絆の序曲

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25話

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 びくり、と灯は指を震わせた。息を飲んだ後に自分の指先の腹を見る。できた水ぶくれが潰れかかっていた。指が、痛い。
 早く梓のように自由な音を奏でたくて、弾けそうな時はひたすら梓に貰ったギターを弾いていた。

「……っ。……いつになったら固くなるんだろう」

 弾いても弾いても指先は固くならないような気がした。まるでずっと梓に会えないような気さえしてくる。
 ため息ついた後、灯は視界がぶれるのを感じた。

「……少し休んだほうがいいかな」

 柊の怒った顔が浮かび「じゃないとまたシュウに怒られる」と苦笑した。

「顔色が悪い!」

 翌日の学校にて、案の定柊に叱られた。休み時間に柊がじっと灯の顔を見てきた時点でさりげに逸らしてみたのだが、遅かったようだ。むしろ顔を両手で挟まれ、柊の方を向かされた。お陰で唇が馬鹿みたいに突き出した状態になり、灯は少し焦る。

「はなひて」

 離してと言おうとしても間抜けな言い方になった。むぎゅっとなった状態から何とか抜け出そうとしていると、柊が少し困ったような顔を逸らしつつ、顔から手を離してくれてホッとする。だがそれもつかの間、今度は手首をつかまれた。

「それにまた無理しただろ。何だよこの指」

 柊は水ぶくれが破れた指先を痛々しそうに見てきた。

「これはある意味ギターを弾く指になってきて……」

 事実ではあるが言い訳にしか聞こえない言い分を灯が口にしかけると、ため息つかれた。

「お前が家のことちゃんとしたいってのもギターを上手く弾きたいのもわかるけどさ……無理して倒れたら意味ないだろ」
「うん……」

 改めて心配してくれているのがわかり、灯は何となく申し訳ないような気持ちになる。落ち込んだ顔したのだろう。柊はむしろ灯の頬をむぎゅっと潰してきた。その顔を見て微笑んでくる。

「な?」

 手が離れると灯もつい微笑んだ。

「うん。……なぁ、シュウとアズさんはやっぱり兄弟だね。そっくりだ」

 梓が養子だったとは聞いて知ってはいるが、灯からすればやはり二人は似ている。顔は言われてみると似ていないかもしれないとは思うが、顔の似ていない兄弟なんて沢山いる。
 そうではなく、雰囲気や優しさといった、何と言うのだろう。人としての根本的な部分がそっくりだった。

「ま、またそれかよ。似てねーよ」

 柊はポカンとして灯を見た後にムッとしたようにそっぽを向いてくる。確かにその部分は似てないかも、と灯はおかしくなりつつ「似てる」と微笑む。

「梓に似てるなんて別に嬉しくねぇし、似てねぇ……」
「凄く似てるってば。俺はさ、二人の空気っていうのかな、好きだよ」

 戸惑っているような柊へさらに微笑みかけた。すると今度は焦ったように睨みながら灯から離れて行く。

「っお前は! マジ、たち悪いんだよ……! んなこと言って、んな顔して……抱きしめたくなるだろ……」
「たち悪い? っていうかごめん、最後聞き取れなかった……」
「……別に聞かなくていい」

 本当に小さな呟きだったので聞こえなかったのだが、今の様子で柊が照れているのはわかった。柊は照れるとムッとしたり素直じゃなくなってしまうところがあるので、これはしつこく聞かないほうがいいかな、と灯も流すことにする。
 その後授業が始まったので一旦話はそのままになった。次の授業中、灯はまた少し視界がぶれるのを感じた。まるで目玉が灯自身の断りなく勝手に動いているような感じがする。それが頭の中に直結してきて、脳も何となくクラクラしてくる。

 昨日、気づいてからは体を休めたし、夜もなるべく早くに寝たつもりだったんだけどな……。

 別に頭痛するとか吐き気するといったことはないし、熱も感じない。今にも倒れそうといったこともない。ただ、少し顔を動かすとひたすら目が回る。このめまいは「これ以上無理に何かするなら体を倒してやるからな」と自分の体が警告してきているような気がした。
 別にめちゃくちゃ頑丈になりたいとは願わないが、せめて人並み程度には強くなりたいなと灯は密かに思う。とはいえ仕方ない。持って生まれたものなら上手く付き合うしかない。
 一応これでも灯は気にしている。どうしても時間が限られるため、つい根を詰めてしまうし、そのせいで今のようにめまいを起こしたりしてしまうが、他のことでできることは実行していたりする。
 朝食は絶対食べるようにしているし、早食いはしないよう、食べ過ぎないようにしている。パンや麺類は控えめにして、野菜をよく食べるようにしている。運動はあまり得意ではないものの、なるべく歩くようにはしている。
 まるでダイエットしているかのようだが、そうではない。肉は安売りをしている時に買い込んで極力沢山食べるようにしている。要は体の糖化を控えるようにしていると言うのだろうか。なるべく体の内側から少しでも元気になれるよう、錆びないよう気をつけていた。
 ただ年寄りみたいなので、柊にもこれに関しては特に言っていない。

 ……だから余計、俺が無茶しかしてないように思われるのかもだなぁ。

 次の休み時間にはさらに顔色がよくなかったのか、机に突っ伏して寝ていろと言われた。

「保健室へ行けとは今回は言わないの?」
「今は駄目だ。むしろ行きたいなら俺がつき添って一緒に授業サボる」
「え、何で……」

 それは単にサボりたいだけではと灯が微妙になっていると「今は五月がいるから駄目」と首を振ってくる。

「五月……って、保健の五月先生のこと? 別にいても……っていうか保健の先生なんだから普通いるだろ」
「いいからとりあえず机に突っ伏して寝とけ。昼休みになっても具合悪そうなら早退させるからな」

 早退はごめんだと、灯は言われた通り突っ伏す。めまいのせいで、突っ伏すと余計にクラクラしたが、何とか堪えた。
 結局そのお陰でか、放課後まで帰らされることなく済んだ。しかしめまいはまだ少し続いていた。そのため、今日は灯も柊に言われた通り、アルバイトも休み、家へ帰ることにあした。家までは柊が送ってくれた。
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