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22話
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文化祭が終わってそれなりに経とうとしているというのに、まだ「ギターよかったよ」「歌凄くいい感じだった」と灯は周りから言われる。それは結構恥ずかしいながらも、正直とても嬉しいことだった。
「ギターやるんだ、ってあの時はびっくりしたよ」
「最近、教えてもらうようになったばかりだったんだ」
「そーなんだ? でもいい感じだったけど」
「ほんと? ありがとう」
こんな風に話をする度にむずむずとした感情が体の中を行き交う。恥ずかしいけど嬉しくて、何だかいてもたってもいられないような、そういったむずむずふわふわとした気持ちだ。
「未だに誰かに言われてんな」
「あー、うん」
とても晴天で暖かい日だったので、久しぶりに灯は柊と屋上で昼御飯を食べていた。
「やっぱ嫌か?」
「……ううん。結構嬉しい」
「ならよかった」
おかずパンを食べ終え、次にフランスパンのような生地にミルククリームが挟んである菓子パンをモグモグとかじりながら柊が笑ってきた。
「シュウのおかげかも。最初は恨んだけど」
「そーそー。俺のおかげなんだからな、敬えよ」
「敬ってる敬ってる」
わざと茶化すように得意げに言ってくる柊に、灯も笑った。
「でもさー、俺にバレた時はめっちゃ嫌がってたよな。それ思うと俺だけかわいそうじゃないか?」
「え? あ、あー、最初シュウに見つかった時のこと?」
「それ以外に何かあったか?」
一瞬何のことだと思った後で柊がどのことを言っているのかわかった。灯は笑いながら首振る。
「だって違うし」
「違う? 何が」
「今、皆に言われてるのはギター弾いたことと歌ったことだろ」
「あ? おぅ」
「それも恥ずかしいのは恥ずかしいけど、シュウにバレたのは作詞と作曲だよ。これこそ、無理。シュウですら恥ずかしいのに。っていうかシュウだからよかったものの、他の人とか無理だよ」
苦笑しながら言えば、柊がポカンとした後に何故か顔を赤らめてきた。灯も説明するのに少々照れてしまい、顔がほんのり熱く感じるので、もしかしたら灯のが柊にうつったのかもしれない。
「な、何だよそれ!」
ハッとしたように少し顔を背けながら言ってくる柊に、灯はまた苦笑した。
「何だよって言われても。シュウが言い出したんだろ」
「そう返ってくるとは思ってなかったんだよ」
「じゃあどう思ってたんだよ」
「煩いな」
柊はムッとしたように缶コーヒーをゴクリと飲んだ。
「あー、俺も温かい飲み物買えばよかった。すごい晴れててもやっぱ寒いよ、外は」
灯はぐるぐる巻いているマフラーを巻き直す。青空だけ見れば暖かそうなのだが、実際はやはり寒かった。とはいえ柊と二人でとりとめのない話をするのはやはり落ち着くため、ついつい弁当を食べ終えてもまだここにいた。
「お、れの、飲むか?」
「ありがたいけどいいよ。悪いし」
「悪くねーよ」
「そんじゃ、ちょっと貰う」
何でそこでムッとしたようになるのかなと灯は笑いながら缶を受け取った。柊が照れたりする時にそういう態度や表情をするのは知っているが、今照れる要素がない。とはいえ本当にムッとしているのでもないのはわかる。
何か別のことでも考えていたのかなと思いながら、缶コーヒーを口にした。少しだけぬるくなってはいるが、まだ温かい。丁度いい温度のコーヒーが自分の食道を通っていくのを感じ、灯はホゥッとため息ついた。
「やっぱだいぶ違うよな、持ってるだけでも暖かいけど」
「じゃあ持っとけよ」
「いいって。シュウは俺の保護者なの?」
また笑いながら首を振ると「そんなわけねーし」と柊が呟くのが聞こえた。
「保護者は冗談だよ」
「わーってるよ。……でもまぁ、保護者ついでに、あれだ」
「何?」
「梓と顔、合わせた?」
梓の名前が出て、灯はつい視線を落とした。
「ううん」
「……マジかよ……ほんとあの馬鹿」
「何でアズさんが馬鹿なの?」
思わず落としていた視線を上げて灯が柊を怪訝に思って見ると、何となく気まずそうな表情をされた。
「え? あー、いや。その、まぁアイツも大学忙しそうだしな」
「うん、そうだね……」
「でもほら、文化祭ん時のおでんもすげーうまかったって言ってたって前に言ったろ。何度も言うけど別にお前を嫌ってるとかそんなんじゃない」
「うん。シュウ……ありがとう」
柊は本当にいい奴だと灯は改めて思った。友人、いや、親友でいてくれて凄く嬉しい。
「……そういえば、さ」
「何?」
「アカリ、梓にはギター弾いたり歌ったりするの、恥ずかしくねぇもん?」
「え、何? いきなり」
「いや、何となく」
「何となく?」
「何となく」
「? うーん……。やっぱり恥ずかしいよ。でもギター弾くのはさ、教えてもらってたから、恥ずかしいとかとも違う、かな。……何で?」
「いや。何でも」
一体何だろうと思って柊の顔を覗き込もうとしたら手のひらで顔を軽く押された。
「っぶ。止めてよ」
「お前が覗き込んでくるからだろ」
「だってシュウがよくわからないこと言うからだろ」
「言ってねーし」
「言ったよ」
まだ顔を軽く押されたままだったので、灯はそれを止めさせようと手を伸ばし、柊の脇腹をくすぐろうとした。途端、察知した柊が手をサッと退けてきた。そのせいでバランスを崩し、灯は柊に突っ込むような状態になる。
「おい」
柊が驚いた様子で、だが灯を支えてくれた。
「何やってんだよ」
「シュウがいきなり手を退けるから!」
「止めろっつったのはアカリだろ。つか、くすぐろうとすんな」
「バレたか」
「バレるわ」
「あはは。ちょっとだけ暴れたから体もちょっと暖まったかも」
「そりゃよかったな」
柊がまた顔を逸らしてきた。
「何だよ、怒った?」
「今さらこんなでアカリに対して怒るわけないだろ」
「今さらって何だよ、俺がいつもシュウ怒らせるようなことしてるみたいだろ」
「まぁそれはしてないけど天然で鈍いから嫌」
「嫌って! 酷いだろ。鈍くないし! それに天然って何」
「そのまま」
「いや、わかんないってば」
しばらくそんなとりとめのないやり取りをしていると、いい加減本当に寒くなってきた。なので二人でまたどうでもいいことを言いながら教室へ戻った。
「ギターやるんだ、ってあの時はびっくりしたよ」
「最近、教えてもらうようになったばかりだったんだ」
「そーなんだ? でもいい感じだったけど」
「ほんと? ありがとう」
こんな風に話をする度にむずむずとした感情が体の中を行き交う。恥ずかしいけど嬉しくて、何だかいてもたってもいられないような、そういったむずむずふわふわとした気持ちだ。
「未だに誰かに言われてんな」
「あー、うん」
とても晴天で暖かい日だったので、久しぶりに灯は柊と屋上で昼御飯を食べていた。
「やっぱ嫌か?」
「……ううん。結構嬉しい」
「ならよかった」
おかずパンを食べ終え、次にフランスパンのような生地にミルククリームが挟んである菓子パンをモグモグとかじりながら柊が笑ってきた。
「シュウのおかげかも。最初は恨んだけど」
「そーそー。俺のおかげなんだからな、敬えよ」
「敬ってる敬ってる」
わざと茶化すように得意げに言ってくる柊に、灯も笑った。
「でもさー、俺にバレた時はめっちゃ嫌がってたよな。それ思うと俺だけかわいそうじゃないか?」
「え? あ、あー、最初シュウに見つかった時のこと?」
「それ以外に何かあったか?」
一瞬何のことだと思った後で柊がどのことを言っているのかわかった。灯は笑いながら首振る。
「だって違うし」
「違う? 何が」
「今、皆に言われてるのはギター弾いたことと歌ったことだろ」
「あ? おぅ」
「それも恥ずかしいのは恥ずかしいけど、シュウにバレたのは作詞と作曲だよ。これこそ、無理。シュウですら恥ずかしいのに。っていうかシュウだからよかったものの、他の人とか無理だよ」
苦笑しながら言えば、柊がポカンとした後に何故か顔を赤らめてきた。灯も説明するのに少々照れてしまい、顔がほんのり熱く感じるので、もしかしたら灯のが柊にうつったのかもしれない。
「な、何だよそれ!」
ハッとしたように少し顔を背けながら言ってくる柊に、灯はまた苦笑した。
「何だよって言われても。シュウが言い出したんだろ」
「そう返ってくるとは思ってなかったんだよ」
「じゃあどう思ってたんだよ」
「煩いな」
柊はムッとしたように缶コーヒーをゴクリと飲んだ。
「あー、俺も温かい飲み物買えばよかった。すごい晴れててもやっぱ寒いよ、外は」
灯はぐるぐる巻いているマフラーを巻き直す。青空だけ見れば暖かそうなのだが、実際はやはり寒かった。とはいえ柊と二人でとりとめのない話をするのはやはり落ち着くため、ついつい弁当を食べ終えてもまだここにいた。
「お、れの、飲むか?」
「ありがたいけどいいよ。悪いし」
「悪くねーよ」
「そんじゃ、ちょっと貰う」
何でそこでムッとしたようになるのかなと灯は笑いながら缶を受け取った。柊が照れたりする時にそういう態度や表情をするのは知っているが、今照れる要素がない。とはいえ本当にムッとしているのでもないのはわかる。
何か別のことでも考えていたのかなと思いながら、缶コーヒーを口にした。少しだけぬるくなってはいるが、まだ温かい。丁度いい温度のコーヒーが自分の食道を通っていくのを感じ、灯はホゥッとため息ついた。
「やっぱだいぶ違うよな、持ってるだけでも暖かいけど」
「じゃあ持っとけよ」
「いいって。シュウは俺の保護者なの?」
また笑いながら首を振ると「そんなわけねーし」と柊が呟くのが聞こえた。
「保護者は冗談だよ」
「わーってるよ。……でもまぁ、保護者ついでに、あれだ」
「何?」
「梓と顔、合わせた?」
梓の名前が出て、灯はつい視線を落とした。
「ううん」
「……マジかよ……ほんとあの馬鹿」
「何でアズさんが馬鹿なの?」
思わず落としていた視線を上げて灯が柊を怪訝に思って見ると、何となく気まずそうな表情をされた。
「え? あー、いや。その、まぁアイツも大学忙しそうだしな」
「うん、そうだね……」
「でもほら、文化祭ん時のおでんもすげーうまかったって言ってたって前に言ったろ。何度も言うけど別にお前を嫌ってるとかそんなんじゃない」
「うん。シュウ……ありがとう」
柊は本当にいい奴だと灯は改めて思った。友人、いや、親友でいてくれて凄く嬉しい。
「……そういえば、さ」
「何?」
「アカリ、梓にはギター弾いたり歌ったりするの、恥ずかしくねぇもん?」
「え、何? いきなり」
「いや、何となく」
「何となく?」
「何となく」
「? うーん……。やっぱり恥ずかしいよ。でもギター弾くのはさ、教えてもらってたから、恥ずかしいとかとも違う、かな。……何で?」
「いや。何でも」
一体何だろうと思って柊の顔を覗き込もうとしたら手のひらで顔を軽く押された。
「っぶ。止めてよ」
「お前が覗き込んでくるからだろ」
「だってシュウがよくわからないこと言うからだろ」
「言ってねーし」
「言ったよ」
まだ顔を軽く押されたままだったので、灯はそれを止めさせようと手を伸ばし、柊の脇腹をくすぐろうとした。途端、察知した柊が手をサッと退けてきた。そのせいでバランスを崩し、灯は柊に突っ込むような状態になる。
「おい」
柊が驚いた様子で、だが灯を支えてくれた。
「何やってんだよ」
「シュウがいきなり手を退けるから!」
「止めろっつったのはアカリだろ。つか、くすぐろうとすんな」
「バレたか」
「バレるわ」
「あはは。ちょっとだけ暴れたから体もちょっと暖まったかも」
「そりゃよかったな」
柊がまた顔を逸らしてきた。
「何だよ、怒った?」
「今さらこんなでアカリに対して怒るわけないだろ」
「今さらって何だよ、俺がいつもシュウ怒らせるようなことしてるみたいだろ」
「まぁそれはしてないけど天然で鈍いから嫌」
「嫌って! 酷いだろ。鈍くないし! それに天然って何」
「そのまま」
「いや、わかんないってば」
しばらくそんなとりとめのないやり取りをしていると、いい加減本当に寒くなってきた。なので二人でまたどうでもいいことを言いながら教室へ戻った。
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