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24話
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柊が部屋を出て行ってから、梓は暫くその場に立ち尽くしていた。だがふと我に返り、風呂へ入りに行く。
「何でアカリに会わねーんだよ!」
湯に浸かっていると先ほどのやり取りが勝手に脳内に浮かび上がってくる。
柊は梓を睨みつけながら言ってきた。
何故? お前が灯ちゃんを好きだからだよ。
今、心の中で言い返すも、また柊の言葉が浮かんだ。
「まさか俺に気を使ってとか言わねーよな? それが理由だったら殺すぞ」
……俺、柊に殺されちゃうな。
少し笑った後にだが真顔になる。
だったらどうすればいい?
灯のことも柊のことも意味合いは違うが好きだ。灯が幸せでいて欲しいのと同じくらい、柊が幸せでいるところを見ていたいし笑っていて欲しい。
柊は梓が灯と会って交流を深めることを歓迎していなかった。だから会わないようにした。
……なのに俺、殺されちゃうのか……。
「アカリに会わないってんなら、お前のこと本気で嫌いになるからな!」
お前、すでに俺のこと、嫌いなんじゃないの?
風呂の縁に頭を乗せながら、梓はため息ついた。既に嫌われていると思っていたのだが、ひょっとするとまだそうでもなかったりするのだろうか。
「俺だって……俺だってな、アカリが好きだけどな! でも俺じゃ駄目なんだよ! 見てることしかできない……」
「やっぱり梓は狡い」
柊は泣きそうな顔をしていた。その時はそれが気になっていたが、今改めて柊の言葉を思い出し、どういうことだろうかと梓は眉を少しひそめる。
梓なら見ているだけでなく何かできると言いたいのだろうか。柊の言い方や様子から、灯は多少元気ないのかもしれないと思う。もしそうなら、柊は梓が灯と会えば灯も元気になると思っているのだろうか。
さすがにそれほどの影響力が自分にあるとは思ってはいないが、灯が慕ってくれていたのは確かだ。柊を思って会わないようにしていることも、灯にとってはただ理不尽でしかないだろう。灯の意向を無視した梓の思い上がった考えでしかないかもしれない。
俺が一番年上なのに、一番、やっぱ情けないよなあ。
もう一度深く息をはいてから、梓は湯舟を出た。
夜も遅いので親はもう眠っているようだ。少なくとも台所やリビングにはいなかった。梓は台所でいつものように簡単な夜食を置いてくれている母親に感謝しつつ、椅子に座ってそれらを食べた。
大学を卒業したらこういう温かい気持ちも滅多に味わえなくなるので、今は存分に味わっておきたい。少し温めなおした味噌汁を飲みながら、梓は改めて自分の家族が大好きだと思う。
それでも家を出ることは考え直すつもりない。早く独立しようと思うのは遠慮からというよりは、やはり親孝行のつもりだからだ。大学生の間は実家通いにしているのも、むしろ金銭面で負担をかけないためだった。就職したら独り立ちして、早く親を安心させたいと思っている。
とはいえ料理の腕に関しては自信ない。大学を卒業したら家を出ようと思い、たまに何かを作ろうと試みたことはあるのだが、母親に「何か食べたいなら作るけど」と言われたりしてあまり実行できていない。カフェ飯程度なら作られるが、あまり経済的ではなさそうだし、経済的な方法での作り方は今のところ把握していない。こうなったら独り暮らしをしてからゆっくり覚えていこうという考えに今は至っている。
……灯ちゃんは多分大抵の家庭料理、作られるんだろうな。
改めて灯がしっかりしていることを思い知らされると共に、自分の情けなさを実感する。やたら大人ぶっているだけで空回りしているように思えた。
なぁ、柊。俺はどうにも情けないお兄ちゃんみたいだな。
食器を洗ってから、梓は一旦リビングへ向かった。観たいテレビはなかったが、ある意味ぼんやりとするためつけた。無意識に音はかなり小さくしていたことにふと気づく。
柊、お前ならこういう時、普通の音量でテレビを観る?
多分多少の音なら、もし眠っていたとしても両親は起きないだろう。それでも梓は小さくしたままにする。遠慮しているつもりはない。いや、なかった。でも、していたのだろうか。
例えば子どもの頃の休日、普段のスーパーではなく百貨店へ家族で買い物へ出かけたりした時に、柊は「あれが欲しい」と駄々をこねた。そういった時に親は「一つだけだからね」と念を押し、柊もコクリと頷くと懸命になって欲しいものの中から一番を選ぼうとしていたのを覚えている。梓はそんな柊を見るのが何となく好きだった。
そんな時に「梓も一つ、選びなさい」と言われる度に「ううん」と首を振っていたように思う。
「俺の分、柊が選んでいいよ」
もしくはそんな風に言っていたのかもしれない。ただ喜ぶ柊が見たかった。
だがそれは、遠慮だったのだろうか。
今でも一応、そんなつもりはないと思う。だが、遠慮なのだろうか。少なくとも柊はずっとそう捉えてきたのかもしれない。
「まさか俺に気を使ってとか言わねーよな? それが理由だったら殺すぞ」
柊の言葉がまた浮かぶ。柊を思って、とか優先して、といった態度はもしかしたらただの自己満足だったのだろうか。
わからない。だが、そういったことが積み重なり、柊が梓に対して今のような態度を取るようになった、という可能性はないだろうか。
柊……言ってくれないと俺、わからないよ。
いや、と梓は首を振った。これ以上情けない自分は冗談じゃないなと思う。
認めろ。俺は、優しさというものを、ずっと履き違えしてきたんだ。
「何でアカリに会わねーんだよ!」
湯に浸かっていると先ほどのやり取りが勝手に脳内に浮かび上がってくる。
柊は梓を睨みつけながら言ってきた。
何故? お前が灯ちゃんを好きだからだよ。
今、心の中で言い返すも、また柊の言葉が浮かんだ。
「まさか俺に気を使ってとか言わねーよな? それが理由だったら殺すぞ」
……俺、柊に殺されちゃうな。
少し笑った後にだが真顔になる。
だったらどうすればいい?
灯のことも柊のことも意味合いは違うが好きだ。灯が幸せでいて欲しいのと同じくらい、柊が幸せでいるところを見ていたいし笑っていて欲しい。
柊は梓が灯と会って交流を深めることを歓迎していなかった。だから会わないようにした。
……なのに俺、殺されちゃうのか……。
「アカリに会わないってんなら、お前のこと本気で嫌いになるからな!」
お前、すでに俺のこと、嫌いなんじゃないの?
風呂の縁に頭を乗せながら、梓はため息ついた。既に嫌われていると思っていたのだが、ひょっとするとまだそうでもなかったりするのだろうか。
「俺だって……俺だってな、アカリが好きだけどな! でも俺じゃ駄目なんだよ! 見てることしかできない……」
「やっぱり梓は狡い」
柊は泣きそうな顔をしていた。その時はそれが気になっていたが、今改めて柊の言葉を思い出し、どういうことだろうかと梓は眉を少しひそめる。
梓なら見ているだけでなく何かできると言いたいのだろうか。柊の言い方や様子から、灯は多少元気ないのかもしれないと思う。もしそうなら、柊は梓が灯と会えば灯も元気になると思っているのだろうか。
さすがにそれほどの影響力が自分にあるとは思ってはいないが、灯が慕ってくれていたのは確かだ。柊を思って会わないようにしていることも、灯にとってはただ理不尽でしかないだろう。灯の意向を無視した梓の思い上がった考えでしかないかもしれない。
俺が一番年上なのに、一番、やっぱ情けないよなあ。
もう一度深く息をはいてから、梓は湯舟を出た。
夜も遅いので親はもう眠っているようだ。少なくとも台所やリビングにはいなかった。梓は台所でいつものように簡単な夜食を置いてくれている母親に感謝しつつ、椅子に座ってそれらを食べた。
大学を卒業したらこういう温かい気持ちも滅多に味わえなくなるので、今は存分に味わっておきたい。少し温めなおした味噌汁を飲みながら、梓は改めて自分の家族が大好きだと思う。
それでも家を出ることは考え直すつもりない。早く独立しようと思うのは遠慮からというよりは、やはり親孝行のつもりだからだ。大学生の間は実家通いにしているのも、むしろ金銭面で負担をかけないためだった。就職したら独り立ちして、早く親を安心させたいと思っている。
とはいえ料理の腕に関しては自信ない。大学を卒業したら家を出ようと思い、たまに何かを作ろうと試みたことはあるのだが、母親に「何か食べたいなら作るけど」と言われたりしてあまり実行できていない。カフェ飯程度なら作られるが、あまり経済的ではなさそうだし、経済的な方法での作り方は今のところ把握していない。こうなったら独り暮らしをしてからゆっくり覚えていこうという考えに今は至っている。
……灯ちゃんは多分大抵の家庭料理、作られるんだろうな。
改めて灯がしっかりしていることを思い知らされると共に、自分の情けなさを実感する。やたら大人ぶっているだけで空回りしているように思えた。
なぁ、柊。俺はどうにも情けないお兄ちゃんみたいだな。
食器を洗ってから、梓は一旦リビングへ向かった。観たいテレビはなかったが、ある意味ぼんやりとするためつけた。無意識に音はかなり小さくしていたことにふと気づく。
柊、お前ならこういう時、普通の音量でテレビを観る?
多分多少の音なら、もし眠っていたとしても両親は起きないだろう。それでも梓は小さくしたままにする。遠慮しているつもりはない。いや、なかった。でも、していたのだろうか。
例えば子どもの頃の休日、普段のスーパーではなく百貨店へ家族で買い物へ出かけたりした時に、柊は「あれが欲しい」と駄々をこねた。そういった時に親は「一つだけだからね」と念を押し、柊もコクリと頷くと懸命になって欲しいものの中から一番を選ぼうとしていたのを覚えている。梓はそんな柊を見るのが何となく好きだった。
そんな時に「梓も一つ、選びなさい」と言われる度に「ううん」と首を振っていたように思う。
「俺の分、柊が選んでいいよ」
もしくはそんな風に言っていたのかもしれない。ただ喜ぶ柊が見たかった。
だがそれは、遠慮だったのだろうか。
今でも一応、そんなつもりはないと思う。だが、遠慮なのだろうか。少なくとも柊はずっとそう捉えてきたのかもしれない。
「まさか俺に気を使ってとか言わねーよな? それが理由だったら殺すぞ」
柊の言葉がまた浮かぶ。柊を思って、とか優先して、といった態度はもしかしたらただの自己満足だったのだろうか。
わからない。だが、そういったことが積み重なり、柊が梓に対して今のような態度を取るようになった、という可能性はないだろうか。
柊……言ってくれないと俺、わからないよ。
いや、と梓は首を振った。これ以上情けない自分は冗談じゃないなと思う。
認めろ。俺は、優しさというものを、ずっと履き違えしてきたんだ。
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