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15話
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柊に「狡い」と言われた。狡いのだろうか、と梓はそっと首を傾げる。
確かに逃げているようなところは狡いのかもしれない。だがその他となるとピンとこない。だいたい、共通の好きなことがあったとして、何がそんなにいいというのだろうか。
共通の話題にはなるだろう。だが柊は共通の趣味がなくても、共通の話題がなくても、ずっと灯のかけがえのない存在でいたはずだ。そちらの方がずっと羨ましいことではないだろうか。
そう、梓は柊が羨ましかった。今までも両親と血が繋がっていることを羨ましいと思ったことは少しあるが、今こそ、とても羨ましいと思っている。そして羨ましいだけでなく、どうしようもないほどに柊が――弟が愛しい。
灯のことはまだ多分意識したところだし、柊のためなら全然身を引ける。灯も男同士や恋愛云々は置いておいたとしても柊といるのがいいと思う。もちろん灯としては梓に対しても柊に対してもそういう風に見ていないだろうから、勝手な言い分でしかないだろう。それでもこんな、全てから逃げ腰の、狡いらしい大人より、ひたすら素直で真っ直ぐで一途な柊といて欲しい。いるべきだと思う。
「今日は大丈夫ですか?」
ずっとシフトをずらせるわけもなく、かち合った時に梓は灯に聞かれた。灯は不安そうな顔で梓を見上げてくる。そんな顔されて断れるほど、梓は冷たい鋼の鎧をまとっていないし欲望に強くもない。
「ああ、いいよ」
梓が微笑んで答えると、今度は灯がホッとしたような顔で見上げてきた。どうしようもなく、梓は灯の頭を思わず撫でた。だが、と自分に喝を入れる。
「なぁ、灯ちゃん。今日はいいんだけどね、俺さ、明日から暫くは練習、できなくなりそうなんだ。ちょっと大学が忙しくて」
梓の言葉に、灯は悲しそうに頷いてきた。大学が忙しいのは本当だ。だがギターを教えられないほど忙しくはない。
……ごめんね。
内心で謝りつつ、梓自身が心苦しかった。
「そういえばさ、たまには練習に柊呼ぼうか。来てくれるかわからないけど」
雰囲気を変えるためもあったし、柊を思ってというのもあった。それに対しては灯も嬉しそうにしてきた。
「いいですね、俺がやってるのはもうバレバレだし、むしろ音楽とかに興味持ってくれたらいいなぁ」
梓が柊に連絡を取ると、渋々電話に出たという感じの中に「珍しい」といった驚きが含まれているのが伝わってきた。確かにあまり柊に電話をすることはなかったかもしれない。
灯とのギターの練習に誘うと、柊は言葉を切らせた後に「何で……」と呟いている。
「え? 何でって、たまにはいいじゃないか」
「……」
「来ないの?」
「……、……行く」
練習での灯はとても嬉しそうだった。一方柊は基本仏頂面をしているので眉間に指を当ててやると「鬱陶しい……!」と指をはね除けられ微妙な顔をしてくる。その表情にむしろ思わず笑っていると、灯も笑ってきた。
「アズさんとシュウを見てると、俺も兄弟欲しかったなぁて憧れるな」
「血は繋がってないけどね」
梓がニコニコと言うと、灯がポカンとしている。柊は「お前何言って……」と梓を見てきた後にため息ついてきた。そして頷く。
「血はうん、繋がってないけどな」
「そうなの?」
灯はまだ少しポカンとしている。
「俺、養子だからさ」
梓が何でもないようにつけ加えると「アズさんが……」と灯は梓を見てきた。
「まあ、こんなヘラヘラした奴と血が繋がってなくて俺は嬉しいけどな」
「柊は酷いなあ」
梓が笑って言うと「ほら、ヘラヘラしてんだろ」と柊はまた微妙な顔で軽く睨んでくる。
「血が繋がってないなんて言うけど……俺からしたら二人ってそっくりだと思うけどなあ。俺、そんなのほんとにわからなかったし」
そんなことを言ってくると、灯は顔を近づけてきた。
「……、うん、似てる」
そして一人で納得している。梓だけでなく柊もポカンとしていた。だがその後で柊がハッとなって目を逸らせる。
「……あ、梓に似てるとか、初めて言われた、俺。てか……死にたい」
隠そうとしているが、明らかに動揺しているのがわかる。梓はといえば嬉しかった。
「俺は嬉しいけどなあ」
そのままを口にして微笑みながら、だが思うことがある。恐らく、動揺した後にこっそり赤くなりながら灯を見た柊も同じことを思ったのだろう。
……無自覚さんってほんっと怖いな。
とてつもなく嬉しくなることを、遠慮なく顔を近づけて見てきた後にニコニコ言う。
「参った……」
梓は思わずボソリと呟いた。
その日練習したのを最後に、梓はシフトも完全にずらして出勤をしている。せめてもと最後に練習をした時に古いギターを灯にあげた。とてつもなく恐縮したように遠慮していた灯だが、柊の煩いほどの「もらっとけよ馬鹿」という言葉に「……じゃあ」と嬉しそうに微笑んで受け取ってくれた。
そういった顔を見られないのがこんなに寂しいなんて、と正直思っている。どうやら梓は灯に対して本当に本気になりかけていたらしい。
少年相手に。
好きなことに一途なくせに、夢を否定して現実に向き合う頑固者に。
梓は、ギターに対し誰が見ても楽しそうな様子で触れる灯を思い出し、つい微笑んだ。
あと、寂しいだけでなく心配もしている。ひたすら頑張っているのが窺える灯だが、何かこう、どこか危うく見える。あまり丈夫に見えないからだろうか。それとも、背は小さくはないが柊に比べるとやはり小さく、華奢に見えるからだろうか。
「……多分百七十ないくらいだろうな」
そっとため息ついた。最初は柊の友人だとも知らずに全然タイプの違う柊と重ね、弟のように構っていただけなのになとそして苦笑した。
確かに逃げているようなところは狡いのかもしれない。だがその他となるとピンとこない。だいたい、共通の好きなことがあったとして、何がそんなにいいというのだろうか。
共通の話題にはなるだろう。だが柊は共通の趣味がなくても、共通の話題がなくても、ずっと灯のかけがえのない存在でいたはずだ。そちらの方がずっと羨ましいことではないだろうか。
そう、梓は柊が羨ましかった。今までも両親と血が繋がっていることを羨ましいと思ったことは少しあるが、今こそ、とても羨ましいと思っている。そして羨ましいだけでなく、どうしようもないほどに柊が――弟が愛しい。
灯のことはまだ多分意識したところだし、柊のためなら全然身を引ける。灯も男同士や恋愛云々は置いておいたとしても柊といるのがいいと思う。もちろん灯としては梓に対しても柊に対してもそういう風に見ていないだろうから、勝手な言い分でしかないだろう。それでもこんな、全てから逃げ腰の、狡いらしい大人より、ひたすら素直で真っ直ぐで一途な柊といて欲しい。いるべきだと思う。
「今日は大丈夫ですか?」
ずっとシフトをずらせるわけもなく、かち合った時に梓は灯に聞かれた。灯は不安そうな顔で梓を見上げてくる。そんな顔されて断れるほど、梓は冷たい鋼の鎧をまとっていないし欲望に強くもない。
「ああ、いいよ」
梓が微笑んで答えると、今度は灯がホッとしたような顔で見上げてきた。どうしようもなく、梓は灯の頭を思わず撫でた。だが、と自分に喝を入れる。
「なぁ、灯ちゃん。今日はいいんだけどね、俺さ、明日から暫くは練習、できなくなりそうなんだ。ちょっと大学が忙しくて」
梓の言葉に、灯は悲しそうに頷いてきた。大学が忙しいのは本当だ。だがギターを教えられないほど忙しくはない。
……ごめんね。
内心で謝りつつ、梓自身が心苦しかった。
「そういえばさ、たまには練習に柊呼ぼうか。来てくれるかわからないけど」
雰囲気を変えるためもあったし、柊を思ってというのもあった。それに対しては灯も嬉しそうにしてきた。
「いいですね、俺がやってるのはもうバレバレだし、むしろ音楽とかに興味持ってくれたらいいなぁ」
梓が柊に連絡を取ると、渋々電話に出たという感じの中に「珍しい」といった驚きが含まれているのが伝わってきた。確かにあまり柊に電話をすることはなかったかもしれない。
灯とのギターの練習に誘うと、柊は言葉を切らせた後に「何で……」と呟いている。
「え? 何でって、たまにはいいじゃないか」
「……」
「来ないの?」
「……、……行く」
練習での灯はとても嬉しそうだった。一方柊は基本仏頂面をしているので眉間に指を当ててやると「鬱陶しい……!」と指をはね除けられ微妙な顔をしてくる。その表情にむしろ思わず笑っていると、灯も笑ってきた。
「アズさんとシュウを見てると、俺も兄弟欲しかったなぁて憧れるな」
「血は繋がってないけどね」
梓がニコニコと言うと、灯がポカンとしている。柊は「お前何言って……」と梓を見てきた後にため息ついてきた。そして頷く。
「血はうん、繋がってないけどな」
「そうなの?」
灯はまだ少しポカンとしている。
「俺、養子だからさ」
梓が何でもないようにつけ加えると「アズさんが……」と灯は梓を見てきた。
「まあ、こんなヘラヘラした奴と血が繋がってなくて俺は嬉しいけどな」
「柊は酷いなあ」
梓が笑って言うと「ほら、ヘラヘラしてんだろ」と柊はまた微妙な顔で軽く睨んでくる。
「血が繋がってないなんて言うけど……俺からしたら二人ってそっくりだと思うけどなあ。俺、そんなのほんとにわからなかったし」
そんなことを言ってくると、灯は顔を近づけてきた。
「……、うん、似てる」
そして一人で納得している。梓だけでなく柊もポカンとしていた。だがその後で柊がハッとなって目を逸らせる。
「……あ、梓に似てるとか、初めて言われた、俺。てか……死にたい」
隠そうとしているが、明らかに動揺しているのがわかる。梓はといえば嬉しかった。
「俺は嬉しいけどなあ」
そのままを口にして微笑みながら、だが思うことがある。恐らく、動揺した後にこっそり赤くなりながら灯を見た柊も同じことを思ったのだろう。
……無自覚さんってほんっと怖いな。
とてつもなく嬉しくなることを、遠慮なく顔を近づけて見てきた後にニコニコ言う。
「参った……」
梓は思わずボソリと呟いた。
その日練習したのを最後に、梓はシフトも完全にずらして出勤をしている。せめてもと最後に練習をした時に古いギターを灯にあげた。とてつもなく恐縮したように遠慮していた灯だが、柊の煩いほどの「もらっとけよ馬鹿」という言葉に「……じゃあ」と嬉しそうに微笑んで受け取ってくれた。
そういった顔を見られないのがこんなに寂しいなんて、と正直思っている。どうやら梓は灯に対して本当に本気になりかけていたらしい。
少年相手に。
好きなことに一途なくせに、夢を否定して現実に向き合う頑固者に。
梓は、ギターに対し誰が見ても楽しそうな様子で触れる灯を思い出し、つい微笑んだ。
あと、寂しいだけでなく心配もしている。ひたすら頑張っているのが窺える灯だが、何かこう、どこか危うく見える。あまり丈夫に見えないからだろうか。それとも、背は小さくはないが柊に比べるとやはり小さく、華奢に見えるからだろうか。
「……多分百七十ないくらいだろうな」
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