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23話
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「お前、いい加減にしろよ」
夜、遅めの時間に帰ってきた梓を柊はずっと待っていた。帰ってきたとわかった途端、前のように勝手に梓の部屋へずかずかと入って睨みつけた。まだ着替えてもいなかった梓は柊を見てポカンとしている。たがすぐに「おかえりの新語?」と笑いかけてきた。
「ざけんな。梓、アカリにどんだけ会ってねーんだよ」
思い切り睨みつけると梓は少し困った顔を今度はしてくる。困った顔したいのはこっちなんだよ、と柊は唇を噛みしめた。
何が悲しくて自分の叶うはずない恋路をさらに険しくしなければならないのかと思う。だというのに最近は毎回、こうして梓に問い詰めたり文句をつけている気がする。
それもこれも、何より灯に笑って欲しいからだ。
柊が恋愛として灯を好きなのは間違いない。灯を思って一喜一憂するだけでなく、灯の何気ない仕草や言葉、そして表情を思い返すだけで自慰することができる位なのだ。自慢になど何一つならないが。だから柊だってつき合えるならつき合いたいと思う。
元々親友なのだからいつだって話したり遊んだりできる。つき合うことで大きく変わるのは、お互いの熱を求めることができるということだろうか。
髪や頬に触れたり、手を繋いだり。抱きしめ合ったりキスしたり。そして体を繋いだりして、お互いを求め合える。
それでも今の柊にとって一番求めているのは灯の笑顔だった。
いや、柊でも灯を笑わせることはできる。でも、何か違う。馬鹿なこと言ったりしたりしてお互い笑ったりからかったりはできる。悩んでる相手を励ましたり慰めたりして支えることだってできる。
でも、何か違うんだ。俺じゃ、駄目なんだ。
わかってはいる。高校に入って知り合ってから今までずっと友人として仲よくやってきたのだ。それくらいわかる。
友だち――親友だからこそ、わかる。
変わらず笑わせても、埋まらないものがある。柊では埋められないものがある。
俺じゃ、駄目なんだ。
灯が笑っていられるのなら梓に塩だって送る。それに、と柊は忌々しく思う。
梓も最近見かける時は、よくぼんやりしてるしあまり楽しそうじゃない。普段自分の態度が梓にとって悪いことくらいわかっているが、本当は別に梓を苦しめたいのではないしそういうところが見たくもない。
「何でアカリに会わねーんだよ!」
「それ、は……言っただろ、灯ちゃんを」
「好きになりそうだから? は。んだよそれ。どういう意味で言ってんだ?」
柊はさらに梓を睨みつけた。
「好きになったらどうだってんだ? アカリじゃ駄目ってことか? 男だから?」
「いや……」
「だったらアカリ自身が不満なのか? 自分に釣り合わないとか思ってんのか?」
「そんなわけなっ……い。何言ってんだよ柊は。とりあえず俺、風呂に入るからさ、」
梓もムッとしたように柊を一瞬見てきた。だがすぐにまた抑えたような声になる。
「ふざけんな後にしろ。なぁ、だったら何なんだよ。好きになったら何がどうなんだよ! 俺か?」
「……え?」
「まさか俺に気を使ってとか言わねーよな? それが理由だったら殺すぞ」
思い切り睨みつけながら言うと、梓が少し目を逸らせてきた。
そんな気がしてはいたが、決定打を叩きつけられたようなものだった。柊はギリッと歯を噛みしめてから口を開いた。
「アカリに会わないってんなら、お前のこと本気で嫌いになるからな!」
これ以上、梓が柊に何かを譲ろうとしたり遠慮したりするところを見たくない。その上、今回はそんなことをされても意味ない。
「……」
「俺だって……俺だってな、アカリが好きだけどな! でも俺じゃ駄目なんだよ! 見てることしかできない……」
「柊……」
「やっぱり……」
「え?」
聞き取りにくかったのか、梓が少し屈むように顔を近づけてきた。柊はまた思い切り睨みつけた。そうでもしないと零れ落ちそうだった。
「やっぱり梓は狡い」
言い切ると、さらに込み上げてくる感情を飲み込むため、グッと息を呑み込んだ。息をというより堪えて飲み込んだ感情のせいで喉が少し痛い。
何も言えず柊を見てくる梓に今の自分を晒したくなくて、柊は踵を返すと部屋を出た。ドアを叩きつけるように閉めると自室へ向かう。部屋へ入ると、何やってんだと自分に対して大いに呆れ、ため息ついた。もう何がしたいのかもよくわからない。
ベッドへ飛び込むようにして転がると、柊は天井を見上げた。まるでパンチドランカーになったかのようにそのまま天井を見る。といっても実際は何もはっきりとは見ていない。
一番自分にとっていいことは、灯に自分の気持ちを伝え、つき合ってもらうことだ。きっと、どんなに最高なことだろう。
だが少なくともつき合えないのは目に見えている。灯が柊に対して好意を持ってくれているのはわかる。だがそれは完全に友情のそれだ。告白をしても灯を困らせるだけでしかない。
意識してもらうためとか、言ってみないと何も始まらないという考え方もあるだろう。だがそれすらも、柊の予想でしかないが、ほんの少しの可能性を見出だしているからそう思えるのだと思う。
そう。まさに、梓みたいな立場だったら柊も考えていたかもしれない。
夜、遅めの時間に帰ってきた梓を柊はずっと待っていた。帰ってきたとわかった途端、前のように勝手に梓の部屋へずかずかと入って睨みつけた。まだ着替えてもいなかった梓は柊を見てポカンとしている。たがすぐに「おかえりの新語?」と笑いかけてきた。
「ざけんな。梓、アカリにどんだけ会ってねーんだよ」
思い切り睨みつけると梓は少し困った顔を今度はしてくる。困った顔したいのはこっちなんだよ、と柊は唇を噛みしめた。
何が悲しくて自分の叶うはずない恋路をさらに険しくしなければならないのかと思う。だというのに最近は毎回、こうして梓に問い詰めたり文句をつけている気がする。
それもこれも、何より灯に笑って欲しいからだ。
柊が恋愛として灯を好きなのは間違いない。灯を思って一喜一憂するだけでなく、灯の何気ない仕草や言葉、そして表情を思い返すだけで自慰することができる位なのだ。自慢になど何一つならないが。だから柊だってつき合えるならつき合いたいと思う。
元々親友なのだからいつだって話したり遊んだりできる。つき合うことで大きく変わるのは、お互いの熱を求めることができるということだろうか。
髪や頬に触れたり、手を繋いだり。抱きしめ合ったりキスしたり。そして体を繋いだりして、お互いを求め合える。
それでも今の柊にとって一番求めているのは灯の笑顔だった。
いや、柊でも灯を笑わせることはできる。でも、何か違う。馬鹿なこと言ったりしたりしてお互い笑ったりからかったりはできる。悩んでる相手を励ましたり慰めたりして支えることだってできる。
でも、何か違うんだ。俺じゃ、駄目なんだ。
わかってはいる。高校に入って知り合ってから今までずっと友人として仲よくやってきたのだ。それくらいわかる。
友だち――親友だからこそ、わかる。
変わらず笑わせても、埋まらないものがある。柊では埋められないものがある。
俺じゃ、駄目なんだ。
灯が笑っていられるのなら梓に塩だって送る。それに、と柊は忌々しく思う。
梓も最近見かける時は、よくぼんやりしてるしあまり楽しそうじゃない。普段自分の態度が梓にとって悪いことくらいわかっているが、本当は別に梓を苦しめたいのではないしそういうところが見たくもない。
「何でアカリに会わねーんだよ!」
「それ、は……言っただろ、灯ちゃんを」
「好きになりそうだから? は。んだよそれ。どういう意味で言ってんだ?」
柊はさらに梓を睨みつけた。
「好きになったらどうだってんだ? アカリじゃ駄目ってことか? 男だから?」
「いや……」
「だったらアカリ自身が不満なのか? 自分に釣り合わないとか思ってんのか?」
「そんなわけなっ……い。何言ってんだよ柊は。とりあえず俺、風呂に入るからさ、」
梓もムッとしたように柊を一瞬見てきた。だがすぐにまた抑えたような声になる。
「ふざけんな後にしろ。なぁ、だったら何なんだよ。好きになったら何がどうなんだよ! 俺か?」
「……え?」
「まさか俺に気を使ってとか言わねーよな? それが理由だったら殺すぞ」
思い切り睨みつけながら言うと、梓が少し目を逸らせてきた。
そんな気がしてはいたが、決定打を叩きつけられたようなものだった。柊はギリッと歯を噛みしめてから口を開いた。
「アカリに会わないってんなら、お前のこと本気で嫌いになるからな!」
これ以上、梓が柊に何かを譲ろうとしたり遠慮したりするところを見たくない。その上、今回はそんなことをされても意味ない。
「……」
「俺だって……俺だってな、アカリが好きだけどな! でも俺じゃ駄目なんだよ! 見てることしかできない……」
「柊……」
「やっぱり……」
「え?」
聞き取りにくかったのか、梓が少し屈むように顔を近づけてきた。柊はまた思い切り睨みつけた。そうでもしないと零れ落ちそうだった。
「やっぱり梓は狡い」
言い切ると、さらに込み上げてくる感情を飲み込むため、グッと息を呑み込んだ。息をというより堪えて飲み込んだ感情のせいで喉が少し痛い。
何も言えず柊を見てくる梓に今の自分を晒したくなくて、柊は踵を返すと部屋を出た。ドアを叩きつけるように閉めると自室へ向かう。部屋へ入ると、何やってんだと自分に対して大いに呆れ、ため息ついた。もう何がしたいのかもよくわからない。
ベッドへ飛び込むようにして転がると、柊は天井を見上げた。まるでパンチドランカーになったかのようにそのまま天井を見る。といっても実際は何もはっきりとは見ていない。
一番自分にとっていいことは、灯に自分の気持ちを伝え、つき合ってもらうことだ。きっと、どんなに最高なことだろう。
だが少なくともつき合えないのは目に見えている。灯が柊に対して好意を持ってくれているのはわかる。だがそれは完全に友情のそれだ。告白をしても灯を困らせるだけでしかない。
意識してもらうためとか、言ってみないと何も始まらないという考え方もあるだろう。だがそれすらも、柊の予想でしかないが、ほんの少しの可能性を見出だしているからそう思えるのだと思う。
そう。まさに、梓みたいな立場だったら柊も考えていたかもしれない。
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