくなる。ガツンと頭を殴られたような気持がした。
 灯のことを、兄である梓も好きになりそうなのだ、という状況が柊の脳内をぐるぐるとかき回してくる。もし梓が本気になれば、きっと灯は柊ではなく梓を好きになるだろう。それだけはちゃんと動かない脳でもわかった。
 男云々は置いておいて、音楽で心の琴線に触れ、奏でることができる二人だからこそだ。

「……梓は狡い……。俺は……俺は共通のものすら持ってないのに……」

 気づけば絞り出すように言っていた。すると梓が苦笑してきた。

「そうかな? 俺はね、お前こそが羨ましいよ。彼の親友であるお前が、さ」

 一旦服を着た梓が近づいてくる。

「俺はここ数か月の灯ちゃんしか知らない。それにいつだってあの子とお前は当たり前のようにそばにいることができるし、対等じゃないか」

 梓はまたあの顔をしながら柊の頭を撫でてきた。

「風呂、入ってくるわ」

 そしてそのまま部屋を出て行った。
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