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35話
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あれから暫くは恋と顔を合わせるのすら、柊にとっては少々気まずかった。だが仕方ないだろうと自分に言い聞かせる。
小さな恋相手に泣いてしまったのだ。恋からすればとても大人であろう柊としては居たたまれないし情けなさ過ぎて、気まずいなんてものではない。
だが次に顔を合わせた時、小さな恋は何も言わなかった。ただ「ひーちゃんだ!」といつものように嬉しそうに駆け寄ってくれた。その後も全く気にしていないのか「ひーちゃんだ」と駆け寄ってくれる。全然変わらない様子に、柊も気づけば一応ではあるが普通に戻っていた。
「ひーちゃんだいすき」
また別の日に灯の家へ遊びに行った時、恋がいつものように柊へギュッと抱きついてくると嬉しそうに見上げてきた。
「俺も大好きだよ、れんちゃん」
「かわいいなあ」
柊が微笑ましげに言葉を返せば、梓がやたらニコニコ楽しげに見てきて柊を微妙に苛立たせる。
この間は偶然に灯の家で出くわしたが、今日は違う。灯が自覚するのならまた違ってくるが、とりあえず自覚のない今は基本梓に協力する気がない柊は、梓が灯の家へ遊びに行くとなるとこうして一緒について行くようにしていた。もちろん、灯が柊の家へ来る場合も然りだ。ギターの練習も含め、外で会うというならさすがに邪魔しないが、家の中というなら話は違う。
諦めたとはいえ今でもまだ灯のことを特別に見ているのは変わらないが、それが理由ではない。
……兄貴、絶対アイツ手ぇ早いだろ……俺の目の黒い内は許さねえ。
いや、目が黒い内というか、せめて自分たちが高校を卒業するまではかもしれないが、とりあえず許さないとばかりに思っている。
一応、梓も灯に対して簡単に手を出すようなタイプではないと思ってはいるのだが、好きだと告白して即キスをしたと聞いて油断大敵という言葉が浮かんだ柊としては念には念を入れている。さすがに梓でもあの灯をラブホテルに連れ込むようなことはしないだろうとは思っているので、外ではついて回らないが、本当なら灯にひたすらつき添いたい。ただそこまでするといくら灯でも違和感を覚えるであろうなと自重している。
灯には今後も気持ちを伝える気はなかった。柊は灯の親友のままでいい。そしていずれ灯は梓とつき合わないかもしれないが、つき合うかもしれない。そんな状態で伝えるのは恐らくただの自己満足になってしまう。
灯は柊の気持ちを知ればとても気にするだろう。気にして普通の友人ですらいられなくなるかもしれないし、梓とのつき合いも控えそうな気がとてもする。
……にしても今の俺、ただのアカリのモンペじゃね……。
やたら外部に対して口うるさい保護者のようだと微妙にはなるが、仕方ない。
そんなことを考えていると、恋が「あのね」とさらに話しかけてきた。
「れん、大きくなったらひーちゃんむかえにいくね」
「れんちゃんが?」
迎えに、とは。小さな子が言うこととはいえ、一瞬怪訝に思った柊がポカンと見返すと、恋は当然といった表情をしてきた。
「だってれんの王子さまはお兄ちゃんだけど、ひーちゃんの王子さまはれんだもん」
「そ、そうなんだ。ありがとうな、れんちゃん。待ってるよ」
改めて説明されてもよくわからない。もちろん何度も言うように小さな子の言うことではあるが、それでも灯はちゃんと恋の王子様であることを思うと、恋もわかっていて言っているような気がする。
俺、もしかしてれんちゃんのお姫様なのか?
さすがにそれは色んな意味で、ない。ないなと思うのだが、だが迎えに行くというのはとりあえず今の恋にとっては決まりごとらしい。
「熱烈な告白だな! 俺の弟と妹ほんと天使」
恋に対してただ苦笑している灯の横で、梓が首を振りながら表情を崩している。まるで本気で思っている様子に、柊は照れと苛立ちが一度に湧き起こった。
弟と改めて言われることにどうしても照れてしまう。嬉しいなどといまさら思いたくもないし、照れや嬉しさを少しでも晒したくない。
あと恋は間違いなく梓の妹でもなんでもない。かわいい恋までも梓に取られてなるものかという気持ちだけでなく「お前アカリと結婚でもするつもりかよウゼェ」という気持ちでいっぱいになり、ひたすらドン引きだった。
「お前は死ね。だいたいれんちゃんはお前の妹なんかじゃねーんだよ!」
恋はといえばきょとんとした顔をしている。
「ぶは。何それ独占欲? 恋ちゃんの未来の旦那様気取り?」
「はぁっ? お前ほんと死ね」
「……全く賑やかな兄弟で何よりだけど、ちょっと声抑えてくれる? シュウ。あとアズさんも。近所迷惑だし、れんに対しても害悪だから」
主に柊が言っているとはいえ兄弟で言い合っていると、灯が穏やかな笑みを浮かべて二人の間に入ってきた。表情はとても穏やかだが、言っていることはあまり穏やかではない。
……害悪……。
恐らく梓も内心同じ言葉を繰り返しているのだろうと柊は思った。
「……ごめんね、灯ちゃん」
「……悪かったな、アカリ。にしても害悪は酷すぎだろ……ほんとお前シスコン過ぎなんだよ……」
普段の優しい灯は恋が関わると少々変わる。それをよく知ってはいても微妙になる。そう思いつつ柊はそっと梓を見てみた。
あまり恋と一緒の灯をまだ知らない筈の梓はもしかしたらそんな灯に驚いているかもしれない。
「確かにね。害悪かあ。灯ちゃん、言うねえ、かわいいなあ」
だが梓はひたすら楽しそうだった。ある意味さすがというのだろうか。柊は引いたように梓を見ていた。
小さな恋相手に泣いてしまったのだ。恋からすればとても大人であろう柊としては居たたまれないし情けなさ過ぎて、気まずいなんてものではない。
だが次に顔を合わせた時、小さな恋は何も言わなかった。ただ「ひーちゃんだ!」といつものように嬉しそうに駆け寄ってくれた。その後も全く気にしていないのか「ひーちゃんだ」と駆け寄ってくれる。全然変わらない様子に、柊も気づけば一応ではあるが普通に戻っていた。
「ひーちゃんだいすき」
また別の日に灯の家へ遊びに行った時、恋がいつものように柊へギュッと抱きついてくると嬉しそうに見上げてきた。
「俺も大好きだよ、れんちゃん」
「かわいいなあ」
柊が微笑ましげに言葉を返せば、梓がやたらニコニコ楽しげに見てきて柊を微妙に苛立たせる。
この間は偶然に灯の家で出くわしたが、今日は違う。灯が自覚するのならまた違ってくるが、とりあえず自覚のない今は基本梓に協力する気がない柊は、梓が灯の家へ遊びに行くとなるとこうして一緒について行くようにしていた。もちろん、灯が柊の家へ来る場合も然りだ。ギターの練習も含め、外で会うというならさすがに邪魔しないが、家の中というなら話は違う。
諦めたとはいえ今でもまだ灯のことを特別に見ているのは変わらないが、それが理由ではない。
……兄貴、絶対アイツ手ぇ早いだろ……俺の目の黒い内は許さねえ。
いや、目が黒い内というか、せめて自分たちが高校を卒業するまではかもしれないが、とりあえず許さないとばかりに思っている。
一応、梓も灯に対して簡単に手を出すようなタイプではないと思ってはいるのだが、好きだと告白して即キスをしたと聞いて油断大敵という言葉が浮かんだ柊としては念には念を入れている。さすがに梓でもあの灯をラブホテルに連れ込むようなことはしないだろうとは思っているので、外ではついて回らないが、本当なら灯にひたすらつき添いたい。ただそこまでするといくら灯でも違和感を覚えるであろうなと自重している。
灯には今後も気持ちを伝える気はなかった。柊は灯の親友のままでいい。そしていずれ灯は梓とつき合わないかもしれないが、つき合うかもしれない。そんな状態で伝えるのは恐らくただの自己満足になってしまう。
灯は柊の気持ちを知ればとても気にするだろう。気にして普通の友人ですらいられなくなるかもしれないし、梓とのつき合いも控えそうな気がとてもする。
……にしても今の俺、ただのアカリのモンペじゃね……。
やたら外部に対して口うるさい保護者のようだと微妙にはなるが、仕方ない。
そんなことを考えていると、恋が「あのね」とさらに話しかけてきた。
「れん、大きくなったらひーちゃんむかえにいくね」
「れんちゃんが?」
迎えに、とは。小さな子が言うこととはいえ、一瞬怪訝に思った柊がポカンと見返すと、恋は当然といった表情をしてきた。
「だってれんの王子さまはお兄ちゃんだけど、ひーちゃんの王子さまはれんだもん」
「そ、そうなんだ。ありがとうな、れんちゃん。待ってるよ」
改めて説明されてもよくわからない。もちろん何度も言うように小さな子の言うことではあるが、それでも灯はちゃんと恋の王子様であることを思うと、恋もわかっていて言っているような気がする。
俺、もしかしてれんちゃんのお姫様なのか?
さすがにそれは色んな意味で、ない。ないなと思うのだが、だが迎えに行くというのはとりあえず今の恋にとっては決まりごとらしい。
「熱烈な告白だな! 俺の弟と妹ほんと天使」
恋に対してただ苦笑している灯の横で、梓が首を振りながら表情を崩している。まるで本気で思っている様子に、柊は照れと苛立ちが一度に湧き起こった。
弟と改めて言われることにどうしても照れてしまう。嬉しいなどといまさら思いたくもないし、照れや嬉しさを少しでも晒したくない。
あと恋は間違いなく梓の妹でもなんでもない。かわいい恋までも梓に取られてなるものかという気持ちだけでなく「お前アカリと結婚でもするつもりかよウゼェ」という気持ちでいっぱいになり、ひたすらドン引きだった。
「お前は死ね。だいたいれんちゃんはお前の妹なんかじゃねーんだよ!」
恋はといえばきょとんとした顔をしている。
「ぶは。何それ独占欲? 恋ちゃんの未来の旦那様気取り?」
「はぁっ? お前ほんと死ね」
「……全く賑やかな兄弟で何よりだけど、ちょっと声抑えてくれる? シュウ。あとアズさんも。近所迷惑だし、れんに対しても害悪だから」
主に柊が言っているとはいえ兄弟で言い合っていると、灯が穏やかな笑みを浮かべて二人の間に入ってきた。表情はとても穏やかだが、言っていることはあまり穏やかではない。
……害悪……。
恐らく梓も内心同じ言葉を繰り返しているのだろうと柊は思った。
「……ごめんね、灯ちゃん」
「……悪かったな、アカリ。にしても害悪は酷すぎだろ……ほんとお前シスコン過ぎなんだよ……」
普段の優しい灯は恋が関わると少々変わる。それをよく知ってはいても微妙になる。そう思いつつ柊はそっと梓を見てみた。
あまり恋と一緒の灯をまだ知らない筈の梓はもしかしたらそんな灯に驚いているかもしれない。
「確かにね。害悪かあ。灯ちゃん、言うねえ、かわいいなあ」
だが梓はひたすら楽しそうだった。ある意味さすがというのだろうか。柊は引いたように梓を見ていた。
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